咏「センパイってば小学生ハーレムを作った聞いたけど本当かい?」
京太郎「まったく、小学生は最高だぜ!!(訴訟も辞さない、法廷で会おう)」
咏「わっかんねー、本気かどうかもわっかんねー」
温暖化だのドーナツ化現象だのバタフライエフェクトだの騒がれる昨今の世。夏に入る前の5、6月辺りでも下手すると30度を超える日も珍しくはなかった。
めっきり暑くなったせいで、虫なんかも大量に湧くがこれは田舎の宿命だろう。
そういえば昔、照がカブトムシと間違えて……いや、これ以上はやめておこう。あいつも深い記憶の底に封印した過去だ。
そんな前置きはさておき、そんな茹だるような暑い日には――
「「やっほォーーーッ!」」
「うわっ! やったなー!」
「おぶぶ! み、水が鼻に入ったのですっ!」
――川で遊びたくなるのもしょうがないだろう。
今日は麻雀クラブを休み、上の奴らと近くの川まで遊びに来ている。就活?あいつは置いてきた。この戦いについてこれそうもないからな……。
「ふぅ……みなさん元気ですね」
「ま、いつもは部屋の中だし偶には良いだろ」
「あったかぁい」
川岸の岩場で足を伸ばしながら寛ぐ俺と和と宥。向こうではついて早々、晴絵と穏乃、憧、玄が川の中心で遊んでいる。
あー……暑気持ちいい……。
「和も行ってきたらどうだぁ~? 俺が荷物は見ておく……てか盗まれることもないけど」
「いえ……もう少しだけ休んでいます」
「そうか、ほれ」
「あ、ありがとうございます」
少し疲れた様な声色の和にクーラーボックスから水筒を取り出して渡す。今流行の水筒男子だ。
そんなに離れた場所ではないが、元々都会育ちなこともあって、あまり体力のない和には山道は少しきつかったみたいだ。
一応隣の宥にも声を掛けようかと思ったが、幸せそうに目を閉じて寝っころがっていたのでそのままにしておく。
日差しによっていい具合に熱せられた岩がベリーグッドみたいだ。
「………………」
「須賀さんは入らないんですか?」
日光浴をしながら、ぼーっと、晴絵達を眺めていたら、和が首を傾げながらこちらを覗き込んでくる。
うん、可愛いな。
「後でな、俺も偶にはのんびりしたいし」
「ふふっ、なんだかお爺ちゃんみたいですよ」
「ほっといてくれ」
拗ねたような俺の言葉にクスクスと和が笑う。
なんだかんだ以前に比べて打ち解けたのか、こういった表情も見せてくれるようになっていた。
「他にもお年寄りっぽいもの好きですよね、和菓子とか」
「確かに穏乃の所の御萩は大好きだ。あとおばちゃんの店の抹茶ご飯も好きだぞ」
「美味しいですよね」
勿論こんな軽口も叩くことができる。
というか和菓子好き=老人は偏見だ。三尋木に聞かれたら怖いぞ、焼き土下座じゃすまされん。
「ぅーん……」
「おっと」
いつの間にか寝入っていた宥がどこか寒そうに寝返りを打ち、少しでも暖を取ろうとして手を彷徨わせている。
後ろの荷物から持ってきた上着を手に取り、起こさないように宥の体に掛けてやる。
「んぅ……」
上着の肌触りでホッとしたのか気持ちよさそうに眠り続ける宥を見ていると、思わず笑みが浮かぶ。
最近将来の事も考えるようになったけど、もし娘ができたら宥みたいな子だったらいいな。気は利いて優しいし、家の手伝いもよくする子だ。欠点とすれば、いい子過ぎて寒がり以外の事であまり我儘を言わないことぐらいだろう。
「………………」
「ん? どうした和?」
「な、なんでもないです」
宥の頭を撫でていると、背中に和の視線を感じたので振り向く。
前にも……というより、最近特に感じる視線――そしてよく見る和の表情だ。うーん。
「えーっと……なあ、和。なにか聞きたい事とか言いたい事があったら何でも言っていいんだぞ」
「…………」
「晴絵みたいに麻雀も強くないし頼りないけど、これでもお前達の先生でもあるんだ。遠慮するな」
これでも教師を目指す身。最近の和が何かを抱えているのは流石にわかる。流石に身近にいる子の悩みを見過ごすわけにもいかない。
自分の事。家庭の事。麻雀の事。麻雀クラブでのこと。何に悩んでいるのかはわからないが、それでも出来る限り力になりたいと思う。
そんな俺の言葉が届いてくれたのか、意を決したようで和の表情が変わった――
「で、では………………………………こ、ここここ恋人とはどういう感じなのですか!?」
「………………え?」
顔を真っ赤にする和。思わずアホ面を晒す俺。実に対照的である。というかいきなり何を言い出すのだこの子は……。
「え、えーと……」
「ご、ごめんなさい!? そそその、ふ、普段のお二人を見ていたら、ぜ、是非聞きたくて!」
「いやいや落ち着けって」
テンパってるのかどんどん声を荒げながら身を乗り出す和。
今の声が聞こえたかなっと思い、チラッと川のほうを見るが、晴絵達がこちらに気づいた様子はない。というかあいつら潜って何してんだ……後で車に着替え取りにいかないと。
玄は玄で、少し離れた川岸で石を積み上げてなにか作っていた――ってネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか。完成度たけーな、後で見に行こう――と、話がそれたな。
「大丈夫か?」
「………………はい」
我に返ったのか顔を真っ赤にして俯く。ま、大声を出したのと内容が内容だけにな……しっかし和がねぇ、澄ました顔をしながらも意外に興味津々だなぁ……。
思わぬ相手と内容に顎を撫でつつ思考を巡らせる――が、思わず口元が緩む。
「……なんですか」
「なんでもないよ」
「笑ってます」
「おう、和が可愛くてな」
「ぶぅ……」
俺のニヤニヤした顔が気に障ったのか、頬を膨らませている。
いやいや、これが宥や憧ならお年頃で納得だし、玄なら何を企んでいるのかと訝しむ。しかし相手が和なら話は別だ。微笑ましい。あ、あと穏乃なら背後に誰かいないか確認するな。主に憧。
「しかしどういう感じって言われてもなぁ……」
漠然としすぎてて何を言ったもんかと困る。まさか夜は部屋で運動会なんて言えるわけがないし。いや、誰が相手でも言わないけど。
なにより相手は多感な時期の小学生。変な話を聞かせるわけにもいかないしな……親父さんが怖い。
「そうだなぁ……和ももう知ってるだろうけど、あいつと付き合い始めたのは今から三年前の秋だ。それからずっと付き合ってて、たいてい一緒にいるな。ほら、今日の昼もあいつと一緒に作ったものだ」
とりあえず当たり障りのないことを言いながら後ろの荷物にある弁当を指差す。
中身はから揚げ卵焼きなどの定番料理や、いくつか長野や奈良の簡単な郷土料理を詰めて来た。皆の分も作ってきたから中々の量だ。
チラッと横目で見ると、目を光らせながら真剣かつ真っ赤な表情で聞いていた。どんだけ興味津々何なんだ。
「そ、それじゃあ次に、二人はどうやって知り合ったんですか?」
「どうやって……ねぇ」
和の言葉に昔を――既に四年も経っていたことに驚き――思い出す。そういえばあの時は――
「辛かったなぁ……」
「何がですか!?」
炎天下の中バイクを押し続けた苦く辛い思い出がよみがえり知らず涙を零す……。
一人であれはつらかった……晴絵が来てくれなかったJ○Fでも呼んでしまうところだったし。
「な、泣くほどのことだったんですか……?」
「いや、これはちょっと別件だ……それで晴絵と会った時の事だよな」
ちょっぴりひいている和はさておき、悲しい記憶はよそに置き話を戻す。
とりあえず二度目に偶然会ったことやそれから連絡を取り合うようになったこと、そしてこっちの大学を紹介されたことなど、当たり障りのないものをいくつか掻い摘みながら話すと――
「……………………」
「……の、和?」
途中までふんふむと話熱心に聞いていた和だったが、いつの間にかうつむいていた。話しているうちに熱が入っていたため気が付かなかった。
なんだろう……つまらなかっただろうか?もしくは新子みたいに呆れたか……。
とりあえず手持無沙汰なのですぐそこにある宥の頭を撫でる。いつの間にか俺の足を枕にして眠っているし。
うーん……やっぱり子供の髪ってやわらかいなぁ、晴絵も昔に比べて伸ばしているけどちょっと固めなんだよな。ま、そこがむしろ良い。触り甲斐があっていいし、風呂で洗う時もやりがいあるから。
そんなことを考えながら髪を撫でていると、突如、腕をつかまる――和の手だ。
「…………のど「ドラマみたいで素敵です! もっと聞かせてください!!」あ、はい」
先ほどよりも興奮した様子で詰め寄ってくる和に思わずたじろぐ。
和ってムッツr……いや、歳相応の夢見る乙女だったんだな……。
「そうだなぁ、それじゃあこの間……でもないか、数か月前なんだけど晴絵と一緒に大阪に行ったんだけど、面白い子供達と会ってな――」
最近ではあまり聞いてくれる奴もいなくなっていたからか、普段よりも饒舌になる。
一応笑いになりそうな話を選んでいく。普段の日常のことから始まり、遠出をした時のことなどを。
色々と話をするが、どれも物珍しそうに和は聞いている。しかしそこまで面白いのかな?よくある話だと思うけど。
「父が厳しいので、あまりそういうのが……」
「ああ……なるほど」
和のシュンとした表情と言葉に納得。何度か顔を合わせているけど、あの親父さんならばそうだろう。小学生には悪影響だって言いそうだ。
流石に和の部屋には入ったことがないからわからないけど、恋愛漫画とかそういったのは買ってもらえそうじゃないもんな。性格的にも隠して買うみたいな悪知恵も出来なそうだし。
だからそういった女の子が憧れるような恋愛物っていうのはテレビぐらいでしか見られない。そしてその分、身近な俺たちのことが気になっていた、ということなのだろうな。
ま、それで和が楽しめるなら付き合おう。話して減る様な事でもないしな。
「そうだなー、他に「二人はお揃いのTシャツ持ってるんだよ、和ちゃん」……起きてたのか宥」
続きを話そうとしたら、視線を下にずらせば寝ぼけ眼の宥。というか勝手に恥ずかしい秘密をばらすな。
「カピバラのTシャツでね、とっても可愛いんだ~」
「ほうほう」
「京太郎さんはね、お味噌汁は赤味噌が好きなんだよぉ」
「ふむふむ」
「あとね、京太郎さんの押し入れには「やめんか」はうっ……」
余計なことまで口走りそうになった宥のお凸をはじくと涙目になった。というかなんでアレを知ってるんだコイツは……。
「あったかくない……」
「はいはい」
「……えへへ」
恨めしそうに見上げる宥を誤魔化すようにお凸を摩る。普段が普段だけに宥に甘えられるとどうも弱いんだよなぁ……。
「これは……浮気でしょうか?」
「テレビの見すぎだ」
「わ、私は……良いよぉ」
「修羅場ですね!」
「テレビの見すぎだ!」
目を輝かせる和ともじもじし出す宥にたじたじである。なんで俺ってば子供二人にセクハラされてるんだろうなぁ……。
「……飯にするか」
「あ、逃げました」
「おーいっ! 昼飯にするぞー!」
「「「「わーい!」」」」
誤魔化すように大声をあげて晴絵たちを呼ぶと、一目散に駆け寄ってくる。犬かよ――って、おい。
「あれ、どうした?」
「お昼はー?」
「師匠のご飯~」
「お腹すいたー……って、三人ともなんでそんな顔してるのよ」
宥と和の顔は見えないけど、俺と似たような表情だろう。いや、だって……な。
とりあえず視線を逸らす。晴絵のは見慣れてるけど、他の3人はやばい。
「「「「???」」」」
「透けてますよ……」
「「「!!?」」」
「?」
呆れた様な和の言葉で状況が呑み込めたのか、晴絵達が息をのむのが聞こえた。
見ていない。俺は見ていないぞ。意外に大きい玄のおもちや結構派手な憧の下着も。あと穏乃はブラぐらいつけなさい、擦れて痛いだろうに……。
「あ、あ、あわわわ!!?」
「いやぁああああああ!!?」
「み、見るなああああああ!!」
「あ、赤土さん!?」
「ええっ!?」
「グエッ……」
「……憧たちはなにやってるんだろ」
玄と憧が水へ飛び込む音を背景に、視線を隠そうとする晴絵に押し倒される俺。勿論隣に座っていた和と膝を枕にしてた宥も巻き添えだ。
流石に軽いといっても三人分の体重がのしかかり動けない。和と宥のおもちが思いっきり当たってるけど動けない。動けないものは動けないのだ!
「京太郎! そのまま目開けたらダメだから!」
「あ、赤土さんっ、重いで……す」
「濡れてるけどあったかぁ~い」
「あ! ず、ずるいのです!」
「なんで玄まで跳び込んだ!?」
「??」
さらに重なり合うアホガこども麻雀クラブ女子達。途中で穏乃も乱入し、止めようとした憧まで巻き込まれた。何やってるんだろうなぁ……
その後、俺はおもちとおもちの間の生命となりしばらくこの空間をさまよい続けた。
そして動こうとしても動けないのでとりあえず――楽しむことにした。
そんなバカみたいな俺たちの日常。
だけどある日、たった一本の電話によってそれは崩れ落ちた。
和の出番はないといったな?あれは嘘だ……という二十七話でした。というかいつの間に和が中心になっていた。和はムッツリの耳年魔。
それでは今回はここまで、次回もよろしくお願いします。