対戦カードが決まるだけです。
千冬にピーマンを食べさせた翌日、俺は朝から職員室に来ていた。
問題行動とかを起こした訳じゃないぞ。え?もう、起こしてる?ごめんなさい。
「失礼します。山田さんはいますか?」
俺が職員室に入ると、相変わらず微妙な空気になる職員室。
んー、この信頼の無さ。泣けてこない。
「あ、ここですよ」
入り口の少し奥に山田さんがいた。手を上げて、自分の位置を教えてくれる。
そこまで歩いていく。道中で、時々、睨みつけられたりしたが、気にしない気にしない。
「どうかしました?西村くん」
「オルコットのISデータを見して貰いたいのですが。可能ですか?」
「えぇ、構いませんよ。じゃあ、この書類に名前と利用日それから利用目的を書いてください。
今日の放課後には使えるようにしておきますから」
「わかりました」
鞄から、ペンを取り出し記入していく。
しっかし、山田さんは書類関連の仕事が早いよなぁ。千冬だったら、1日後になるのに。
「そう言えば、織斑先生は?」
俺が職員室に来てるのに千冬がいない事に疑問を覚えたのだろう。
「あぁ、多分、軽い二日酔いになってると思うんで、置いて来ました」
ピーマンの味を口から消すとか言って、酒を追加したからなぁ。しかも、酔って人の話聞かないし。
おかげで、寝不足だよちくしょう。
「ちゃんと気をつけて下さいって言っておいたんですけどねぇ…もぅ」
「いたた…おはよう」
何というタイミングの悪さ。
山田さんが少しだけ、怒ってるタイミングで千冬が入って来た。よし、面倒ごとに巻き込まれるより前に書き上げよう。
書くもの書いて、山田さんに渡す。
「はい。受け取りました」
山田さんが受け取ったのを確認して、入り口の方に戻っていく。
千冬の席は山田さんの隣なので、当然すれ違う。
「頑張って下さい。織斑先生」
「ん?どういうーー山田先生。何で、そんな怖い顔をしてるんだ?」
職員室を急いで出る。
そして、一年一組の教室に向かおうとした時。
「ちょ、真耶待て!何を怒ってるか知らんが、頭痛がーー」
千冬の悲鳴が聞こえてきた。
心の中でどんまいと言っておく。
そのまま、教室に着く。1日しか経過していないとはいえ、女子達の仲良くなる速度は早く教室の外に声が出てくるほど、賑やかだ。
というか、割と早めに来たのにみんな早起きだな。
俺が入ると同時に、教室が静かになる。まぁ、うん。昨日、あんなにビビらせたもんな…
「あ、あかやん。おはよう〜」
こんな状況でも変わらず声をかけてくれる布仏はやはり女神だ。
「おはよう。布仏、昨日の礼と詫びだ。食ってくれ」
持ってきた紙袋から、クッキーの入った袋を一つ渡す。
「俺の自作だ。良かったら食べてくれ。それと、クラスのみんなの分もある。
昨日、怖がらせてしまった詫びだ。食べてくれると嬉しい」
「おぉ〜甘くて美味しいぃ〜」
俺の横で早速食べ始めた布仏。
味付けは間違っていなかったらしく、ニコニコしながら食べている。ふぅ、良かった良かった。
「あー、本音ばっかりズルイ!わたしにも頂戴」
布仏の友人である谷本が一番、真っ先にやってくる。
クラスの雰囲気を察して、いの一番に来てくれた事に感謝しつつ、クッキーを渡す。
「私は和菓子の方が良いのですけど…貰っておきますね」
意外な事にほとんど、関わってない四十院が次に貰っていく。
俺とほとんど関わってなかった四十院が貰った事で、凄い勢いで押し寄せてくるクラスメート達。
「うぉぉ!?そんな一気に来なくてもちゃんと、全員分あるから」
「人気者だねぇ〜あかやん」
「和んでないで配るの手伝ってくれぇ、布仏」
「は〜い」
布仏の協力を得て、どうにか押し寄せる波を捌いていく。
ただ、布仏のペースがすごく遅いから、1人から、1.2人に変わった程度の効率だが。
クッキーを受け取ってくれたのは、全体の約70%、残りは受け取ってくれなかった。女尊男卑思考か、千冬信者だろう。
思っていたより少ない。どうやら、まともなクラスのようだ。
「あぁ、そうだ。織斑、お前のISだがもう少し時間がかかる」
二日酔いに悩まされている顔色の悪い千冬が、授業の途中で、そんなことを言い出す。
織斑に専用機ねぇ…サードオニキスを持ってて言うのもアレなんだけど、あいつに渡して大丈夫か?
ほんとに俺が言えた事じゃないけど。
織斑に専用機が与えられると言う事で、クラスが騒がしくなるが、BGM代わりにしておく。
「て、事は西村君にも?」
クラスの誰かがそんなことをいう。すでにサードオニキスを持ってるから必要ないです。
「いや、奴はすでに専用機を持ってる。あの右腕がそうだ。
調整に時間がかかったのは、あいつのISが世界初の医療に転用させたものだったからだ。本来なら、女性にしか使えなかったはずなんだがな」
兎のモルモットだとバラす訳にもいかない。でも、右腕を隠すのは無理だと判断した学園長と千冬が考えた設定。
それが、医療用だと言うこと。かなり苦しいが、これで誤魔化すしかない。
「安心しましたわ。まさか、訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
オルコットが高笑いをする。
こいつの勝つのは絶対私と言う態度、腹立つ。その慢心絶対にぶち壊してやるからな。
授業はその後、問題なく進んだが、織斑と俺の右腕がISだと知った女子達に絡まれたのは言うまでもない。
「大変だね〜あかやん」
「俺はやりたいように生きたいだけなんだけどな」
今は、学食で布仏と飯を食っている。
織斑に絡まれる前に、布仏と一緒に教室を出て来た。篠ノ之に感謝しよう。
あいつと織斑が揉めていたおかげで、簡単に出て来れた。
「人間、それが一番難しいと思うよ〜?」
布仏がお茶漬け?机の上にある白米と味噌汁とシャケと生卵を全て、混ぜた謎の料理を作りながら言ってくる。
それ、美味しいの?布仏さんや。
「それを今、実感してるよ……」
はぁ、と溜息を吐いて焼肉定食を食べる。こうして、マトモな飯食えてるだけ、生活の質かなり向上してるんだけどね。
「あ、クラス代表に勝手に推薦してごめんね〜。あの場はあれが一番だと思ったんだけど〜」
「実際、かなり助かってる。おかげで、ストレスを溜めずに済む。
クラス代表になりたくはないが、推薦してくれた布仏に報えるよう戦うさ」
千冬にも言ったが、クラス代表なんて役目、絶対に就きたくない。
そういうのは、織斑みたいな自分正しいマンにやらせてくれ。俺は拒否する。
「おぉ〜かっちょいい。期待してるね〜」
「あぁ。任せとけ………どうしても気になるんだけど、それ美味い?」
ズゾゾっと麺類を食べてるかの様な効果音に思わず聞いてしまう。
「うん!美味しいよぉ〜」
「そ、そうか」
満面の笑みで言われたら、流石に返す言葉がない。
……今度、千冬と布仏がいないところで、作って食べてみるか。
授業が終わり、放課後。
山田さんから、鍵を貰って資料室に入る。そこから、管理されていたオルコットのISデータと映像を見る。
あれでも代表候補生、今の俺より圧倒的に動けている。
「しかも、遠距離型。サードオニキスと相性が悪いな」
映像や資料を見ている限り、遠距離から狙撃銃で相手を狙い、展開したビットでさらに削っていくのが主流らしい。
サードオニキスのメインである輻射波動を当てるには、近づかなければならないし、盾で防ぐにしてもクローズの取り回しは非常に悪い。
牽制用のバルカンじゃ射程が足りない。
「とはいえ、隙が無いわけじゃないな。ビットを展開すると動きが止まるし、おそらく、接近できればオルコットは弱いな。
サードオニキスの拡張領域は、何故か一杯だし……クローズはヤバい時以外は封印して高機動戦に持ち込む方が良いか」
戦略ゲームで培った頭をフル回転させる。
アリーナでの訓練は一杯で取れなかった。イメージだけでも固めておいた方が良いだろう。
対戦の日が来るまで、俺はずっとオルコットの過去の映像を見て、戦略を練り続けた。
気のせいでなければ、織斑はずっと篠ノ之と剣道をしていたが、良いのだろうか。
そして、月日は流れ、対戦カードが決まる。
『セシリア・オルコットVS織斑一夏』
『セシリア・オルコットVS西村赤也』
『西村赤也VS織斑一夏』
対策は講じた。あとは、戦うだけだ。よろしく頼むぞ。サードオニキス。
発表された対戦カードを見つつ、俺は右腕を撫でた。
残念感が止まらない千冬さんと、ヒロインムーブの止まらない本音さん。
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