君がいた物語   作:エヴリーヌ

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今週のうそすじ


「……胸、好きなのか?」
「はい! それで……その、近頃、男の人の胸にも興味が出てきて……」


 そういうと少しずつにじり寄ってくる玄。
 ちょ、待て、止め―――



「それで今日のアルバイトはどうだった?」
「アア、ウン。タイヘンダッタヨ。ホント」





二十話

「お邪魔しまーす」

「いらっしゃーい。ささ、上がって上がって」

「サンキュー。あ、これお土産の俺自作のシュークリーム。後で食べようぜ」

「お、いいねぇありがとう。それじゃあこっちだからついてきて」

 

 

 スリッパを用意してくれる新子に礼を言い、土産を渡してから家の中へと上がらせてもらってから後に続いて歩き出す。

 通されたのはちょっとした応接間で、神社の家らしくそこは畳の間となっていた。

 

 

「それじゃあ何か飲み物とお茶菓子取って来るからちょっと待ってて」

「ああ、悪いな」

 

 

 俺を案内してからも座ることなく、慌ただしそうにそのまま新子は部屋を出ていく。

 その機敏な動きからして恐らく何か料理でもしていたのだろう。家に入ってからいい匂いがしているし、何よりエプロンをつけていたからな。実に似合っていてグッドだった。

 

 さて、今俺がいるのは新子の家である。しかも本殿ではなく、新子家の実家の方である。

 

 何故こんなことになっているかというと理由は簡単。この前晴絵を含めた三人で遊んでいた時に、新子の家について話したのがきっかけだった。その時に色々話しているうちに話の流れで、そういえば新子の家ってどんな感じなんだ?という話になったのだ。

 

 今まで本殿の方は正月などに参拝で訪れたことはあったが、大概俺たちが集まる時は俺の家だったし、女子の家という事で敷居が高く、新子家の方に遊びに行ったことはなかった。

 そこで新子が「なら今度遊びに来ない?と言いだし、俺としても神社の家ってどんなものか興味もあったので了承したという事だった。

 

 しかし女子の家に上がるのは晴絵を除けば久しぶりだが、やっぱ男友達の家とは色々と違って見えるよなー。

 そんな感じで部屋を見回していると、襖の向こうからお盆を持った新子が戻ってきた。

 

 

「おまたせー。お菓子は須賀くんのそれは後で頂くとして、先に近くの和菓子屋で買った団子でいいかな?」

「あ、ああ、悪いな」

「ん? ……んー、もしかして須賀くん緊張してる?」

「まぁ少しな。こういった場所だし、なにより女子の家だしな」

「それに隣の嫁さんも今はいないしね」

「嫁さん違います」

 

 

 いいおもちゃとばかりに新子がからかってくるがキッパリと否定する。一応、まあ、将来にはそうなるかもしれんが、まだ彼女だしな。ちょっと気が早い。

 

 ちなみに新子の言う通り、今晴絵はここにいない。

 最初は一緒に遊びに来る予定だったのだが、家の方で用事が出来たらしく後から遅れて来ることになっている。

 一応彼女持ちの身としては、一人で女子の家に遊びに行くのは躊躇われたのだが、晴絵が気にしないで行ってこいと言ったのでこうして先に来ることとなったのだ。

 

 

「それで? 晴絵からはなんか言われた?」

「あー、『浮気しちゃだめだからね!』ってさ。といっても新子と会うのなんて今更だし、新子は俺なんか相手にしないから大丈夫なのにな」

「あら、私これでも須賀くんのこと結構気にいってるんだけどなぁ」

「おいおい、照れるからそういうこと真顔で言うのはやめてくれって」

「…………」

「…………冗談だろ?」

 

 

 話の内容いつものおふざけだと思ったのだが、こちらを見つめる新子視線にそのような感情は混じっているように見えず、そんないつもと違う新子の様子に思わず狼狽える。

 

 

「……本当に火遊びしてみる?」

「……いや「アハハッ! なんてね、冗談冗談。人様の彼氏をとったりなんてしないよ」ったく……冗談きついぞ」

 

 

 晴絵がいるから無理だ、って言おうとしたところで新子が真剣な表情を崩し、いつもの様にいたずらっ子の笑みを見せた。まったく……焦らせないでほしいわ。ぶっちゃけ新子は可愛いんだから嘘でもドキッとするだろ。

 

 まあ確かに新子が彼女でもそれはそれで楽しそうだけどな……っていかんいかん。俺には晴絵がいるだろ。もしもでも考えるのは駄目だな。

 馬鹿な考えを頭から振り払い、話を変えるために別の話題を振る。

 

 

「それにしてもあんまり普通の家と変わらないんだな」

「そりゃそうよ。仕事は仕事、プライベートはプライベートってよく言うじゃない」

「なんか違くないか、それ」

「まあ、田舎の小さな神社だしね。これがもっと由緒正しい伊勢みたいな所ならともかくそんなもんよ」

「確かにな。そもそも目の前の新子を見れば納得だったな」

「ははっ、言ったなこんにゃろー」

「ギブギブッ!」

 

 

 そういうと新子はずりずりっと俺の傍に近寄ってきてヘッドロックをかましてきた。相変わらずだがこういった乗りの良さは晴絵と親友であるというのが頷ける。

 

 それからいつも通り大学の出来事や俺のアルバイト先である松実姉妹の話で盛り上がっていると、突如携帯の着信音が鳴った。

 

 

「それでさー、ん……? あー……ごめん。本殿の方に呼ばれたからちょっと出てくるね。すぐ戻って来るからテレビでも見て待ってて」

「おう、頑張ってな」

 

 

 いきなり来たメールを見た新子が忙しそうに部屋を出ていく。休みでもこうやって呼ばれることがあるのが自営業の辛い所だな。いや、自営業に限らずどの仕事でもそうか。

 とりあえず話し相手もいなくなって暇になったのでどうするか悩む。ちょっと外を散策してみるのもいいが、家主がいないのに歩き回るのもな……新子の言う通りテレビでも見ているか。

 

 そう考えてリモコンに手を伸ばしかけた所で、ふと気配を感じた。

 なんだか前にもこんなことがあったなーと思い気配の先を探ると、襖の向こうに小さな人影が見え、それが中を覗こうとしていることに気付いた。

 そういえば……忘れていたけど新子に妹がいるって前に言っていたし、きっと姉が見知らぬ人間を招いていることに気付いて様子が気になったのだろうな。

 

 

「…………入ってきなよ」

「!!?」

 

 

 黙っているのもなんだったので声をかけてみると、俺の声に驚いたのか影が飛び跳ね固まってしまった。どうやら驚かせたみたいで入るのに逡巡しているようだった。

 その様子にどうしようか悩んでいると、しばらく経ってから、そーっと襖が横に動く。

 

 そして――入ってきたのは、俺の予想通り小学校中学年ぐらいの女の子だった。

 

 服装はジャージ。

 その格好に少々男の子っぽさを感じるが、本人は髪を一本に束ねて後ろに伸ばしているのが似合っており、顔も整っていることから将来確実に美少女になるだろうという外見をしていた。

 新子の妹にしてはあまり似ていないが、歳も離れているしそれぞれが両親のどちらかに似ているのかもな。

 

 そう思い妹さんを見ていると、彼女がなにかを凝視しているのに気付いた。

 視線の先はこちらに向いているのだが、俺を見ているにしては少々ずれており、よーくその先を辿ってみると視線がテーブルの上に注がれていた。

 何か面白い物でも置いてたっけ?とテーブルの上を見ると、先ほどそろそろ食べようかと取り出したシュークリームが置きっぱなしだった。

 

 

「…………食べるか?」

「いいの!?」

「あ、ああ……」

「ありがとう!」

 

 

 じゅるりという音が聞こえそうなほどシュークリームを凝視している妹さんを見て、腹が減っているのかと思い聞いてみたら、目を輝かせながら身を乗り出してきた。

 そこまで腹が減っていたのか……と思いながら箱に入れていた新しいのを取り出して渡すと、妹さんは礼を言ってからすかさず齧り付いていた。

 

 

「! …………なにこれ! すごくおいしい!」

「そっか、多めに持ってきたからたくさん食べていいぞ」

「やったぁ! ありがと!」

 

 

 まあ確かに多めには作ってきたけど、この食欲旺盛な妹さんを見ていると残るのかは不安であった。

 だけどここまで美味しそうに食べてくれるなら作った身としては嬉しい限りだし、まあいいか。晴絵……また今度作ってやるからお前の分はない。許せ。

 

 

「あ、そうだ自己紹介がまだだったね。俺は須賀京太郎、君のお姉さんの友達だ。君の名前は?」

「お姉さん……? えっと、私の名前は「しず! 忘れ物取りに行くって言ってたのに、こんな所でなにしてんの!」あ、憧!」

 

 

 なにやら不思議そうな顔をした妹さんが名乗ろうとしたところで、突如廊下の方から怒鳴り声が聞こえてきて二人とも振り向く

 

 するとそこにいたのは、妹さんと同じ年ぐらいでジャージではないが、ショートカットとで同じように快活そうでこれまた可愛い女の子だった。

 いうかあれ?こっちの子ってどこか新子に似ているような……?

 

 

「……………………………………誰!?」

「えっとな「憧ーっ! これ凄くおいしいよー!」」

「「あのなぁ(ねぇ)……」

 

 

 いきなり大男が視界に飛び込んできたのもあってか、ビビって後ずさるショートカットの子だったけど、ポニーテールの子の空気を読めない発言で脱力して、一瞬のうちにこの場にあった緊迫した空気がなくなっていく。

 だけどこの様子からして、友人らしいこの二人の関係がなんとなくわかったな。それでポニーの子がしずちゃんで、ショートの子が憧ちゃんか……ふむ。

 

 

「それで……君が新子憧ちゃんでいいかな? 俺は須賀京太郎。君のお姉ちゃんの友達だ」

「お姉ちゃんの!? って、男の人の友達!?」

 

 

 最初はポニーの子が妹さんかと思ったが、新子に似た見た目と前に聞いていた名前を今おぼろげに思い出して、ショートの子が新子の妹かと思いなおしてみたら当たっていたみたいだ。

 

 

「今は新子が仕事で呼ばれたから一人だけど、お姉さんから今日俺が来ることは聞いてない?」

「あ、友達が来るとは聞いてましたけど……」

 

 

 余程姉に男の友達がいるのが信じられないのか、未だに狼狽えている憧ちゃん。そしてその様子が気になるのか、シュークリーム頬張りながら首を傾げるしずちゃん。

 

 しかし意外だな。確かに男日照りだとは自分で言っていたけど本当だったんだな。

 俺たちに的確なアドバイスをくれたし、見た目や性格もいいから実は裏で誰かと付き合っていてもおかしくはなさそうだったんだけどな。

 

 

「まぁ、信じられないかもしれないけど本当だよ。ほら、これ新子との写真」

「あ……はい」

「?」

 

 

 向こうからすれば見ず知らずの俺の発言だけじゃ信用できないだろうと思い、以前おふざけで撮った俺と新子が一緒に写ってる写真を見せるが、未だ表情が硬かった。

 

 

「それで君はしずちゃんだっけ? 憧ちゃんの友達かな」

「…………ん、えっと高鴨穏乃です。はじめまして」

「初めまして、さっきも言ったけど須賀京太郎だ」

 

 

 未だ警戒されているっぽい憧ちゃんは置いといて、とりあえずこっちの子についても改めて確認すると、口に含んでいたシュークリームをしっかりと咀嚼してから名前を告げられた。やんちゃな見た目と反して結構礼儀正しいみたいだ。

 しかしポニーテールジャージか……なんか引っかかる。いや、三尋木。お前じゃ無いから出て来るな。

 

 そういえば三尋木で唐突に思い出したが、近頃連絡の頻度が減っているしプロとしての仕事が相当忙しいみたいだ。晴絵の事もあって家のテレビでは麻雀系の番組などは見てないからその分そっちからの情報はあまり入ってこないが、やはりあちらの世界は厳しいのだろう。

 

 とはいえテレビからの情報はないがネットでいくらか調べているし、友人たちの三尋木応援隊みたいなコミュニティで話はしっかりと聞いてあいつの活躍は聞いているからそこらへんは問題なかった。というかあいつも結構な頻度でそこに顔を出すしな。

 

 そんなわけでなにか思い出しそうになったが三尋木のせいで忘れてしまった……決めた。あいつ今度会ったら絶対に弄る。

 

 

「それにしてもこれおいしいねーどこで買ったの?」

「ん? ああ、これは俺が作ったやつだよ」

「ほんと!?」

 

 

 無邪気に聞いてくる穏乃ちゃんに少し自慢げに応えると、余程俺が作ったのが予想外だったのか驚きの表情を浮かべていた。

 まあ、いい年した男がこんなの作ってたらビックリするか。ちゃんとした職人とかは男性が多いけど、この年頃ならお菓子=女の子って思ってもしょうがないし。

 すると、その話題が気になったのか憧ちゃんがピクッと反応した。

 

 

「……そんなにおいしいの?」

「うん、憧も食べなって」

「えっと……」

「いいよ。新子に君の事も聞いてたから多めに作ってきたしね」

「……それじゃあいただきます」

 

 

 未だこちらを警戒の目で見ているが、好奇心と甘い物には勝てないのか穏乃ちゃんからシュークリームを受け取る。こうでも言わないと受け取ってくれなさそうだしな。

 そして憧ちゃんが恐る恐る手に持ったシュークリームに口をつけると――

 

 

「……っ! なにこれ美味しい!?」

「な、私が言った通りだろ?」

「ほんと、お店で売ってるやつみたい! すごく美味しいですよ!!」

「はは、ありがと」

 

 

 先ほどとはうって変わって目を輝かせる憧ちゃん。穏乃ちゃんもそうだったけど子供+女の子なら甘い物にはそりゃ目がないよな。お菓子作りを仕込んでくれたハギヨシには感謝だ。

 

 

「しっかし憧もなーんでそんなにビビってたのさー。いつもだったらお菓子って聞いたら飛びつく癖に」

「そ、それは……し、しずの舌が信用できないからだし!」

「なにをー! うちは和菓子屋だぞっ!」

 

 

 先ほどまで俺を警戒していたとは言いづらいのか、誤魔化すように穏乃ちゃんに責任を押し付けていた。

 しかし穏乃ちゃんは和菓子屋の娘か……ここらへんで和菓子屋と言えば一つしかないし、もしかしたら新子がさっき出してくれた団子もそこのだったりしてな。

 そういえばなんだかんだであの店てまだ入ったことないっけか。あれ?そういえば今思えばあの店って――

 

 

「お待たせー。いやー随分待たせてごめんねー、途中で拾った野生のハルエあげるから許して頂戴」

「誰が野生か」

「あ、そっか既に須賀くんにゲットされてるっけ」

「そういうことじゃないっての」

「お疲れ新子。晴絵も早かったな」

「うん、京太郎が浮気しない様にさっさと切り上げてきたよ」

「さいですか」

 

 

 また何かを思い出そうとした所で、仕事を終えた新子と早めに到着した晴絵の漫才で薄れてしまう。というか晴絵は浮気を疑いすぎ、相手は新子だぞ新子。

 

 

「だから不安なんじゃん。望だし」

「ほーう、ハルエが私をどう見てるかよーくわかったよ。ほんとにやっちゃ……ってなんでその二人が此処に?」

「あれ? ほんとだ」

「「???」」

 

 

 漫才を続けつつも部屋に入ってきたことで、ちょうど俺の後ろにいたシュークリームを頬張る子供コンビに大人コンビがようやく気付いた。

 

 そうか――なんか気になっていたけど、この二人って晴絵と新子にどこかちょっと似ているのか……。

 




 穏乃は意外にも礼儀正しい。アコチャーは多少警戒気味。そんな二十話でした。
 そしていっぺんに二人出して長くなりそうだったので次回に続きます。

 しかしツッコミ役が増えたのが嬉しい。今まで過去編はボケばかりだったからアコチャーには頑張ってもらわないと。なおボケ役(穏乃)も増えた模様。


 それでは今回はここまで。次回もよろしくお願いします。

 

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