君がいた物語   作:エヴリーヌ

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うそすじ

「実は私……元アイドルでレスリング部だったんだ」

 世界でいちばん強くなればいいんじゃね?しらんけど。



八話

 あれから落ち着いた赤土と一緒に学園祭を回るが、文科系サークルの方にはあえて行かず、運動系のサークルをいくつか見てから他の所を見て回った。

 

 そのことに申し訳なさそうにしていた赤土だけど、別にサークルは一応見ておきたかった程度なので気にしてないことを告げておいた。こっちとしては赤土が一緒に楽しんでくれている事の方が大事だったからな。

 結局今日一日多少のトラブルはあったが見たいものは見られたし、今後の勉強の刺激にもなったから来てよかった。

 

 その後、夜になるころには学園祭も終わったため帰路につき、赤土を家の近くまで送った。

 

 

「今日はごめんね。せっかく来てくれたのにあんなことになっちゃって」

「だから別に気にしてないって。赤土がピーピー泣いてる姿も見れて面白かったしな」

「だから泣いてないってば!」

 

 

 あれからあまり明るい表情を見せなくなった赤土を茶化すように言うと、頬を膨らませながら抗議をしてくる。うん、やっぱ赤土はそういう表情の方が似合ってるわ。

 そんなことを考えていると、赤土がなにか気になったようにこちらを覗き込んでくる。

 

 

「それでやっぱ須賀君はもう帰っちゃう感じ?」

「ああ、一応先生から月曜休んでもいいって言われてるけど、少しでも行っておきたいしな。それに目標も出来たし」

「目標?」

 

 

 俺が告げた言葉に興味と疑問が混じった反応をする。そこで一種の決意を示す形も込めて赤土に答える。

 

 

「今日色々見て考えたんだけどさ……俺この大学を第一志望にしようと思う」

「え……? 本当っ!?」

 

 

 俺の言葉に予想外とばかりに赤土が声をあげる。確かに一度見ただけでいきなり決めるとは思わないもんな。

 

 だけど今日一日大学の施設や教授、学生達を見ていく中で、確かに有名なだけあってあの大学なら俺が教師になる為に必要な要素が揃っていると感じられたのだ。それに元々この大学も候補の一つだったから親父達にも一人暮らしの話はしていたこともあり、問題はないだろう。

 

 そのようなことを説明すると、突如黙って赤土が考え込み始めた。どうしたんだ……?

 声をかけようとした途端、なにかを思いついたように赤土が声を上げる。

 

 

「……よし! 決めたっ! 私もあの大学受ける!」

「え……まじか?」

「うん。元々なんとなくで進学は決めたけど、今日一日真剣に大学を見学してた須賀君を見てたらなんか自分もやる気になってきた」

「だけど別の大学とかじゃなくていいのか?」

「まぁ、あそこってそれなりに大きいからそこらへんの大学より教育関係以外にも力は入れてるしね。どの学部とかはまだ自分の中で固まってないけど、私もあの大学見て良いかなって思ったし受けるよ」

「そっか……それなら俺も大学行くの楽しみになるな」

 

 

 確かにそれなりにレベルの高い大学なのもあって、他の職種を目指す奴らも多く入るって聞くし、赤土からすれば実家から通えるのもあるしな。

 俺としても地元を離れて暮らすわけだから、個人的には一人でも見知った顔がいると心強いから歓迎したい。それが友人ならなおさらだ。なのでそれを口に出すと――

 

 

「え? 楽しみって………え? ええ!?」

 

 

 いきなり赤土が顔を赤くして狼狽えはじめた。

 なんでこいついきなり特技使ってるんだ?と疑問に思いしばし悩むと、答えにたどり着く……って……!?

 

 

「ばっ、おま、ちげーって! そういう意味じゃねーよ!? 友達とかそういうことだよ!」

「あ、なんだそっちか……って! そっちでもちょっと恥ずかしんだけど!?」

「知らねーよ!」

 

 

 それからしばらくギャーギャー言いあっていると、通りがかった人が「バカップルかよ……けっ!」と言うような表情で見てきたので、お互いに恥ずかしくなり声を潜める。

 

 忘れていたがここは赤土の家の近くだし、両親とか出てきたら俺ヤバくね?

 すっかりそのことを忘れていたので、急いで話を進める。

 

 

「じ、じゃあ、とりあえず二人とも受けるってことでいいんだよな?」

「うん……でも重要なことに気付いた」

「なんだよ?」

「私、頭悪いんだった……」

「それやばくね!?」

「まあ、山は高い方が登りがいあるって言うじゃない。あと半年あるしなんとかなるって」

 

 

 あっけらかんと言う赤土に小さな声で驚く。受験まであと半年切ってるしどうすんだ……。半年をどう捉えるかは個人差があるが、これで大丈夫なのか?不安でしょうがない……。

 

 

「はぁ……勉強に専念するためにもこれならしばらく連絡は取り合わない方がいいよな……」

「ええ!? 別にそれぐらいよくないっ」

「あほか。お前は今まで俺達が話した電話の時間を覚えているのか?」

「ええと……わかんない」

「俺も知らん」

「ダメじゃん」

 

 

 赤土がジト目で見てくる。ただ、ぶっちゃけ詳しくは覚えてないけど、それでもそれなりの時間を使っていたのは俺でもわかる。

 

 別に迷惑だったとかじゃなく、むしろ楽しかったのだが、それでもお互いに受験生に大切な時間を浪費したことには変わりない。だからもし互いに大学を本気で目指すならば、半年の間は気軽に連絡するのを控えるべきだ。

 そう詳しく赤土に説明すると――

 

 

「むー……だったらメールぐらいならいいよね?」

「まあ、それぐらいだったらいいか、根詰め過ぎるのもよくないし。でもたまにだぞ」

「わかってるって」

 

 

 本当にわかってるのか?嫌だぞ、来年浪人生になった赤土に勉強教えるとか……まあ、俺もそこまで余裕があるわけじゃないけど。

 

 その後、軽く会話してから別れを告げて、再び奈良の地をあとにして長野へと戻る。

 そしてそれからの日々はあっという間に過ぎて行った―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰ってから親父達に大学のことを話すと「別にいいぞ」と軽く了承をもらった。

 

 それなりに裕福なのはわかっていたが、一応大丈夫かと再度尋ねると親父達曰く「子供はいくつになっても子供だ。これぐらいいくらでも面倒見てやる」とのことだった。

 我ながら甘やかしてもらっているのはわかったが、今はその厚意に甘えさせてもらうことにした。

 

 そして家族だけでなく友人などの身近なやつらにもしっかりと話しておくことにした。

 ハギヨシからは――

 

 

「そうですか……寂しくなりますが応援しています。なにかあればいつでも頼ってください」

 

 

 という心強い言葉を貰った。おまけに「少し手が空きましたので、勉学の方も手伝いますよ」という嬉しくもあり辛くもある言葉も貰った。ハギヨシ結構スパルタなんだよな……。

 んで、照達は――

 

 

「京ちゃん行っちゃやだーーーーーっ!!!!!」

「うわぁぁぁーーーーーーーーーーん!!!!!!!」

 

 

 ――と、すごい泣かれてしまったが、おじさんたちの口添えもあり何とかなった。

 

 照達からは受験が終わったらしばらくの間遊ぶことと、向こうに行っても休みになったら帰ってくることを約束させられたが……まあ、それぐらいなら安いもんだろ。

 

 そして他の連中にも色々と言われたが大抵は応援するものであり、中には以前の彼女発言から邪推する者もいたが特に普通の反応だった。

 まあ、俺以外にも遠方を受験する奴ら結構いたし、その中の一人ならそんなものだろう。

 

 そして――そんなこんなで受験日まで猛勉強が続いた。

 

 以前言っていた通り、時間の空いたハギヨシにも手伝ってもらったおかげで俺の成績は以前よりも上がっていき、十分な合格範囲内まで行った。

 

 また、赤土との連絡もなるべく控え、連絡はお互いの学校の休み時間や就寝前などのほんの少しだけに努めた。

 赤土の方も友人たちに教えてもらったらしい上に、元々麻雀をやっていた為か集中力がいいのか、写真で送られてきた模試の成績表ではかなり上がっているのがわかった。

 

 このようにお互いに負けられないと言う気持ちなどから一層勉強に実が入り、所謂永久機関的が出来上がって、どちらもさらに成績を伸ばしていった。

 それから数か月の日々が過ぎて行き――

 

 

「おう、お疲れ」

「そっちもお疲れ」

 

 

 ――今日は待ちに待っていない大学受験の受験日であり、ようやくその試験が終わった所だ。

 そして前日に「お互い試験が終わってから一度会おう」と言う話になり、門の所で待ち合わせていたのだ。

 

 ちなみに赤土の地元の友人たちは皆就職したり、別の大学に行くなどしているのでここを一緒に受けた奴はいないらしい。

 

 

「どうだった?」

「なにが?」

「なにがって、試験結果以外に何があるの?」

「隣にいた女の子が可愛いかどうか聞かれたのかと思ったぜ」

「さいてー」

「嘘だって、ちなみに両隣は男でした」

「もう……ふふふ、あははッ!」

「く、くくく……ははは!」

 

 

 試験の緊張から解かれたのか、こんなくだらない会話でどっちも笑ってしまった。

 

 それから外は雪も降っていて寒いということで近くの喫茶店に入り、お互いの試験結果について話すと、どちらもそれなりに自信があるとのことだった

 一応の安心ではあるがこれが実に怖い。試験って出来たと思ったらひどい点数で、出来なかったと思ったらそれなりの点数だった言うこともあるので油断ならないからな。

 

 

「それで赤土はまだ試験残ってるんだっけ?」

「んー、あと一つ受けたら終わりかな。前に受けたのはまだ結果出てないし帰ったらまた勉強しないと。須賀君はもう終わりだっけ?」

「ああ、最初に受けたのが合格してたからこれが最後だな」

「いいなー私も早くゆっくりしたいわ」

 

 

 愚痴を漏らしながら、ぐでーとする赤土に苦笑い。

 既に予備が受かってる俺に比べて赤土は数日後にまだ試験を残しているから気が抜けないしな、愚痴りたくなる気持ちも分かる。それでも山場の本命は過ぎたと言うことで、お互いに一息は入れたいところだ。

 

 

「結果っていつ出るんだっけ? 明日?」

「んなわけないだろ。確かここはそれなりに早かったから一週間後ぐらいじゃなかったか?」

「一週間かー……あー……しばらくは憂鬱な日が続きそう」

「だな」

 

 

 背もたれに寄りかかり疲れたように言う赤土に同意する。

 待っている間に他のことをやっていても、ふと試験のことを思い出して気になるし、さっさと結果を教えて欲しいものだ。マークシートなんだからせめてその場でパパッと点数だけでも教えて欲しいと何度も思う。

 

 今後の事を憂い、テンション低めになる俺達だが、この雰囲気を嫌がったのか赤土が明るく話しかけてくる。

 

 

「そういえばちょっと気が早いけど、もし須賀君がここ受かってたら何処に住む予定なの? やっぱり大学の近く?」

「あー……まだ詳しいことは決めてないけど多分少し離れた所になると思うわ」

「え? なんで?」

「ほら、一応ここらへんってそれなりに栄えてるからそれなりに家賃かかるじゃん。だから少しでも浮かせるために少し離れた場所に借りようかなって」

「でも結局電車賃とか考えたら微妙じゃない?」

「まあな。ぶっちゃけ言うとさっきのは表向きの理由で、本当は親父達から『近くに家を借りるとお前のことだし怠けて大学にいかなくなるから別の所にしろ』って言われててな。仕送りしてもらう予定の身としては親父達に逆らうわけにはいかんですたい」

「ああ、なるほどねー」

 

 

 詳しく説明すると赤土が頷きながら納得する。

 実際、既に大学に行った先輩たちの中にはそういう人達もいるということを学校でも聞いているし、親父達の言い分も理解できたので素直に言うことを聞いたのだ。

 

 というか、今の説明で納得している赤土は俺がサボるようなやつに見えるのか。否定はしないが失礼な奴だな、おい。

 ジト目で赤土を見ているが、当の本人は何か考え事をしているようで気付かない。無視かい。

 

 

「ふむふむ、それだったら阿知賀の方に住まない? ちょっと不便だけど家賃も安いし、いざとなったらうちも近いから手助けできるよ」

「んー……まあ実際見て見ないことには始まらないけどありっちゃありか……んで、本音は?」

「私が遊びに行きやすいじゃん」

「ほーん」

 

 

 そんなことだろうと思った。

 いやまあ、別に赤土が遊びに来るぐらい別にかまわないけど、便利だからってなんだか毎日のように遊びに来る気がするな……。

 

 それにしても気が早いとは言ったが、それでもこいつ既に受かった前提で話しすぎだろ。俺が受かったとしてもこいつが一人暮らしする可能性もあるし。

 そのことを聞いてみると――

 

 

「え? 一人暮らしなんてしないよ。私が受けたの全部自宅から通える範囲だし」

 

 

 マジか。ぶっちゃけここらへんって大学少ないのに大丈夫なのか……。もしそれでどこに受かってなかったらどうするんだよ……。

 

 

「その時は来年も頑張るからよろしくね、先・輩♪ なんだったら一年留年するのもオススメだよ」

「丁重にお断りします」

 

 

 そんなくだらない話をしつつも、お互いにしばし休息を取っていたのだが、赤土もまだ試験があるので早めの解散となった。

 

 いつもの様に阿知賀まで赤土を送ってから受験についてきた親父の待つホテルへと戻り、今日はこちらに泊まって行くと言う親父におざなりに返事をしつつも、今までの疲労から次の朝まで爆睡してしまった。

 

 そして――

 

 

 

 

 

「やべー……緊張してきたー」

『うー……こっちだってそうだよ』

 

 

 あれから一週間ほど経ち、試験結果の発表日。

 俺と赤土はお互いに電話をして気を紛らわせながらも、大学のサイトに結果が出るのを待っていた。

 

 俺はともかく赤土は近くなんだから直接見に行ってもいいと思うんだが、本人からすると一人で行くのは嫌らしい。おまけに外は寒いから嫌だと。後者の方が理由が大きい気がするのは気のせいか?

 まあ、確かに今の時代わざわざ行かなくても結果がわかるし余計な苦労をする必要もないしな。昔は地方に住んでたりすると、郵送で結果が送られてくるまで待たなくちゃいけなかったらしいし、便利な世の中になったものだ。

 

 そして無駄話をしているうちに、ついに結果発表の時間となった。

 

 

「よし……! 見るぞ……!」

『うん……ってすごい重いし!』

 

 

 一斉に全国の学生たちが開いている為かその重さに悲鳴を上げる。といってもそれはほんの数秒で、すぐに合格者の受験番号が表示された。

 

 

「……………………………………赤土」

『……………………………………須賀君』

「どうだった?」

『そっちこそ」

 

 

 牽制するかの様に質問に質問で返される。まあ、お互い気になるのは仕方がないからな、こっちから答えることにする。

 

 

「すぅ……はぁ…………受かってた」

『…………私も』

「…………」

『…………』

「『やっっったぁぁぁーーー!!!」』

「キュ?」

 

 

 自分だけでなくお互い無事に受かっていたことを大声で喜びあう俺達。その様子が気になったのかカピが近寄ってきたので小躍りしながら抱き上げてやる。重さなど気にしない。

 そうか……俺だけじゃなくて赤土も受かってたのか、やべ、ガチでうれしいぞ。

 

 

『嘘じゃないよね! 実は文字化けしてるとか!?』

「おいやめろって! 俺まで心配になってきたじゃないか!」

 

 

 未だ不安がる赤土の言葉に触発されてもう一度確かめる。勿論一と七を間違えているというこもなく、しっかりと画面には俺の番号が映っている。

 もう一度見直して、さらに見直し、計五回ほど確かめたが間違いなかった。

 

 

『もしかして他の人の番号と間違えて乗せられてたりして!?』

「だからやめろって!」

 

 

 お互い興奮気味なためこの後も不毛なやり取りが続いたが、流石に疲れてきたので大声を出すのをやめると落ち着いてきた。

 

 あー……騒ぎ過ぎて喉いてー……普段だったらお袋に叱られるが、用事で留守にしてるからよかったぜ……って!?

 

 

「やべ、親父達に連絡入れとかないと」

『あ!? そうだ私も皆に報告しないと』

「んじゃ、一回切るな。また後で連絡するわ」

『うん、了解した。須賀君のこっちでの生活のこととか決めないとね』

「おう、色々と頼むわ。じゃあな」

『またね』

 

 

 お互いにすっかりお祭りムードだったが、これまでに世話になって来た人達への連絡もあると言うことで一度通話をやめることにした。

 赤土の言ってた通り、今後の事を決める為にどうせこの後も腐るほど話すだろうしな。

 

 そして平日と言うことで仕事中の親父と出かけているお袋にメールを打ち、ハギヨシやおじさん達、後輩などにも同じようにメールを打った。

 クラスメイトや他の友人にはまだ試験も終わっていないやつも多くいるので、刺激しないように伏せておいた。そのうち登校日があるからその時でいいしな。

 

 その後、ハギヨシやおじさん達からは祝福のメールが来ており、近いうちにお祝いをしようと提案された。この年にもなって恥ずかしいと思ったが、折角の厚意なので受け取っておくことにした。

 ちなみに学校から帰ってきた照達にも受かったことを伝えると、涙ぐみながらも寂しいのを堪えておめでとうと言われた。そんな様子に俺も泣いてしまいそうになったが、ここで俺が泣いたら我慢している照達に申し訳ないので唇を噛んで我慢をした。

 

 

 

 そしてそれからの日々は受験時代を凌ぐほどの速さで過ぎて行った。

 

 学校の方は既に消化試合と言う感じで何事もなく過ぎていき、授業もないので特に問題はなかった。しかしそれ以外の事は山の様にやることがありてんてこ舞いだった。

 

 まず大学に入学するための手続きがあり、そのための書類や入学式に必要なスーツ、向こうで生活するための家具など必要なものを色々と用意しなければならなかったので、かなり大変だった。

 

 次に、一人暮らしの為に部屋を借りなくてはいけないということになったが、それに関しては赤土が地元の人間ということで不動産屋に話をつけてくれたおかげで、いくつかの優良物件を回してくれたからスムーズに進み、実際に阿知賀まで見に行き決めてきた。

 

 これまた次に、しばらくは会うことがないと言うことなので、ハギヨシから時間の許す限り色々と役に立ちそうな知識や技術などを仕込まれた。

 色々役に立つことも多かったが、中には必要ないんじゃないかってものもあった。いや、あいつの言うことだからきっと役立つ日が来るはずだ、うん。

 

 最後には以前約束していた通り、照と咲と遊んだ。というかこれが多分一番長かったな。

 デパートに連れてって迷子になった二人を探したり、近くの山までハイキングに連れて行って迷子になった二人を探したり、うちに遊びに来て迷子になった二人を探したりとその他etc……。

 

 これら以外にも色々あって疲れはしたが、どれも楽しい思い出だった。そして――

 

 

 

 

 

「んじゃ、そろそろ行くな」

「ぅぅ……京ちゃん行っちゃやだ……」

「わたしもいっしょにいくー……」

「二人ともわがまま言わないの。京ちゃん困ってるでしょ」

「そうだぞーそんな顔してたら京太郎に嫌われるぞー」

「「やだー!!!」」

「あなた……」

「す、すまん! 冗談だって! な! 京太郎!」

「あはは、もちろんですって」

 

 

 涙あり笑いありの卒業式も終わり長野を出発する日。見送りに来てくれた宮永家との別れを惜しむ。

 顔をぐしゃぐしゃにしながら俺に抱きつく照と咲をおばさん達が宥めるが、おじさんの一言で余計に悪化した。

 

 ちなみに既にハギヨシなどの友人達とは送別会をすまし、皆も忙しいだろうから見送りについては断っておいたので、この場にいるのは親父達と宮永家族だけだ。

 

 

「ほら、二人とも泣くなって。ちゃんと休みには帰ってくるから、な?」

「ぐすっ……本当?」

「うそじゃない?」

「当たり前だろ。俺が今まで嘘ついたこと……は、あったけど今回は約束守るよ。だからいつまでも泣いてたら駄目だぞ」

「うん……わかった」

「うううぅ……」

「いい子だ。それじゃあ後はお願いします」

「はいはい。向こうでも元気でやるんだよ」

「何かあったらいつでも連絡するんだぞ」

 

 

 名残惜しいがこうしているといつまでも出発できないので、照達を慰めてから二人に引き渡しお激励を貰う。親父達とはさっきまで十分話したので今更話すこともない。それに照れくさいしな……。

 

 そしてほとんどの荷物は既に向こうに送ってあるので、必需品だけを詰め込んだバイクに乗り込みエンジンをかける。

 

 

「んじゃ、行ってくる」

 

 

 照れくささもあり、見送りに来ていた親父達とおじさん達にそう一言だけ告げて走り出す。ミラーを見ると手を振る皆が見えたが、名残を振り払うようにスピードを上げて進む。

 

 さらば我が故郷。また来る日までってか……。

 

 

 

 それから既に何度かの訪問により慣れ始めた道を使って阿知賀まで向かう。

 

 朝早く出たおかげで夜になる前に何とか到着し、一度下見に行ったとは言えおぼろげな記憶に頼るのは不安なため、事前にメモしておいた地図を頼りに新しい我が家に到着し、改めてその全体を見回す。

 

 築30年の三階建てのアパート。

 字面だけ見ればおんぼろを想像するだろうが実際はそうでもなく、数年前にリフォームしたらしく外見も中身も綺麗であり、田舎というこもあって中はそれなりの広さながらも格安の家賃である。

 

 二階の部屋なので隣だけでなく、下と上の両方に気を使わなければならないのだが、角部屋で壁もそれなりに厚いのでそこまで気にしなくて済む。しかもトイレ風呂別という好条件。色々手をまわしてくれた赤土には頭が上がらんな……。

 

 とりあえず愛車を停めて大家さんに挨拶をしに行くかと考えた所で、見覚えのある姿がアパートの前に立っていることに気付く。

 ……っておい。

 

 

「なんでここにいるんだよ赤土」

「失礼なセリフだなー。手伝いに来てあげたに決まってるじゃん」

 

 

 そこにいたのは現在阿知賀における唯一の知り合いと言っていい赤土だった。

 俺の台詞に不機嫌になってプンスコ怒り出している。いや……確かに助かるけどさ……。

 

 

「おまえこの日は用事あるって言ってなかったか?」

 

 

 そう。引っ越しのことなどは事前に知らせていたのだが、その日は用事があると聞いていたのだ。内心来てくれるんじゃないかと思って期待をしていたのだが、それを聞いてガッカリしていただけに寝耳に水だ。

 そんな驚いた俺の表情が面白かったのか赤土がしてやったりと笑い出す。

 

 

「あはは、だから言ったでしょ『須賀君の引っ越しを手伝う』用事があるって」

「わかんねーよ……」

 

 

 ドヤ顔で言う赤土に思わずため息をついてしまう。いや、まあ、嬉しいことは嬉しいけどな……。

 隠そうとしても隠しきれない嬉しげな表情に満足したのか、赤土が俺の背中を押す。

 

 

「ほら、さっさとそれ停めて大家さんに挨拶行こう。その後は部屋に荷物は届いてるから中身出して、時間が空いたらここらへん案内するよ。あ、勿論終わらなかったら明日も付き合うからね」

「ま、待てって!?」

 

 

 どんどん話を進める赤土について行けなく焦る俺。

 すると、背中を押していた赤土が突然立ち止まったので、気になり振り向く。

 

 

「どうした?」

「いや、すっかり言おうと思っていたのに忘れててさ」

 

 

 そういうと赤土は後ろに数歩下がり、深呼吸をすると―――

 

 

 

 

 

「ようこそ阿知賀へ!! これからよろしくね!」

 

 

 

 

 

 ―――思わず見惚れてしまいそうな満面の笑顔で俺を歓迎してくれた。

 




 駆け足になりましたが受験編終了。次回から大学編に入ります。
 早すぎないかと思いますけど、どうせこの期間はハギヨシと勉強してるだけなのでカットで。幼池田や幼桃子の出番もあったけど、ヒロイン出さずにサブ出すなよって事なのでやっぱカットで。


 また次回もよろしくお願いします。


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