君がいた物語   作:エヴリーヌ

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うそすじ


「君が噂の須賀くん?初めましてハルエの親友の新子望です。一目ぼれしました。付き合ってください」
「あ、ああ、初めまして須賀京太郎です。こちらこそよろしく」


―――――――――――――――――――――――――あれ?



十話

 あれから赤土の着替えの為に一度赤土家に寄った後、途中のスーパーで適当につまめる物を買ってから俺の家に向かった。勿論未成年かつまだ昼だし、新子は車なので酒の類は買わなかった。

 

 その後、うちについてからは俺もスーツから着替えたかったので、二人には手前にあるリビングで待っていてもらい、奥の寝室に着替えをしに行く。

 ついでに赤土にはコップなどの食器類の用意を頼んでおいた。

 

 

「さて、ジャージ……はないな」

 

 

 なにを着ようか悩み、箪笥からジャージを手に取ったがすぐに戻す。恐らく二人とも気にしないだろうが、親しき仲にも礼儀ありだろう。

 そうやっていくつか着替えを探していると、扉を一つ挟んだリビングの方から二人の声が聞こえた。

 

 

「コップとお皿、あとは……」

「おぉ、手馴れてるねーすっかり通い妻?」

「違うっ!」

 

 

 …………いつも通り……いや、今日会ったばかりか。毎度の如く赤土がからかわれている。まあ、赤土って結構いい反応返してくれるし、からかいがいがあるのは俺も納得だ。

 しかしこのまま放っておくと、止まらなくなりそうなのでさっさと着替えて向こうに戻ることにする。

 

 

「悪い、待たせた。それと赤土は引っ越しの手伝いをしてくれたから食器の位置も分かってるんだよ」

「ほうほう、つまり初めての共同作業と」

「じぃー………………」

「いや、えーと…………すまん」

 

 

 うまくフォローしたつもりだったが、かえってネタを与えてしまった。いや、でも普通のこと言っただけだぞ、俺。

 

 

「と、とりあえず飲み物を 「お、あれって」 ん?」

 

 

 話を逸らそうと冷蔵庫にしまってある飲み物を取りに行こうとしたら、突如新子がリビングの隅を見て声をあげた。

 新子は興味深そうにそのまま部屋の隅に行くと、そこにおいてあるものを見て、何か思い出したかのように赤土に尋ねる。

 

 

「これって、前に街に遊びに行った時にハルエがこそこそしながら買ってたやつじゃん」

「ちょっ! 見てたの!?」

「そりゃいきなり『なんか適当に見てくるー』とか言いだしてソワソワしながらどっか行ったからね、何かあると思って後をつけてみた」

「うがぁー!」

 

 

 じゃれあう二人の話の中心となっているのは、こちらに引っ越してきた日に赤土から渡されたちょっと遅れた誕生日プレゼントのカピバラの置物だ。

 以前俺がカピを飼っているのを話したことから、一人暮らしでしばらく会えないのは寂しいだろうってことで贈られたものである。

 

 ちなみにこれ以外にもカピバラを模したティッシュカバーなども渡されたので愛用させてもらっている。

 

 

「いやぁ、じっくり悩んでたからなにかと思ってたけどねー……くふふっ」

「その笑いかた禁止っ!」

「そういえばさっき食器棚開けた時に見えたけど、中に色違いのコップがあったような~」

「おぶぶぶぶぶ」

 

 

 追い打ちをかける新子についに負けて、座布団の上に倒れ込む赤土であった。

 

 ちなみに新子が言ったコップも誕生日に渡されたもので『この前店で見つけて安かったから』と赤土に言われたものだ。遊びに来る赤土用のコップとしてもいいかと思っていたが、よく考えればペアルックなのか?……まあ、カピバラだしいいか。

 

 そんな感じで面倒になったから深く考えるのを止める俺だった。

 

 

 

 

 

 その後、なんやかんやでジュースや菓子などを食べながら話題に花を咲かせる。その中で最初に話の中心となったのはやはり俺と赤土が出会った時の話だ。

 どうやら最初に会った時に赤土が待ち合わせをしていた相手と言うのは新子だったみたいで、そのころから俺の事は知っていたからか、当時の事から迷子だとからかわれてしまった。

 

 それからはどんな学校に通っていたとか、家族の事などお互いの事を話す。

 新子の話もそうだが、赤土とはそれなりに連絡は取っていたけど、未だ話していないことも多かったので結構新鮮だ。

 

 その中でカピの話が出た時には、やはり女子だからかすごい反応をしてきたので、携帯に入っている写真を見せてやると二人ともすごく興奮していた。日本でカピバラなんて普通は見ないもんな、昔は気にしてなったけど親父凄すぎだろ。

 そんな中で次に話題になったのは新子の実家の事だった。

 

 

「へー、新子って実家が神社なのか」

「そうだよ。折角だし今度巫女服見せてあげよっか?」

「是非頼む!」

「うわー……即答ひくわー」

「あははははっ!」

 

 

 一瞬の間を置くことなく答えた俺に白けた目を向ける赤土と馬鹿笑いする新子。いいじゃないか巫女服。男のロマンだ。女にはわからない世界だ。

 

 

「ハルエも着る?」

「お断り」

「ちぇー」

「ちぇー」

「絶対嫌だし、制服とかならともかくスカートとかフリフリしたの似合わないもん」

 

 

 先ほど俺に話を振った時のように新子が赤土に尋ねるが速攻で断り、そんな赤土に不満の声を上げる新子と俺。

 

 確かに赤土は基本ジーパンシャツなどのパンツルックばかりで、スカートを履いている姿を見たことがなかった。そういった服装が苦手というのは理解できるが、赤土の制服姿とか巫女服って結構興味あるし、この場のノリだけではなく実際に見てみたい気持ちもあるんだけどな。

 とりあえず赤土にそれの以上話を振るのは止めて新子の家の話を続ける。

 

 

「それで実家が神社ってことは、やっぱ大学はそっち系専攻か?」

「ううん、巫女としては働いてるけど、今の所宮司になる気はないから大学は行ってないよ」

「望、頭いいのに勿体ないよなー」

「いいのいいの、大学なら年取ってからもいけるし今は通信教育もあるからね。資格なんて必要になったら取ればいいんだから。必要のない今行ってもお金の無駄だし」

「はは、かっけぇな」

 

 

 女なのに男らしくキッパリと答える新子に苦笑いをしつつも尊敬の念を抱く。

 傍から見ると将来の事を考えてないと言われるのかもしれないが、めんどくさい、とかじゃなく新子自身がしっかりと考えて必要ないと言えているのだからそれはそれで芯が通っているだろう。今時資格なんてとりあえずで取る人が多いのにな。

 

 そうやって新子の話に聞き入っていると、何か思い出したかのような表情をして新子が赤土に話しかける。

 

 

「まあ、私の事は良いとして、まさかハルエがあの大学に行くなんて思わなかったなー。普通に近くの大学行くと思ってたし、その上受かるとは……まさに愛の力ってやつ?」

「ないっ! 絶対にない!」

「うわ、全否定だし。そこんとこどう思いますか須賀くん?」

「ショックな話ですわ」

「いやっ別に須賀君が嫌いとかじゃなくて、その……な、なに言わせんのさ、望!」

 

 

 凹んだ俺を見て慌てだす赤土だったが、言葉に詰まったのか新子の方へ責任を転嫁した。まあ、赤土の言いたいことも分かるけどな。

 そんな感じで慌てる赤土を見て、腹を抱えて笑っている新子が話を続ける。

 

 

「冗談冗談っ、でも学部学科も一緒なんでしょ? 意識しまくりじゃん」

「う……それは…………」

「それは?」

「えっと………ほ、ほら!私たちの学部って一番人数多いから入りやすかったし、やっぱり知り合いが同じ学科にいた方が大学行きやすいじゃん!」

「ふ~ん」

 

 

 赤土の説明に意味ありげな顔をする新子であった。ちなみに今さらりと言われたが、俺と赤土は同じ学部で同じ学科だ。最初聞いた時は俺も驚いたが、先ほどの話を既に聞いているので納得もしている。

 

 なんでもうちの大学は結構すごいらしく、本来なら学部ごとに受けられる授業は決まっているのだが、自由な校風らしく必修以外の授業ならば学部関係なく幅広く受けられるのだ。だから理系文系などの進路さえ決まっていれば、そこまで学部の違いはないらしいので、一番入りやすい学部を選ぶのは当然だろう。

 

 俺は教職課程の授業を中心に受けるつもりだが、赤土は別の授業も受けられるということで、俺達が同じ学部なのも不思議ではない。とはいえ、そこらへんも新子には関係なく、からかうのにはいいネタみたいだけどな。

 

 

「ほら、素直に吐きなさいってー」

「ギャーッス!」

 

 

 お互いに相手の懐を探ろうと牽制と威嚇をしあっている。まるでゴ○ラとキングギ○ラだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後もそんな話を続けていくと途中で飲み物が尽きたり、お菓子が足りなくなったりもした。普通だったらそこで解散となるのだろうが、俺と赤土と新子三人の相性が良かったのか話題は尽きることなく、もっと話そうと言うことになった。

 

 なので途中、もう一度買い出しに行き、それからまた騒いだ後夕食を一緒に作って食べたりして、解散する頃にはすっかり外も暗くなっていた。

 

 

「いやー今日は楽しかったよ。また集まりたいし、いつでも連絡してきてよ」

「ああ、こっちも楽しかったぜ」

 

 

 帰宅する赤土達を見送る為にアパートを出て新子の車まで行くと、こちらを振り帰った新子が笑顔でそう言った。

 俺も今日は楽しかったし、こうやって見知らぬ土地で友人が出来るというのは凄くありがたいと感じる。多分四年以上の付き合いになると思うしな。

 

 

「それじゃあそろそろ帰るね、また今度」

「おう、気を付けてな」

 

 

 軽く会話をしてからさっさと車に乗り込む新子。こういう時って切り上げのタイミングとかが難しいけどホントサバサバとした性格だな。

 新子が車に乗り込むのを見てから、同じように立っている赤土の方を向く。

 

 

「赤土もまた明後日な、寝坊するなよ」

「須賀君もね。迎えに行くからしっかり起きてるんだよ」

「別にそこまでしなくていいぞ、一緒に行くなら普通に駅とかで待ち合わせすればいいんだし」

「いいの、私がやりたいんだからさ。そうだ、むしろ心配だから今日から泊まって行こうかな」

 

 

 そうやって下から覗き込むようにする赤土。普通だったらドキッとする場面なんだろうが、目が思いっきり笑っていてからかっているのが丸わかりである。

 

 

「ったく、アホな事言ってないで新子も待ってるからさっさと車乗れって」

「いてっ」

 

 

 そんな赤土に仕置きの意味も込めた凸ピンを食らわせる。とは言え、軽く打ったので痛みなんてないから赤土も笑いながら摩っている。

 

 ――なんだろうなこの感覚……男友達とも違うし、三尋木を相手にしている時とも何か違った感じがする……。

 

 

「さて、それじゃあ私も帰るね。また明後日」

「え、お、おう……またな」

 

 

 よくわからない感覚からか物思いに耽っていたせいで、反応が遅れてしまった。

 そんな俺の様子に赤土が怪訝な表情をしていたが、すぐに表情を戻すと新子の待つ車に乗り込み、そのまま車は赤土の家に向かって走りだした。

 

 二人を乗せた車を見送ってから部屋へと戻ると、当たり前だがそこには俺以外誰もいない。

 

 生まれてからこの方ずっと実家暮らしで、中学辺りからは両親がいないときは大抵照や咲がいて一人になると言うことは少なかったからか、一人暮らしと言うのはなおのこと心細く感じる。

 その上さっきまで二人がいたからか、この一週間で少しは慣れてきた部屋が余計に広く感じてしまう。

 

 

「あーくっそ……こんなんじゃ皆に笑われちまうぞ……」

 

 

 頭に浮かんだ弱い考えと弱気な心を振り払うように頭を振ってからシャワーを浴びに風呂に行く。どちらかというと夏以外は風呂につかる派なのだが、浴槽を洗って湯を溜める作業が億劫なのでそのままに入ることにした。

 

 

 

 

 

「あぁ~~~さっぱりしたぁ~」

 

 

 風呂からあがり、頭を拭きながら冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出す。熱いシャワーを浴びたおかげか、先ほどまでのモヤモヤした気持ちも随分霧散したようだ。

 

 そのまま麦茶を飲みながらリビングへ向かうと、テーブルの上に置いてある携帯にメールが届いていた。誰かと思い、しゃがんで手に取ってみると差出人は赤土だった。

 どうやら風呂に入ってから直ぐに届いていたみたいだ。

 

 

「忘れ物か何かか?」

 

 

 片手で携帯を開きながら、先ほどまで話していたリビングを見渡してみるが別に何もない。食べたお菓子や食事もすべて片づけてあるし、何か落ちているなら直ぐに分かるはずだ。

 まあ、開けば分かるかと考え、メールを開けてみると――

 

 

『やっぱ明日遊びにいくわ。だから一人で遊びに行くの禁止ね』

 

 

 それ以上でもそれ以下でもなく、短い文章でそう書いてあった。

 

 

「はは、元気な奴だな……」

 

 

 思わず苦笑いが出てしまうが、どこか喜んでいる自分がいた。

 そんな赤土の期待に応える為にも今日は早めに寝て明日に備えようと考えて、赤土に返信した後、いつもよりも早めに就寝することにした。

 

 ――これからの生活が楽しみだな。

 

 先ほどまでの不安も消えたおかげか、その日はゆっくりと眠ることが出来た。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「ハルエの言うとおり須賀くんいい人だったね」

「だから散々そう言ったじゃん。ホント信じてなかったの?」

「そりゃあんた世間知らずだから、騙されてる可能性もあったしね。でもあれなら安心だよ」

 

 

 須賀君の家から帰る車の中で、唐突に望がそんな話をしてきた。

 こっちとしては信用されていないように感じるけど、逆に望にあんなかんじの男友達が出来たら自分も同じように心配だから何も言えない。それでもわざわざこんな所まで来た須賀君を疑われるのはあまりいい気がしないけど……。

 

 まあ、実際はすぐに意気投合してた二人だから心配することなんてないけどね。

 

 

「それであんた明日はどうするの?」

「明日って?」

「いや、だから須賀くんとどこか出掛けないのかってこと。須賀くんってばまだこっちに慣れてないし、案内してあげなよ」

「ん~」

 

 

 こちらに一瞬だけチラリと視線を向けながら望がそう言ってきたので少し考える。

 確かにここ一週間、入学式の準備で忙しくて須賀君には生活に必要な範囲を案内しただけだから全然足りてないだろう。

 だけど――

 

 

「迷惑じゃないかな? 今日だって遅くまでいたし、須賀君も一人でいたい時があると思うし……」

 

 

 慣れない土地に来たからきっと精神的にも疲れてるだろうから、明後日からは大学があるから今のうちに体を休めていたいんじゃないかと思う。

 私としては須賀君とはもっと遊びたいから全然いいんだけど、迷惑になるかもしれないという後ろ向きな考えからか前に一歩が踏み出せない。

 

 そんな私の様子を見た望は、一度嘆息したかと思うと突如車を止めた。

 

 

「確かにあんたの言うことはもっともだし、グイグイ押す女は嫌われやすいよ。でも考えてみなさいって、今まで家族や妹みたいな子達に囲まれて来た須賀くんが一人暮らしするとどうなると思う?」

「どうって…………やっぱり寂しいのかな?」

「多分ね。それにさっきあんたが車に乗ろうと背中を向けた時、一瞬だけど須賀くん寂しそうな顔してたよ」

「え、そうだった?」

「見間違いじゃなければね」

 

 

 望に指摘されたけど、全然わからなかった……。でも、確かにそうだよね。どうしよう、メールとかするべきかな……。

 考え込み始めた私から視線を外し、望が再度車を走らせ始める。

 

 

「だから『明日案内するからどこか行こう』的に誘いなよ、どうせ暇でしょ? なんだったら私が行こうか? 二人きりで」

「それはなし」

 

 

 悩む私に望がからかいを含んだ声で言ってきたが、一言で切り捨てる。

 望と二人にするとお互い何するかわからないし、須賀君が望みたいになったら大変だもん。

 

 

「だったらほら、今すぐやりなって」

「う……わかったよ……」

 

 

 どこかにやついた望に促されるまま携帯を取りだし須賀君へメールを送る。

 メルアドを交換したばかりの頃と違い、今では普通にメールを送れるが、それでもこうやって遊びに誘うのは緊張する。なので送ったメール内容は実にシンプルなものだった。

 

 

「いや、こりゃないわ。女らしさの欠片もないしひどいわー」

「そこまで言うの!?」

 

 

 送ったメールを見た望のダメ出しにもう一度メールを読んでみる―――――ああ、こりゃないね。

 しかし送ってしまったものはしょうがない、返事を待つだけだ。

 

 

「ま、須賀くんなら大丈夫でしょ。だから今のうちに出掛ける服装でも考えときなよ、折角のデートなんだから」

「服装って言っても……というかデートじゃないって」

「スカート貸そうか? 須賀くん服装の話になった時に興味深そうにしてたよ」

「え? そ、そうかな……って絶対履かないし!」

 

 

 その後、須賀君からOKという返事が返ってきたのはしばらくあとで、その間望と話を続けながらも、返事が返ってこないことにそわそわしていたのを望にからかわれてしまった。

 

 

 

 ――ちなみに翌日の案内は普通に友達同士の案内といった感じで、別にデートとかそんな変なことは何もなかった。

 




 予定は未定、実にいい言葉ですね…。そんな感じで前回の続きでした。

 大学の設定は、レジェンドがわざわざ高校の教員免許取ったかの理由もわからなく、京太郎の影響を受けたからとかは現状ではまだ説得力がないので、後々取れてもおかしくない様にこんな感じにしました。まあ、設定練っても話にそこまで深くかかわらないので適当です。


 それでは今回はここまで、次回もよろしくお願いします。

 キャラ紹介過去編に【新子望】追加しました。

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