……花言葉からちょうどいい物を探すって大変ですね
「~♪」
とある放課後。本屋にて、僕は鼻歌混じりに闊歩していた。
目的は勿論ゲームの攻略本やゲーム雑誌だが、他にもマンガにラノベに……まぁ普通の文庫も見て回るためだ。
「今日は収穫なしか……」
週一で通ってれば、そんな日もあるか……と、まあ諦めて帰ろうとしたその時だ。
「樹ちゃん?」
ふと、辺りを見回すと雑誌コーナーに樹ちゃんの姿を見かけた。
(樹ちゃんもちゃんと女の子だなぁ……)
とか思いつつ、まぁ声掛けぐらいと思って近寄れば、樹ちゃんが読んでいる雑誌は――
「声楽?」
声楽とは簡単に言えば、歌によって人生の哀歓などを聞く人に感じさせる音楽分野というのは聞くに及んでいるが、それに樹ちゃんが興味を覚えているとは。
「ふえ……? 緋路さん!?」
漏れた声に反応してか樹ちゃんが振り向くが……そんなに驚かなくてもと思う。
が、まぁいきなり後ろに知人が居たら驚くのも無理ないか。
「やあ、樹ちゃん……」
何か見てはいけないものを見てしまった気分になり、掛ける声はか細い。
「……見ました?」
震える目でそう問うてくる樹ちゃん。
見るものを見てしまった以上、僕は首を縦に振ることしかできなかった。
「う~……」
僕の肯定を受け、樹ちゃんはその顔を羞恥の赤に染める。
「ま、まあ……いいじゃない。夢があるっていうのは……ね?」
宥めるように言うが、樹ちゃんは未だ不機嫌なままだ。
「むぅ~……」
そうやって頬を膨らませる樹ちゃんも可愛いなぁ……などと思考を飛ばしつつ、僕は女の子の機嫌を直すために男が使うことの出来る伝家の宝刀を抜くのだった。
「……ケーキ、食べに行く?」
―こくり―
甘いものには、機嫌を悪くした樹ちゃんも頷きざるを得なかったようだ。
「風には内緒でな……」
―こくり―
これで秘密の共有関係が成り立ったわけで、とりあえずケーキ屋に向かおう。
◆◆◆◆
「それにしても、樹ちゃんの夢は声楽家か~」
ケーキ屋までの道中。話題は勿論、樹ちゃんの夢についてだ。
「……夢って程じゃなくて、なれたらいいなぁって思うだけだよ」
はにかむように、少し恥ずかし気に謙遜する樹ちゃんだが、僕にはその姿すら眩しく思えた。
「いいじゃん、自分がなりたいと思えるものがあるだけで」
その眩しさから目を背けるように、樹ちゃんから目を逸らして、僕はそう言った。
「緋路さんにはないの?」
無垢な目で、そう不思議がる樹ちゃん。
「……うん。僕には今、夢と自称できるほどのものが無い」
無垢な目には正直でありたく、つい誰かに話したこともないような本心を話してしまう。
「で、でも……ゲーム。そうゲームがあるよ!」
憂いてしまった僕を慰めるように、樹ちゃんが慰めるようにゲームと口にする。
「……確かに、僕はゲームが好きだし、上手い方だとも思ってるよ」
「うん……」
だが、それはあくまで普通の人と比べての場合で――
「でも、ゲームで食べていこうとするなら、夢は『プロゲーマー』だ」
「プロ、ゲーマー……」
実際に職業人としているプロゲーマーの人と比べてしまうと――
「……僕はゲームが上手い方だと思ってるけど、職にできるかって言われたら無理と言うしかない。僕よりゲームの上手い人は山程いるからね」
「……そう、なの?」
「そうさ。オンライン対戦ってやるけど、プレイングで負けてると思うときもあれば、戦略で負けてるってときもよくある」
「へ、へえ~」
単純に技量で及ばなければ、頭も足りていない。
「僕は、プロゲーマーにはなれないよ」
「緋路さん……」
ネガティブ発言を連発したせいか、痛ましげな表情を浮かべたまま僕を見上げてくる樹ちゃん。
その頭を撫でつつ、僕は総括するように、樹ちゃんに対し言った。
「だから、夢を持ってる樹ちゃんを僕は羨ましく思うよ」
「……ふぇ?」
僕の発言の内容が掴めず、困惑する樹ちゃんに、おちゃらけるようにして続ける。
「とりあえず、樹ちゃんが声楽家になったらファン一号は僕かな?」
「うぇ!?」
「ファンクラブ、作んないとね♪」
「も~う、緋路さん!」
ポカポカと背中を叩いてくる樹ちゃん。
「アハハ……、痛い痛い」
特段と力が入っているわけではなかったので、痛くもないが形式上みたいなものだ。
◆◆◆◆
「いらっしゃいませ~」
お店特有の語尾が何故か伸びる男性店員さんのコールを浴びて、入店したのは喫茶店。
「えっと……ホントにいいのかな? ここ高そう……」
「ん、いいのいいの。風がお金の管理が上手いから生活費は毎月余ってるからね」
僕の小遣いは、支給された生活費の内の先月分から家賃や食事代等の必要経費を落としたものになるのだが、月に五万程が余ってしまうのだ。
「じゃあ、ご馳走になります」
「はーい」
適当に返事して、メニューを眺める。
つい一ヵ月程前に発見したこの店はコーヒーの種類も多く、スイーツや軽食も絶品揃いなので、以来足繁く通っているのだ。
「じゃ、僕はグァテマラにモンブランかな……」
メニューをぱたりと閉じ、店員さんを呼んで同じ内容を注文する。
続くように、樹ちゃんもメニューの中から注文していく。
「わ、私はローズヒップティーとチーズケーキで」
注文を済ませ、品を待つ間の話題は風についてだった。
「そういえば、今日は風はどうしたんだ? 大体一緒に帰ってるだろ?」
「あ、えっと。チア部の練習に混ざってくれって言われたらしくて……」
「ああ、なるほど。そう言えば……去年はちょっとしか練習してないのにチア部の連中より目立ってたからな」
そこまでは良かったのに、その後に告白されただのと騒いだからすっかりそっちに記憶を上書きされて忘れていた。
「お姉ちゃんらしいよね」
「……だな」
風は基本なんでも器用にこなす。
生活していかなければならなかったからだが、家事その他のスキルの習得も早かった。
「風には、僕たち二人して世話になりっ放しだな……」
「……うん」
今でこそ僕も料理・家事はそれなりだが、最初の頃はほぼすべてを風に任せきりで、本当に苦労を掛けたと思う。
本人はまるでその素振りすら見せないが、僕も樹ちゃんも風には感謝しているのだ。
「もうすぐ風の誕生日だし、今度の休みは内緒でイネスにでも行ってプレゼント買うか」
「そうだね」
休みの予定が決まったところでちょうど、頼んだものが運ばれてきた。
「わぁ~美味しそう!」
「「いただきます」」
まずはコーヒーに口をつける。
舌を抜ける仄やかな苦みと酸味を味わいつつ、鼻腔に漂う甘い香りも楽しむ。
「旨い……」
是非店主には豆の仕入れ先を窺いたいが、次にケーキを頂く。
「おいしい~」
樹ちゃんがチーズケーキの感想を漏らす中で、僕はモンブランを口に運ぶ。
「やはり美味……この店は外れが無いな」
二人でお茶とケーキを堪能して、店を出る。
「はー、やっぱりあそこの店のコーヒーは格別だな……」
「ハーブティーも美味しかったよ」
「ほ~う……。今度は風も連れてきて三人で飲み比べでもしようか?」
「うん!」
そのままぶらぶらと、家までの道を進む。
道中には色々なことを話した。学校でのこと、勇者部のこと……とにかく色々とだ。
「……ただいま」
家に帰って、僕たちを迎えるのは風の温かい声。
「おかえり、二人とも」
「お姉ちゃん、ただいま」
「はい、手洗ってきなさい。晩ごはん出来てるから」
ちょっとしたアクシデントはあったが、今日も僕らは平和な日常を謳歌していた。
日常回(今度はホントに純粋な)