神様は残酷で気紛れだ   作:マスターBT

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許して


やれる事は全力で

「ありがとう。来てくれて」

 

「貴女の頼みですし。それで、どんな用件ですか?」

 

 世界が確実に不安定な方向へと進み出し、戦争の足音がすぐ後ろに聞こえてくるこの日。赤也は楯無に呼び出されていた。人払いは済まされており、この場には赤也と楯無以外は誰も居ない。

 

「(そう思わせてるだけで、いるな。たっちゃん先輩の後ろの机に一人、俺の後ろに二人。そして、天井には五人か。天井って忍者か何かか?とは言え、この厳戒態勢……世間話って訳じゃなさそうだ)」

 

 警戒しつつなるべく自然体を意識する赤也。しかし、対面する楯無はプロ。そんな赤也の様子に気がつかない訳がない。緊張をほぐす様な優しい笑みを浮かべ言葉を選びながら口を開く。

 

「率直に教えて欲しいわ。今、世の中で配られているIS。アレを使うとどうなるのか」

 

 楯無は赤也の身体の事を知っている。だが、実際に目にした訳じゃない。本音からの報告や写真で知っているだけだ。対暗部用暗部として、自分の目で見ておきたいのだろう。

 

「…気分の良いものじゃないですよ?」

 

「大丈夫よ。覚悟は出来てるから」

 

「……はぁ、サードオニキス」

 

『宜しいのですか?』

 

「本人が見たいって言うなら、見せるさ。それに、隠さずに見せた反応ってのはお前も知りたいんじゃないか?」

 

『否定できませんね。わかりました、スキンを解除します』

 

 誰と話しているんだろう?と楯無が首を傾げている目の前で赤也を普通の人間に見せているスキンが解除されていく。始めは制服で見えていなかったが、時間が少し経てば右半身の首から上が肌色から冷たい鉄の色へと変わっていく。そうして、赤也の身体は右半分が完全に熱を感じさせない冷たい鉄の身体となる。

 

「程度は人それぞれでしょうけど、いずれ全身こうなると思います」

 

「……その身体の事、貴方は何も感じてないの?」

 

 楯無はここまで素直に赤也が応じると思っていなかった。もっと抵抗したり、最悪この場から去ろうとするかと思っていた。しかし、警告はしたもののあっさりと解除した。その姿に本能的な恐怖を楯無は抱いてしまったのだ。そして、赤也もこの質問に酷く無機質な声で返答する。

 

「最初は驚きましたが今は別に。本音や神楽に余計な心配はかけたくないですが……俺は死人の様なものなので」

 

 本音が言っていた事はこれかと納得する楯無。しかし、今はその話題をする訳にはいかない。長として聞いておかなければならない事が多すぎる。

 

「そう……それで、もしその状態が普通の人に起きればどうなると思う?」

 

 暫く考える素振りをした後、口を開く。

 

「恐らくですけど、狂うじゃないですか。若しくはIS側に全部奪われて、空っぽの人形に成り果てるか」

 

「空っぽの人形?」

 

「はい。ISには人格があるのは知ってますよね?当然、俺のサードオニキスにもあります。コイツは、人を知りたいとかどうとかで俺を乗っ取る事はないですけど、全部が全部そうじゃないだろうし。俺みたいに侵食が進めばある程度肉体を共有するらしいので、IS側が支配したければ簡単にいけるかと。なにせ、肉体とか神経とかそういうのを弄れますしって、コイツが言ってます」

 

 さらっと説明される内容の理解に楯無は頭を抱える。彼の言葉が全て本当なら、篠ノ之束は人ですらISですら無いものを生み出す為に、副作用の説明を省き、ISを配っている事になるし、更に今まで眉唾ものであったコアの人格まで証明されてしまった。しかも、主人と話が可能とまで来た。

 

「長い話になりそうね……互いに隠し事は無しで話しましょう」

 

 赤也に普段の状態に戻る様に伝えた後、来客用のソファに座らせ、楯無本人をその正面に座る。座る時に下げていた視線を上げれば、そこに生徒会長楯無の顔はなく、暗部用暗部。更識当主としての楯無の顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ブルーティアーズ 」

 

 自分の愛機を呼び、纏うセシリア。BT兵器を使用する訳でもなく、名を呼んだのはいつぶりだろうか。少なくとも代表候補に選ばれ、それの名に負けない様に訓練を積んだ当初以外に展開時に呼んだ記憶がない。名前を呼ばなくても展開する事が出来る。それが、練度を示す基準であったから。だが、こうして山田先生に無理を言ってアリーナを借り、久しぶりに名を呼んだには訳があった。

 

「声なしですか。臨海学校の時、無人機相手に偏光射撃を本番で成功させたあの瞬間、声が聞こえたはずですのに」

 

 周囲にブルーティアーズを展開させ、動かしながらあの時の事を思い出すセシリア。確かに聞こえた、とても澄んだ声で耳に心地よい声が。しかし、あの日から時々呼びかけているが一切反応はない。それがなんだかとても残念な気がしてこうしてアリーナまで借りたのだが。

 

「誰ですの?覗き見とは、マナーが悪いですよ」

 

「あはは……バレてた?ごめんねぇ、セッシー」

 

「あら。本音さんでしたのね、良いんですの?西村の所にいなくて」

 

 アリーナの入り口からヒョコッと顔を出す本音。申し訳無さそうに眉を下げながらセシリアへと近づいていく。

 

「あかやんは会長とお話し〜ねぇ、セッシーお願いがあるんだけど良い?」

 

 コテンっと首を傾げる。

 

「どんなお願いですの?わたくしで可能ならお手伝いしますよ」

 

「それの扱い方を教えてほしい」

 

 そう言いながら自分のIS、九尾ノ魂を展開し身に纏う。ブルーティアーズとの共通点である兵装を自分より、長く触れているセシリアに教わる為に本音は来ていた。本音のは有線式なので全てがセシリアと共通している訳ではないが、自分よりは力量がある。

 

「……なるほど。スパルタですわよ?」

 

「うん。お願い」

 

 本音の瞳に自分の用事は後回しにするしかないなと思うセシリア。全く、あの男のどこが良いのでしょう?そんな事を考えながらビットを動かす。

 

「まずは、限界まで動かしてみてください。今の貴女の実力を知らなければどう訓練すべきか分かりませんから」

 

 ノブレス・オブリージュを果たすとしましょう。本音さんを強くして、西村を煽るのも楽しそうですし。

 




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