君がいた物語   作:エヴリーヌ

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今日のうそすじ


「大学生が小学生女子を付け狙う事案が発生……」
「洒落にならんぞ」
「通報しますた」


 そういって本当に誰かに電話する灼。まさか本当に警察じゃないだろと思っていたが、来たのは――


「呼ばれて飛び出てレジェンド!」


 ……………………痛いどっかの誰かさんだった。



二十三話

 さて、少し前に蝉の声が聞こえる季節も終わり、大学の後期が始まった頃合い。勉学もアルバイトも順調にこなし、彼女の晴絵とも時々些細なことでしたことでケンカはするけれど問題ない日々を送っていた。

 しかし、晴絵と付き合ってから一年ほどたったそんなある日。ちょっとした問題が発生した。

 

 

「うーーーーーーーーーん……」

「どしたの京太郎?」

「あー……いや、なんでもないんだ」

「そう?」

 

 

 部屋の中央でソファーに座りながら腕を組んで唸っている俺を見て不思議に思った晴絵だが、大丈夫だという言葉を聞いて台所に戻って料理の続きを始める。どうみても何かある感じなのに俺の言葉を直ぐに信じてくれる辺りほんと可愛い奴だ。

 

 とまあ、晴絵の可愛さは置いといて、今片づけるべき問題は先ほどこの携帯に届いたメールだ。これが中々難しい問題で、晴絵が席を離れているほんの10分間に届いたこのメールの中身。これが実に厄介だった。

 別に俺としてはこの内容に応じても構わないのだが、ここに晴絵が関わると恐らく難しくなるだろう。やっぱここは本人に直接聞いてみないと駄目だよな……。

 

 結局の所、俺一人では答えが出せない問題だから晴絵が作り終わるのを待っているしかなかったので、晴絵がおやつに作っていたホットケーキを二人で食べた後、改めて話し合いの場を設けることとなった。

 

 

「それで話って?」

「そのな……」

「お金貸してほしいとか? 別にいいけどなんか無駄遣いした?」

「違うって、あと身内でもお金の貸し借りは簡単にするもんじゃないぞ」

「大丈夫、だって京太郎だもん」

 

 

 そういいながら晴絵が俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。

 俺のことを信頼してくれるのはすごく嬉しいが、とりあえずそれは置いといて話を続けよう。

 

 

「あのな……今度友達が仕事の都合でこっちに来るんだけど、うちに泊めてもいいか?」

「??? 別にいいけど、その日は来るなってこと?」

 

 

 純粋そうに聞いてくる晴絵に少し心が痛む。とはいえ相手が相手だけに隠すわけにもいかないんだよな……。

 

 

「いや、そのな……多分晴絵が考えてるのとは少し違ってな……相手が、その……女なんだよ」

「え…………? うわ 「浮気じゃないぞ」 そ、そう?」

 

 

 晴絵が言おうとしたことを先んじて潰しておく。とはいえ、彼女持ちの男がいきなり女を家に泊めるとか言い出したら疑うのも無理ないよな……なので何度か話したことはあると思うけど、そいつが昔から付き合いの友人だという事を改めて説明し始める。

 

 そいつは一つ下の後輩で、中学の頃から付き合いのある相手だという事。中学を卒業した時引越ししたため、高校の時から長野に遊びに来るときはうちに泊まっていた事。なのでその時と同じ気分で今回こっちに来るという事をだ。

 

 

「なるほどねぇ……それで京太郎は出来るならここに泊めたいと?」

「ああ、久しぶりに会うし、大学に行かずに今年から仕事始めてる奴だから出来る限り愚痴とか聞いてやりたいと思ってな」

 

 

 難しい顔をして聞く晴絵に決して疚しい気持ちはないという事を伝えておく。とはいえ、晴絵からすればいい気分ではないのは当たり前だろう。俺だってもしこいつに男の友人がいて、そいつが家に泊まるって話を聞いたら冷静ではいられないはずだ。

 それから難しい顔をして悩んでいた晴絵だったが――

 

 

「うーん……別にいいよ」

「え、ほんとか!?」

「昔からの友達でよく泊めてたんでしょ? なら友人関係を止めろとは言えないしね。疚しい気持ちもないんでしょ?」

「勿論だ!」

「ならOKだよ」

「そうか……いや、本当に悪い 「ただし!」 え?」

 

 

 その後、晴絵は泊まらせることについて条件を出してきたのだが、その条件とは予想もしていなかった事だった――

 

 

 

 

 

 後日、待ち合わせの日――

 

 

「よう、久しぶりぃセンパイ」

「おう、久しぶり。こんな所までお疲れさん。いくらこっち方面で仕事があるっていってもここまで来るのは大変だっただろ」

「まぁー不便だけど、そこは長野と同じだし慣れたもんじゃね? 知らんけど」

「違いない。というかなんだその恰好」

「変装へんそー。これでも有名人だからねぃ」

「そうかい似合ってるぞ」

「うわ、あんま嬉しくねー」

 

 

 駅から出てきた今日の待ち人である三尋木を迎え入れると、いつものように軽口を叩きあう。ちなみにこいつの今の服装は洋服で普通だが、髪を後ろで結んでおり、極めつけに白いマスクに眼鏡とつけているというものだった。ぶっちゃけ親しい者じゃなきゃわからないレベルだった。

 しかし顔を直接会わせるのは、以前春前にあったこいつのプロ入り記念の集まり以来だから半年ぶりぐらいか?案の定その時と背丈は変わっていなかった。

 

 

「まーた、なんか変なこと考えてるね?」

「気のせい気のせい」

「まぁ、大体想像つくけど、わっかんねーってことにしとこうか。んで、そちらさんは例の?」

 

 

 そういって三尋木が視線を向けたのは、俺の隣にいる晴絵だ。

 つまりこういうこと。この前晴絵が出した条件とは、自分も一緒に会って一緒に泊まるという事だった。晴絵からすれば相手が女なら自分も泊まれば安心という事だろう。

 まあそれで晴絵の不安がなくなるなら全然俺は問題なかったし、三尋木にもその条件で了承してもらったので問題なかった。

 

 

「ああ、こいつが前に話した俺の彼女の赤土晴絵だ。晴絵、こいつが俺のダチの三尋木咏だ」

「………………あ、は、はじめましてっ!」

「はい、よろしくってねー」

 

 

 とりあえずお互いの名前をと思って話を振ると、晴絵は何故かボーっとしており、俺が声をかけてから我に返って慌てだした。

 そしてそれに対する三尋木の対応は年上相手に適切なものと言えなかった。まあ、こいつの中では俺の彼女ってことでそこらへんは気にしてないんだろうな。

 だけどやっぱり晴絵の様子がおかしいな、驚いた顔でじーっと三尋木の顔を凝視してるし………………あ、もしかして……。

 

 

「そ、そういえば前に麻雀やってるダチがいるって言ってただろ? それこいつなんだけど実は今は麻雀のプロなんだ」

「うん、なんとなく見覚えあると思ったけどそっか……」

 

 

 俺の言葉に頷きながらも少し元気がない晴絵。そうだよな、俺の前ではそういった話はしないけどやっぱ今でも昔のこと気にしてるよな。恐らく去年の全国大会なんかも俺に内緒で見ていたりもしたんだろう。

 普段麻雀のことについてはあえて触れないようにしていたけど、今回ばかりは事前に言っておくべきだったな。くそっ……気が利かないどころじゃねーぞ。

 

 

「まー、話はそれぐらいにして早くいこうぜ、お腹空いちゃったよ」

「……そうだな。食材は買ってあるから真っ直ぐうちに向かうか」

 

 

 そんな俺達の変な様子が分かったのか、三尋木が空気を換えるために明るい声を出したので俺もそれに乗るようにする。昔からそうだけどこいつは人の機敏に聡いからな、よく助けてもらったっけ……。

 そんな昔の事を思い出しつつ、俺を真ん中に右に晴絵、左に三尋木が並んで家に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 あれからタクシーを呼んでうちまで行こうと思ったのだけど「少しなら歩こうぜぃ」という三尋木の提案でうちまで歩くこととなった。ただ、これが好を制したのか、歩いているうちに晴絵も元の調子を取り戻し普通に話せるようになって会話も弾むようになっていた。

 しかしその内容が問題で、二人が共通することと言ったら麻雀と俺のことぐらいだけど、三尋木が空気を読んで麻雀については語らずにいたため、中学や高校時代の俺のことが話題の中心となったのだ。

 

 

「へぇー京太郎って昔はそんなやんちゃしてたんだ」

「まぁ、今じゃ真面目ぶってるけどさー、話してると昔のままの事多いし中身は悪ガキのままじゃないかな、知らんけど」

「おまえにいわれたくねー」

 

 

 三尋木の言葉に思わず額を押さえ空を見上げる。

 仲良くなってくれるのは全然かまわないんだけど、隠しておきたい黒歴史までペラペラと話されるのは中々に困る。これだから昔からの付き合いのある奴にあまり晴絵のことを紹介したくなかったのだ。今後、他の奴らにも晴絵を紹介するのはもっと先にしようとここに誓った。

 とまあそんなことを考えていると、突如隣からじっと見つめる視線を感じたのでそちらを向いたらなにやら三尋木がニヤニヤ笑っていた。

 

「しっかしセンパイがねー……」

「なんだよ」

「いや、あんだけ悩んで癖にうまくやったなーっと」

「おい」

「悩んでた?」

 

 

 邪悪な笑みを浮かべながら言う三尋木に晴絵がすかさず反応する。こいつまた余計なこと言おうとしてるな……。

 すかさず口を押えようと動こうとしたが、先んじて三尋木が口を開く。

 

 

「去年だっけ? センパイが仲の良い女子とケンカして、どうしよー、どうしよーって落ち込んでたの。その女子の名前が赤なんちゃらだったけ? 知らんけど」

「それって……」

「お・ま・え・なーっ!」

「うっひぃー、センパイこえー!」

 

 

 流石に腹が立ったので持っていた荷物を置いて、逃げ回る三尋木を追い掛け回す。

 確かに当時晴絵とギクシャクして悩んでいたのをこいつに話した事はあったけど、わざわざ晴絵にバラしやがって。今じゃなんてことはない話だから蒸し返されるとすごく恥ずかしいのだ。

 

 

「全くお前ときたらっ!」

「いてててっ! ちょっ! 悪かったってセンパイ!」

「いーや、ゆるさん。帰ったらお前にも料理の手伝いしてもらうからな」

「いや、まぁ、それぐらいならいいけどさ」

 

 

 捕まえて頭を両手で挟みながら絞めるという久しぶりのお仕置きをすると三尋木が軽く悲鳴を上げた。グリグリきて意外に痛いからなコレ。あと、甘く見ているが嫌というほど野菜の皮むきをさせてやる。

 

 

「あー……頭がぐわんぐわんするー」

「自業自得だ。さて、こんなアホなことしてないでさっさと行くか」

「……やったのセンパイじゃん」

 

 

 三尋木がジト目で見てくるが知らん。

 

 

「それじゃあ行くかって……晴絵?」

「…………なに?」

 

 

 三尋木を無視してから荷物を持って晴絵の方を向くと、思いっきり頬を膨らませていた。とりあえずしょうがないと考えてもう一度荷物を置き直し、拗ねる晴絵に近づいて正面から抱きしめる。

 

 

「悪かった。別に忘れてたわけじゃなくて、いつもの馬鹿なやり取りしてただけだよ」

「別に怒ってないし」

「でも拗ねてるだろ?」

「拗ねてないし」

「いじけてる」

「いじけてない」

 

 

 いつもの押し問答をしながら左で晴絵の腰に手を回し、右手で頭を撫でて宥める。相変わらず嫉妬深い彼女だ。

 それから晴絵の機嫌が直るまで撫で続けた。

 

 

「なんだこのバカップル……」

 

 

 三尋木。そういうことは思っていても口には出さないもんだぞ。

 

 

 

 

 

 その後、拗ねた晴絵のご機嫌を取って家に戻ると、少し早かったが時間もそこそこということもあって夕食をとることとなった。流石にうちのアパートで三人一緒に料理をするのは中々骨が折れたが、それでも中々楽しい時間だった。

 そして夕食が終わってからは晴絵から三尋木の相手をしてやれとのことで、申し訳なかったが洗い物を任せてのんびりと休みながら話をする。

 

 

「はー食った食ったぁ」

「こらこら食べてから直ぐに横になると牛になるぞ」

「聞き捨てならないねぇ、こーんな可愛い咏ちゃんを捕まえて牛扱いだなんて。マジでわかんねー」

「自分で言うな自分で」

「いやいや、これでも結構人気あるんだぜ」

 

 

 胸を張って言っているのは恐らくプロになって出来たファンの事だろう。確かに一応見た目は……小さいけど容姿は悪くないし、去年の優勝者という事でそれなりにファンも出来ているらしいな。

 俺としては友人のこいつがこうやって周りに認められるようになったのは鼻が高いが、それと同時にちょっとした寂しさと戸惑いも感じていた。

 

 

「??? ……! ……んふ~」

「なんだよ……」

「なんだろうねぃ、わっかねー」

 

 

 最初はこちらを見ながら首を傾げていたのだが、突如ニヤニヤし始めたと思ったら答えをはぐらかしてきた。なんだこいつ……。

 

 

「まあまあ、特等席はずっとセンパイ達用だから安心しなって」

「……調子にのんな」

「へっへー」

 

 

 にやけた笑い顔が気に入らなかったので、思いっきり頭を撫でまわして髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやるが、全く堪えていなかった。ったく、一応女なんだから笑ってないで少しぐらい気にしろって。

 昔から変わらない三尋木に少々呆れていると、向こうから洗い物が終わったらしい晴絵の足音が聞こえた。

 

 

「お疲れ。ありがとな晴絵」

「気にしない気にしない。それより後で手洗いするからそれ系の洗濯物出しといてー」

「いや、それぐらいは自分でやるから晴絵も休んでくれって」

「そう? じゃあ何か飲み物出すよ」

 

 

 そう言って晴絵は再び冷蔵庫がある台所へと向かう。昔は家事全般イマイチだったのにこの一年でホント成長したよな……と、それよりさっさと洗濯物出すか。

 晴絵に頼りっきりというわけにも行かないので、立ち上がり箪笥へ向かう。そろそろ寒くなってきたし、冬物も一度洗っておかないとな。

 

 

「これと……こっちも出しとくか」

「大変そうだねぇ、知らんけど」

「別にいいんじゃねーの実家暮らしも色々あるし」

 

 

 一人暮らしと違って金も余分にかからず家事の負担も減るけど、こうやって彼女は気軽に呼べないだろうしな。

 そんな感じで三尋木と話しながらポンポン必要そうなのを出していると、中から見覚えのある物が出てきた。

 

 

「お、それって……」

「ん、どうしたの?」

 

 

 するとちょうど飲み物を持った晴絵も来たみたいで、三尋木と一緒に俺が取り出したものに視線を向ける。別にそれ自体はそれほど珍しい物ではないのだが――

 

 

「それ冬になると京太郎が使ってるマフラーだよね?」

「ああ」

「おー、大事にしてるのね。こりゃ照れちゃうなぁ」

「え?」

 

 

 照れ隠しなのか扇子をパタパタと扇ぎながら呟いた三尋木の言葉に晴絵が振り返る。そういえば言ってなかったっていうか、別に言わなくてもいいって思ってたしな。でも少し不味ったかな。

 

 

「あー……これな。前に三尋木から貰ったんだよ」

「ま、折角の誕生日だしねぃ。別にマフラー程度なら手間もかからず作れるし」

「へぇ……」

 

 

 適当に誤魔化そうかと思ったけど、ベラベラ話す三尋木のせいでそれも出来なくなった。そしたら案の定晴絵は拗ねだした。

 

 

「いや、あのな晴絵」

「どうせ私はぶきっちょですよー」

「まだ何も言ってないぞ……」

 

 

 なんだかんだでこの後も晴絵の機嫌を取るのに時間がかかったとさ。

 

 

「……変なバカップル」

 

 

 ほっとけ。

 




 修羅場のようなそうでないような二十三話でした。そしてまだ咏ちゃんの話は終わりませんが、とりあえず長くなりそうなので次回に続きます。

 しかしようやく過去編本編にて登場した咏ちゃん。一応京太郎は帰省した時などに会ったりはしていますが、京太郎もレジェンドがいる時は彼女を優先して二人でいたので、ようやくこの二人の遭遇となりました。
 とはいえお互い明るい性格なので表向きはそれなりに和やかな感じで問題なし……に見えますが、それは京太郎視点からの話なので実際どうなのかは……どうなのでしょう?

 などと不穏なことを言いつつ今回はここまで。次回もよろしくお願いします。

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