皆様、どうも初めまして《アルクトス》と申します。
この度、新作である『楓山緋路は勇者ではない』を始めさせていただきました。
内容はあらすじにも書きました通り、勇者になれない少年が少女たちを守ろうと苦悩する……といった感じですが、基本ほのぼのでお送りしたいなぁ(願望)くらいでお送りしますので、よろしくお願いしますm(__)m
――夢を見ていた。
どんな夢だったかと言われれば、何と言っていいのかもわからない。
ただ、自分が不思議な空間の中で不思議な化け物と戦うという、男なら誰しも夢に見るそんなものだった。
必死に戦いながら、ふと隣を見ると、そこには良く見知った女の子がいて――声を掛けようとしたところで、唐突に夢の時間は終わりを迎える。
「――起きなさぁい!」
声とともに天地が逆転し、一瞬の浮遊感の後に、身体全体を襲う衝撃が強制的に僕の意識を覚醒させる。
「イテテ……」
打った腰をさすりながら、重い瞼を開くと、見上げる先には意地の悪い笑みを浮かべた女の子の姿があった。
「……風、人を起こすならもう少し丁寧にだな」
「
「ごもっとも……」
文句をいとも容易く切り捨てられ、意気消沈する僕に彼女は「勝った」と笑みを見せる、そんな彼女の名前は『
隣に住む、僕より一歳年上の中学三年生で、尚且つ小さい頃から親交のある幼馴染である。
その性格はやり取りからもわかるように、男勝りなもの。その割に「女子力」に並々ならぬこだわりがあるようであるが、実際に料理が得意で服のセンスも悪くないのに、そういう発言をしてしまう辺り察してほしい。
「緋路、アンタなんか変なこと考えてない?」
「ん、何も」
風め、地味に鋭い。
「ふあぁ〜」
あくび混じりに、バキバキと鳴る身体に無理を言って立ち上がる。
すると音を聞いたのか、風が顔を顰めながら、まるで子を叱る母のように諭してきた。
「あのねぇ……ゲームするのが悪いとまでは言わないけど、ちゃんと寝なさいよ?」
「へーい」
小言は聞き流すに限る。
適当な相槌で流しつつ、釣るしてある学校の制服を手に取る。
「ちょっと!? このまま着替える気?」
「どうせ気にしてないだろ? 一緒に風呂に入った仲だし」
「それは小学校に上がる前の話でしょ!」
「はいはい、早く樹も起こしてきなさいな……」
何かとうるさい風をさっさと家から追い出し、制服に着替える。
続いて洗面所に行き、歯を磨いて顔を洗って、適当に身支度を済ませて、向かうのは――
「おはよう、父さん、母さん。今日も行ってくるよ……」
穏やかに微笑む二人の写し姿に挨拶を済ませ、教科書やらの詰まったカバンを下げて家を出る。
出るといっても、行くのは住んでるマンションの部屋の隣で、つまりは風の住む部屋だ。
「あ、緋路。悪いんだけど、手伝ってもらえない?」
部屋にやってきた僕を迎えたのは風のそんな声、断る理由があろうはずもないので、まず荷物を置きにリビングに向かう。
着いたリビングには先客がいたのだが、その後ろ姿はふらふらと頼りない。
「樹ちゃん?」
「……ほえ?」
呼びかけて振り返ったのは、風の妹で僕の一個下である『
性格は、姉とは違って気弱だが、言うときは言う子だ。
が、料理が駄目だったり、家事が絶望的だったりと、女子力には恵まれなかったようだ。
「ほら、樹ちゃん。ボタンちゃんと留めなきゃ……」
「お兄ちゃん、ありがとう~」
そんな樹ちゃんは完全に寝ぼけてるようで、僕の呼び方が昔の「お兄ちゃん」に戻っている。
とりあえず掛け違いになっていた制服のブレザーのボタンを留め直して、洗面所に送り出して、その辺に掛かっていたエプロンを纏って台所に入る。
「んで、何手伝えばいいんだ?」
「お弁当に詰めるハンバーグの種作っといて!」
「はいはーい」
唐突だが、僕たちに両親はいない。
二年前に起きた瀬戸大橋が崩落した事故に巻き込まれ、命を落とした。
以来、三人協力し合って生きている。
◆◆◆◆
「ふぅ……ごちそうさま」
食後のコーヒー(犬吠埼姉妹はお茶)を呷りながら、ふと風が漏らす。
「にしても、緋路はよくそんな苦いもの飲めるわね……」
「お、戦争するか?」
ガタリと立ち上がった僕に、少々オーバーなリアクションで風が驚く。
「話が飛躍し過ぎよ!?」
「いやいや、コーヒーをただの苦いものと形容されては、僕としては戦争するしかないね」
「そ、そんなに……」
淡々と語る僕に、樹ちゃんは軽く引いているが気にしない。
「ああそうさ、コーヒーは苦いだけじゃない。豆によって変わる芳醇な香り、また豆によって変わる苦みと酸味の調和、最高だと思わないか?」
「アンタのうんちく知識、東郷と引けを取らないくらいメンドイわね……」
東郷さんを引け合いに出すのは違うと思う。
あの濃ゆさは中々のものだ。幸い、僕とはまるで守備範囲が合わないので知識のぶつかり合いになることはないが。
「ん~」
そんなところで、不意に樹ちゃんが唸る。
感じ的には猫が飼い主の食べている食べ物をねだる感じを浮かべてくれればいい。可愛い。
「どうしたの樹ちゃん? あ、まさかコーヒー飲みたいとか」
―コクコク―
そう首肯する樹ちゃんの姿が、また何かの小動物に見えて
「よしよし、コーヒーに興味を覚えるとはお姉さんと違ってセンスいいねぇ」
テンションが上がり、僕は樹ちゃんの頭を撫でる。
ほぼ家族のようなものとはいえ、一応異性に撫でまわされるのは恥ずかしいのか、頬を染める姿は結構――いやかなり可愛かった。
「ちょっと、それどういう事かしら?」
風に睨まれながら、手にしていたカップを樹ちゃんに渡す。
そのカップを樹ちゃんは数秒の覚悟の時間の後に傾けるが、直後に。
「うえっ……苦い」
「ほら見なさい」
風が樹ちゃんに口直しのジュースを手渡す中、僕は思考する。
「う~ん、樹ちゃんには苦みが少ない方が良かったかな?」
そんな風に思考を飛ばしている僕を現実に引き戻すかのように、風は手を一叩き。
「はいはい、もういい時間だから学校行くわよ」
「「はーい」」
春うららな今日、歩くにはちょうどいい陽気だ。
◆◆◆◆
四月も半ばとなり、辛うじて葉桜の体を保つ桜並木を「これはこれで綺麗だなぁ」と眺めつつ、僕らは学校へと向かう。
「そういえば、樹ちゃんは友達出来た?」
樹ちゃんは春からの新入生。
訳あって、自宅から少し離れた中学に通うことになったので、気弱で引っ込み思案な気のある彼女に新たな友達ができたのかどうかは、風と僕にとっては結構な懸念案件なのである。
「うん……クラスのみんなとは仲良くなれたし、今度一緒にショッピングに行くんだ」
樹ちゃんはちょっと恥ずかし気に答える。
そして、その答えを聞いた僕らはというと……。
「樹……そう、クラスメートと仲良くなれたのね……。お小遣い弾んであげるから、楽しんできなさい( ;∀;)」
「お、お姉ちゃん?」
「風、僕たちの妹はこんなにも大きくなったんだな……(´;ω;`)」
「緋路さんまで!?」
ちょっと感動した……どころではなく、もう感動で二人して涙を流していた。
シスコン? 何とでも言えばいいさ、僕と風からすれば樹ちゃんの幸せが何よりの幸福なのだ。
◆◆◆◆
さて、ようやく涙を流し終えた頃には僕たちが就学している『
数多くの生徒が学校に向かう中、ふと目線を会話中の姉妹から前に向けると、見慣れた赤色の尻尾が見えた。
「おーい、友奈」
呼びかければ、尻尾がぴょこりと揺れて、弾ける様な笑みがこちらに向く。
「あ、緋路くん、おはよう!」
「おはよう」
彼女は『
赤い髪をショートポニーで纏めるという快活そうな見た目に違わず、元気な少女で、その明るい性格から皆の人気者だ。
「風先輩と樹ちゃんもおはよう!」
「おはよう、友奈」
「おはようございます、友奈さん」
姉妹二人も友奈に挨拶を済ませ、次に僕は友奈が手押す車椅子に乗る人物に挨拶をする。
「おはよう、東郷さん」
「おはようございます、緋路君」
彼女は『
サラサラとした長い黒髪をリボンで纏めた清廉で落ち着いた雰囲気漂う少女だが、機械関連の知識に始まる日本の歴史への深い智識など、中々濃ゆい面もある。
車椅子の理由は、中学入学前に交通事故にあった影響で半身不随となってしまったからだとか。尚、本人はそのことに対し一切を感じさせないほどに穏やかな性格をしている。
「風先輩と樹ちゃんもおはようございます」
「おはよう、東郷」
「おはようございます、東郷先輩」
ちなみに東郷さんだけこの中で唯一の名字呼びだが、それは本人たっての希望なので別に仲間外れとかではない。
◆◆◆◆
―キーンコーンカーンコーン―
始業のチャイムが鳴り、緩んでいた教室内の空気が変わる。
一時間目は国語だ。教科担当の先生が日直に働きかけ、挨拶となる。
「起立、気をつけ、神樹様に拝!」
世界を守護してくれている神樹様への拝を済ませると、今度は日直の号令で着席となり、授業が始まる。
「では、教科書の二十二ページを開いてください」
なんてことはない平和な日常。
その日常が脅かされ、今に崩壊しようとしている。
――なんていうのは、夢に引っ張られた僕の妄想で、現実ではただただ授業が進行していく。
・
13歳、勇者部所属の中学二年生。本作の主人公で、犬吠埼姉妹とは幼馴染。
基本的に真面目で、勉強も運動もそれなりだが、年相応に中二が混じってる。
コーヒーとゲーム(STG)が大好きで、夜更かしをよくするので朝はいつも風に起こされる。
樹が可愛くて仕方がない(シスコン的な意味で)。
とまあ、キャラクター紹介風にやってみましたが主人公君はこんな感じです。