暗闇の中に少女はいた。誰からも理解されない。誰にも必要とされない。誰かと志を共にした事もない。
たった一人だけ出来た友人は、確かに肉体こそ自分に比類する。しかし、その頭脳は感性は至って普通の人間であり隣に立ち続けてくれる人ではなかった。
神様は残酷だ。なぜ、自分にこんなに突出した才能が与えられたのか。
神様は気紛れだ。なぜ、一時の間でも隣に立てるかもしれないと思える人と合わせた。
結局、私はどこまで行っても一人だ。与えられる愛も優しさも何もなく、ただ残酷に気紛れに全てを奪われた。
現実が嫌だから理性に蓋をして狂人の様に振る舞ってみた。誰も相手をしてくれない。
夢が見たかったから、宇宙に行こうとした。大空すら自由に飛べない兵器に成り下がった。
愛が欲しかったからすがってみた。都合よく使われ捨てられた。
「……あぁ、そっか……人間ってこんなにも愚かなんだ……」
明かりのない暗闇で少女は呟く。全てを諦めた声で、全てを嘲る様に、全てに憎悪する様に。
そして何より、そんな愚かな存在を必要としてきた自分を浅ましいと蔑む。
「アハ……あははハハハ!!ハーッハハハハハ!!あはは……」
前を向いた彼女はすでに壊れていた。
ーーその日、彼はいつもの様に友人である本音と神楽、そして何処からか聞きつけ何故かこの場所に居るセシリアと共に話をしていた。
「ですから!何度言えば分かるんですか。紅茶はその様に雑に淹れるものではってああ!」
「俺が飲むから別に良いだろうが!てか、お前もさっきドボドボ珈琲に砂糖入れてたじゃねぇか」
「それの何が悪いんですの?あんな苦くて汚水の様なもの飲める西村の気がしれませんわ!」
「あぁん?お前、今全国の珈琲好きに喧嘩売ったぞ。そもそも、適当にお湯入れときゃ良いだけの紅茶の淹れ方とか興味ない」
「……やはり、貴方とはもう一度決着をつける必要がありますわね…」
本当にこの二人は仲良く時間を過ごすことが出来ないのだろうか?出来ないねと完結する本音と神楽。散々二人の喧嘩を見てきたからこそ、どんなに小さいことでもこの二人は互いに文句を言うと知っている。それが今回は珈琲と紅茶の淹れ方や好みだっただけである。
「そりゃこっちのセリフだ。表出ろやオルコット」
「上等ですわ。跪く貴方を見るのが楽しみですね」
二人がメンチを切り合った直後だった。ニュースを放送していたテレビが一気に砂嵐になる。
「あれ〜壊れた?」
「IS学園のテレビですよ。しかも寮長室の」
本音と神楽がテレビに近づきながら話していると画面が切り替わる。
そこには二人の女性が映し出されていた。一人はISの産みの親、篠ノ之束。そしてもう一人は
「……白奈姉さん」
ーーその日、彼は簪と共にISを弄っていた。地道な計算を簪が解き、その答えを基に一夏が弍式を弄っている。
すでに何度も行われている二人だけの弍式弄り。初めのうちは簪が一夏に弍式を直接弄らせる事はなかったが、信頼を得たのかこうして機会があれば弄っていた。これにはまだ一夏が細かい計算をすると間違えるという事実も含まれているのだが。
「…一夏。そっちの配線じゃないよ」
「うおっ、マジか。こっちか?」
「…合ってる。今度は気をつけて」
知識は得たが実技となると時々間違える一夏。マルチタスクが得意な簪がそれを監視し作業は進んでいく。
致命的に間違える事はないので一人より早く作業が進む。暫く作業をしていると一夏と簪の腹が同時に鳴る。二人で顔を合わせ、笑い合うと一夏が弁当を取り出し、簪に渡す。
「飯にしよう」
どちらともなく提案した瞬間、モニターの類が使用していない物を含めノイズが走り、映像を映し出す。
「な、なんだ!?」
「…全部のモニターがついてる?外部からのハッキング?IS学園のセキュリティを超えてきたの…」
混乱しながらも簪を自分の背に隠す様に動く一夏。その背に安心したのか冷静に状況を分析する簪。
そして、映像に映っている女性。篠ノ之束が口を開く。
『やぁ、今日も無意味で非生産的な自分にとって都合の良い世界だけを見る惰性に染まった時間を過ごしているかな?
まっ、そんな事どうでも良いんだけどね。お前らの一生なんて微塵もカケラも興味ないからね。おっと、真実を言われたからって怒らないでよ。そんな愚かでどうしようもない君達に朗報を伝える為にこうして、態々面倒なハッキングをして話してるんだから』
偽りの笑みを浮かべたまま言葉を紡ぎ、指を鳴らす。部屋全体が明るくなる。
篠ノ之束の背後には義手や義足、義眼と言った人体を補うパーツが乱雑に取り揃えられていた。身体を少しズラしそれらをよく見える様にするとカメラがズームし一つ一つ丁寧に映していく。
『二人目を利用してデータを集め、制作した全く新しいIS。それがコレ!人体の一部と交換する事で特殊な訓練をする事なくISを自由自在に操る事が出来る代物!二人目で証明されてるから説明する必要なんてないと思うけど、男だろうと適性の低いもしくは無い女だろうと乗る事が出来るとも。まっ、折角のデータを活かしたいだけだから好きにすると良いさ。アメリカで配るから興味ある人は来ると良いよー』
放送が終了する。この放送が終わった直後、アメリカには様々な人達が向かい始めた。元々IS操縦者であった者、ISを嫌う男性達、女性の権利が低下するのを危惧した権利団体。これら以外の抑圧され、ISという明確な力を持たなかった人達は我先にとアメリカへ向かって行った。
そして、IS学園職員室。放送を見た織斑千冬は焦っていた。
「何を考えている!!先生方、急ぎ学園の出入り口を塞いでください、生徒たちを誰一人として外に出さないように。私は今から学園長に会ってきますから!!」
鉄製の机が凹むほどの力で拳を叩きつけ、職員室の先生達に指示を出しながら飛び出す千冬。人体の一部と交換するIS、赤也のサードオニキスと同じなのだ。千冬はそのデメリットを良く知っている。人体を侵食していくISなど常人が使えばどうなるか。
「精神が保つわけがない…!」
何より千冬はあの人との関わりを絶っていた束がアメリカに限定した事に恐怖を覚えていた。
あの天災が動く時は時代を塗り替える様な事件を引き起こす。辛うじてバランスを保っている各国の情勢がこの瞬間も音を立てて崩れているのだ。アメリカと主義思想が反対な大国、ロシアと中国がまず黙っていない。
「あの馬鹿は戦争でも起こす気か」
この千冬の危惧は正しかった。即座に飛び出してしまったからニュースを観れていない彼女。あの放送を受け、すでにロシア、中国はアメリカを非難する声明を発表。世界は確実に不安定な方向へと加速していた。
「どういう事だサードオニキス!?」
『…私にも分かりません。コア人格達も混乱しています。コアネットワークの数は増えていないのでどうやらアレらのコアは私達とも違うネットワークを構築しているかもしれません』
サードオニキスにも分からないのか…!俺をモルモットとは言っていたが、俺のデータを利用しただと。
俺みたいなのを増やす気なのか?それに何の意味があるんだ…人でも機械でも無い奴らがアホみたいに産まれるだけだぞ。
「あかやん…大丈夫?」
「赤也さん、まずは落ち着いてください。貴方が慌てても何も変わりませんから」
本音と神楽に両側から背中を摩られ、落ち着いていく。
「…西村、一つだけ教えてください。貴方を信じて良いんですね?」
冷静な顔で真っ直ぐ俺を見つめるオルコット。その視線は俺を見定めている様だ。
「その信じるが何を指してるか分からないが、俺は今回の出来事をこれっぽっちもしらねぇよ。モルモットには何一つ教えられてない」
「……そうですか。まぁ、貴方に腹芸なんて無理ですものね。
すみませんね?出来もしない事を疑ってしまいまして。それともその分かりやすさに感謝すべきですか」
「お前なぁ……」
「なんですの?ここで確固たる証拠もないのに信じる信じないの不毛な話し合いをご希望で?」
「いや、面倒だからパスで」
「私だって嫌ですわ」
オルコットとの会話と本音達のお陰で頭がスッキリする。
俺如きがあの天災の考えを思考を理解できるわけがない。考えるだけ無駄だ。気になるのは姉が天災と共にいた理由だけだが、正直どうでも良い。もう姉との繋がりなど血しかないのだから。ただの学生に何が出来ると言うんだ。そうだ、いつもの手の届かないどうしようもない所で世界が動いているだけだ。
このとき、動いていれば何かが変わったのだろうか?いいや、変わらない。世界は残酷に時間という歩みを進めるしかないのだから。
『臨時ニュースをお知らせします。世界各地で、アメリカでIS手術を受けた人々が暴動を起こしています。アメリカはこの事実に対し一切の発言なし。既に、ロシア・中国などの国々はアメリカへと宣戦布告とも取れる声明を発表していましたが、本日、正式にアメリカに対し宣戦布告。世界は再び戦禍に見まわれる事になりました』
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