シスコン、恐るべし。
千冬の発言から騒がしくなった教室は、これまた千冬の静かにしろ発言でピタリと静かになる。
世界最強になってから、崇拝される様になったと酔いながら話していたが、ここまでか……。
「よろしくね〜〜」
間延びした声に俺の意識は現実に戻される。無意識に、俺は自分に与えられた席まで来ていた様だ。
いや、確かにIS学園の制服って改造自由だけど、そのダボダボの両腕はどうにかならかったんです?
俺の隣、布仏とか言ったな。
「おぉ〜カッコいい〜もうちょっと、見せて見せてー!」
動いた俺の右手をキラキラした目で見てくる布仏。というか、既にダボダボした服で俺の右手を掴んで持ち上げている。
左隣だから、そりゃ簡単に触れられるよなぁとかどうでも良い事を思いつつ、触られる事が嫌ではないので、為すがままになる。
「ふむふむ…なるほど。ここは、こういう感じにしてあって……うわぁー凄い。なにこの機構初めて見たよぉ〜」
なにが楽しいのかさっぱり分からないけど、右腕を弄りながら、表情をコロコロ変えていく布仏。
なんだろうこの、小動物が戯れてきてる様な感覚は。
「これでSHRは終わりだ。赤也、布仏と戯れるのも良いが、授業の準備と教師の話はしっかり聞いておけ」
俺が布仏を見ている間に、SHRが終わったらしい。ついでに、千冬から小言を貰う。
もう、赤也呼び確定なんですねそうですか。というか、俺が入ってきた時点で時間ほとんど終わってたやんけ。話もなにもあったのだろうか?俺の疑問は解消される事なく、山田さんと千冬は教室から出ていく。
「おーい、布仏。そろそろ、離してくれ。鞄から教科書が出せなくて困る」
「はっ、ごめんごめん。でも、見せてくれてありがと〜あかやん」
俺の言葉にハッとした様に腕を離してくれる布仏。
あかやん?俺のニックネームか何かだろうか。今まで、ニックネームなんて付けられた事がなかったから少しいや、かなり嬉しい。
普段は、おい!とかゴミ!とか付属品!とか、まともな名前ですら呼ばれてなかったからなぁ…
「急に遠い目をしてどうしたの〜?」
俺の様子に気づいた布仏がコテンと首を傾げながら聞いてくる。
「気にすんな。なんでもない。ただ、ニックネームなんて初めて付けられて感動してただけだ」
「じゃあ〜私が何度でも呼んであげよう〜あかやん」
俺をボッチだと蔑むこともなく、布仏が再びニックネームで呼んでくれる。
何だ、この子。女神か?良い子すぎるだろ、女尊男卑の中よくぞここまで、穢れずに育ってくれたものだ。
と、父親か兄貴かと言われかねない感想を抱いていた時に、俺は首根っこを掴まれる感覚と共に、ソイツと視線を合わせることになった。
「お前、千冬姉とどういう関係だ!!」
一人目の男性IS操縦者ーー織斑一夏だった。
あぁ、SHRが終わったから、今は長くはない休み時間か。
「俺と織斑先生の関係?はっ!礼儀も知らん奴に教えるかよ」
千冬との関係なんて、ただの同居人だが、人の首根っこをいきなり掴んで、怒りだが嫉妬だか知らんが、向けてくる奴に教える気はない。
ただまぁ、俺の返答に深読み、いや、ただの妄想だな。それを広げる女子達の声を聞いて、素直に教えておけば良かったかと若干後悔。
「てめぇ……」
ねぇ、何でこの人こんなに敵意全開なの?千冬に関することは、全部知ってないと気が済まないの?
それとも、シスコン?姉の事が大好きなの?……どうも、そうっぽいな。
「いい加減離せって……苦しいんだよ」
まぁ、そう判断したところで教える気はないんですけど。
「千冬姉との関係を話したら、離してやる」
「……姉離れの出来ない弟だな。そんなに自分の知らない姉がいる事が気に食わないか?
そんなに姉の全てを知りたいか?……気色悪い奴だな、シスコンも大概にしておけよ」
そもそも、姉とかの関係とかどうでも良いだろう。家族って言っても、所詮は血の繋がった他人だ。
それぞれの生き方があるだろし、それぞれの縁だってあるだろうよ。それを、弟だから家族だからと介入して良い理由にはならんだろう。
まぁ、俺が自分のクソ家族にそう思ってるだけだから、コイツに押し付ける気はないが。
「この……!」
「一夏!もうやめろ、時間だ。千冬さんに見つかるぞ」
殴ろうとした織斑を、ずっと近くで、俺らの成り行きを見ていたポニテの女子が止める。
チッ、殴られてしまえば、正当防衛が成立するからこっちからも手を出せたのに……。
「だけど、箒!」
「そんなに気になるなら、そんな奴から聞かないで千冬さんから直接聞けば良いだろう」
「そ、それもそうだな」
織斑が俺の首根っこから手を離す。勢い良く、座り込むことになるが尻が痛いだけだ。
「大丈夫〜あかやん?」
布仏が心配そうな顔で声をかけてくる。やっぱり、女神やこの子。
「大丈夫だ。ちょっと、息苦しかっただけで別に問題はない」
布仏と会話している間に、織斑とポニテの女子は自分の席に戻っていった。
謝罪は無しか。そうですか。
「おりむーもおりむーだけど、あかやんも無駄に煽る様に言ってちゃダメだよぉ〜」
俺の考えがバレてる!?
気の抜ける言葉遣いと雰囲気で流されてたけど、実は凄い子なのか?
布仏の意外なスキルに驚いている間に、山田さんが壇上に上がり、千冬は部屋の隅へ。
どうやら、一時間目の授業は山田さんがやるらしい。山田さんの説明は分かりやすいから、大変有り難い。
織斑もすぐに千冬に質問しに行くと思っていたが、変なところが律儀なのか席に座って大人しくしている。と、言うよりはあれは授業の話がまるで分かっていない奴の顔だ。
「ほとんど全部分かりません!」
山田さんの説明聞いても、分からないのかアイツ!流石の山田さんも、ガクッと項垂れる。
貴女の説明は悪くないですよ。アイツが馬鹿なだけです。
「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」
千冬が呆れた様子で、質問を投げかける。
あぁ、あれを覚えるのは地獄だった……山田さんに教わって覚えられないと泣きそうな目をされるし、千冬に教わって覚えられないと殺気をプレゼントされるし……必死に勉強したなぁー。
「古い電話帳と間違えて捨てました!」
バコンッという出席簿の音が響く。うずくまる織斑と出席簿から煙が出ている千冬。
「再発行してやるから、1週間で覚えろ」
千冬は1週間の期限を設けるのが好きなのだろうか?
俺の場合は、入学が1週間後だったから、ちょっと違うかもしれないが。
「い、いや、1週間であの分厚さはちょっと……」
「情けないな。赤也はやり遂げたぞ」
だから、何で俺を引き合いに出すかね千冬。
面倒ごとを起こすなって視線を送ったら、ニヤリと笑われた。狙ってやっていやがる千冬の野郎。
「アイツが……ってそうだ。千……織斑先生、アイツとの関係を教えてくれ!」
今聞くのかよ。クラスの女子達も、それが聞きたかったと言わんばかりに、静かになり全員が千冬の言葉を待つ。
「赤也との関係だと?そうだな……寮長室で面倒を見ている同居人っと言ったところだ。
これで質問には答えたぞ。集中して授業を受けろよ織斑」
あんた狙ってやってるだろほんと。
「「「「きゃーー!!」」」」
クラスの女子達が千冬の返事を聞いて、騒ぎ出す。
ちらほら聞こえてくる言葉の中には、『禁断の関係』、『召使い』、『実は婚約をしている』などと言った事実無根の言葉がある。
召使いは間違ってないかもしれないけど…千冬の部屋掃除してるの俺だし。
「静かにしろ!山田先生、遮って悪かった」
「い、いえ。では、授業を再開しますね」
山田さんが授業を再開する。
しかし、ほぼ全員話なんて聞いていない。女子の大半は、俺や千冬の間を視線がウロウロし、織斑は俺にずっっと、殺気を向けてくる。
「大丈夫〜あかやん。お腹痛いの?」
ストレスで痛くなった腹を押さえていたら、布仏に心配される。
あぁ、布仏ぐらいだ。俺の胃に優しい存在は。
隣の布仏に癒されつつ、俺は今日の夕飯に千冬が嫌いな物をふんだんに使ってやろうと決めた。
次こそ、クラス代表の話まで持って行きたい……
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