君がいた物語   作:エヴリーヌ

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うそすじ


二人を乗せた車を見送ってから部屋へと戻ると、当たり前だがそこには俺以外誰もいな―――――

咏「おう、お帰りセンパ~イ」ヒラヒラ

京太郎「おい」



十一話

 大学に入学してからもうすぐ一か月。未だ肌寒い日もあるが、着々と夏に向けて季節が移り変わり、もうすぐGWだ。

 この頃には既に受ける講義も決定していて大学にも馴染んできており、俺も赤土も大学生活を楽しんでいた。

 

 あれから色々情報を集めた結果、卒業の事や二年目から自由に講義を選べるようにと、一年目は必修科目を中心に受けようと一緒に決めたことにより、英語などの人数が限られる一部の講義以外は全て赤土と同じのを受けている。

 

 よって、ほぼ毎日赤土とは一緒に通学しており、晴れの日は俺のバイクで登校し、雨の日は電車を使うといった感じだ。待ち合わせは適当に決めており、朝に赤土が迎えに来ることもあれば、寝坊した赤土を俺が迎えに行くということもあった。

 また、お互いサークルには入らなかったので帰宅時間も変わらず、交友関係も一緒なので一緒に帰るまでが日常となっていた。

 

 そんなわけで今日も平日だから学生らしく大学に来ていたのだが、俺達は一つの重大な局面に立っていた。それは――

 

 

「USJ行こうUSJ! もしくは道頓堀のタコ焼き!」

「いや、県外はキツイって。せっかくの機会だしバイトしないか?」

「まだ余裕あるから大丈夫だって。それより連休なんだしどっか行こうよ」

「いやいや連休だからこそ人で混むし、どうせ大学生なんだから世間が平日に休み取れるんだしその時に行こうぜ。というか、流石に県外で日帰りだとドタバタするし、泊まりなんて親父さん達が許さんだろ?」

「そこらへんは…………ほらっ気合で!」

「確実に空回りしそうだな……」

 

 

 昼には少し早い時間帯の学生がほとんどいない学食で意見をぶつけ合う俺達。

 

 そう――――今、俺達はGWの予定について話し合っているのだ。

 

 余所にまで遊びに行きたいという革新的な赤土に対して、今は我慢すべきという保守的な俺の対立はお互い一歩も譲らない。

 とはいえ、このままでは空いている時間に学食を使えるようにと、昼前に講義を入れてないのにその時間も終わってしまいそうだ。

 

 

「んー……だったらお互い妥協してある程度近場で済まさないか? 俺のバイク使って朝早く出れば夜ギリギリで帰ってこられる所とか」

「でもさー折角の休みだし~」

「俺だって色々遊びたいけどしょうがないだろ。それは夏休みまでのお楽しみにしようぜ」

「うぁ~しょうがないかー……モグモグ」

 

 

 このままでは昼を回り、ここも混んできてしまうので妥協案を出すと赤土も納得してくれた。

 

 そうして一息ついたという感じで、赤土が持参した弁当から唐揚げを箸でつまんで口に放り込む。ちなみに弁当の中身は俺製だ。

 引っ越してきてからようやく落ち着けたので少し前から自炊を始めたのだが、一人分だけだと材料費が勿体ないので赤土の分も時折作っているのだ。

 勿論二人分になれば食費も余計にかかるのだが、それ以上に赤土のお袋さんがよくおすそ分けをしてくれるから、むしろ助かっているぐらいなのでそれのお礼でもある。

 

 そして俺も同じように未だ手を付けていなかった弁当を食べ始める。

 なんだかんだで厳しい所もあるが、ハギヨシから教わった事って基本的に無駄がないよな。料理だけじゃなく一人暮らしの中で役に立つことも実に多かったし。まあ、ハギヨシもそれを見越して教えてくれていたんだろうが。

 

 そして弁当を食べながら予習の為に鞄から次の講義の教科書を取り出すと、赤土が苦虫をかみ殺したような表情をした。

 

 

「うわぁ……まっじめっだなぁー」

「あの授業分かりにくいからな、赤土もしっかりやらないと中間テストで泣き見るぞ」

「う……ま、まあそこらへんは神様仏様須賀様ってことで…………み、皆にも見せてもらえばいいし」

 

 

 斜め上を見ながら先が思いやられる様な言い訳を始める赤土であった。

 

 ちなみに大学は高校や中学みたいなクラスがないので、サークルなどのコミュニティに入らなければ友達などを作るのが難しい。なので、俺達は一緒にちょっとした研究会みたいな講義を受けている。

 

 そこの講義ではグループで色々やることも多いので知り合いを作りやすく、それによってそれなりに話したり、遊びに行く友人も出来た。

 ちなみにそいつらとGWに遊ぶ話も出たんだが、中には彼女彼氏持ちもいたので話はお流れになった。リア充爆発しろ。

 

 また、入学時から一緒につるんでいる俺と赤土を見てそいつらから恋人だと勘違いされたこともあったが否定しておいた。

 

 そのことで赤土にアプローチをかけてくる奴もいたけど、当の本人が未だ俺以外の男子とは緊張してあまり話せないので皆すぐに諦めていった。

 そういったこともあって一度否定したのにカップル扱いされることもあるけど、何度も訂正するのは面倒なので二人とも諦めている。どうせあいつらも本気では言ってないだろうしな。

 

 それからしばらく参考書を読み進めていると、弁当を食べ終わって暇になったのか赤土がちょっかいをかけてきた。手に持ったボールペンでこちらの頬を突いてくる。

 

 

「やめろって」

「だって暇なんだもん」

「だから教科書見るなりなんなり出来るだろ」

「うー……だってー」

 

 

 余程勉強が嫌なのか、頬を膨らませながら抗議をしてくる。仕方ないな……。一応昨夜のうちに目を通してあるので問題ないと思い、参考書をしまう。

 

 

「んじゃ、適当に遊ぶか」

「お、いいね。今日こそ勝つよ!」

「ん? 結構自信ありそうだな」

「へへっ、結構練習したんだよ」

 

 

 そういって赤土が鞄から取り出したのは通信ができる携帯ゲーム機で、中には暇つぶしなどで使えるオセロや将棋など、色々なゲームが出来るソフトが入っている。

 そして先ほどから赤土が話しているのは、近頃俺達の間でちょっとしたブームのチェスのことである。

 

 以前俺が中学の頃チェスをやっていたのを話したら一度勝負を仕掛けられたのだが、流石に素人に負けるわけなく圧勝。その後どうやら俺に負けたのが相当悔しかったのか、こうやって時間を見つけてはリベンジを仕掛けてくるのだ。

 

 

「それじゃあ赤土が負けたらいつも通りの罰ゲームな」

「う……い、いいよ、でも須賀君が負けたらメイド服ね」

「はいはい」

 

 

 俺が出したいつもの条件と比べるとどう考えても俺に不利な誰得な罰ゲームであるが、赤土との実力差を考えればこんなもんだろう。

 

 それから昼になり学食が混んできてからも場所を移動しても続けたが、いつも通り俺の勝ちで締めくくられた。

 その後、時間が迫っているので罰ゲームは後にし、講義を受ける為に教室へと向かうこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コーラ、コーラっと」

「あ、俺の分も頼むわ」

「あいよー」

 

 

 あれから日が暮れる前に今日の講義はすべて終わり、他の奴らはまだ授業が残っているとの事なので遊びには行かずに既に俺の部屋に帰ってきている。

 赤土は大学が始まってからはほぼ毎日うちに入り浸っているので、うちの事はほとんど把握しており、こうやって何か用事を頼んでも既に手慣れたものだ。

 

 本来なら男の家にあまりあがらせるのは良くないんだろうが、宿題があればうちでしっかりとやらせているためか、赤土両親からは泊まるとかならともかくそれぐらい別に問題ないだろうということで認められている。

 結構信頼されてるよなー俺。

 

 それなりの信頼を貰っていることに嬉しさを感じつつ荷物を置いて早速着替える。

 別に今の服装のままでもいいんだが、やはりリラックスできる部屋着の方がいいので、赤土に了承を貰い着替えているのだ。勿論赤土がいるので着替えるのはパジャマとかでなく、軽く外に出るくらいならおかしくないと言える格好だ。

 

 適当に部屋着を見繕ってからリビングに戻ると、赤土が体の下に座布団を入れて居心地の良い体勢を作りながら漫画を読んでいる。自分の部屋かい。

 

 

「さて、今日は宿題もないしどうすっか……」

「んー適当にゴロゴロしようかー」

「既にしてるじゃねぇか」

 

 

 自分の部屋の如く寛いでいるに赤土に呆れつつもツッコミを入れる。

 初めの頃は男の家ということで緊張していたからか、それなりにしっかりとしていたのだが、入り浸るようになって一週間もしたあたりからこんな調子である。気を許してくれているのはわかるけど、男としてまったく見られていないのは、それはそれで複雑である。とはいえ、変に意識されても面倒なのでこのままでいいけど。

 

 赤土の女子度に関してはひとまず余所においておき、俺も同じように座ってコップに注いであるコーラでのどを潤す。

 

 

「まぁ、ゴロゴロするのは良いけどなにするよ?なんか映画でも見るか?」

「ん~今何か借りてたっけ?」

「えーと……この前見たシザーハンズは返したから、今あるのはクール・ランニングとミストだな」

「あー……返却までまだあるし他のことしたい気分かなぁ…………あ、それじゃあGWの予定立てよっか」

 

 

 そういうと赤土が部屋の隅に置いてあるパソコンの元へもぞもぞと動きだす。恐らくネットを使ってなにか面白いイベントがないか探すつもりなのだろう。

 

 ちなみにうちのパソコンはこういったのや講義で必要な情報を集める為にしょっちゅう赤土も使うので、バレる危険性も考えて危ない画像は入れてないし、サイトにも行かないようにしている。

 赤土もいちいちそんなことを調べたりしないだろうが、たまたま目に入った検索履歴などからぎこちなくなるのは嫌だしな。

 

 赤土が調べている間、何かなかったかと立ち上がり、戸棚を漁ると―――お、あったあった。戸棚から見つけたお菓子を手に持ちながら赤土の所まで戻る。

 

 

「それで何か面白そうなのでもあるか?」

「んんーどうだろぉーやっぱ混みそうな観光地除くと微妙かなぁ……」

「まぁ、季節的にも中途半端だしな。ほれ」

「お、ありがと」

 

 

 戸棚から取り出したカントリーマァムを手渡しながら同意しておく。春なら花見、夏なら海水浴と色々あるが五月だしな。外泊しないとなると選択も狭まるし。

 多分出かける時は俺のバイクだからなるべく渋滞には嵌りたくないんだよなぁ……やっぱ早めに車の免取るべきか……いや、取っても車買う金ねーし、取る金もねーや。

 

 

「むむむ、だったらやっぱりどっかに泊まる前提にしようよ!」

「だからこれが恋人同士だったならともかく、ただの男女の友達がサシで宿泊旅行とか親父さん達が許さないだろって」

「あ……そ、そうだね……」

 

 

 無茶を言う赤土に反論するために例えを挙げたが、例が悪かったのか赤土が顔を赤くしたために俺達の間に気まずい空気が流れる。

 あー……確かにデリカシーに欠けた台詞だったな、気を付けよう。

 

 

「そ、それじゃあ望も一緒なら!」

「既に断られているんですがそれは」

「うぐぅ……」

 

 

 ちょっと気まずくなった空気を払うように赤土が別の案を挙げてくるが、それは既に通った道だ。

 

 当初は折角の連休だからと新子も誘うつもりだったけれど、なんでも実家の方で集まりがあるらしく無理との事だった。その時に『いい機会だし、二人であはんうふんな事をしてきたらどうかな?』と言われたので、言い方が古臭いぞと言ったら頭をはたかれた。

 

 勿論そのやり取りで赤土は顔を赤くしていたし、収集をつけるのが中々面倒だった。

 俺?少し前にハギヨシにからかわれまくったし、中学の時から何故か三尋木の事でからかわれるのが多かったから慣れっこだ。

 

 とまあそんなわけで『新子もいるから二人きりの旅行じゃないですよー』という赤土の案は説得の材料にすることすら出来ないのである。

 しかしこのまま否定ばかりするのもあれなので、俺からもなにか案を出せないかと思いパソコンに目を通す。古都らしく観光名所はそれなりにあるが、若者向けのイベントというのは難しく、いくつかお祭りがあるぐらいだ。

 

 そして悩む俺を見て、ついに赤土が駄々をこねはじめた。

 

 

「うぅー……やだやだー! どっか遊びに行きたいーっ!」

「落ち着けって……ん、多少の混雑を諦めるならこれなんてどうだ? 平城京天平祭ってやつ。他にも献氷祭ってのもあるけど」

「お? あー、そういえばそんなのあったっけ」

「前の観光じゃここらへんはあまり見れなかったし行ってみないか?」

「いいね、行こう行こう!」

 

 

 多少離れてはいるが地元の赤土からすれば退屈かな、と思ったが、聞いた途端すくっと立ち上がり元気の有り余った返事をしてきた。

 まあ、とりあえず遊びに行く口実が欲しいだけで、あまり中身は気にしないか。

 

 

「さて、予定も決まったし。映画でも見ようか」

「そうだな――――あ」

「どした?」

 

 

 とりあえず懸念事項だったGWの予定も埋まりそうなので一安心だとテレビに手を伸ばす赤土。しかしその様子見ていたらあることを思い出した。

 疑問顔な赤土を放置し、隣の部屋においてある『アレ』を持ってくる。

 

 

「ほれ、罰ゲーム」

「うげぇ!?」

 

 

 俺が手に持つ物を見て、女があげちゃいけない声をあげる赤土。昼間の罰ゲームの事をすっかり忘れてたわ。

 ちなみに俺が持っているのは、以前街で見かけて買ったカピバラの顔を模した帽子だ。

 

 最初はその場のノリで買ったのだけなのだが、以前遊びで負けた赤土に罰ゲームをする時にふと思いついてからは主にそれ用に使っているのだ。

 帽子を見た赤土は何処か引き攣った笑みをしながら後ずさる。

 

 

「いや、そのぉ……今日はやめとかない? 天気もいいし」

「わけがわからんぞ」

「だってぇ……」

「もう何回もやってんだから今更恥ずかしがることないだろ」

 

 

 そういって無理やり赤土の手に握らせる。しばらくそれについているカピバラの顔とにらめっこしたかと思うと、諦めたかのように赤土はこちらに背を向けて帽子を被り始めた。

 

 

「…………………」

「…………………」

「……………………………………」

「…………………いや、そろそろこっち向けって」

「ぅぅぅ~……」

 

 

 恥ずかしさのためか唸り始める赤土。出来ればこのまま時間が過ぎればいいと思っているんだろうが、現実は非情である。

 赤土の肩を掴み、体を半回転させてこちらを向かせると、予想通りその顔は真っ赤であった。

 

 

「…………なにさ」

「いや、相変わらず似合ってるなーと思って」

「……嬉しくないし」

 

 

 にやにや笑うこちらを見ずに赤土はソッポを向いてそう言うが、口元がもにょもにょしていて微妙に喜んでいるのが丸わかりである。

 毎度のことだが、赤土の反応が楽しいのでからかってしまう。まあ、実際似合ってるし、可愛いとも思ってるんだけどな。赤土は身長が同年代の女子より高いので、失礼な話だが最初こういったのは似合わないかなーっと思っていたんだが、予想と反して似合っていた。

 

 改めてカピバラ帽子を被った赤土をまじまじと眺めると、カピバラ帽子も流石カピバラといった感じで可愛いが、なにより帽子を被っているため、普段は目立つ赤髪と主張の激しい前髪は隠れており、赤土の素顔がいつもよりよく見える。

 

 そしてその顔は、恥ずかしさからか目は少しうるんでおり、眉を下げて頬も赤く染まっている。

 そんな表情に当初はドキッとさせられていたが、今では慣れたものである―――いや、時々今でもたまーにドキッとさせられるが、ほんのたまーにである。

 

 

「………あんまり見ないでよ」

「いやー俺も赤土嫌がることはしたくないんだけど、罰ゲームなんだからしょうがないんだよなー」

「くぅぅ……」

 

 

 心底残念だーという風に言い訳をしてみるが、赤土からすればからかっているようにしか見えないだろう。

 そもそもこんな恥ずかしいことをしたくないならチェスの勝負なんてしなければいいのだが、赤土は相当な負けず嫌いみたいだ――っと、さっさと続きやるか。

 

 

「ほら、いつも通りアレやってくれよ」

「うー……や、やらなくちゃダメ?」

「そりゃな」

「わ、わかったよ……」

 

 

 恥ずかしさで固まったままの赤土に対し続きを促すと、案の定渋っていたが、急かすと流石に観念したみたいだ。

 

 そして赤土は指示をこなす為にこちらに向き直りフローリングに座り込むと、そのまま両手を床につけて四つん這いになり、こちらに向けて顔を突きだし――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、きゅー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――カピバラのモノマネをした。

 

 

 

 

 

「………・・なんか言いなよ」

「似てないな」

「酷い!」

 

 

 素直に感想を述べると四つん這いのままに泣き崩れる赤土。傍から見ると、なにか怪しげなプレイでもしているみたいだ。

 ちなみにこれは『実家のカピバラに会えなくて寂しいだろうから、これでモノマネしてあげようじゃない!』とテンションがあがっていた時の赤土が言い始めたのが最初なので俺の発案ではない。

 

 そして当初はノリでやっていた赤土もすぐに恥ずかしくなって止めたのだが、こちらとしては結構面白かったので、それ以降罰ゲームの定番メニューとなっているのだ。

 勿論赤土が本気で嫌がっているならやらせるつもりはないのだが、そういう姿勢なだけでお互いそれなりに楽しんでいる………ハズだ。

 

 

「ほら、そこはきゅーじゃなくてキューな」

「きゅきゅー…・・」

「違う、キュー」

「きゅー!」

 

 

 実家のカピの声を思い出して指導する俺と途中からやけくそになって鳴きはじめる赤土。

 

 ぶっちゃけ人間の俺がカピバラの鳴き声を正確に指導できるわけないし、赤土も正確に真似できるわけないから適当でいいのだがそこらへんはノリだ。

 鳴き方もキュルやギューなど色々あるしな。

 

 

「キゅー!」

「おおっ!結構似てるぞ!」

「きュー♪」

 

 

 あれから暫く練習していると段々カピの鳴き声に近づいてきたので褒めると嬉しそうにする。

 しかしなんとなく実家にいるカピの事が恋しくなってきた……。別に今すぐ帰りたいとまでは思わないけど、流石に一か月も離れていると微妙にホームシックなのか、親父達の事を思い浮かべる。

 

 一応週に最低一回は連絡してるし、照と咲もなんだかんだで元気にやってるみたいだけどそれでも心配だ。ないと思うが、新しい学年になって苛められたりしてないよな……。

 

 

「キゅぅ!?」

「あ、悪い」

 

 

 赤土の声に我に返ると、どうやらアイツらの事を思い出して無意識のうちに頭を撫でていたみたいだ。同い年に頭を撫でられるとか流石に恥ずかしいだろうと急いで手を離す。

 いつもだったらモノマネしてそれで終わりなのに何してるんだ俺。

 

 

「あ……」

「どうした?」

「い、いや、えっと…………別に撫でたいなら撫でて……い、いいよ」

「……はぁ?」

「ほ、ほらっ、須賀君もカピバラに触れなくて手持無沙汰なんでしょ! だ、だからここ今回は特別大サービスってことで…」

「手持無沙汰はなんか違うぞ……」

「じゃ、じゃあ口寂しさ?」

「離れたな」

 

 

 どこかテンパりつつも良いことを思いついたとばかりに提案されたがどうするべきだ……。確かに向こうではしょっちゅうカピを撫でて、照や咲の頭も撫でていたから手が寂しいって言われるとそう思えてくる。

 

 ――しかしさっきみたいに無意識ならともかく、意識して同年代の頭を撫でるなn…いや、同い年の相手の頭を撫でるなんて恥ずかしいぞ。

 

 どう断ろうか悩み視線を四方八方に飛ばしていると、こちらを見つめる赤土と目が合った。毎度の如く照れているが、その目はどこか期待しているようにも見えた。

 

 

「は、早く! 撫でるなら撫でる……っ!」

「でもな……」

「いいから撫でる! でなければ帰れ!」

「脅しかよ。というか俺の家だから」

 

 

 テンパりすぎてるのか、部屋に置いてある新世紀的な漫画に出てくるマダオの様な台詞を吐きながら頭をずいっとこちらに差し出してくる。

 まあ、悩むぐらいなら突っ込んだ方がいいか。そう決意して再び赤土の頭に手を伸ばす。

 

 

「んっ……」

「…………」

 

 

 目をつぶりながら撫でられる赤土と黙って撫でる俺。昔からカピ達を撫で続けた俺のハンドテクニックは誰であろうと唸らせるっ!――――なんて事実はないが、とりあえず赤土は何も言わず身をゆだねている。

 照達には撫でるのをせがまれることもあったが、実際良いのか悪いのかは自分ではわからないのでとりあえず聞いてみることにする。

 

 

「えーと…………お客さん痒い所はありますかー?」

「いや、美容院じゃないんだから…………でも……悪くないかな」

「そうか?」

「うん、なんだか懐かしいし落ち着くかも」

 

 

 そういって赤土は目を細めながら撫でられ続けられる。まあ、お互いいい年だから親に甘えるってこともないし撫でられるのも悪くないのかもな。それに撫でているこちらもこれはこれで心が落ち着く感じがするし。

 しいて言えば、帽子を被っているせいで赤土自身の頭を直接撫でられないのが残念といったぐらいだろう。

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 

 

 お互い無言になりながらも続けていると、赤土はしばらく目を閉じていたのだが、ふと目を開けてこちらに視線を向けてきた。それにつられ同じように俺も赤土を見つめる。

 先ほどまで撫で続けていた手もいつの間にか止まっていたのだが、お互いに見詰め合っていたから直ぐには気付かなかった。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 お互い言葉を発せず無言が続くが、居心地の悪さは感じない。しかし何か言わなくてはと口を開こうと―――

 

 

『TRRRRRRRRRRRR』

「「おわっ!」」

 

 

 ――したところで突如携帯の着信音が部屋に鳴り響き、お互い我に返ったように急いで離れた。

 

 

「あ、あわわわわっ、ご、ごめん! おおおお母さんからみたいだから電話出る、外で!」

「おお、おうっ、いってらっしゃい!」

 

 

 

 電話に出る為に慌てながら外に向かう赤土を見送る。

 そして赤土が出て行ってから、ようやく自分が先ほどまで何をしていたのか冷静に判断できるようになった。

 

 

「って! ほんと俺なにしてんだよ!?」

 

 

 訂正。冷静じゃないし、今更ながらすごく恥ずかしいことをしたんではないかと思えてきた。

 そしていつもと違い、なんであんなことまでしたのか自問自答してみるが答えは出なかった。

 

 

「やばい、顔が熱い。水で冷や 『ブーブーブー』 あ?」

 

 

 赤土が帰ってくる前に悶々とした気分を消すために顔を冷やそうと洗面所に向かおうとしたら、今度は俺の携帯のバイブが鳴った。画面を見ると、どうやらハギヨシと三尋木から同時にメールが来たみたいだ。

 未だにそれなりの頻度で連絡をとりあっているけど、同時に来るのは珍しいと思いながらも開いてみると――

 

 

『んっふ、急いでは事を仕損じますよ』

『流石にまだ早いんじゃね?知らんけど』

 

 

「………………」

 

 

 部屋の中を見回し、ベランダにも出てみるがもちろん誰もいない。カメラとかは…………ないよな?それからしばらく部屋の中を探したが何もなかった。

 その後、電話を終えた赤土が戻ってきたが、時間を置いて頭を冷やしたおかげかお互い元に戻っており、それからはいつも通りTVを見たりしながらゴロゴロして過ごした。

 

 

 

 ――そんなわけで春も終わりに近い日。いつもと通りの日常でもあったが、なにかが変わる気がする日でもあった。

 

 

 

 ちなみにあの後ハギヨシ達になんであんなメールを送って来たのか問いただすと、なにやら電波が降りてきたとの事だった。

 電波なら仕方ない。あいつら執事と雀士だしな。

 




 そんなわけで大学編の続きでした。出来ればもっと細かく話を書きたいのですが、話が進まなくなるのでこんな感じで多少飛び飛びに話は進んでいきます。なので次も一気に夏休みに入る筈です。

 それでは今回はここまで、次回もよろしくお願いします。


 あとモノマネの件で変なことを考えた人は、PC・携帯に入ってる咲キャラの画像の数だけ腹筋です。

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