君がいた物語   作:エヴリーヌ

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うそすじ

京太郎「マジで迷惑かけるつもりなんてなかったんだ、なんでもするから許してくれ!」

 未だ黙ったままの赤土に向けて両手を合わせ、頭を下げて謝る。
 すると赤土は下を向いたままこちらに近づき、俺の体に腕を回したかと思うと…。

晴絵「レジェンドブリーカー!!死ねぇっ!!!」
京太郎「ぐああああああああ!」



十五話

 ―――男の部屋に女が上がり込む。

 

 言葉だけなら大変盛り上がるシチュエーションだ。しかしそれも相手による。

 いや、別にその相手に女性的な魅力がないというわけでなく、正確に言えば誰が相手でもそれなりに慣れるということだ。

 

 中学時代は学校に近いという条件もあって野郎どもと一緒に女子の友人(貧乳多数)もうちをたまり場にすることが多く、また、女子で一番仲の良かった三尋木(ロリ)がピンで遊びに来ることもあり、最初のうちは女子相手ということでドキドキすることもあったがすぐに慣れてしまった。

 それは高校生になってからも三尋木の身長と同じで変わらず、そして大学に入ってからは赤土(平均)がほぼ毎日尋ねて来るので相手が変わってもすぐに慣れてしまった。

 

 そんなわけで今、難しい顔をした新子(並)がテーブルを挟んで俺の目の前にいるのだが別にドキドキはしないな。やっぱ大事なのはおもちだよ。うん。

 そんな他愛のないことを考え現実逃避をしていると、先ほど俺の話を聞いて黙っていた新子が呆れたようにため息をつく。

 

 

「はぁ……そりゃまた面倒なことになってるね……」

「面目ないっす。そこでどうか新子様のお力を貸していただけないかと……」

「やれやれ、情けない友人達を持つと苦労するよ」

「ごもっともです」

 

 

 拝み倒す俺に呆れた視線を向けながらもなんだかんだ相談にのってくれる新子には感謝を仕切れない。赤土が頼りにするのもわかるわ。

 そもそもなぜ俺が新子相手にこんなことをしているかというと、話は夏休みまでさかのぼる――

 

 

 

 

 

 赤土と一緒に長野に帰省した夏休み。初めの一週間はチビ共の相手をしつつもお互いに楽しんでいたのだが、途中遠出をした時に高校時代の友人と出会い、そこでとある会話をしたのが事の発端だ。

 

 

「赤土晴絵は須賀京太郎の彼女だ」

 

 

 正確な台詞は違うが、このことでそれから赤土との間で微妙な空気が流れ始め、夏休みが終わり、大学が始まってからもその状態が続いていた。

 

 しかし別に仲が悪くなったということではなく、夏以前と接し方はあまり変わらず、毎日一緒に大学へ行き、帰り、遊ぶと言う関係は変わっていない。ただ、時折会話の中にズレみたいなものを感じるのだ。

 なので、この一か月なんとかそれをなんとかしようとしたのだが、下手に動いてもこれ以上に差が広がりそうな気がするし、実際どうしようか困り果てている間に一か月も経ってしまっていた。

 

 このままでも友人としてのやり取りには問題ないのかもしれないが、流石にそれは原因を作った身としては不誠実だし、俺自身しっかりと解決したいと思っている。

 そこで、最後の手段として新子に協力してもらうことにしたのだ。

 

 あまり人に聞かれたくない話ということで、赤土が実家の用事で来ない日を狙ってうちに呼んだ。なんか彼女に内緒でこそこそ浮気しているみたいな感じだが、新子がうちに来るのは珍しくないし気のせいだろう。

 そして先ほど家に来てもらった新子に出来る限りもてなしをした後、向こうで何があったのかを話したのだ。

 

 ちなみに最初は神妙に聞いていた新子も話を続けるにつれて表情を崩していき、最後の方はテーブルに肩肘を乗せながら顎の下に手を置き、呆れた表情を見せながら聞いていた。

 それから新子に詰られ弄られてようやくアドバイスを貰えることとなった。

 

 

「まあ、話は大体分かったよ。それで聞くけどさ、須賀くんはなんでハルエがそんなそっけない態度……っていいのかな?それをとってるのかわかる?」

「あー……多分だけど…………怒ってるんじゃなくて、恥ずかしいんじゃないかと思う」

 

 

 当初は表情が読めなく何を考えているのかわからなかったが、今になって思えばやはり恥ずかしかったんじゃないかと考える。

 

 出会ってから一年以上。そして大学に入ってからは半年の間ほぼ毎日つるんでいるから赤土の性格も大体理解しているのもあって、赤土がもし怒ったとしてもそこまで怒りは長続きしないタイプだってのはわかる。

 だからやっぱりあいつらにからかわれたせいで俺を意識しているからこうなってるんじゃないかと思うんだが……。

 

 

「うーん……半分正解。半分はずれかな」

 

 

 そんな俺の答えに新子は少し考えた後にそう告げた。

 

 

「え? でもさ……」

「まあ、聞きなって。恥ずかしいってのはあってると思うけど、多分須賀くんが考えてるのとは少し違うかな」

「えっと……どこらへん、だ?」

 

 

 少し違うって……どこがだ?わからん。

 理由がわからず聞き返す俺に対し新子が人差し指を立てて、出来の悪い生徒に教えるように説明する。

 

 

「だって二人が恋人じゃないかって勘違いされたり、からかわれるのは今更でしょ。私だって須賀くんと会う前にハルエから話を聞いてからしょっちゅうからかってたし、大学でも言われることもあるっしょ?」

「あ、ああ……だけど新子達と違ってあいつらは赤土の事を知らなかったからそういった違いで……」

「まあ、多少はそういった面もあるだろうけどそれだけで今日まで引きずるのは流石に変でしょ。だったらやっぱり理由は一つだけ」

 

 

 そういうと新子は上に向けていた人差し指を俺に向かって突き出した――って……

 

 

「えっと……俺……か?」

「そう、須賀くんが原因だね。面倒だからサクッと言っちゃうけど、今までは私みたいな第三者が好き勝手に言ってたからね。いくら周りが言おうとも本人たちがそう思ってなければ笑い話で流せたんけど、今回の元は須賀くん『自身が』ハルエを彼女だって言ってたことよ」

「だけどそれって元々その場を逃れる嘘だったし……」

「もちろんハルエもそこは理解してると思うよ。だけどねぇ……それでも須賀くんが自分をそういう対象として扱ったってことが重要ってわけさ。須賀くんだってもし立場が逆ならどうよ?」

「それは、確かに……」

 

 

 多分だが俺も普段より意識せざるを得なくなるだろう。しかしそれでも長続きするものなのだろうか?。

 

 

「まぁ、普通だったら多少照れくさくなって終わりなんだろうけど、毎日顔突き合わせてる相手だからね。そのことがきっかけで友達フィルター的なのが外れて意識しちゃってるんでしょ。それになによりもまず第一にハルエ自身が満更じゃないのが大きいと思うよ」

「…………え?」

 

 

 新子が躊躇いなく言った台詞に驚き、思わず凝視してしまう。満更じゃないって………えっと…もしかしてそういうこと?

 恐らく呆けた顔になっているだろう俺を見て、新子が悩んだ顔をしながら話を続ける。

 

 

「はぁ……こういったのって自分達で気付くべきなんだろうけど、二人ともこのままだといつまで経っても変わらなそうだからね。ハッキリ言うとハルエは須賀くんの事を友人としてだけでなく男として意識してるよ」

 

 

 予想外の言葉に思わず「いや、うそだろ?」と言いたくなったが、こちらの目を見ながら真剣な表情で告げた新子を見るとそんなことは言えなかった。

 

 

「まずさ、ハルエって昔からお洒落にあまり気を使ってなかったんだけど、ある時から私に相談するようになったんだよね。いつかわかる?」

「ああっと…………大学から、か?」

「ハズレ。正解は去年の秋、須賀くんがこっちに大学見学に来る少し前。その時はまだ恋愛感情はなかったんだろうけど、それでもちょっとは須賀くんの事を意識してたから少しでも良いところ見せたかったんでしょ」

 

 

 新子に言われて一年前の事をなんとか思い出す。

 記憶が正しければ確かに夏に会った時とは違い、あの時うっすらと化粧していて、余所行きの服を着ていた気がする。

 

 しかしその時は単に遠出するつもりだからそれ用に仕立て上げていたという事もありえるが……。

 そんな俺の考えを否定するように話は続く。

 

 

「ああ見えてハルエも女だからね、今まではそういった相手もいなかったけどやっぱそういったのにも興味あるし誰かを好きになることもあるよ。私と話すときはガサツだけど、須賀くん相手には恐らく無意識なんだろうけど言葉づかいにも気を使ってるのか女っぽいし。それに知ってる? 須賀くんといない時に会っても話の中身は須賀くんの事ばっかりだよ、あの子」

「え、そう……なのか?」

「そうよ。今まで恋人どころか好きな人すらいたことなかったから自分ではわかってないだろうけどね。だからこの前のことで意識させられて、恋愛初心者だから須賀くん相手にどうしたらいいかわからないから、今までと変わらないように無理に行動しようとしてて違和感を感じるんじゃないかな」

「なるほど……」

 

 

 流石昔からの親友だ、新子の言うことに説得力がある。しかしそうなると気になる点が一つあるが……。

 

 

「だけど……別になんか好きになられるようなことをした覚えなんかないぞ」

 

 

 そうだ。今まで友人として付き合っていたし、不可抗力として異性としてみたこともたまにあるが、恋愛対象として接したことなんてない……はずだ。

 きっと赤土も同じように接してきただろうからいきなり友達を好きになるとかな……。

 そう新子に告げると、心底ダメなものを見るような視線を向けられてしまった。

 

 

「そりゃ恋愛なんて元からそういうでしょ。全員が全員なにか凄い出来事があって誰かを好きになるんじゃないし、何気ない事で誰かを好きになるってよくあることだよ。陳腐な台詞だけど人を好きになることに理由なんて必要ないでしょ。それでも無理やり理由つけるなら友情から芽生えた恋ってことでいいんじゃない? そういった人も結構いるみたいだし。まぁ、そもそも二人が出会った時の話聞いてもどこのラブコメ漫画だって言いたくなるけどね」

「………………」

「んで、過程は置いといて、肝心の須賀くんはどうなの?」

「俺……か?」

 

 

 新子の話を聞いて悩む俺に、今までよりも真剣な表情で聞いてくる新子。

 質問内容としては言葉が足りていなかったが、話のつながり的に理解が出来ないほど馬鹿ではない。

 しかし言葉に出すのは難しく、また、新子にも軽蔑されないかと考えると口に出すのが躊躇われる。だけど黙っているわけにもいかず、自分の素直な言葉を口に出す。

 

 

「―――――――――――――――――――わからない」

 

 

 そう、俺自身が赤土を好きなのかどうかはわからないのだ。

 赤土の事は当たり前だが嫌いじゃないし友人として好きだ。だけど恋愛的な意味で好きかどうか聞かれると本当にわからない。

 

 確かに時々赤土相手にドキッとすることはあったけど、それが恋愛としてなのか、ただ単に異性が相手だからかなのかもわからなかった。

 そんな風に悩む俺に対し新子は――

 

 

「ふーん……まぁ、そんなとこじゃない」

 

 

 特に気もしない感じで言った。

 

 

「え……いいのか?」

 

 

 正直優柔不断すぎて呆れられるかと思ったので身構えていたが、当の新子が気にしていないので力が抜ける。

 そんな俺の様子が面白かったのか、新子は笑いながらコップに手を伸ばし、喋り疲れたのか中に入っていた麦茶を一気に飲み干す。

 

 

「ふぅ……いや、むしろさっきまで仲のいい友人として考えてなかったのに、ここでいきなり『好きだ!』とか言う方が無理っしょ。須賀くんなら大丈夫だろうけど、それこそ惚れやすい男ってことでそっちに関しては邪魔してたかも」

「あー……なるほど」

 

 

 確かにその通りだな。もしかしたら自分の気持ちに気付いてなくて、今の会話で気付くってこともあるかもしれないが、それってその場の雰囲気に流されてるって可能性もあるからな。

 恋愛経験がほとんどない身だけど新子の説明は良く理解できる。あれ?でも新子って彼氏いたことないって聞いたような…。

 

 

「今なにか変なこと考えた?」

「いや、なんもないぞ」

「ふーん……」

 

 

 テーブルに肩肘を突いたままジッとこちらを見つめる新子に対し冷静を装って弁解をしておく。

 赤土といい、女ってどうしてこう勘が良いんだろうな。

 

 

「…………それで、ハルエが須賀くんに惚れてるかもしれないとしてどうする?」

「どうするって………………どうしよう?」

「はぁーーー…………」

 

 

 赤土が俺に惚れているっていうのも予想にすぎないから、いきなりこっちがお願いしますorごめんなさいってのも変だし、かといって俺自身の気持ちがわからないのにアピールするのもどうかと思うし、ましてこのままお互いの気持ちに区切りがつくまで待つってのもな…。

 

 

「まったくしょうがないなー」

 

 

 どうするべきかと悶々と悩む俺に新子は呆れた表情を見せたかと思うと、部屋の隅に置いてあった鞄の中に手を伸ばし―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋に入り、既に長袖を着るのが当たり前となった季節。休日の為、多くの人たちが街を歩く中、俺は駅前の案内板近くに立っていた。

 

 本来なら今日は大学の学園祭だから友人達と回るつもりだったのだが、当初の予定とは全く異なり、落ち着かない気持ちを抱え、自分でもわかるぐらいそわそわとしながら人を待っていた。

 ここに来たのが10分前。待ち合わせ時間より一時間も早かったので、まだまだ来るわけないのだが、それでも緊張の為か先ほどから改札口の方を何度も見てしまう。

 

 いっその事近くのコンビニでも入っていようか、でももし行き違いになったら、いやでもこんな早く来るわけないよな…と悩んでいる所で、目的の人物が現れた。

 そいつは改札を出てから辺りをキョロキョロ見回したかと思うと、俺に気付いたのか一度驚いたような表情をした後、こちらに向かって歩いてきた。

 

 

「お、おまたせ……待った?」

「あー……いや、俺も今、来た所だから大丈夫かな?」

「………………」

「………………」

「……上映まで時間あるし、どっか入るか?」

「……うん」

 

 

 そういうと俺と……待ち人であった赤土は肩を並べて歩きはじめた。そもそもこうなったのはこのあいだ新子に相談したのが発端だ。

 

 簡単に言えば、俺と赤土の気持ちがどちらも中途半端のままでいるぐらいなら、ここのまま何もせずにいるよりもいっその事行動に移したほうがいいということと、何よりもまず俺自身の気持ちを確かめる為に必要だということで赤土を『デート』に誘ったのだ。

 

 いや、本当はどこか出掛けないか的に言おうと思ったのだが、緊張してしまい思わず口を滑らせてデートの単語を出してしまったのだった。

 そしたら案の定、赤土は最初何を言っているんだ?という顔をしていたが、意味を理解すると同時に爆発した。

 

 それから爆発しつつも理由を聞かれたが、俺自身テンパっていたのと、もういっそのこと俺だけじゃなく赤土にも意識してもらおうと決め、とりあえず赤土とデートがしたいからということを無理やり通した。

 

 結果、赤土から声を小さくしながらもOKを貰い、万が一にも大学の友人に会って邪魔されないようにと学園祭の日にデートすることとなった。

 その後、当たり前だがそれまでの間、今までにないぐらい緊張した空気が俺達の間で流れたが、なんとかこの日を迎えられたというわけだ。

 

 それから現在、新子からあの日貰ったチケットを手に映画館まで移動中。

 ちなみにこのチケットは、なんでも実家の付き合いで貰ったから元々俺達を遊びに誘うつもりの物だったらしいので、タダでやるから上手く使ってくれということだった。

 

 また、このチケットの映画は評判がいいらしいので、作品で失敗して話題が盛り上がらないということもないし、アクション映画だから俺達の好みに合ってる上に恋愛要素もあり、周りの雰囲気でよりカップルらしくなれるから上手くいくだろうと新子から太鼓判を押してもらっている。

 

 そんなわけでここまでは順調だったのだ。しかし……そちらはうまくいくかもしれないが、今の俺達の間は順調とは言えなかった。

 

 

「………………」

「………………」

 

 

 待ち合わせ場所から少し移動して映画館近くの喫茶店に先ほど入ったのだが沈黙が続いている。

 なんだかんだ二人とも待ち合わせで早く着すぎたせいで映画開始まで一時間以上待つこととなった。映画をデートで選んだときの数少ない欠点の一つだな…・・。

 だけどそれも普段の俺達だったら話題が尽きることなく話すからあっという間に時間が経つのだが、今日はいつもと違い緊張の為か上手く話せないでいた。

 

 

「えっと……映画、楽しみだな」

「うん」

「………………」

「………………」

 

 

 駄目だ…話が続かない。というか何を言っていいのか自分でもわからない。

 普段だったらそれこそいくらでも話題が出てくるのだが、デートという形式上何を言っていいのかわからない。

 

 事前に新子にアドバイスを貰おうとしたんだが「あんた達のデートなんだからそれぐらい自分で考えな」という実に冷たくも温かいアドバイスしかいただけてない。一応デートコースについては決めてきたが、意識しすぎていて会話で困るとか全く考えていなかったしな……。

 

 しかしこのままでは今後の俺達の関係を決めるかもしれないデートなのに中途半端で終わってしまう。だったらいっその事ある程度話すかと思い、下を向いて先程頼んだコーラのコップを弄ってる赤土に話しかけることにした。

 

 

「すぅーはぁー…………なぁ、赤土」

「えっ!? な、なにっ?」

 

 

 少しでも緊張を解こうと一度深呼吸をしてから話しかけると、ビクッと体を震わせてからおっかなびっくり赤土がこちらに視線を向ける。

 そんな普段とは違う小動物的な反応に思わず可愛く思うが、気を取り直して話を続ける。

 

 

「すまん、今日は無理に誘って悪かったな」

「う、ううん、わ、私も映画楽しみだったから全然かまわないよ全然っ!」

 

 

 そういって赤土は笑顔を見せるが、緊張しまくって無理に笑っているのが丸わかりである。

 そんな赤土を少しでも落ちつけられたらと思い話を続ける。

 

 

「いや、赤土が戸惑ってるのも無理はないさ。だから今日誘った理由聞いてくれないか?」

「ん、うん……」

 

 

 頷く赤土を見て簡単にだが話を始める。

 夏休みの件から赤土の様子がおかしかったからそれをなんとかしたくてデートに誘った事を。ただし新子に相談した事や恋愛の話は伏せておいた。

 すると黙って俺の話を聞いていた赤土はようやく自然な表情を見せてくれた。

 

 

「ん、大体わかったよ……確かにいつまでも須賀くんを避けてたのは自分でもよくないと思ってたし……いい機会だね」

「(え?あれで避けてたつもりだったのか)ま、まあ、そんなわけで仲直りしたくて誘ったわけだ」

「うん……ありがと。それにごめん」

「気にすんな。元はといえば俺の責任だからな」

「確かに一理ある」

「おい」

「アハハハっ…………ん?」

 

 

 話しているうちにいつもの調子が出てきたのか、笑いながらボケをかましてくる赤土。

 しかし途中、何か引っかかったのか笑いを止めて頭を捻り始めた。

 

 

「どうした?」

「いや、仲直り的に遊びに出かけるのはわかったけど…………須賀くんあの時デートって言ってたよね?」

「あー……そこは気にしないでおいてくれ、こっちの問題だから」

 

 

 詳しく説明すると余計な事も言いそうだし、赤土の気持ちも知りたいが、どっちかというとやっぱり今回は俺自身のけじめって意味合いが強いからな。

 そんな風に考えていると赤土が口元に手を当て、何かを考え始めた。

 

 

「赤土……?」

「…………いや、なんでもないよ」

 

 

 そう言うと赤土は何かを決心した表情をしてコーラを飲む。よくはわからないが、とりあえず誤魔化せたみたいだしいいか。

 

 

「よしっ! それじゃあ映画館行こうか」

「そうだな、そうするか」

 

 

 いつもの調子に戻った赤土が立ち上がるのを見て、俺もコーラを一気に飲みほしてからそれに続く。

 そしてテーブルの上に置いてある伝票を取り、レジまで向かい財布を取り出す。

 

 

「えっと、私のが 「ああ、待ってくれ」 うん?」

「今日は俺に奢らせてくれないか?」

「え?」

 

 

 赤土がいつもと同じように割り勘にしようとしたのを制して俺が支払う事を伝えると途端に目を丸くした。

 そりゃいつも割り勘なのにいきなりこんなこと言われたら変に思うよな、でも今日はな……。

 

 

「その……なんだ……一応デートなんだから少しぐらい恰好つけさせてくれ」

「う、うん……」

 

 

 なるべく自然に笑いかけながらそう言うと、赤土は途端にして顔を赤くして俯いてしまった。

 

 ――やばい……赤土が顔を赤くするのなんてしょっちゅうあるけど、友達というフィルターを外してみるとこんなに可愛いのか。

 

 普段と同じ様子でも違った一面を見せられていることに新鮮さを感じ、そちらに意識を取られて手間取りながらも会計を終える。

 それから外に出ると先ほどよりも時間が経っているからか人込み激しくなっていた。

 

 

「それじゃ行くか」

「あ、待って!」

 

 

 すぐ近くだし時間にはまだ余裕があるが、それでも早めの方がいいと思い歩き出そうとすると、赤土に腕を掴まれる。

 

 

「どうした?」

「その…………うう……ててて……」

「ててて?」

「手……繋がない?」

「What?」

 

 

 突如赤土から出た言葉に驚いて間抜けな返しをしてしまう。手って……手だよな?いやそれ以外ないんだけど。

 

 

「だ、だって一応デートでしょ? だったら繋いでもいいんじゃない…かな?」

 

 

 まさかの大胆な台詞に驚いていると、慌てるように説明を始めた。しかし赤土からそんなこと言われるとは思わなかったな。

 

 

「えっと……いいのか?」

「ダメだったら言わないよ」

「それじゃあ失礼して」

 

 

 赤土の左手に向かって右手を差し出し、程よい程度の力を入れて握る。

 緊張の為かお互いに強張っているが、それでも赤土の女の子らしい柔らかさを感じるのは容易かった。

 

 

「……やっぱ男の子だね、がっしりしてる」

「え-と……赤土のは柔らかいな」

「…………セクハラ」

「理不尽じゃね!?」

 

 

 赤土の言葉に合わせて思わず感想を述べるとジト目で非難された。

 いや、でもこれはしょうがない。何度か手を繋いだことはあるが、大抵は咄嗟のものでここまで意識して繋いだことはないから余計に意識が手に集中されてガチで柔らかいのが感じられるのだ。

 そして言葉に出さなくてもなんとなく感じ取れるのか顔を赤くしてあらぬ方へ顔を背ける赤土。人の事は言えないがきっと顔赤いぞ。

 

 

「そ、それじゃあ行こうか」

「お、おう……」

 

 

 そしてようやく歩きはじめる俺達。結局手はつないだままだ。

 しかし手を繋いだのは良いが、恥ずかしさからかまた無言が続いてしまっている……そうだ、ちょうど話題もないし今なら言えるか。

 

 

「あー……赤土」

「な、なに?」

「そのだな……ああっと……」

 

 

 今日会った時から言おう言おうと思っていたが、恥ずかしさから言えなかったことを今こそ言おうと思うがやはり恥ずかしいので、口ごもってしまう。

 そんな俺を心配したのか、不安げな表情で見つめる赤土。本人は気付いていないみたいだが、繋いだ手に力が入っている。

 

 

「その……言うの遅くなったけど、服……凄く似合ってるな」

 

 

 これ以上赤土を不安にさせたくないと思い勇気を込めて告げる。

 今日の赤土は普通の女子が履くようなスカートみたいにヒラヒラした服ではないが、それでもいつもよりも気合の入った服装なのが一目で見てわかる。

 今まで見たことのない服だし、多分今日の為に買ったりしたんじゃないかと思う。

 すぐに言えなかったことを謝りつつもそう赤土に伝えると……。

 

 

「ありがとう」

 

 

 思わず見惚れるような笑顔を見せた……いや、実際に俺はそれに見惚れていた。

 

 

 

 ――後になって思えば……今まで意識はしていたが、この時こそ俺ははっきりと赤土に惚れたのかもしれない。

 




 そんなわけで一気に話が進んだ15話でした。今回、前話から一気に一か月以上たっていますが、なにせ過去編は期間が長いのでこれぐらいしないと話が進まないという…。

 それで今回前半は京太郎がお互いの関係を見直す話。後編はデートに戸惑う二人でした。
 友人同士からの恋愛って今の関係を崩したくないなど諸々もあってなかなか難しいですし、それが特に仲の良かった間柄ならさらに難しいと思います。
 
 
 それでは今回はここまで、次回もよろしくお願いします。
 あ、次回はこのままデートとの続きとなります。

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