君がいた物語   作:エヴリーヌ

39 / 67
照「私に妹はいません。お兄ちゃん(京ちゃん)はいますけど」
宮永母「浮気!?」
宮永父「ご、誤かくぁwせdrftgyふじこlp」



6話

 そんなこんなで咲が入部して一週間。

 申請も滞りなく通り、麻雀部は名ばかりではない立派な部へと昇格。学校からの粋な計らいから予算も今学期から出してくれるとイうことなので、これからの事を考えると実に幸先が良い。

 

 ただ一つ残念なことは、結局咲が入った後も他に入部希望者は現れなかったことだが、正式な部となり、五人揃ったことで個人戦だけでなく団体戦にも出場出来るだけで既に十分だろう。

 

 部員達にもそれなりに変化があり、竹井は念願の部に昇格し団体戦にも出られるからと機嫌が良いし、染谷もさらに後輩が増えたことで嬉しそうだ。

 

 また、一年生三人もそれなりに打ち解けたのか、人懐っこい片岡が中心になり、クラスは違うが部活以外でも昼食を一緒にするなどして交流を深めているみたいだ。

 内向的な咲と気難しい和が少し心配だったけど、間を取り持つ片岡やお互い人見知りという共通点があるおかげか、今ではお互いに名前で呼び合っている。

 ………別に他にも共通点である俺のことで盛り上がったからというわけではない。俺は何も聞いてないぞ、うん。

 

 とまあ麻雀部の人間関係は一旦置いておき、照の事がある咲を筆頭に全員が全国大会に向けてやる気になっているため、ここ一週間は精力的に練習に力を注いでいる。

 なので、麻雀という基本四人でやる競技の要素上どうしても一人余ってしまうので、俺もなるべく部室に顔を出してそいつの指導にあたっていた。

 デジタル面では和に劣るが、それでもそれなりのものだと自負しているしので、一応役に立っていると思いたい。

 

 ということで、今日も仕事を早めに終わらせて健気にも部室に向かっている俺なのであったとさ。

 

 

 

 

 ―――おしまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――と言うわけもなく、いつもの様に旧校舎にある部室のドアをノックしてから部屋に入る。

 んー、相変わらずボロい部室だけど大会で優勝とかしたらもっといい部屋貰えるのかね。でもそれなりにここにも愛着があるし何とも言えないよな。

 

 

「うーっす、お疲れ」

「おー……せんせーお疲れだじぇ」

「あら、おつかれさまー」

 

 

 俺が入ると、どこか難しそうな顔で雀卓を睨んでいる片岡とそれを楽しそうに見ている竹井が挨拶を返してくれる。

 しかし返ってきたのは二人分だけで、他の部員の姿は影も形もなかった。

 

 

「あれ……二人だけか? 他の奴らは?」

「まこは実家の手伝い。咲と和にはそれについて行ってもらったわ」

「実家の手伝いって……ああ、例のメイド喫茶か」

「メイド雀荘よ」

「あんま変わらないじぇ」

 

 

 間違える俺にツッコミを入れる竹井と雀牌を弄りながらさらにツッコミを入れる片岡。いや、十分変わるだろ。

 

 

「って、なんで雀荘?――――あれか、借金の肩に二人を売ったのか……なんてひどい女なんだ」

「見損なったじょ部長!」

「なによこの私が悪女と言う風潮……」

 

 

 冗談をかます俺とそれに乗る片岡に、納得がいかないとばかりに竹井が腕を組む。なんだろうな、雰囲気ってやつか?竹井からはそんなのが出てる気がするんだよな。

 

 

「まあ、冗談はさておき、なんでだ? 一般人相手に経験を積ませるとかか?」

「あら、冴えてるわね須賀先生、半分正解よ。咲はインハイチャンプのお姉さんとやり合うあたり十分強いけど、やっぱりそれだけじゃ足りないものもあってね。和もミドルチャンプと言っても経験で言ったらまだまだだからね」

「なるほどな……でもあの二人相手じゃ普通の人だとキツくないか?」

 

 

 確かに咲は家族や俺相手に打つことはあっても、外で他の人と打つことはなかったからな。和に関しても、咲みたいに今まで表に出てこなかったり、高校になってから才能が開花する雀士も多いからミドルチャンプと言っても油断はならない。

 納得しつつも再び疑問に思ったので再度聞くと、竹井は何処か得意げな顔をしている。……やっぱ悪女ぽいな、その顔。

 

 

「もちろんそこは完璧よ。靖子に行ってもらったから」

「靖子って……ああ、例の藤田プロか」

「そういうこと。靖子だったらあの二人の鼻をきっと折ってくれるわ。この先全国に行くならまず龍門渕を倒さなくちゃいけないんだから、咲達には一度敗北してもらって、しっかり上には上がいるだってことを知ってほしくてね」

「なるほどな……確かにそういったのも必要だな。すまん、そこらへん気が回ってなかったわ」

「ふふ、貸し一よ」

 

 

 楽しそうに言う竹井に不安に思うが、しょうがない。こういったのは顧問が色々考えるべきだけど、部の昇格とかで忘れていた俺が悪いからな。

 

 藤田プロには直接会った事はないから竹井達からやTVで見るなどの情報でしか知らけど、あのまくりの女王相手に指導してもらえるならあいつらもいい経験になるだろう。

 ――と、そこで気になったので竹井に再度尋ねる。

 

 

「なんで片岡は行ってないんだ?」

「ああ、一緒に行かせるつもりだったけど、この子だけ小テストの成績が悪くてその再テストのせいで伸びたんですよ、うふふ……」

「なんもかも政治がわるいじぇ……」

 

 

 どこか恐ろしい笑みを浮かべる竹井とそれから目を逸らして汗をたらしながら言い訳を始める片岡。悪いのは政治じゃなくお前の成績だっつーの。

 

 

「ったく……県大会で勝っても補習で全国いけないなんて嫌だぞ。なんならこの前言った通り勉強見てやろうか?」

「えー……せんせー勉強教えられるのか?」

「先生だからな」

 

 

 当たり前の事を聞いてくるので当たり前のことを返す。

 勉学と言うのは常に発展しているから、教師と言う立場上受け持ちの教科は生徒と同じように勉強してるし、新米教師でもあるので受け持ち以外も知識がさび付かない程度にはやっているのだ。

 

 そんなわけでこちらとしては100%親切な気持ちで言ってやったのだが、片岡は嫌そうな顔をしていた。まあ気持ちはわかるが。

 

 

「でも面倒臭いしなー……また今度頼むじぇ」

「おいおい……大丈夫か?」

「そこらへんは私も不安だけど後で詰め込めばいいし、今は麻雀の練習が先ね。なるべく東場の時の勢いを南場でも持っていけるように訓練訓練」

「うげぇー……疲れるじぇ」

 

 

 もう勘弁してくれという片岡に嬉々として更なる特訓を課す竹井。その表情は実に楽しそうだ。

 そんな二人を見ながら、とりあえず俺にやれることはなさそうなので部室においてあるコーヒーを入れにいく。

 

 

「ほら、牌を切る速度が遅くなってるわよ。集中しなさい」

「うう……タコスを食べさせてくれぇー」

 

 

 そしてコーヒーを手に持ち窓際まで行って、片岡の悲鳴と竹井のS声をBGMに外の景色を眺める。

 

 その後、日も暮れた頃に帰ってきた咲と和は、どうやら藤田プロにはコテンパンにされたみたいだが、それでも何かを得たのかどこか晴々とした表情をしていた。

 

 

 

 

 

 ――ふむ、プロの指導か……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして週末。土曜日と言うことで半ドンだが、麻雀部はいつも通り午後には活動を始める。

 

 上級生二人が多忙なため、全員揃うということはあまりないのだが、今日は事前に全員集まるように知らせていた為しっかりと揃っていた。

 とはいえ、わざわざ全員集めたことに皆何やら戸惑っているみたいだ。

 

 

「そんで須賀先生はなんでわざわざ今日前もって召集をかけたんじゃ?」

「そうね、聞いても当日になったら教えるとしか言われなかったし、そろそろ教えて欲しいわ」

「んー、ちょっと会わせたい奴がいてな、もう少しで来ると思うんだけど…」

「会わせたいって……もしかして彼女!?」

「違うってーの」

「うわぁ! 髪の毛がー!?」

 

 

 的外れな事を口に出す咲の頭に手を乗せてグリグリとやると悲鳴をあげだした。

 そして空いているもう片方の手でポケットから携帯を取り出してみるが、未だ到着したとの連絡はない。

 

 

「おかしいな、そろそろ連絡が来ると思うんだけどな……ちょっと駅まで 「おいーっす、きちゃったぜ~」 ……おいおい」

 

 

 先に駅に行って待つかと思い、外に出ようと思ったら唐突に部室の扉が開けられた。

 

 その音に俺達がそちらを振り返ると、そこにいたのは今どきの日本人には珍しく和服を着て、扇子を持った小柄な長髪の女性だった。ついでに言えば、未だ電車に乗っているはずの俺の待ち人でもある。

 

 そいつを出迎えに動き出す俺とは対照的に、奇妙な出で立ちの珍妙な客の登場に咲達は驚き固まっている。

 

 

「おう、久しぶり。悪いな、わざわざ来てもらって。というかよくこの場所分かったな、駅まで迎えに行くって言ってただろ」

「久しぶり~。いやねぇ、前に文化祭に来た時の事覚えてたから、センパイを驚かせようと思って黙ってきたわけなのさ。どう? どう? びっくりした?」

「いや知らんし」

「人の口癖パクんなってーの!」

「悪い悪い。後でガム買ってやるから許してくれ」

「子ども扱いすんなし!」

 

 

 めんどくさいので適当にあしらうと、さらにプンスコ怒り始めたので宥めてみるが、さらに怒り始めた。とはいえ、いつも通りの挨拶程度のやりとりなので気にしない。

 お互いに多忙だったから、数か月ぶりのやり取りだが、昔からの付き合いの為か話が弾む――と、いけないいけない。咲達にも紹介しないと。

 

 

「ほら、お前のこと紹介するから中入れよ」

「そうすっかね、お邪魔するよ~」

 

 

 中に入るように促すと、そいつは怒っていた顔をサラッと戻し、手に持っていた扇子をしまい中に入る。

 先ほどのやり取りもあって未だ固まっている咲達に方へ向き直り、隣に立っている奴の紹介を始める。

 

 

「悪い、待たせたな。こいつが今日、俺が呼んだ客で 「きょ、きょ、京ちゃん! この子どこどこから連れてきたの!? 中学生に手を出したら犯罪だよっ!」 ……いや、あのなぁ……」

 

 

 先ほどの様に的外れな指摘をする咲に思わず脱力する。そもそもお前だって一か月前まで中学生だっただろ……。

 隣に立っている中学生に間違われた本人はそれを見てケタケタと笑っているし、めんどくさいなぁ……と思いつつも、どう説明しようか考えていると、咲の後ろで固まっていた皆の中から代表として竹井が動き出した。

 

 

「咲……人違いじゃなきゃその人は中学生じゃないわよ」

「え?」

「多分だけど……あの、失礼ですが横浜ロードスターズの三尋木プロ……ですよね?」

「……え? プロってことはもしかして……私より年上?」

「あっはっは~大・正・解! いや~顔も売れてきたせいか、あんま間違われることがなくなったから中学生扱いも久しぶりで新鮮だねえ」

「ご、ごめんなさい! あ、あの私!?」

 

 

 自分が間違っていたことに気付いた咲が急いで頭を下げるが、当の本人は再び手にした扇子をパタパタと扇いで笑っている。

 

 

「いいよ気にしなくて、むしろ流石センパイの幼馴染って感じだしねぇ。先輩と最初会った時とおんなじような反応してたよ。まぁ、と言ってもセンパイには小学生扱いされたけどね、なんで間違えるのかわかんねー」

「そりゃ今よりもさらに小さかったからな。それにさっき久しぶりに間違われたって言ったけど嘘つくなよ。初めて行く居酒屋行ったら毎回身分証が必要だろ」

「わかんねー、なんのことかさっぱりわかんねー」

 

 

 指摘してやると、明後日の方向を見ながら口笛を吹き始めるちびっこ(三尋木)。

 相変わらず変わんねーな。いや、子供ならともかく、いい年した大人がいきなり変わられても困るんだけどな。

 

 

「――って、そろそろちゃんと自己紹介するぞ。咲以外の奴らは知ってると思うけど、こいつは麻雀のプロで日本代表の先鋒も務めている三尋木咏だ。今日はお前らの指導を見てもらうために来てもらったんだ。ほら三尋木、挨拶しろ」

「ほいほい、私が今ご紹介に預かった三尋木咏だよ。よろしくね~……って、普通逆でしょが!」

「いや知らんし」

「またパクった!?」

「あのー……こっちの自己紹介したり、色々聞きたいこともあるんで、漫才はそのへんでやめてもらえませんか?」

 

 

 再びぎゃいぎゃいと騒ぎ始める俺達。しかし流石に二度目だからか先ほどよりも早く、竹井が話に割り込んできた。

 いかんいかん、こいつといると学生時代のノリを思い出してしまうな。

 

 どれから一度姿勢を正して竹井達に向き合い、三尋木に咲達の紹介をする。その後、皆なにやら気になりげな顔をしていたので先ほどの質問を聞くことにする。

 

 

「それで聞きたいことって?」

「この服かい? オーダーメイドだぜぃ」

「違います、お二人の関係です。さっき三尋木プロが先輩って言ってましたけど……」

「ああ、こいつとは学生時代の先輩後輩関係でな。今でも続いてる腐れ縁だ」

「そんなこと言って~麻雀トッププロの咏タンだよ。嬉しいくせにこのこの~」

「うっとうしいわ」

「あいてっ」

 

 

 皆に向けて説明をする俺の脇腹を三尋木がニヤニヤと笑いながら扇子で突いてくる。

 邪魔くさかったのでお凸にデコピンをくらわせてやると、お凸を摩りながら恨めしそうな目でこちらを見てくる。自業自得だ。

 

 そんな事をしていると、ふと視線が気になりそちらを見たら、俺達の様子に咲達が何と言っていいのかわからないと言った表情をしていた。

 

 

「でも、確か三尋木プロって横浜出身じゃ?」

「ん~家庭の事情ってやつ? 知らんけど」

「こいつとは中学の頃に知り会ってな、高校に入るタイミングで引っ越したんだよ」

「へぇー」

 

 

 適当なことを言う三尋木の代わりに説明すると納得をする。そして竹井だけじゃなく、後ろにいた染谷も気になったとばかりに質問をしてきた。

 

 

「でも先輩後輩っちゅうても仲良過ぎないかのう? 同じ部活だったとかか?」

「うんにゃ、私は麻雀部だったけど、センパイはチェス部だったから違うぜい」

「チェス部……ですか?」

 

 

 三尋木の台詞を聞いて和が驚く。他のみんなも似たり寄ったりだ。

 そんなに俺がチェスをやってたのが意外かい。

 

 

「咲ちゃんは知ってたのか?」

「一応チェスをやってたのは聞いたことはあるけど、三尋木さんと知り合いだったのは初めて知ったかな」

 

 

 そういってこちらを責めるような目で見てくる咲。いやいや、俺に女友達がいたっていいだろう。

 当時は咲達もようやく喋れるぐらいになった歳頃だし、わざわざ紹介しないって。

 

 

「それじゃあ二人はどうやって知り合いになったんですか?」

「どうやってって……なぁ?」

「あー、懐かしいねー若気の至りって感じかな? 知らんけど」

「その言い方は誤解を招くからやめろって」

 

 

 竹井に尋ねられ、思わず三尋木と顔を見合わせる。当時の事を説明すると長くなるけど、適当に流すと後で面倒なことになりそうだしな……。

 とりあえず三尋木に補足させながら話すことにする。

 

 

「あー……俺が中学二年の時の話なんだが、ちょうど校舎の改装をしててな。俺達の部室も改装ってことで他の部室を与えられる事になったんだけど、その候補がそれなりに広い部屋と狭い部屋の二つしかなくてな。どっちの部活がどっちの部屋を使うかってことで揉めたんだ」

「当時うちの麻雀部とセンパイのチェス部はどっちも同じような部員数で、どっちも同じような大会成績だったからねぃ。学校側としてもどっちを優先するか決めかねてたらしいね」

「三尋木プロがいる麻雀部と同じ成績って……もしかして須賀先生ってすごくチェスが上手ったり?」

「ん、まあそこそこだな」

 

 

 竹井の質問に言葉を濁す。一応全国でもそれなりの実力だったけど、昔の話だしな。

 

 

「まあ、それで生徒会とかが出てきて、なんやかんやで料理対決で部室を決めることになったんだ」

「「「「「なんで料理!?」」」」」

 

 

 驚いて声を揃える五人。なんでって言われてもな……。

 

 

「いや、お互いの得意分野でやるわけにもいかないし、向こうの部員の三尋木とかはチビでスポーツ系で決めるには不公平で、勉強だと華がないから却下されて、結局は角が立たないのになったんだよ」

「そうそ、それでお互い部の代表で出たのが私とセンパイってわけだねぃ。それで誰かチビだって?」

「俺の右にいる奴じゃね? 知らんけど」

「よーし、その喧嘩買ったぜぇ、あの時の続きと行こうか」

「いや、そういうのいいですから……その勝敗はどうなったんですか?」

 

 

 火花を散らす俺達に竹井がめんどくさそうに間に入る。また、話が脱線してたな。

 そして当時の喧しい中学生活を思い出しながら説明を続ける。

 

 

「まあ、結論だけ言うと同点で決着つかずだったんだ。だけどそんなやり取りしてたらお互いの部員達が意外に意気投合してな。どっちも毎日活動するわけじゃないから活動日をずらせばいいかって結論が出て、一緒に狭い部屋を物置にして広い方を活動部屋として使うことになったんだ。改装も何年も続くわけじゃないから、俺達の後の代には影響ないしな」

「学校側も当人たちがそれでいいならって感じだったししね。いやーホント懐かしいなぁー、結局どっちも自分たちの活動日以外にも部室に集まってお互いわいわいやってたっけねぇ、私も無駄にチェスのやり方も覚えたし。まぁ、逆にセンパイは全然麻雀には興味持ってなかったけど」

 

 

 そう言うと、どこか責めるような目で見てくる三尋木。

 あー……確かに今でこそ麻雀をやっている俺だけど、当時は完全に実力主義のチェスをやっていたせいか、運の要素が大きく絡む麻雀はどうにも興味が起きなかったんだよな。

 そうやって昔を思い出していると、突如俺を見て何やら思いついようにニヤニヤと笑い始める。

 

 

「まあ、あの頃のセンパイってチェスに一辺倒だったからねえ~『王が動かなければ部下がついてこない(キリッ)』だっけ? くふふっ」

「人の黒歴史を掘り返してんじゃねーよっ! この爆裂ロリータ!」

「ちょ! それってセンパイが勝手に呼び始めたあだ名じゃないか、センパイのせいで未だに呼ばれることあるんだぜ!」

「じゃあ闇の福音で」

「そいつも勘弁してほしいね。また厨二コンビとか言われたくねーし」

 

 

 当時使っていたもう一つのあだ名を出すと途端に嫌そうな顔をする三尋木。

 あの頃は色々言われたからな――って、そうだ思い出した。

 

 

「そういえばこの前たまたま会って聞いたんだが、あのバカップルそろそろ結婚するらしいぞ」

「げぇ……まじかい……マジ爆発しろし」

 

 

 三尋木につい先日道を歩いていると遭遇した元部員仲間のバカップルと話した内容を告げると、途端にウザそうな顔をする。

 

 当時一緒に行動しまくっていた麻雀部とチェス部の中で男女の仲になったそいつらは、周りがあてられるほどラブラブしやがりやがったので、今でもバカップルという一言で通じるし、当時一人身だった俺達からすればすればかなり鬱陶しかったのだ。

 だからお互い祝う気持ちはあるのだが、それでも当時を思い出してイラっとしてしまうのは許してほしい。

 

 

「そういうことで今度他の奴らにも召集かけるわ」

「やれやれ他にもカップル出来てたら蹴り飛ばしてやるかい」

「おいおい、流石にそりゃ可哀想だろ。ビールでも用意してバカップルと一緒に思いっきり浴びせてやろうぜ――――ダース単位で」

「おおっ! いいねえいいねえ! 楽しみだねぇ!」

 

 

 物騒な事を言う三尋木に代わりの代案を提示すると楽しそうに乗ってきた。

 しかしビールかけをやるとなると店じゃできないし、誰かの家とか使うか―――って、やべ、またこいつら置き去りにして話し込んでたぞ。

 振り向くと、竹井達は皆しらーとした目で見てくる。

 

 

「ま、まあ、そういうことでこいつとはそれから神奈川の高校に行った後も付き合いが続いてたってことだ」

「んーそういうこと」

 

 

 誤魔化す為に話を進めるが、その視線は変わらない。いや、すまんかったって。

 

 

「はぁ……とりあえずわかりました。三尋木プロ、今日一日ご指導お願いします。須賀先生もわざわざ私たちの為にありがとうございます」

「おーけーおーけー。私に任せとけば県大会も楽勝じゃね? 知らんけど」

「気にするな、俺自身はあまり教えることは少ないからそれの埋め合わせだ。それじゃあ今日の部活を始めるぞ」

「「「「「「はーい」」」」」」

 

 

 俺の号令に返事を返す麻雀部員五人+おまけ一人。

 こんな感じでプロを交えた午後の部活は始まった。

 




 多分誰も予想はしていなかったと思う咏ちゃん登場回でした。この作品を書き始めた当初からやりたかったのがプロ勢との先輩後輩関係でしたのでようやく書けて満足です。
 ちなみに過去編の中で時々京太郎の脳裏に出ていた後輩や麻雀をやっていた知り合いとは咏ちゃんの事です。


 また、数あるプロ勢の中で咏ちゃんを選んだ理由は、私の好みもありますが他のプロが使いにくかったのもあります。

 はやりんは本編開始前に食われそうで、野依さんは口調がめんどくs…扱いづらくて、すこやんはレジェンドの心と私の筆が折れそうなのでパスしました。後この三人はシノハユやレジェンド関係で色々扱いが難しいのもありました。
 それで他にもカツ丼さんはありかと思ったんですが、元々久繋がりで出てきますのでこれまたパス。かいのーさんも結構好きなのですが、年齢が離れてしまっているので泣く泣く無理でした。
 ただ、すこやんと先輩後輩関係は書いてみたら面白そうなので、番外編ぐらいで書くかもしれません。


 あと今回出てきた京太郎のチェス云々は中の人のキャラつながりで特に意味はありません。
 一応なぜ京太郎がレジェンドに会うまで人気競技の麻雀をやっていなかったのかという理由の一つみたいな感じです。


 それでは次回もよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。