君がいた物語   作:エヴリーヌ

38 / 67
咲「伊達や酔狂でこんな頭をしているわけではないぞ!」

氵 火 火「」
氵 也 田「」
タ コ ス「」



5話

 新一年生の入学式から数日たち、新学期が始まった。

 一年生は本格的に学校が始まると言うことで楽しそうだし。二、三年生も新しいクラスに不安と期待を膨らませる姿が見える。そんな生徒たちの様子に、当時自分が学生だった頃を思い出させられる。

 

 あー、久しぶりにハギヨシ達誘って飲みにでも行くか。

 と言っても、ハギヨシは執事の仕事上多忙だし、他に仲の良かった奴らは県外で働いているやつも多い為会う機会はほとんどない。

 それでも元々べったりしない連中が多いからなのか、久しぶりに会った時でもお互い昨日会ったばかりの様に話せる関係なのはいいもんだ。

 

 

「おーい、京太郎。始業式と会議が終わって気が抜けたのはわかるが意識飛ばし過ぎだぞー」

「大丈夫ですって、それより先生も職員室で競馬新聞広げないでください」

「そりゃ鴉に空を飛ぶなというぐらい無理な話だ」

 

 

 隣の机で赤ペンを持ちながら競馬新聞を読んでいた先生が、コーヒーを片手にボンヤリと窓の外を見ていた俺に笑いながら話しかけてくる。

 確かに結構フリーダムな学校ではあるけど、堂々と競馬新聞広げているってどうなんだろうな……。まあ、逆に気さくでいいのか?在学当時から嫌な先生っていなかったし。

 

 

「んで、京太郎。どれが来ると思う?」

「俺やったことないからわかりませんって」

「勘でいいんだよ勘で、麻雀って運の要素が強いんだから上手く使って当ててくれよ。この前のケンタウルスホイミ逃してヤバいんだよ、来ると思ったんだがな……」

「んな、無茶な……」

「それじゃあ今度一緒に行くか? 百聞は一見にしかず。されど百見は一戦にしかずだ」

「折角ですが麻雀部の面倒もありますし、丁重にお断りします」

「ああ、そういえば新入生二人が入ったって言ってたな。ちゃんとした部に昇格できるまでもう少しじゃないか、頑張れよ」

 

 

 個人的にギャンブルは好きではないし、楽しそうに勧めてくる先生は悪いが顧問を理由に断る。すると先生は特に残念そうな顔することもなく、むしろ麻雀の事で激励をくれた

 まあ、誘ってくるのはしょっちゅうだし今更か。それに実際和達が入って忙しくなりそうだしな。誘ってくれたのは嬉しいけどしょうがない。

 

 

「それじゃあ、俺部室の方に顔出してきますね。お疲れさまでした」

「おう、お疲れさん――と、それでどれがいい?」

「いや、だから……」

 

 

 挨拶をして麻雀部の方へ行こうとする俺に対し、先生が手に持っていた新聞を再び見せてくる。このまま無視して行くのはアレだったので、適当に選ぶかとちらっと目を通す。

 

 

「あー……それじゃあ6と……22はないのか、じゃあ2と6でどうです?」

「2と6な、よしよしゲシュペンストとグルンガストだな」

 

 

 俺の告げた番号に楽しそうに丸を付ける先生を置いて、他の先生にも同じように挨拶をしてから旧校舎へと向かう。

 

 ――まったく……未練がましいな俺も。

 

 

 

 

 

「入っていいかー?」

「どうぞー」

 

 

 旧校舎にある麻雀部部室に着いて、ノックをしてから入っていいか了承を聞く。

 以前ノックをせずに入ったら竹井が着替えている所に遭遇して、竹井もそんな所で着替えてる自分が悪いのがわかっているのか怒られはしなかったが、しばらく気まずい状態が続いてしまった。

 

 なので、時々忘れることもあるがそれからはなるべく確認してから入るようにしている。といっても、竹井もあれから着替える時は奥の方を使うようにしているらしいから二度目は未だにないが。

 竹井から返事を返ってきてから中に入ると、竹井だけでなく染谷と新入生二人も既に集まっていた。

 

 

「おう、皆お疲れ様」

「おつ~」

「おつかれさまじゃ」

「お疲れ様です」

「おつだじぇ!」

 

 

 とりあえず挨拶をすると皆から思い思いの返事が返ってくる。

 しっかりとした挨拶を返す染谷や和と違い、竹井や片岡は随分とフレンドリーな返しをしてくるが、お堅いのも面倒なので訂正はしない。

 挨拶が終わった所で部屋の中を見ると、皆が机に座って何か作業をしていることに気付く。

 

 

「ん? なにしてんだ?」

「あら、決まってるじゃない。新入部員勧誘のポスター作りよ」

「あー、そういえば明日だったな」

「もう、顧問なんだからしっかりして欲しいわ」

 

 

 思い出したように言う俺に呆れた表情を見せる竹井。

 うちの高校では一学期の初日ではなく、次の日に新入部員の勧誘を行うのでその作業みたいだ。準備が遅い気もするが去年もこんな感じだったし、別に文化祭みたいに大がかりな準備をする必要もないので十分間に合うだろう。

 そして俺と竹井が話している間にも染谷達はそのための準備を進めている。

 

 

「むう……タコスの絵は書いちゃダメなのか?」

「料理部じゃないんじゃから駄目にきまっとろう」

「ここはこうしてと……」

 

 

 タコスの絵を描こうとする片岡に冷静なツッコミを入れる染谷と黙々と去年配布したチラシを見て新しいのを書いている和。この前少し話したぐらいだけど、真面目なのは相変わらずみたいだな。

 ちなみに片岡がタコスにこだわる理由は後の雑談で聞いた。タコスが好物とか珍しいな…。

 

 

「とりあえず順調そうだな」

「当然! 和と優希が入ってくれたおかげで今年こそ正式な部になれそうだしね、気合の入り方が違うわ。ふふふ」

「入り方が違うって……」

 

 

 何か含み言った言い方をする竹井に嫌なものを感じる。まさかな……。

 

 

「ちょい竹井。こっちこい」

「あら? デートのお誘い?」

「デ、デート!?」

 

 

 奥の部屋で話すため竹井を引っ張ると、軽口をたたく竹井に何故か和が反応して立ち上がる。

 

 

「ど、どうしたんだ原村?」

「デートに行くんですか?」

 

 

 恐る恐る聞いた俺に何処か凄味のある声で詰問してくる和。

 おかしいな……和ってこんな怖かったっけ?いや、でも、元々内向的だったのが成長して歳相応になったって考えるべきか?

 どうするか俺が悩んでいる間に、のほほんとしている竹井が依然怖い表情をしている和に近づく。

 

 

「アハハ、冗談冗談。部長と顧問の話よ。ねぇ? 須賀先生」

「お、おう勿論だ」

「……そうですか」

 

 

 ケタケタと笑っている竹井に肯定すると、どこか憮然としながらも納得する和。

 あれか?真面目に作業してる自分たちを放っておいて、どこかに行こうとする俺達が不真面目に見えたのか?確かに真面目な和ならありそうだ。

 ならしょうがない、あまり本人の目の前で言うのもアレだけど仕方ないか。

 

 

「やっぱここでいいぞ、竹井」

「あら、そうですか?」

「ああ、それで――もしかして竹井、明日の勧誘で原村を使おうとしてないか?」

「ふぇ?」

 

 

 竹井に尋ねると、まさか自分の事が話されると思わなかったのか、和が気の抜けた声を上げる。

 そして俺の質問に対し、誕生日の為にサプライズパーティーをしかけていたのに、それを前日にばらされた進行役のような表情をする竹井……そのままだな。

 

 

「もう、明日の楽しみに隠しておいたのにバラさないで欲しいわ~。そうよ、インターミドルチャンプの和がいれば新入部員もどんどん入ってくるはずよ!」

「楽しみって…………はぁ、言っておくけどそれ禁止な」

「ちょ、なんで!?」

 

 

 うきうきと話す竹井にダメ出しをすると途端に慌てだした。

 

 ――はぁ……まったく、こいつ和達が入って嬉しいせいか前に自分で言っていたこと忘れているな……。

 

 

「あのなぁ竹井……それじゃあ聞くけど、その勧誘で原村を前面に出したらどうなると思う?」

「そりゃインターミドルチャンプとお近づきになりたいってことで麻雀に興味持つ子が……」

「ああ、出て来るかもな。だけどお前去年自分で言ったこと忘れたか?『ミーハーな気持ちで入ってほしくない。弱くても麻雀が好きな人や好きになってくれる人が麻雀部に入ってほしい』ってな」

「あ……」

 

 

 俺の言った言葉を聞いて思い出したのか、途端にバツの悪そうな顔をする竹井。

 

 既に去年の時点でうちの学校の有名人だった竹井はその名を使えば部員を集めることは出来たのだけど、先ほど俺が言った台詞通りの考えを持っていた為、そういった手段は取らなかったのだ。

 だから今回浮かれていたとはいえ、和を客寄せパンダにすることは竹井自身の意志に反することだ。

 

 勿論和自身もそんな風に扱われるのは嫌だろう。

 だけど当日竹井から懇願されたら断りきれなかったかもしれないし、竹井を傷つけることになるかもしれないが、この場でしっかりと言うしかなかったのだ。

 

 

「とまあそういうことで、明日は普通の勧誘だけだぞ。ついでにもしかしたら和の顔を知ってる奴もいるかもしれないから、和にはなるべく裏手に回ってもらった方がいいな」

「そうね……勝手に決めてごめんなさい和」

「あ、頭を上げてください部長! た、確かに本当にさせられていたら嫌でしたけど、まだ何もしてないんですから」

 

 

 俺に言われたことが身に染みたのか、和に向かって頭を下げる竹井。そんな竹井に先ほどの話を聞いて複雑そうな顔をしていた和も焦りだす。

 

 ――ふぅ……仕方ないな。

 

 

「それにな、竹井。もし和を見て入ってくる奴って主にどんな奴だと思う?」

「……え? どうって?」

「おいおい、決まってるだろ。インターミドルとか関係なく、和にお近づきになりたいって考える男子達に決まってるだろ」

「わ、私にお近づきに……!?」

「そりゃそうだろ。だってこんなbigな和の胸だぜ、絶対不真面目な男子ばっかりが集まって部活にならないに決まってるだろ」

「完璧にセクハラじゃのう」

「サイテーだじぇ」

 

 

 拳を握って力説する俺に冷たい視線を向ける染谷と片岡。確かにセクハラには違いないが、一理どころか十里ぐらいある話だと思う。

 実際和が麻雀部に入っているって知られればそういう行動をとる男子は多いと思うし、もしそんなのが入れば先ほど言っていた通りの面倒なことになるだろう。

 

 例え入部させる前に人柄を見ようと面接でもして真面目そうな奴だけ入部させても、それまでにかなりの人数を落とすだろうから『あの麻雀部は選り好みする部活だ』みたいな悪い噂が立って、もしかしたら純粋に興味を持っている奴らも来なくなる可能性もある。 

 だからなるべくそういったのは避けておきたい。

 

 ――と、考えてはいても口には出さない。いや、口に出しても駄目だろうが、先ほどのセクハラ発言で部員たちの冷たい視線に晒されてしまった俺であった。

 そんな俺を無視するように皆は先ほどの作業に戻って行く。あー……汚れ役はきついぜ……。

 

 そんな感じで落ち込みつつも、みんなの視界に入らないように部屋の片隅で牌譜の整理をしようとすると竹井が近づいてきた。

 

 

「ん? どうした?」

「えっとね…………ありがと、先生」

 

 

 竹井は顔を赤くしつつそう一言告げると、急いで和達の方へ戻って行く。

 ……流石にわざとらしすぎたか。和達もこっち見て笑ってるし、皆にはバレバレみたいだな。……さて、俺もなんか手伝うとするか。

 

 

「あ、セクハラ教師が来たじぇ!」

 

 

 訂正。一人だけわかってない奴がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてあれから一週間後。新しい生活で浮足立っていた生徒達も落ち着き、校舎にはのんびりとした空気が漂っていた。

 心配だった咲もクラスの中心とまではいかないが、それなりに話す知り合いは出来たみたいで一安心だ。まぁ、それとは反対にお通夜ムードを漂わせている奴もいるんだが……。

 

 

「結局誰もこなかったわね……はい、ハートの9」

「何人かは見学に来たけど大抵は和目当てじゃったからのう。ほれスペード12」

「ご、ごめんなさい……スペードの13です」

「別に原村が謝る必要ないだろ、実際その中に真面目に麻雀する気の奴はいなかったしな。ほれダイヤの4」

「むむむ……真面目に見学来たやつらも部長が虐めて追い出したしなー……くっ、パスだじぇ」

「ちょ、人聞きの悪い!? 普通に打ってただけじゃない」

「いや、経験者だからって悪待ちなんて性格の悪いことされれば心も折れるじゃろ。ちなみにそういう優希も跳ばしまくってたのう」

「記憶にございません」

 

 

 あれから一週間たっても部員が増えなかったことを嘆く竹井に容赦なくツッコミを入れる染谷達。

 そうなのだ、結局あれから部員は集まらず、部員四人顧問一人と言う現状は一切変わっていなかった。

 

 勧誘自体はそれなりに見物人も来たのだが、本気で麻雀をやるなら長野には名門の風越や他の高校もあるので、同好会しかない清澄に来るものはいなく、初心者からすれば麻雀は敷居が高いのか、実際に部室まで足を運ぶものはあまりいなかった。

 

 まれに興味を持って部室に足を運んだ生徒も、和目当てで見に来たやつらは竹井や染谷が直々に面接をして真面目そうなのがいなかったので切り、数少ない真面目な見学者も竹井と片岡の容赦ない洗礼に心を折られて帰ってしまったのだ。

 

 

『ふふん、此方が負けるわけないわ』

『あ、それロン』

『にょわー!?』

 

 

 こんな感じだ。

 まあ、和目当ての連中からは悪い噂が流されなかったのは良かったとするか。前進も後退もしてないけど。

 

 ちなみに現在、片岡が携帯のアプリで練習したと言うので五人でトランプの七並べをしている。おい、麻雀やれよ。

 

 

「まあ、部費は下りないけどうちは同好会でも大会は出られるから、個人戦があるし良いじゃないか」

「そうなんですけどねー……一度でいいから団体戦も出て見たかったわー。合宿とかもしたかったし」

「お、そういえば、部長たちの去年の個人戦の映像見たじぇ。結構いい成績だったんだな」

「ハハ、良いって言っても部長は7位。わしは13位じゃったがな」

「まあ、去年も強い女子は多かったしな、染谷も一年目にしては上出来だよ。竹井なんか一年の時はガチガチに緊張してたし」

「それは言わないでほしいわ……」

 

 

 俺の言葉で当時の事を思い出したのか、恥ずかしげな顔をする竹井。

 中学の時にも大会に出ていたとは言え、高校になって初めての大会を一人で出ると言うことで相当緊張してたからなこいつ。

 

 

「そういえば……私も清澄に決まった後に、部長が一年生の時の動画見ましたよ」

「ああ、あの時の竹井か……やっぱそれって『アレ』やった時か?」

「はい、あまり褒められものではないですね…」

「ぶー……緊張してたんだからしょうがないじゃない」

 

 

 昔の事を持ち出す俺達に不満の声を上げる竹井。

 ちなみに『アレ』とは竹井が時々やる悪い癖の事であり、俺が顧問になってから矯正はさせていたんだが、大会の時に緊張から思わずやってしまったのだ。

 周りからの印象が悪くなるからやめさせたんだけど、癖って言うのはそう簡単に治らないしな。

 

 

「ま、まあ昔の事は良いじゃない! それより二人も個人戦は出るんでしょ?」

 

 

 慌てながら話を変える竹井。無理があるぞ。

 

 

「そうですね、できれば出たいと思っています」

「目指すはNo.1だじぇ!」

 

 

 そんな竹井に話を合わせて、遠慮しながらも参加を表明する和と自信満々な片岡。

 まあ、和だけじゃなく片岡も初心者どころか結構な腕だし問題ないだろ。一応学校の看板を背負っているので、顧問としては始めたての初心者を出すわけにもいかないからな。

 

 

「あら、自信満々みたいだけどそう簡単にはいかないわよ。長野の高校には腕利きがわんさかいるからね」

「なんでおんしが偉そうにしてるんじゃ…」

「それはもちろん私もその一人だからよ」

 

 

 胸を張って言う竹井に呆れる染谷。

 確かに昨年まで個人戦に出ていた元三年生もいなくなり、竹井も腕を上げたから言いたいことはわかるけど自分で言うなよ……。

 

 

「まあ、部長の言うとおり長野には結構手強いのが揃っとるからな、今のうちにそれに向けた練習は必要じゃ」

「手強いって……もしかして昨年、全国常連校の風越を倒して全国で猛威を振るった龍門渕高校ですか?」

「あら、しっかりと調べてるのね」

「同じ長野ですから。それにMVPなどを受賞した選手もいますからね、それぐらいは知っています」

「天江衣だっけ? かなりヤバいみたいな話聞いたじぇ。見た目は完全に幼女だったけど」

「片岡も似たようなもんだろ……。勿論龍門渕もそうだけど風越の福路も強敵だし、他にも強いのは多いから一筋縄じゃ終わらないな」

「そうねぇ~龍門渕さんも強敵だし、美穂子も去年の団体戦のリベンジで腕を上げてるだろうからやっかいね」

「ん?部長って例の龍門渕とかと知り合いなのか?」

 

 

 竹井の言い回しが気になったのか不思議な顔をして聞いてくる片岡と、同じように不思議な顔をする和。それに対し得意そうな顔で説明を始める竹井。悪そうな顔だな。

 

 

「これでも個人戦は良い成績だったからね、それなりの付き合いってわけよ。それに龍門渕さんとは須賀先生のつながりがあるし」

「え? 須賀先生がですか?」

「なぬ?」

 

 

 竹井に台詞に反応してこちらを見る和と片岡。別に大したもんじゃないし、こっちに振って来るなよ。

 とは言え、話を振られたのに無視するわけにもいかず答えることにする。

 

 

「あー……昔の同級生が龍門渕の屋敷で働いててな。その関係で昔から付き合いがあるんだよ」

「人数が足りないから団体戦みたいなのは無理だけど、何度かまこと一緒に相手をして貰ったわ」

「なるほどなー、須賀せんせーも顔が広いんだな」

 

 

 俺達の説明で納得をする二人がこちらを尊敬したような視線を向けてくるのが微妙に居心地悪い。別にハギヨシのつながりで仲良くなっただけだし、俺自身が何かしたわけじゃないからな。

 あー……でも、前にどっかでそういった人脈を作るのも力の一つだって聞いたっけな。

 

 

「まあ、龍門渕は全国行くほどの実力で他の学校も手ごわい相手じゃからな。しっかり対策練らんと」

「そうね、去年の映像が残ってるからそのうち見ましょう」

「ほーい……って負けっちゃったじぇ」

 

 

 竹井の提案に片岡がやる気のあるのかないのかわからない返事を返す。それと同時に片岡の敗北で七並べが終わる。

 久しぶりにやったけど、これってやっぱ性格が出るゲームだよな。

 

 

「それじゃあさっそく麻雀部らしく練習始めましょうか。……それにしてもほんと誰かこないかしら」

「流石に一週間経つし難しいだろ。体験入部期間もあるとは言え、ほとんどの生徒は既に所属する部活も決めてるだろうし」

「二人が入ってくれただけでも儲けもんじゃ」

 

 

 未だ落ち込んでいる竹井を皆で慰めつつも麻雀の用意をし始めている――――と、突如どこからか地鳴りのようなものが聞こえ始めた。

 

 

「ん? なんだ?」

「足音、でしょうか……?」

 

 

 和の言葉に耳を澄ませてみると、確かにそれは足音に聞こえた。

 しかし足音にしてはそれは聊か大きくさらにどんどん近づいており、部室の近くまで来たと思ったらいきなりに静かになった。

 

 

「「「「「…………………」」」」」

 

 

 顔を見合わせる俺達。

 

『部長なんだからお前行けよ』

『先生こそ行くべきでしょ』

『そうそう、ここは年齢序列だな』

『それじゃあ若いもんから行くっていうのもありじゃの』

『何を言ってるんですか』

 

 視線で会話をする俺達。団結力は完璧だな。

 

 すると、牽制を続ける俺達を余所に部室の扉が開かれる。そこにいたのは――

 

 

「……咲?」

 

 

 そこにいたのは我が下の幼馴染の咲だった。ただしその顔は窓が入ってくる太陽のせいであまり見えない。

 しかし咲が俺の言葉に返すこともなくこちらに向かって歩いてくると、ようやく顔を見ることが出来た。

 

 ―――――――――――怒っている。

 

 かつて咲が大事にしていた本に照がジュースをこぼした時と同じぐらい怒っていた。

 その魔王的な怒りに、俺を含め他の四人も固まる。

 

 

「……京ちゃん」

「ひゃい!?」

 

 

 いきなり声をかけられたので間抜けな声を出してしまったが、誰も笑ったりからかったりしない。恐らく気持ちがわかるからだ。

 

 

「な、なんだ……咲?」

「入部届頂戴」

「入部届って……もしかして麻雀部……のか?」

「それ以外に何があるの?」

「そ、そうだよな……アハハ。ほ、ほら竹井、入部届しまってあるだろ? 出せよ」

「わ、私!?」

 

 

 話を振ると驚く竹井だが、実際に用紙を持っているのは竹井なのでしょうがない。

 魔王的な咲が恐ろしいのか、本来五人目の部員が揃うかもしれないと言う状況なのに竹井はそのことに頭が回っていないみたいで、ギクシャクした動きで棚に置いてある用紙を取りに行く。

 

 

「は、はい、み、宮永さん……」

「ありがとうございます」

 

 

 竹井から用紙を受け取ると、ポケットからボールペンを取りだしサラサラと名前を書いていく咲。

 

 

「な、なあ咲 「はい、これで私も部員だね」 お、おう……」

 

 

 何があったのか尋ねようとする俺に書き終わった入部届を渡してくる。そして咲はそのまま竹井の方へ振り向いた。

 

 

「これで五人揃ったから団体戦に出れますよね?」

「え、ええ……そうね」

「はい、それじゃあ全国大会行きましょうね」

「……え?」

「そしておねえ、いえ、白糸台を潰しましょうね」

「………………………え?」

 

 

 咲のぶっちゃけた台詞に言葉を失くす竹井。横で聞いていた俺達も似たようなものであった。

 

 

 

 こうして……なんだかんだありながらも、とうとう部員が五人揃った清澄麻雀部であった。

 ちなみに後日、おじさんから咲がこうなった理由を聞くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<とある鉄板姉妹の喧嘩>

 

 

「――――まったく…お姉ちゃんもチャンプだからって無理しちゃだめだよ。うん」

 

「え、部活? まだ決めてないよ」

 

「うん、どうしようか考えてるんだけどね……」

 

「京ちゃんの麻雀部? 誘われていってみたけど……大会とかで人前に出るのは恥ずかしいよ。TV出るなんて私死んじゃうって……」

 

「……あ、そうだ思い出した。清澄の麻雀部に京ちゃんが奈良にいた時の知り合いが来たんだよ」

 

「うん、京ちゃんはちょっと元気なかったんだけど、それでも昔の知り合いに会えたから嬉しそうにしてたかな」

 

「そうなんだけどね……でもね、その子……胸がすごかったの…………うん、私たちとは逆の意味で」

 

「うん、うん、え、そうなの? ふーん、オメデトウ、オネエチャン」

 

「ふーん……―――はぁ? 何言ってるの」

 

「それとは関係ないでしょ。というか大きくなったって言ってるけど、それってただ太っただけじゃないの?」

 

「違う? だったら前と今の体重言ってみてよ…………ほら、やっぱり言えないんだ」

 

「確かに私も変わってないけど、お姉ちゃんと違ってまだ二年分の余裕があるからね」

 

「………………………………………………………」

 

「いいよ、久しぶりにガチで行こうか」

 

「ううん、その必要はないよ。私も麻雀部に入って全国大会行くから」

 

「そうだよ。『京ちゃんのいる』麻雀部でね」

 

「………………………………………………………」

 

「うん、私にも『デブ』のお姉ちゃんはいないよ」

 

「………………………………………………………」

 

「………それじゃあ首洗って待っててね」

 

 

 

 

 

「(うちの上の娘と下の娘が修羅場過ぎる…)」

 

 

 




 ということで咲ちゃん入部回でした。別に部室に入った時は緊張していただけで、ガチ魔王ではありません。咲ちゃん可愛い。咲ちゃんマジプリチー。
 部員云々とかに関しては、部員勧誘は和たちが入った時期がわからないのでねつ造だとしても、他は原作でもこんな感じだったから足りなかったりしたんじゃないかーと言う感じで書きました。

 アニメに関してはまだ見てない人もいると思うんで、あえてここでは触れません。
 ただ一言だけ言うと、あの阿知賀勢をヒロインとして書く自信がなくなってきた…。


 それでは次回もまたよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。