君がいた物語   作:エヴリーヌ

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・これは「京太郎が清澄麻雀部の顧問だったらおもしろくね?おまけに学生時代にレジェンドと付き合ってたとかどうよ」の発想から作られた作品です
・教師になる為に原作と違い、京太郎の年齢が異なります。また、独自解釈や年相応の性格に変えるなど他にも原作と異なる所が出てきます。
・当作品は地の文を京太郎中心に一人称視点で進めていきます。
・作者はこれが初SSなので誤字やおかしな書き方があると思いますが大目に見てください(懇願)
・作者は遅筆なのであまり投下頻度は多くありません。

 以上の点に気を付けてお読みください。

 また、番外編以外の本編は上から普通に読んでも一応問題ありませんが、過去編と現代編をそれぞれ区切りを入れて交互に投下してますので、読むときは投下日順(プロローグ→過去編第一部→現代編第一部→過去編第二部という感じ)に読んでいくことをオススメします。


 それでは、君がいた物語始まります。




プロローグ

 入学式――それは春に行われ、全国津々浦々の若者がキャッキャウフフと新しい生活に思いをはせる行事である。

 それは長野に存在し、現在進行形で入学式を行っているこの清澄高校においても例外ではない。これからの学校生活に思いを馳せて楽しげな顔をするもの、友達ができるか不安なもの、校長の話が長いと半分寝ているものと様々な生徒たちがいる。

 

 しかしこれからの学校生活に色々感じているのは生徒だけではなく、一部の大人も含まれている。

 それはこの清澄高校の教師である俺こと須賀京太郎も例外ではなく、緊張した面持ちで並んでいる生徒たちを眺めていた。

 

 

「おい、京太郎。可愛い新入生を見て鼻を伸ばすのは良いが、せめて顔に出さずに内心に留めておけよ」

「いや、内心でも教師が生徒に鼻を伸ばすのは駄目でしょう。それに違いますから」

 

 

 そんな軽口で俺を注意してきたのは高校時代の恩師であり、教師として現先輩の先生だ。

 見た目は30過ぎのくたびれたただのおっさんだが、こう見えて気さくかつ生徒思いで人気のある先生であり、付け加えると俺が教師になった理由もこの先生にあった。

 

 

「おいおい隠さなくてもいいだろ。別に水着でもあるまいし見るだけなら問題ないぞ」

「だから違いますって……教師になってから何年か経ちますけど、新しい学生が入ってくるのを見ると、まだ慣れないなって感じがしまして」

「ああ、今年でおまえさんが教師になって四年目だったか? そろそろ慣れてもいい頃なんだがな。まあ、嫌でもそのうちに慣れてくるものだし、そんな気分でいられるのも今のうちにだけだから存分に味わっておくべきだな。といっても、来年になればそろそろクラス持ちになるだろうし、別の意味で緊張してくるだろうから大変だがな」

 

 

 不安げな表情をする俺を見ながら苦笑している。当時と変わらず子ども扱いだが、向こうから見ればまだまだ俺も半人前に見えるのだからしょうがないだろう。

 

 確かに現状は受け持ちを持たず、勉強を教えているだけの立場なのに、これが担任になったらどうなるんだろうな……。

 そんな今後の不安を抱えるような話をしているうちに式も終わり、生徒達は決められたクラスに向かいだしていた。

 

 

 

 その後、体育館の片づけを現役生と共に新米教師に近い立場の俺も手伝うことになり、片付けが完全に終わったのは新入生達が帰った後であった。

 

 

「あ~~~~、そこまで大変じゃなかったけど流石に疲れたな……」

 

 

 そこそこ疲れた体に鞭を打ち、職員室に向かって人通りが少ない廊下を歩く。

 

 新入生は帰宅し、在校生もまだ春休みなため、入学式の手伝いをしに来た一部の生徒以外には残っている者はいないので、俺以外に歩く人影はほとんど見えない。

 流石に大学と違い、高校では入学式にまで部活勧誘もやっていないからな。

 

 

「しっかしほんと体力落ちたな……どっかのジムでも通うかねー、でも時間もねーしな」

 

 

 学生時代ならともかく、就職してからは多忙なために体を動かす機会も減り、体力だけではなく筋力などもめっきり落ちてしまっている。

 こんなんではいざという時に困るから少しでも運動をしておきたいが、学生時代と違い金に余裕はあっても、無常なことに時間に余裕がないのであった。南無。

 

 そんな感じでぼやいていると、トタトタと後方からこちらに向かって走る足音が聞こえた。

 

 

「京ちゃ~~~ん」

 

 

 足音だけではなく、一緒に後ろから聞こえてくる馴染みある声に振り向くと、こちらに駆け寄ってくるこれまた馴染みある姿があった。

 

 

「やっと京ちゃん見つけたー、もうお仕事終わり?」

 

 

 そうやって声をかけてきたのは、俺の幼馴染でありご近所さんでもある宮永咲だ。頭の角が特徴的な15歳で、この清澄高校の新入生でもある。

 

 

「あー、とりあえず宮永、ちょっとこい」

「ん? なぁに、京ちゃん?」

 

 

 手招きをすると、素直にこちらに近づいてきた咲に向かって―――

 

 

「……デコピン!」

「うきゃぅ!?」

 

 

 そこまで力を入れなかったが、いきなりのことで驚いたのか、片手でおでこを押さえ目を見開きながら咲がこちらを見ている。

 

 

「あのなー、昨日言っただろ。学校では須賀先生だって」

「うー、だって京ちゃんは京ちゃんだもん……」

 

 

 口をとがらせ、恨めしそうな目でこちらを見る咲。可哀想だがしかし妥協はしない。

 

 

「そんな目で見ても駄目だぞ。別に敬語まで使えとは言わんし、学校の外でも呼べってわけじゃないんだから我慢しろ」

「むー、わかったよ京ちゃん」

「さらにもう一発!」

「あいたっ!」

 

 

 結局もう一発食らう羽目になった咲である。いや、どうせこうなろうと予想はしてたがな。

 

 

「で、どうしたんだ宮永。なにか用か?」

「何事もなかったかのように続けてるし……もうっ。別に京ちゃ……須賀先生の姿が見えたから話しかけただけだし、もしお仕事終わったなら一緒に帰りたいなーって考えて探してたわけじゃないよ、ほんとだよ」

「あーはいはいわかってるって、しかしなー……そりゃ無理だ。まだ残ってる仕事があるし、顧問として部活にも顔出さなくちゃいけないからな」

 

 

 咲の言葉に適当な理由をつけるが、実際は残りの仕事はすぐに終わるものだし、部活も別に絶対行かなくちゃいけないわけじゃない。

 

 しかしこう言っておかないと咲は終わるまで俺を待つだろうからな。それよりもどこかの部活見学にでも行って、友達を作ってほしいってのが本音だ。まぁ、今日やっている部活なんて限られるけど。

 そんな俺の言葉が引っ掛かったのか、咲が首をかしげる。

 

 

「部活って……確か麻雀部だっけ?」

「そうそ。今日部活は休みなんだが、部長が『もしかしたら初日から部員が来るかもしれないじゃない!』って言って開けてるんだよ。あと、部活って言っても二人しかいないから同好会みたいなもんだけどな」

 

 

 俺がまだ新任の頃に顧問を任された麻雀部。

 現在二年が一人と三年が一人なため人数が足りなく正式には同好会なのだが、部長が色々やって一応名目上麻雀部という形になっているのだ。部費は出ないけどな。

 

 

「そっか、麻雀部かー」

「なんだ宮永、興味あるのか? 中学で図書委員だったから高校でもそっち関係の部活に入ると思ったんだが」

「別にまだ決めてないよ、それにここ文芸部ないみたいだし」

「あー、確かに俺がいた時もなかったな」

 

 

 もちろんどこぞのカチューシャ女に乗っ取られた、とかじゃなく普通にないだけだ。

 そんな感じでどうするか悩んでいると、少し良い事を思いついた。

 

 

「ならうちの麻雀部に見学に来てみるか? 部活自体がどんな感じか確認するってのもありだし」

「えー、大丈夫? 人数少ないみたいだし、向こうに着いたら部長さんとかにいきなり『入部決定ね!』とか言って無理矢理入らされたり……」

「あー……まあ、竹井の奴は確かにやりそうだからそれは否定はできないが、そもそも俺が入部届受け取らないと入れないから大丈夫だよ」

 

 

 あれで結構強引だからな、一応引き際は弁えてはいるだろうが心配ではある。

 

 

「それもそっか……なら行ってもいいかな。麻雀もこの前お姉ちゃんが帰ってきたお正月以来だし、ちょっとやりたいかも」

「……言っておくが俺はやらないぞ。おまえらに何回飛ばされて泣いたことか」

「えー、ちょっと楽しみにしてたのになー残念」

「こっちは一年ちょっと齧ってただけだからな。チャンピオンとその妹相手なんて到底無理だって」

「それでも京ちゃ……ごほん、須賀先生は結構いい線行ってると思うんだけどなー」

「なーにがいい線だ、生意気な事を言うのはこの口かー」

「あうー、ひょうひゃんひっはらないへー」

 

 

 そんなこんなで咲を弄りつつ一度職員室に向かって10分ほど待ってもらった後、仕事をちゃちゃっと終わらせて一緒に旧校舎にある麻雀部に向かうこととなった。

 

 

「そういえば春休みに照は帰ってこなかったけど、やっぱ忙しいのか?」

 

 

 途中、先ほどの話からふと気になったので、咲の姉でありもう一人の幼馴染の事を聞いてみる。

 たまに電話で話すけど、照が携帯を持っていないのと、お互い忙しい身でもあるから最近は話せていないんだよな。

 

 ところが何を思ったのか、話を振った先の咲はフグのように頬を膨らませていた。

 

 

「むー、私は宮永呼びなのにお姉ちゃんは名前で呼ぶんだ」

「いや、お前は俺の生徒。あいつは違う。OK?」

「ぶー……なんか二回も優勝しちゃったから、その分部活が三連覇目指してすごい力入れてるみたい。お姉ちゃんは帰りたがってたけど、チームの看板だからダメだって」

「そりゃそうだよなー、しっかしあの照がチャンピオンとか未だに慣れないな……おかし大食いチャンピオンなら納得いくんだけど」

「あー……お姉ちゃんごめん、フォローできないや」

 

 

 鬼の居ぬ間に何とやらで、本人がいないから言いたい放題である。

 まあ、いたとしても『お腹いっぱいお菓子食べたい』って話に乗ってくるのが目に浮かぶがな。

 

 

「っと、此処だ此処。到着っと」

 

 

 照の話で盛り上がっていると麻雀部に到着した。

 建物自体もそうだが、部室が珍しいのか咲がキョロキョロと辺りに視線を飛ばしている。

 

 

「ここ? 建物に入った時も思ったけどなんかボロボロだね」

「まあ、旧校舎だししかたないさ。それじゃあ入るけど……大丈夫か、お姫様?」

「大丈夫だって、それにお姫様って……」

「気にすんなって……うーっす! お疲れさん。カモネギもとい見学者連れて来たぞー」

「京ちゃん、私ポケモンじゃないよ…」

 

 

 咲の言うことを無視して扉を開けると、見慣れた風景の中に見覚えのある人物がいることに気付いた。

 

 

「む、誰なんだじぇおまえは」

 

 

 そう声をかけてきたのは咲よりも背の低い清澄の制服を着た女子だった。

 というかこいつ――

 

 

「え、おまえ憧か? なんでここにいるんだよ?」

「誰なんだじぇそれは? 私は片岡優希ちゃんなんだじょ!」

「片岡? マジで別人なのか?」

「そうだじぇ!」

 

 

 片岡優希と名乗る女子は、驚く俺に向かって平らな胸を張る。

 発展途中とは言え高校生でコレか……いやいや、それより思わず口に出してしまったが、ほんとに憧に似てるな。

 

 

「む、なんか失礼なこと考えなかったかお前? というかいい加減名乗ったらどうなんだじぇ」

「あ、悪いな。俺は「その人は須賀京太郎っちゅう名前で、この学校の先生兼この麻雀部の顧問じゃぞ」おう、お疲れさん染谷。この子は新入生か? あと人の台詞を遮るのはよくないな」

「お疲れ様じゃ須賀先生。うむ、麻雀部に入りたいと言う一年生じゃ。いやなに、須賀先生がわしを無視して新入生ばかりと話してるもんじゃから嫉妬して、思わず口を挟んでしもうたよ」

「そりゃ悪かったな」

 

 

 自己紹介をしようとした声を遮り、奥から出てきたのは、この麻雀部の部員のうちの一人で二年生の染谷まこだ。

 ウェーブのかかった髪とメガネが特徴的だが、それよりも目立つのがこの広島弁である。しかしそんな個性的な出で立ちとは裏腹に、性格は常識的で破天荒な部長の抑え役でもある。

 

 

「げぇ! 先生なんだじぇ!?」

「いや、普通に考えて生徒には見えないんじゃから、ここに教師以外がいるのはありえないじゃろ」

「いやいや、俺も頑張れば生徒に見えるだろ? なあ宮永」

「そこで私に振られても……それに無理だと思うよ」

 

 

 驚く片岡に、ツッコミを入れる染谷、そんなに年寄りに見えるのかとショックを受ける俺、フォローどころかズバッと切る咲……ちょっとしたカオスである。

 

 しかし学生には見えないか……そうだよな、おっさんになるってつらいな……。

 

 

「ああ! 違うって!? ほら、京ちゃんは……アレだよ、ナイスミドルってやつだよっ!」

「全くフォローになっておらんぞ……んで、おまえさんも見学者か?」

「あ、えっと……宮永咲と言います。そこの京ちゃ……じゃなくて、須賀先生とは昔からの知り合いで、それで見学に来ないかと……」

「おお、なるほど! 須賀先生からはよう話は聞いとるぞ。昔から世話をしている姉妹がいて、その妹の方が今年清澄に入学しようると。しかし須賀先生もこんな可愛い幼馴染がおるとは隅におけんのう」

「可愛いって、あぅぅ……」

 

 

 落ち込む俺を無視して盛り上がる咲と染谷。いやね、確かに咲が馴染んでくれているのはうれしいけど、放置されるのは虚しいぞ……。

 そんな感じで落ち込んでいると、視界の隅にいた片岡がこっちに向かって近づいてきた。

 

 

「えーと、その……すみませんでした」

「ん、どうした? なんかやったのか?」

「いや、その……さっき先生にため口で話しかけたりして」

「ああ、知らなかったんだし気にしなくて良いさ。ただ他の先生も同じとは限らないから気を付けるんだぞ。あと話し方も無理せずさっきみたいなので良いし、敬語も最小限でいいからな」

「そっか! なら早く言ってくれれば良いのにさっきみたいなのは疲れるじぇ!」

 

 

 切り替わりが早いな、おい……。

 まあ、俺が良いって言ったんだし良いけどな。しかし破天荒な性格の割にすぐに謝ってきたし、いい子っぽいな。

 

 

「そういえば竹井の奴はどこにいるんだ?」

 

 

 騒ぐ片岡から視線を外すと、残りの部員である部長の姿が見ないことに気付いた。恐らく行先を知っているはずの相手に聞くのが早いと思い、未だに咲と話して(で遊んで)いる染谷に尋ねる。

 すると咲を弄るのにある程度満足したのか、染谷はこちらに一度視線を向けてからバルコニーの方へと親指を向ける。

 

 

「んー、久なら外で休んどるぞ。まあ、須賀先生も来たし呼んでくるかのう」

 

 

 そういうと染谷が部室の外に出ていく。しっかし毎度思うがバルコニー付きの部室ってどんだけだよ。

 その後染谷が呼びに行ってから一分もたたずに竹井を連れて戻ってきた。

 

 

「やっほー、須賀先生こんにちは」

「おう、おはようさん竹井」

「おはようって……もうすぐ昼ですよ」

「でもお前寝てただろ? ちょっと寝癖ついてるぞ」

「え、ちょ!? まこ、鏡!」

「いや、そこにあるじゃろが」

 

 

 指摘してやると慌てて自分の髪を押さえ竹井が鏡に向かう。

 後ろから「京ちゃんデリカシーないなー」「ありゃモテないじぇ」とか声が聞こえるが知らん。部活中に見学者をほったらかしにして寝てるやつが悪いんだ。

 

 

「まったく……せっかく来てくれた新入生を放っておいてなにやってるんだ」

「いや、さっきまで四人いて打ってたんじゃが、一人が親からの連絡ということで離席してのう……暇だったんじゃ」

「それでも片岡が一人残ってるんだから出来ることがあるだろ」

「むぅ……確かにの……すまんかったのう片岡」

 

 

 そういうと片岡に向かって染谷が頭を下げる。

 自分が悪いと思ったら年下相手でもしっかりと謝れるのは染谷の良い所だな。

 

 

「気にしなくっていいんだじぇ、のどちゃんは私の嫁だからな。嫁の帰りを待つのは当たり前なんだじょ。あと、片岡なんて呼ばずに優希って呼んでほしいんだじぇ染谷先輩」

「そうか……うむ、よろしくのう優希」

「よろしくね優希」

 

 

 片岡と染谷が友情を深めている間に割って入る影ならぬ竹井。

 

 

「早かったな、もう終わったのか竹井」

「ええ、少しだけでしたからねフフフ……」

 

 

 さっきのを根に持っているのか底知れぬ笑顔で笑う竹井。いや、俺は悪くないだろ。

 

 

「それでそちらの子は……確か須賀先生の幼馴染さんでしたっけ?」

「ああ、宮永咲だ。部活自体決めてないらしいから、とりあえずうちを見本として見せておこうと思ってたな」

「えっと、宮永咲です。よろしくお願いします」

「部長で学生議会長も兼任してる竹井久よ、よろしくね」

 

 

 その後お互いに名乗っていなかった片岡と咲も自己紹介を交わし、皆がそれぞれの名前を把握する。

 しかしそこで気になるのは両親と電話をしているという片岡の連れだ。

 

 

「もう一人の子はまだ戻らないのか? 竹井が寝てたぐらいだから結構時間経ってるみたいだけど」

「のどちゃんの家は厳しいからなー、それにお手洗いに寄ってから戻るって言ってたし」

「そういうこと、だから私が休んでいても問題なかったと思うわ」

「いや、威張っていうことじゃなかろう……」

 

 

 反省してない竹井にツッコミを入れる染谷。まったくこいつときたら……。

 すると話しているうちに廊下の方から誰かが歩く音が聞こえた。恐らく先ほど言っていたもう一人が戻ってきたのだろう。

 

 

「すみません、遅くなりました」

 

 

 扉を開ける音と申し訳なさげに聞こえるどこか聞き覚えのある声に振り向くと――――

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――――和?」

 

 

 

 

 

「――――――――――――――え?もしかして……須賀さん、です……か?」

 

 

 

 

 ――――そこにいたのは、最後に会った時よりも成長したかつての知り合いの姿だった。

 

 

「マジで和なのか!? いやー大きくなったな! 元気にしてたか?」

 

 

 いや、マジで大きくなったな……特に胸が。

 

 

「え? はい、元気ですけど…………え? す、須賀さんがなんでここにッ!?」

「ああ、大学卒業してからここで教師やってるんだよ。ついでに麻雀部の顧問もな」

「なるほど……そうだったんですか、驚きました…」

「ああ、そうだ。遅くなったがインターミドルチャンピオンおめでとう」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 先ほどの片岡は似てはいても流石に別人とわかっている為そこまで驚かなかったが、今回はさすがに驚いた。

 優勝した時の映像は見ていたから長野に住んでいたのは知ってたし、容姿もわかっていたが、流石で生で見るのは違う。

 

 向こうも驚いているのか口調は昔と変わらず丁寧だが、微妙に興奮しているのが伝わってきた。

 

 

「しっかしなんでまた清澄に? 和の実力なら風越に行くかと思ってたんだが」

「それは……ちょっと考えるものがあって……」

「まあ、確かに進学なんてそういうものだよ 「あー、ちょっといいかのう?」 ん、どうした?」

「お二人さんが、話に夢中な所悪いんじゃがのう」

 

 

 そういい染谷が指をさす方を見ると――

 

 

「京ちゃんが年下の女の子に手を出してる。しかも胸が大きい子だし……」

「のどちゃんに手を出すとか死刑確定だじぇ!」

「ええと、110、110と」

 

 

 全身から黒い何やらを出したり、殺気立ったり、冷静に携帯を取り出す三人。

 つーか手を出すってなんだよ、それに通報もするんじゃねぇよ!

 

 

 

 

 

「つまり二人は昔の知り合いだと?」

「だからそう言ってるだろ、それ以外に何があるって言うんだよ」

「そこはほら、恋人とかね」

「普通に考えて歳が離れすぎてるだろ……和と最後に会ったのは三年ぐらい前でまだ小学生だったからな」

「ほほう、つまり須賀先生はロリコンだと……いやん、こわ~い♪」

 

 

 その後とりあえず説明をして何とか納得してもらったが、竹井はさっきの仕返しとばかりに弄ってくる。

 他の面子もあからさまにホッとしたものや、安心するものと色々。

 

 こいつら人をなんだと思ってるんだ……。

 

 

「まったく! 紛らわしいんだじぇ須賀先生は」

「何を言ってるんですか、勝手に誤解したのはゆーきや部長さんじゃないですか……」

「いやいや、のどちゃんのおっぱいは富士山級だからな! 血迷って手を出してたとしてもおかしくないじょ」

「ほんとに何を言ってるんですかッ!?」

「おっぱい……」

「わしもなくはないがのう……」

 

 

 和の胸を見てから自分の胸をぺたぺたと触る咲と染谷。咲よ……照やおばさんを見る限り、未来はないから諦めろって。

 

 

「そういえば……三年前って言うと、京ちゃんが大学で奈良にいた頃の知り合いってこと?」

「ああ、歳は離れてるけど一緒に麻雀教室で打ってた仲だ。あと須賀先生な」

「あら? 須賀先生って奈良の大学だったの? てっきり地元の大学だと思ってたわ」

「あー、そういえば話してなかったな。向こうで一人暮らしして就職を機にこっちに帰ってきたんだよ」

 

 

 当時教師という職業に拘りはあったけど、働く場所についてはそこまで考えてはいなった。

 だから地元に拘りはなかったが、やっぱり自分の母校って事で特別に感じてだろうな。まあ一応他にも理由はあったが……。

 

 

「っと、そうです。須賀さん、なんでここにいるんですか?」

「いや、だからこの学校に就職したからで……」

「そうじゃありません。さっき大学卒業してからここでお仕事をしてるって言いましたよね? 赤土さんが福岡に行ったのにどうしてここにいるんですか?」

 

 

 ――――――ッ!?

 そうだよな、気になるよな。こっちとしてはなるべく触れてほしくはなかったんだけど……。

 

 

「あー、その……あれだ……」

「須賀さん?」

「あいつとは……別れた」

「…………えっ!?」

 

 

 俺の発言を聞いて思いもよらぬ答えが出てきたのか、最初に再開した時と同じぐらい和が驚く。

 

 

「お二人ともあんなに仲が良かったのにどうしてっ……!? ……いえ、すみません。きっとなにか理由があるんですよね」

「ああ……まあ、そんな所だ…」

「それじゃあ赤土さんが所属しているチームが解散したというのは……?」

「一応ニュースは見てるから知ってるけど、連絡も取ってないからその後はわからないな……」

「そうですか……」

 

 

 聞いては不味いことだったのかと思い、それきり口を閉ざしてしまう和と声がかけられない俺。

 確かにあまり聞かれたくないことだったが、一応吹っ切れてるつもりだったんだけどな……。

 

 

「えっと……いいかしらお二人さん? 赤土さん……って?」

 

 

 気まずい雰囲気だが好奇心には勝てなかったのか恐る恐る竹井が聞いてくる。

 咲は事情を知っているけど、それ以外の三人は全く理解できていないもんな。しかしなんて答えるべきかな……。

 

 

「えっと……須賀先生の昔の彼女さんです」

「彼女って、え……? 須賀先生恋人いたの!? 聞いてないわよ!?」

「いや、わざわざそんなこと話さないからな……」

 

 

 答えにくそうにしていた俺の代わり咲が話すと、竹井がありえないとばかりに驚く。

 というか驚きすぎだろ、そんなに俺に彼女がいたことが不思議か。

 

 

「まあ、わしはなんとなくわかっておったがのう」

「ありがとう、染谷がこの麻雀部の唯一の癒しだ」

「いきなりなにをいっとるんじゃ」

 

 

 照れる染谷に荒んだ心が癒される。常日頃から非常識なのに振り回されるから染谷の存在にはほんと助けられるわ。

 

 

「ほら! 俺のことは良いからいい加減部活始めるぞ! せっかく見学者が三人も来てくれたんだし、しっかり教えてやるんだぞ」

 

 

 いつまでもこの話題を引きずらせない為、全員に聞こえるように声をかける。

 和とは少し話をしたいが、また後で時間取ればいいしな。

 

 

「そうじゃな、とりあえず宮永さんも来たことだし改めて自己紹介をと……ってどこに行くんじゃ先生?」

「いや、少し仕事が残っててな。とりあえず顔を出しに来ただけで、一度戻るから任せたぞ」

「うむ、任された。ほら久、部長らしくしっかり動かんかい」

「むー……」

「のどちゃんの昔の話をもっと聞いてみたいんだじょ」

「別に今でなくてもいいでしょう」

「京ちゃん……」

 

 

 なにやら動きが鈍い竹井や騒ぐ片岡達を横目に部室を抜け外に出る。まぁ……実際には仕事なんてないんだけどな……。

 咲には落ち込んでいるのがばれていただろうが、気遣って放置してくれたのは助かった。

 

 

 

 

 

 その後、特に目的地もないが職員室に戻る気分にもなれず学校の敷地内を当てもなく歩き回る。

 しかし流石に歩きっぱなしというわけにも行かず、自販機で缶コーヒーを買ってそのまま近くのベンチに座ることにした。

 春とはいえ未だ風は肌寒く、先ほど買ったホットコーヒーが体に染みわたる。

 

 

「はぁ……しっかし、まさか和と会うとは思わなかったな……」

 

 

 一口飲んでから思わずぼやくが、別に和自身がどうというわけではない。むしろ再会を喜んでいる方である。

 問題なのは和の口から出た人物のことだ。

 

 

「ふぅ……晴絵の奴どうしてるかな……」

 

 

 思わず口にしてしまった人物の顔を思い浮かべながら空を見上げる。

 

 ――あいつと会ったのは季節こそ違うが、こんな晴れた日だったな……。

 

 そんなセンチメンタルな気持ちに浸りつつ、かつての恋人との出会いを思い返し携帯を取り出して、中にある写真を表示させる。

 

 そこに映っていたのは、当時まだお互いに高校生だった頃の俺と出会ったばかりの赤土晴絵の姿だった。

 二人とも照れがあった為かぎこちなさも残るが、それでもその一瞬を何よりも楽しんでいるような表情だ。

 

 かつての恋人の姿を久しぶりにしっかりと確認したことにより、思わず笑みが浮かぶと同時に出したくない後悔の念も出てくる。

 

 

「あー……くっそ……悔いがないとか言ってるくせに未練ありまくりじゃねえかぁ……」

 

 

 お互いに完全に満足に別れたとは言えないが、いつまでも引きずりすぎだろ……。

 もうガキじゃないんだから、いつまでも過去を振り返らずに先を見るべきなんだけどな。向こうだって新しい彼氏出来てるかもしれないし……。

 

 ――やばいな……あいつが他の男と一緒に歩いてる姿とか想像したくねぇ……。

 

 ふと、頭に過った想像に気分が悪くなり頭から振り払う。

 

 

「そういえば別れてからもう三年も経つのか……」

 

 

 教師になってからの忙しさもあり、あいつのことはあまり考えないようにしていたからあれから随分と時が過ぎていた。

 

 

「それに……あいつと出会ってからもう八年も経ってたのか……」

 

 

 先ほども考えた元カノである赤土晴絵と初めて出会った日の事を思い出す。

 そう、あれは、八年前……今日とは違い、真夏の日差しが容赦なく降り注ぐ日の事だった……。

 




 はじめての方はこんにちは。以前の所で見てくれてた方はお待たせしました。

 遅くなりましたが、以前向こうで投下したいと言っていたプロローグでした。

 こんな感じで心機一転、「阿知賀のレジェンド」改め「君がいた物語」を書いていこうと思います。

 時間はかかると思いますが、完結まで書きたいと思いますので皆様どうぞよろしくお願いします。

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