君がいた物語   作:エヴリーヌ

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1年ぶりのうそすじ



京太郎「三尋木と会ってから晴絵の元気がない……」
望「ああ、それはきっと――」
京太郎「そうか、あいつ嫉妬してるんだな! 晴絵ェェェ! 誤解だぁぁぁぁっ!! 好きだぁぁぁっっ!!! 俺は浮気なんてしてないぞォォォォォッ!!!!!」


望「…………バカップル死すべし。慈悲はない」




最終章
二十六話


 ――夢を見た。

 

 

 

 悲しい夢。なぜかはわからないがそう感じた。

 後になって思う。この時、夢の内容を覚えてさえいれば……俺たちの未来は違っていたのかもしれないと――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~~」

「あらら、おっきな欠伸。寝不足かな?」

「ああ……昨日は誰かさんが寝かしてくれなかったからな。いくら久しぶりだからってなぁ……」

「だ、だって最近就活で忙しいし……ね?」

「…………はいはい」

 

 

 下手くそな上目遣いをしながら晴絵が腕にしなだれかかってくるが、適当にいなして誤魔化す。危ない危ない。思わずクラッと来たわ。

 

 しかし全く……いくら人通りが少ないとはいえ、誰が見てるかわかったもんじゃないのにな。まあ、別に見られても今更たいした意味もないんだけど……どうせ近所の人達はみんな知ってるし。

 この数年で、近所で知らぬ者はいないとまでになってしまった俺たち二人。既に恥ずかしさはニュージーランド辺りまで突き抜けているさ。

 

 

「でさでさ! 少しは暇も出来たし、どっかデートいこっ!」

「ん、あー……」

 

 

 いつにも増して実にテンション高めな晴絵……いや、いつもこんなもんだわコイツ。

 とはいえその気持ちもわかる。先日まで就活関係で実家に帰っていたのもあって、こうして会えるのも二週間ぶりだからだ。

 

 そんなこともあり何時にもましてべったりな晴絵と俺。だからこのまま何処か(俺の家でも可)で是非いちゃこらしたいのだが……。

 

 

「ま、残念ながら今日は『あの日』だからな。というか外に出た目的を忘れるなよ、行くぞ」

「むぅ……」

「ほら、拗ねるなって」

 

 

 口をとがらせ不満げにする晴絵のお凸を軽く突く。そんな可愛い反応するなよ、俺が困るだろ。

 銅のような意思を固め、未だちょっぴり渋る晴絵を引き摺りながら、俺達は晴絵の母校――阿知賀女子学院へ歩みを進める。

 

 

 

 

 

 それから徒歩で十数分かけて学校へ到着。腕を組んでいてかつ晴絵がちょっかいをかけて来たから、いつもより時間がかかってしまった。

 これならバイクで来てもよかったかもなぁ……。

 

 流石に校舎に入るのに腕を組んだままでは不味いので絡ませていた腕を解くと、案の定晴絵が不満げな顔をした。

 仕方がない。俺たちの関係が公然の物だとしてもTPOを弁えなければいけない。俺たちはバカップルじゃないんだから。

 

 

「相変わらず元気だねー」

「まったくだ。よく日曜日に学校なんかこれるよなー」

「ほんとほんと」

 

 

 校門をくぐると、部活で来ている生徒たちの元気な声が聞こえた。

 折角の休日なのに学校に来ているなんて奇特な奴らだよな――と自分たちの事は棚に上げる。

 

 さて、何故大学生の俺たちが、女子校であり晴絵の母校である阿知賀女子にせっかくの休日に来ているかというと答えは簡単だ。

 去年の春頃からここの教室の一つ――かつてこの学校の麻雀部の部室であった場所で、晴絵が子供たち相手に麻雀を教えているからだ。

 

 発端はあの日、一年前に新子の家で晴絵が麻雀に触れた日だ。あれ以降、何度か機会を設けて晴絵は穏乃達とおまけの俺相手に麻雀を教えていた。

 それは一週間に数度。新子の家、もしくは俺の家に穏乃達を呼んでといった感じで、まさにリハビリを続けるような感じだ。

 

 そしてそれを数か月ほど続けていたら、ある日、新子から『このメンバーに教えるのも慣れてきたし、どうせだったらちゃんとやってみない?』という案が出たのだ。

 

 いったいどういうことなのだろうと……と皆と一緒に疑問に思っていたら、なんと新子は母校で許可を得て、周りの麻雀に興味のありそうな子達にも声をかけて、晴絵を先生とした正式な麻雀教室――正式名『阿知賀こども麻雀クラブ』を作ってしまったのだ。

 ちなみにその間、俺は宥と玄に麻雀を教えてもらうだけの役立たずであった。

 

 そんなわけで大体週に1、2回、こうやって晴絵は子供たちに麻雀を教え、俺もそれに付き合っているのだった。

 そしてここでも俺はたいして役に立っていなかった。だらしない彼氏ですまない……。

 

 まあ、咲達の相手で慣れたのもあってか、新しく入ってきた子達を相手にしても浮かずに済んだのは行幸だし、一応年上として懐いてくれたのは良かった。決して俺の精神年齢が低いわけではない……はずだ。

 

 とりあえずこういう経緯で俺たちは女子の花園なんかに来ている――が、正直なところ出来るならこういった所には高校生の頃に来たかった。

 数年経って彼女も出来た今じゃ、ドキドキもワクワクも(あんまり)感じなかった。所詮現実なんてそんなもんだったよ、高久田。

 

 

「さてさて、ちょっと早いけど皆来てっかな」

「大丈夫じゃない? 京太郎が今日来るのは伝えてあるしね。しばらく来れなかったの寂しがってたし……モテモテだねぇ」

「おぅ、嬉しいなー」

「………………」

「無言で脇腹をつねるな。子供に妬くな」

「べ、べつにぃー妬いてないしぃー」

 

 

 なんとも誤魔化すのが下手なやつである。

 

 

「……ほら、やってるみたいだよ」 

「だな」

 

 

 拗ねる晴絵を引き摺りながら進むと、いつの間にか部屋の近くまで来ていたみたいで、少し離れながらも中から騒ぐ声が聞こえてくる。

 心配とは余所に既に何人か集まっているようだ。

 

 そのまままっすぐ部屋の前まで行き、この一年で開け慣れた扉を開けると、扉が開く音が聞こえたのか全員が一斉にこちらを振り向く。

 そこには朝早いのに全員ではないが既に年少組の何人かは集まっていた。手慣れたもので、俺達や穏乃達年長組が来なくとも既に自分たちで用意をして早速練習をしていたみたいだ。

 

 

「おはよう、みんな」

「「「「「「おはようございまーす!!」」」」」」

「よう、おはよう」

「京ちゃんだーッ!」

「誰が京ちゃんだっつーの」

 

 

 勢いよく飛び出してきた桜子の体を支え、おでこを軽く押さえながらツッコミを入れる。まったく……相変わらず元気がいいんだから。

 

 

「もう、危ないってば」

「てへへーごめーん」

 

 

 急に走り出した桜子を綾がたしなめる――が、当の本人は笑顔のままだ。反省してないなコイツ……。

 そんなことをしている内に他の皆も釣られたように俺の周りに集まり、やいのやいの騒ぎ立てる。騒がしいことこの上ないけど、久しぶりなのもあって思わず口元が緩む。

 

 

「相変わらず京太郎は子供に好かれるねー」

「オマエモナー」

「そ、そうかな?」

「ほめてねーよ」

 

 

 確かに子供と相性がいいと自分でも思うが、俺がここまで溶け込んでいるのは、子供たちにも定着してしまっているこの渾名のせいだろう。

 以前晴絵が俺の向こうで呼ばれていたこの渾名を暴露してからすっかりこの状態だ。それ以来穏乃とかにもたまに呼ばれてからかわれるし、実に困ったことだ。

 

 

「それでまだお前らだけか?」

「うん」

「アコちゃん達来てないよー」

 

 

 部室の中を見回してみるが、皆の言う通りどうやらやはり年長組は一人もまだ来ていないようだ。宥と玄は家の手伝いをしてから来るって事前に聞いていたが、穏乃達の姿が見えないのは珍しかった。

 休みの日は誰かしらいるのだが、恐らくはどっかで道草でも食っているのだろう。

 

 

「ま、あの子たちの事は置いておいて、ある程度人数も揃ってるし始めようか」

「「「いぇーい!」」」

「ニューヨークに行きたいかーーッ!!!」

「「「おー!!!」」」

 

 

 俺も久しぶりに揃っている為か、普段よりもテンションが高い晴絵と桜子達が手を握り高く上げた。

 

 え……?人数に対して声が足りない?そりゃなぁ……小学校にもなれば恥じらいを覚える年頃ってやつだよ。

 照、咲、穏乃?知らんな。晴絵?許してくれ……あいつは病気なんだ。

 とまあちょうどキリのいい人数いるという事で、早速二つに別れて早速練習を始める。中途半端に多かったりするとあぶれるのが出てきちまうからな。

 

 

「じぃーーー」

「こらこら、京太郎のお土産は後だって」

「「「えー!」」」

「ほら、次々」

「「「「はーい」」」

 

 

 

 直接見なくても会話でわかるぐらい向こうでは実ににぎやかであった。この一年でよりわかったが、晴絵はやはり子供の扱いが上手かった。

 一方こちらでは――

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「あ、チー」

「はい」

 

 

 ――向こうとは実に対照的に静かに進んでいた。

 

 俺も結構お喋りな方だけど、一応練習中兼この子たちのお手本ってことでこういう時は無駄話はしないように心掛けているからか、面子にもよるが習ってこんな感じになることが多い。

 

 

「ロン。タンヤオのみ」

「あーあ……親がぁー」

「悪いな」

 

 

 ちなみに俺の実力は一応この子達よりは上だ。

 柔らかさはともかく、成熟して頭の回転が速い大人ということもあるが、流石にここ以外でもうちで晴絵のリハビリに付き合っていたのもあって、この一年で麻雀初心者だった俺もそれなりになっていた。

 

 といっても未だに晴絵はおろか宥や玄にすら基本負け越している。昔からやっている3人との間には経験の差があって当たり前だからな。

 そんで穏乃憧とは五分五分といった感じだ。流石にプライドもあってそう簡単には負けられん。

 

 

「ポン」

「むぅ」

「なら私も」

「いやいや、意味なく張り合うなって」

 

 

 あと、おとなしいと言ってもあっちのメンツに比べたらって話で、こうやってふざけ合うことも多々ある「あ、ツモ。えっと……清一色ドラ1で3000・6000かな」……なん……だと!?

 

 まさかの手に思わず目を見張る。作りやすい手とはいえ3巡目で跳満かい……どこぞの誰かさんで慣れてるとはいえ、いきない高いので和了られると流石にビビるわ。

 とはいえドラ7とかがポンポン跳んでくるのに比べればまだマシだ。アレは戦場だ。

 ま、そんな時は悔しいから、家庭教師の時にこっそり難しい問題を混ぜて仕返ししてるけどな。玄は頭がよくなって、俺は溜飲を下げる。Win-Winの関係だ。

 

 ……はい、現実逃避はやめますよ。親被りですよ。

 

 

「………………」

「………………

「…………………………」

「…………………………はいはい」

「えへへっ」

 

 

 和了った途端、そんなあからさまに何かをねだる様な視線を向けられたらなぁ……とりあえずご要望にお応えして撫でてやる。

 嬉しそうに頭を撫でられるひなとそれを羨ましそうに見る他6名。晴絵、帰ったら好きなだけ撫でてやるから我慢しなさい。

 

 そんな感じで続けていくうちに時間は経つ。そろそろいい時間だなー、と牌を切っていると、廊下から物音が聞こえた。この軽快な音は1人しかいないだろう。

 

 そういえば昔ハギヨシに足音から性別や体格なんかを特定する技があるって聞いたけど、これは当てはまらんわな。ただの経験だし。

 当時はめんどくさがったけど、話のネタになるし教えてもらってもよかったかもなぁ。

 

 

「おはようございまーす!」

 

 

 ――と、そんなことを考えているうちにどうやら来たようだ。振り向けばそこには穏乃が「あ……京兄だーッ!」……は?

 

 

 >シズノのすてみタックル

 

 

 気づけば眼前に迫る穏乃がいた。避けりゃアウト(穏乃→雀卓)に………! 避けらんねえ!?

 最悪の事態を予測してすかさず腰を落とし、迎撃態勢へ移る。そのまま勢いよく飛びかかってきた穏乃をキャッチ…………………はぁ………あっぶねえ……。

 とりあえず穏乃にケガを負わせなかったことにほっと胸を一撫で。さて――

 

 

「…………………………よう、おはよう」

「おはよー!」

「………………」

「あ、あれ? ……怒ってる?」

「……………………」

「ご、ごめんなさい……」

 

 

 コアラのごとくくっついているので、近距離からの無言の圧力に耐えられなかったのかシュンっとする穏乃。心なしか自慢のポニーテールも元気がなかった。まったく……。

 

 

「危ないから次は気をつけろよ」

「え…………うんっ!」

 

 

 鳴いたカラスがなんとやら、頭をぐりぐり撫でてやったらすぐに機嫌を直す。ま、穏乃は笑顔の方がいいしな。

 とりあえず未だ正面からガッシリへばりついている穏乃を外しておろすと――

 

 

「おはようございます師匠!!」

「玄、声が大きいってばー」

「むふぅ」

「全然褒められてないよ玄ちゃん」

 

 

 どうやらどっかで偶然会ったのか、残りのメンバーが続々と現れ、途端に部屋の中がやかましくなる。

 そしてみんなと同じく会うのが2週間ぶりなためか、無駄に玄のテンションが高かった。

 

 

「おう、和もおはよう」

「……おはようございます」

 

 

 玄たちよりも一歩引いた所に立つ和に気付き声をかけると、硬くもあったがそれでも挨拶を返してくれた…………まあ、しょうがないか。

 

 

 ――俺が先程声をかけたこの子の名前は原村和。穏乃達と同じ小学六年生で、少し前に入った新しいメンバーだ。

 

 

 特徴としては穏乃や憧みたいなお転婆ではなく、お嬢様っぽい感じ(服装とか)でうちでは珍しいおとなしい子だ。というか俺の周りにはいないタイプだ。

 俺の知っているお嬢様って言ったらアレだし……いや、いい子なんだけどね。ちょっと濃いから。

 

 そして先ほどの様子を見れば予想もつくが、あまり男に慣れていないみたいで、未だに俺相手にはこのようなぎこちない態度であった。

 もう少し仲良くなれるといいんだけどなぁ……まあ倍近く離れた年上に対する態度なんてこれが普通だよな、焦ってもしょうがないか。

 

 

「京兄京兄! お土産は?」

「元気になったと思えばそれかい」

 

 

 先ほどの事や大人じみている和との比較でより一層穏乃が子供に見える。見た目だけじゃなく頭の中身が年少組と同じな穏乃である。

 いや……子供ならこんなもんか。こないだ中学二年になった照も未だにお土産をねだって来るし…………え?あれは例外だって?

 

 とりあえず妖怪お菓子ちょーだいは頭の隅へ追いやる。今は目の前の体力底なしポニーテール(エビ味)の相手が先だ。

 

 

「ほら、向こうに置いてあるから「やったぁ!」後で……っておい」

「あ、しずずるい!」

 

 

 人の話を最後まで聞く前に穏乃が駆け出し、それを憧が見逃さず追いかける。

 そしてその2人の様子を窺っていた年少組もとうとう我慢できなくなったのか、我先にとお菓子に群がり始めた。

 

 

「やれやれ、困った子達だね」

「えっと……注意しましょうか?」

「偶にはいいんじゃないか?」

 

 

 年長者らしく叱った方が良いのかと不安げな顔をする宥。とりあえず安心させるように頭に手を置く。俺はいったい今日は何度頭を撫でればいいんだろう……。

 しかし相変わらず宥は真面目だ。……もうちょっとわがまま言ってもいいんだけどなぁ……あ、だけど寒いからってそこらかしこで抱き着いてくるのは減らさないとな。どこぞのレジェンドがやきもち妬くから。

 

 

「ニコニコ」

「……撫でないぞ」

「ガーン!?」

「玄ちゃん……」

 

 

 一方、妹の方はわかりやすかった。つーか口に出して言うなよ……。

 いじける玄に姿に思わず呆れながらもう片方の手で撫でていると、ふと後ろから視線を感じ振り返る。

 するとそこには穏乃達と違い、お菓子に群がらなかった和がじーっと目を細めてこちらを見ていた。

 

 

「どうした?」

「!? い、いえっ、なんでもないです!」

「そ、そうか……」

 

 

 よくわからないが、勢いよく首を振る和に頷き返す。

 自分も撫でて欲しかった……なわけないか。未だに話す時に目を逸らされるし。和とは今度ちゃんと話す機会でも作りたいな。

 

 

「それじゃあちょっと早いけど休憩しようか」

「そうだな」

 

 

 わいわい騒いでいる穏乃達の所に俺たちも混ざる。

 

 これが今の俺たちの日常。

 大学も4年目という事で、就職関係で慌ただしい事もあり、落ち着いているとは言えない日々だ。それでも――輝かしい日常だ。

 

 

「うわーっ!! しずがのど詰まらせたぁぁぁーー!!」

「いい急いで吐かせて!」

「そ、それよりお茶を飲ませましょう!」

「顔真っ赤……あったかそう」

「そんな場合かっ!?」

 

 

 …………輝かしい日常だ。

 




 はい、半年以上空いた過去編二十六話でした。言い訳はしません。すいませんでした。

 とりあえずこっちもかなり飛んで一年後。麻雀クラブの話はもっとやりたいけど断念。出来れば短編集とかで補完したいです。
 そしてさらっと和、過去編初登場。なお出番はたいしてない。裏ヒロインだからね、しょうがない。

 とりあえず久しぶりだからリハビリと話の補完もかねて過去編の短編集をたくさん書きます(予定)

 それでは次回もよろしくお願いします。


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