君がいた物語   作:エヴリーヌ

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咏「ちなみに和服は気合の入った時だけで普段は洋服も着てるよー」

京太郎「いきなり壁に向かって話しかけてどうした」



7話

「通らばリーチだじぇ!」

「そりゃ残念、ロンだね」

「じぇじぇ!?」

 

「これなら……」

「そいつは無理な相談だなぁ」

「そんな非効率的な!?」

 

「えっと……」

「ほい、ポンポン」

「あ、私のカン材……」

 

 

 あれから三尋木が指導をすることになったのだが、皆の打ち方を実際に見てみないとわからないと言うことなので、現在三尋木を含めた四人で卓に着いている。今は咲、和、片岡の一年トリオが席に座っていて、後ろではその様子を俺と竹井、染谷で眺めていた。

 一年とは言えこの三人も相当な実力なので、結構粘るんじゃないかと竹井達は思っていたようだったが、実際に初めて見るとその差は歴然だった。

 

 三尋木は最初の一、二局は様子見をし、特に行動を起こさなかったのだが、その次から全員のスタイルが読めたのか、攻めの姿勢に入った。

 

 それからは本来なら東場で力を発揮するはずの片岡は上手く流され丸め込まれ、デジタル派の和も調子を崩されていた。

 三人の中で一番の実力者である咲も、手元を見てカンする為の素材が後々来ると予想をしていたのだろうが、それ嘲笑うかのように三尋木が先にその素材を手元に集めているなどして翻弄されていた。

 このようにして三人とも手も足も出ていない状況となった。

 

「あっはっはーツモでちびっ子がトんで終わり~」

「あうー……」

「くっ……」

「つ、強い……」

 

 

 そして南場に入ると、三尋木持ち前の火力で調子が落ちた片岡をあっという間に飛ばしてしまった。

 楽しそうな三尋木とは裏腹に、卓の上に突っ伏したり、悔しそうな表情を浮かべる三人。後ろで見ていた竹井達も流石にこれには動揺を隠しきれない様子だ。

 

 

「まさかここまで強いなんてね……」

「うむ、TVで見ているのは感じるものが全く違うの……」

 

 

 二人ともプロとは言え、ここまで差があるとは思っていなかったようで苦い表情をしている。

咲達も高校生にしては十分すぎるほどの実力を持っているし、並みのプロであればそれなりに戦えるのだろうが、今回は流石に相手が悪すぎた。

 

 近年の麻雀では団体戦において先鋒にエースが付くことが多く、それは日本代表においても変わらないので、その先鋒についている三尋木は言ってみれば今の日本で一番強い雀士と言える。

 

 勿論先鋒に一番強いのが必ず来るわけでもないし、日本代表以外にも強い人はいるだろうから実際には一番ではないだろう。とはいえ、それでも日本の看板を背負うトッププロだけあって強いことには変わらないのだ。

 

 そもそも麻雀をやっていた期間も経験も圧倒的に差があるから、そんな三尋木相手に勝つのは至難の業と言えるだろう。とはいえ、流石に凹むよな。

 

 

「ほら、お疲れさん。飲み物買ってきたからお前ら休憩入りな」

「うい、ありがとうだじぇ……」

「いただきます……」

「ありがとう……」

 

 

 三人はそういうと、足取りは重いながらも飲み物があるテーブルまで歩く。

 そんな三人を見つつも三尋木に近寄ると、微妙にバツの悪そうな表情をしていた。

 

 

「あちゃーやりすぎちった?」

「いや、これぐらい問題ないだろ」

 

 

 心配をする三尋木に対し、気にする必要はないと告げる。

 これぐらいで諦めるなら全国なんてまず無理だし、そもそもあいつもそれぐらいで投げ出したりはしないだろ。

 

 

「おー相変わらずスパルタンだねー知らんけど」

「誰がイギリスの軽巡洋艦だよ」

「じゃあスバルタン?」

「どこの蟹似の宇宙人だよ」

「すばらタン?」

「よくわからんがそこらへんでやめとけ」

 

 

 三尋木の台詞に和と片岡がびくっ、と動いたように見えたが気のせいか。

 そしてそんな後輩達の様子を見ていた竹井達も覚悟を決めたのか動き出す。

 

 

「それじゃあ次は私たちの番かしら」

「仇をうってやらんとのう」

「いいねえ~そういうの。お姉さんが相手になってあげるからいくらでもかかってきな」

 

 

 威勢のいい二人を見て気分が良くなったのか、三尋木も指をクイクイっとしながら挑発気味に言う。その様子を見て二人とも俄然やる気になったみたいだ。

 

 

「それじゃあセンパイも早く席に着けって」

「は? 俺もやるのか?」

「そりゃ三人じゃ足りないしねー。それに昔と違ってそれなり打てるんだから問題ないっしょ」

「勘弁してくれよ、お前相手だったら確実に南場行く前に終わる自信があるぞ」

 

 

 俺が特訓受けてもしょうがないしな……。しかしこのままでは三人なのでどうしようか悩んでいると、休憩していたはずの和が立ちあがり、再びこちらに近づいてきた。

 

 

「あ、おい原村」

「和ちゃん?」

「人数も足りませんし、私が入ります。大丈夫です、あれぐらいで疲れるほど柔じゃありませんから、ゆーきと咲さんはゆっくり休んでいてください」

 

 

 そう言うと心配する俺や止めようとした片岡達に笑いかけて席に着く。

 

 ――あー……相変わらず負けず嫌いと言うかなんというか……。

 

 そんな和の様子を見て三尋木は面白いとばかりな表情をしている。

 

 

「へぇ~なっかなか根性あるじゃないか」

「たとえプロでも負けっぱなしではいられませんので」

 

 

 そういって火花を散らす二人。一方で初回だと言うのに微妙に空気になってしまった竹井達だった。

 

 

「余計なお世話よ」

 

 

 そりゃすまんかった。

 その後、気合を入れ直した和達だったがやはりプロの壁は厚く、先ほどとは違い、飛ばされることはなかったが、一方的な戦いであったのは変わりなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れたわぁ……」

「打った時間はそこまで長くないはずなんじゃが、精神的に来るのう……」

「うひー……」

「はぁ……」

「キツい……」

 

 

 あれから何度か回し終わると、椅子の上にぐったりと倒れ込む竹井達。その姿はまるで敗残の兵のようだ。

 しかしその一方で未だ元気な奴もいるんだが。

 

 

「やれやれ、少しはやれると思ったのにこれぐらいでへこたれるなんて近頃の若いのは根性ねーなー。私たちの頃は背中に土嚢を積みながら朝から晩までやってたのにさぁ」

「すぐにバレる様な嘘をつくんじゃねーよ。あの頃は片手にコーラとかポテチ持ちながらやるのが日常だっただろ」

「おんや、そうだっけ? わかんねー」

「まったく……そりゃお前相手ならこんなもんだろ、むしろよく粘った方だよ」

 

 

 一応フォローのつもりで言うが、実際に間違ってはいない。

 

 三尋木との実力差をハッキリと感じた竹井達は、個人プレーではなく三人で連携してその動きを止めようとしていたのだ。しかしそれで止まるような三尋木ではないので、結局効果はあまりなかったのだが、それでもこの短い間にそういった圧倒的な相手に対するプレーを経験できたのは良かったと思う。

 実際に大会で同じような機会があるかもしれないので、いざと言うときに先ほどの経験が活かせるだろう。

 

 その後全員が落ち着くまで休憩とし、それから三尋木のアドバイスというか説教が始まった。

 ちなみに座り方はやりやすいようにと、俺と三尋木が隣に座り、テーブルを挟んで竹井達五人が並んで座っている。

 

 

「ほんじゃ、指導とかだけど。んーどうすっか……んじゃ、この嶺上娘にはどんな指導してるんだい?」

「嶺上娘……」

「あ、はい。えっと……咲はうちで一番実力はあるんですけど、あまり人打つ経験がなかったのでそれを補うために雀荘に行かせたりして場数を踏ませるようにしています」

「なるほどね~結構いい眼してるじゃないのさ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 三尋木が竹井の観察力を褒めてやると、緊張しながらも竹井が喜ぶ。

 トッププロからの賛辞だもんな、そりゃ嬉しいか。

 

 

「顧問より部長の方が指導に向いてるってどうなんだろうねぇ」

「はいはい、どうせ俺は弱いですよー」

「ありゃりゃ、拗ねちゃった? 元気だしなよセンパイ~」

「うっせ」

「はにふんのさー」

 

 

 そういうと脇腹を突いてくる生意気な後輩のほっぺたを痛くならない程度に引っ張る。

 するとお返しとばかりに三尋木もこちらのも摘まもうとしてきたので、体を動かし回避すると身長と腕の長さに差があるためギリギリ届かなかった。ざまあみろ。

 しかしこいつ相変わらず見た目だけじゃなく、肌とかの張りも子供だよなー。

 

 

「今嬉しいような嬉しくないようなこと考えなかった?」

「いや、全然。ほら、続き話せって」

 

 

 手を離すとジト目で聞いてくるが誤魔化す。幼児体型なんて思ってないぞ。とりあえず漫才を終わらし、話を促す。

 

 

「仕方ないなー……まあ、基本的にはその方針で間違ってないんじゃね? 知らんけど」

「それでしたら――」

「まあ、最後まで聞きなって、基本的にって言っただろ。んで、その嶺上娘だけどね……」

「嶺上娘って……やっぱり私なんだよね?」

「咲ちゃんしかいないと思うじぇ」

 

 

 先ほどの発言も兼ねて一応尋ねる咲。渾名のセンスはともかく、お前しかいないわな。

 名前に納得はいってないみたいだが、呼ばれた咲が姿勢を正す。

 

 

「あれだろ? 君ってあの竜巻娘の妹で麻雀は基本的に家族としかやってこなかったんだろ?」

「竜巻娘……あ、はい。お姉ちゃんやお母さんたちの家族麻雀ばかりでした。近頃は須賀先生ともやりますけど」

「まぁ、あの竜巻娘相手に打てるならそりゃそれなりに強いね。でもやっぱり麻雀って経験が大事だから決まった相手だけと打ってたら変な癖もついてるだろうし、今のままじゃダメダメだね~」

「だ、ダメダメ……」

 

 

 モロにダメ出しをされて落ち込む咲。

 しかし照の事を竜巻娘とはこいつもうまいこと言うな。きっと今頃白糸台でもギュルギュル回してるんだろう。

 

 

「まっ、経験に関してはネトマとか雀荘に通ってれば少しはマシになるんじゃね? 知らんけど。まぁ、それよりも嶺上ちゃんはオカルトに頼りすぎだねぇ」

「オカルトに……ですか?」

「そうそ、ネトマはやったことある?」

「はい、少し前に……」

 

 

 三尋木の質問に数日前の事を思い出したのか咲が顔を曇らせる。

 少し前にネトマをやらせたんだけど、俺の予想通り咲のカン材が集まりやすいと言うオカルトは発揮できなかったので、その時の咲はかなり戸惑っていたのだ。

 そんな咲の様子を見て、やっぱりな~という表情をする三尋木が話を続ける。

 

 

「オカルトはそういうのじゃ使えないからね~。んで、プロの中にはそれと似たような感じでオカルトを封じてくる人もいるし、今度のインターハイにそういった力を持った高校生が来ないとも限らないわけよ。さっきも私が先にカンに必要な牌を取ったのわかってなかったから、気づいてからペース崩してただろ? だからもし本気でインハイ目指すならそこの爆裂おっぱいとまでは行かないけど、オカルトだけを前提にした打ち方はしないで、デジタル面も頑張った方がいいと思うね。知らんけど」

「ば!? 爆裂おっぱいって私ですか!?」

「ん? ロケットおっぱいにするかい?」

「どちらもお断りします!」

 

 

 オカルトの話に眉をひそめていた和だったが、まさかの渾名に立ちあがり声を荒げる。

 爆裂……ロケット……良い響きだ。

 

 

「ま、とりあえず後で話聞いてあげるから座っときな。センパイも鼻伸ばしてるんじゃないってーの」

「べ、べべべ別に伸ばしてねーし」

 

 

 図星だったために声を震わせる。そんな俺の様子に呆れたような表情を見せた三尋木だったが、それまでとは一転した真面目な表情を見せる。

 

 

「はいはい、それで続きだけどね――――やっぱオカルトなんて微妙なわけさ。そりゃ持ってれば強いし、勝ちやすくなるよ。でもさ、使って勝っても結局自分じゃない誰かに打たされてる感じがするんだよ。それでふと、ある時思うんだ。自分はホントに麻雀が強いのか、楽しめてるのかって……ね」

 

 

 今までのおちゃらけてた時と違い、真面目な表情で咲達に向けて言う三尋木。その様子と内容に咲達だけでなく、先ほどまで声を荒げていた和も聞き入っている。

 

 

「勿論オカルト自体は否定しないさ、昔からあるものだし私も持ってるからね。だけどそれだけで打つのは止めときな、そのうち絶対に麻雀を楽しめなくなる時が来るから」

「……三尋木プロもそういうことがあったんですか?」

「私? 私はね…………ん~~~秘密だぜぃ」

 

 

 竹井の質問に対し、こちらを振り向いてから回答をはぐらかす三尋木。

 まあ、あの頃は色々あったしな……。でもこっちを見ながら意味ありげな顔は止めろって、咲達が怖いから。

 

 

「ま、とりあえずまとめると、別にオカルトみたいな直感や感覚を使うのは構わないけど、そんなものは只の道具って事で、出来るならその前に理屈で麻雀をやりな。そうした方が今よりも確実に強くなれるし、なによりも楽しめるからね……ったく、近頃の若いのはオカルトに頼りすぎだっつうの……。去年のインハイでもオカルトに頼り切ってるやつがいたし、しかも胸がデカいっていう……マジ嘗めてんのかよ。」

「おい、途中に私怨が入ってるぞ」

 

 

 怒り出した三尋木を宥めつつも去年のインハイを思い出すと、当時三尋木にそのことについて愚痴を聞かされた記憶もある。

 

 確かに傍から見ると、オカルトを使っている選手はあれで麻雀を楽しめているのだろうかって俺も思うことがある。しかし結局それはよそから見ただけの感想だ。

 それぞれになにかしらの理由があるのかもしれないから俺はそれを非難するつもりはないが、プロの三尋木としては腹に据えかねているものがあるのだろう。

 

 そして三尋木の話になにか感じ入るものがあったのか同じように考え込む五人。そんな皆を見て三尋木が先ほどまでの真面目な表情からいつもの表情に戻り、話を続ける。

 

 

「そういうことで長年の経験者からのアドバイスでしたっと。まあ、だから嶺上ちゃんはネトマで練習するのが一番だねぃ。色んな相手と打ててオカルトも制限されるからいい訓練になるんじゃね? 知らんけど」

「……わかりました。頑張ってみます」

 

 

 三尋木のアドバイスに頷く咲。しかしこいつこの前ですらアレだったのにこれからまともにパソコン使えるんだろうか……。

 そして咲への話が終わった三尋木は、和を見ると――

 

 

「さて…………飽きたしもういいかな」

「「「「いやいやいやいや!」」」」

 

 

 疲れたーとばかりの声を上げる三尋木に和、片岡、竹井、染谷の総ツッコミが入る。

 まあ、話し続けて疲れたのはわかるので、テーブルにおいてあるお茶をついでやる。

 

 

「ほら、引き受けたんだから最後までやれって」

「んー……センパイがおんぶしてくれたらいいよ」

「前向きに善処してやるよ」

 

 

 そういうと一気にお茶を飲み干して再び三尋木がしゃべりだす。

 

 

「んじゃ、ロケット娘に関してはね……」

「ロケット……」

「まあ、別に今のままでいいんじゃね?」

「投げやりですか!?」

 

 

 適当な事を言いだした三尋木にまたもや声を荒げる和。こいつさっきから和の扱いが雑だけど、おもちが大きいのを妬んでるのか?

 

 

「まあ落ち着けって。君はデジタルタイプだし、ある程度型は出来てるんだろ? だからあとは実戦を積んでれば十分強くなれると思うぜぃ。ぶっちゃけ言いたいことはさっき言ったからねー」

「ですが……」

「まあ、強いて言うならオカルトを認めろとまでは言わないけど、一応そういったのもあるんじゃないか的に考えとけばいいんじゃね? 知らんけど」

「え?」

 

 

 三尋木の言葉に戸惑う和。さきほどまでオカルトについて語っていた三尋木からあやふやな言葉が出てきて驚いたのだろう。

 多分オカルトはあるから信じろ的に言われると思っていただろうし。

 

 

「勘だけど、この先そのオカルトを信じないって姿勢は役に立つ時が来るかもしれんのよね。だからあえて正面から受け入れない方がいいと思うよん」

「………」

「だけど頑なに信じないってなるとどこかで必ず足をすくわれるからね。こいつはこの時に何々しやすい的程度でいいから頭の片隅に置いておくようにしておくといいんじゃね? 知らんけど」

「……わかりました」

 

 

 和としてはオカルト自体未だ信じない方なのであろうが、自分よりはるかに高みにいる三尋木の言葉は信頼に値すると思ったのだろう。多少の逡巡を見せながらも頷いた。

 

 

「それに頭が固すぎる女は男からは好かれないぜ」

「それは関係ないですよね!?」

「わかんねー、全てがわかんねー」

 

 

 ここで終わっとけばいい教官と生徒だったのに余計な一言を付け加える三尋木。こっち見ながら言うな、和も俺を見るな、俺じゃ今の三尋木は止められないぞ。

 それからしばし和をからかっていた三尋木だが、満足したのか片岡達の方を見る。一方でやっと解放された和は安堵している。お疲れさん。

 

 

「んー……次はちびっ子かー……君には集中力の持続やそれが切れた時の防御の仕方について色々教えたいけど、ぶっちゃけあんま口で説明しても理解できないっしょ? このまま説明するのも面倒だし、後は打ちながらやるかねー」

「あー……確かにそっちの方が楽かもしれなじぇ」

 

 

 三尋木の提案に苦笑しながらも納得する片岡。和と違ってどっちかと言うと感覚タイプだもんな。

 

 

「それと上級生二人はある程度固まってるし、経験もそれなりだから主に自力の底上げだね。ちびっ子と一緒に相手してやるから、それでもしかしたら何か掴めるかもね。知らんけど」

「わかりました、お願いします」

「よし! 気合い入れるかの」

 

 

 そういうと再び雀卓の方へ向かう三尋木について行く三人。

 そしてそれと同じように少しでも技術を盗み取ろうと咲と和も卓に向かう。

 

 ――どうやら上手くいきそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「カンパーイ!」」

 

 

 

 あれから三尋木の指導は夕方まで続き、終わるころには流石の咲達もくたびれていたが、しかしそれ以上のものがあったのか全員満足そうな顔をしていた。

 こいつ等より弱くて、オカルトの類も持ってない俺じゃこうはいかなかったからな、今日は三尋木を呼んでホントよかった。

 

 その後、俺が部活に出ている時はいつも咲達と一緒に帰っているのだが、今日は三尋木に礼をするために一緒に帰らないことを告げると、不満の声をあげられてしまった。    

 しかし高校生を連れまわすわけにもいかないし、疲れ切っているのでお前らは休むべきだと説得をしたら一応の納得はしてくれた。

 

 とはいえ、竹井がさりげない顔をしてついてこようとしていたり、咲と和が怖い顔でこちらを見ていたりもしたが、染谷と片岡が引っ張って連れて帰ってくれたのでなんとかなったので良しとしよう。……今度あいつらになんか奢ってやるか。

 

 それから昔からの行きつけの居酒屋に三尋木と一緒に行くと、馴染みの店長がいつも通りの奥の席に案内してくれた。

 有名人である三尋木が変な客に絡まれないようにという粋な計らいだ。……決して未成年に見える三尋木が酒を飲んでいる姿を見られて通報をされたくはないということではない。

 

 そして席に着いてから三尋木に好きなものを注文させてやり、先ほど酒が届いたのでグラスを合わせ、今日の礼を改めてする。

 

 

「三尋木、ほんと今日はありがとうな。あいつらもいい経験になったと思うし、助かったわ」

「礼は言いっこなしだって先輩。私としてもそろそろセンパイと飲みたかったからいい機会だったし、それに才能ある子達と打てて楽しかったしね」

「はっ、嬉しいこと言ってくれやがってこのやろー!」

「ちょ、撫でるならやさしくなでろってーの!?」

 

 

 三尋木から出た言葉に恥ずかしくなったので誤魔化す為にぐしゃぐしゃに撫でてやる。昔からこいつの頭を弄るのは多かったけどホント髪質とか変わんねー、アラフォーになってもこのままだったりしてな。

 それから満足して撫でるのをやめると、三尋木はご立腹になりながらも注文した唐揚げを摘まむ。

 

 

「ったく、頭ボサボサじゃないか。センパイは相変わらずデリカシーがないねぇー、マジわかんねー」

「お前相手に今更だろ、そんなもの」

「やれやれ、少しはハギー先輩を見習ったらどうなのさ」

「いや、あいつは別格だろ」

「まあそれには同感だねぇ。しかしハギー先輩も忙しそうで大変だねぇ」

 

 

 三尋木の言葉で近くに住んでいる親友を思い出す。

 一応今日声をかけたのだが龍門渕の方が忙しいので、残念だが今日来るのは無理とのことだった。他の連中も県を跨いでいるのが多く、急な話と言うことで来れる奴はいなかったので、俺達二人だけの飲み会となってしまったのだ。

 とはいえ、個人的には静かに飲むのも好きだし、三尋木とは久しぶりに会ったからお互いにゆっくりと近況を話せるので今の状況も悪くはないとは思う。

 

 

「しかし今になってセンパイが生徒の面倒見てくれって言うなんて思ってなかったねぇ。普通に前から呼んでくれても良かったのに」

「なに言ってんだ、お前少し前まで日本代表とかで『忙しー忙しー』って言ってただろうが」

「何のことかさっぱりわかんねー」

「むぐぐ」

 

 

 指摘してやると三尋木が箸でつまんでいたイカを口に突っ込んできやがった。デコピンでもかましてやろうかと思ったけど面倒なので放置する。

 

 三尋木は誤魔化してはいるけどトッププロとして活躍するのは相当大変らしく、若いということもあって周りからの妬みもかなりあるらしい。

 ただ、三尋木はそういったことで気を使われるのがあまり好きではないので、先ほどの様に誤魔化すことが多い。だから今までは少しでも負担にならないようにとそういった話は持ちかけなかったのだ。

 

 

「まあ、気にしなさんな。今年は随分楽だからねえ、また呼んでくれればいつでも来るよ」

「……ありがとよ」

 

 

 今までより楽とは言え、それでも忙しいのは変わらないのに気を使ってくれる三尋木に感謝をしておく。

 

 その後、お互いにちびちびとやりながら話を続ける。

 うちの麻雀部の事もあったが、やはり友人同士だから主に話は共通の友人ことなどになる。たとえば今度結婚する奴らとか。

 

 

「しかしあいつら結婚するとかマジないわー。せめて私がするまで待つべきだろ」

「なんだ、三尋木って彼氏出来たのか?」

「いるわきゃないしー、年中無休で独身だしー、あっはっは!」

 

 

 知人が結婚するということと酔いが回って来たのかヤケくそ気味に笑い始める。気持ちはわかるけど落ち着けって。

 

 

「でもプロなら芸能人の誘いとかあるんじゃねーの?」

「誘い~?『三尋木プロ? ああ、あの子供プロね。ないわ』とか陰で言われてる咏ちゃんだぜぃ、あるわけないしね~。たまーに声かけてくる奴もいるけど、大抵危なそーなのやいけ好かないのばかりだから興味もわかないってーの」

 

 

 俺の質問に毒舌気味に悪態をつく三尋木。

 

 ――まあ、確かにこいつはちんまりとした体形だから言いたいことも分かるけどな。でもそれを上回るぐらいいい所もあるんだけどな…。

 

 そんな他の奴が知らない三尋木の良い所を知っていることにちょっとした優越感がわいてくるが、目の前で酔っ払っている姿に呆れもくる。こいつペース速くなってるけど大丈夫か?

 

 

「おい、少し落ち着いて飲めって。ほらウーロン茶」

「うい……ありがとさんセンパイ…………まあ、私はともかくとしてセンパイはどうなのさ?」

「俺か?」

「そうさ、あのロケット娘って元カノと一緒にやってたって言う麻雀教室の子どもの一人だろ? 色々聞かれたんじゃない?」

「あー……まあな」

 

 

 三尋木から遠まわしに赤土との事を尋ねられて思わず口を濁す。

 当時別れてこっちに戻ってきてからは、事情を知った友人達からは心配されて、三尋木も忙しい中それなりの頻度で遊びに誘ってきたりと気にかけてくれたからな……。

 

 確かに和とは再開した日に赤土との事を話したが、気を使っているのかそれからは聞かれることもなく普通に過ごしてるし、竹井達もそれについては触れてくることもないので助かっているのだ。

 そのことを告げると、三尋木は喉に骨が刺さったような顔をする。

 

 

「んーでもなー……まあ、センパイがそれでいいならいいんだけどねぃ」

「なんだよ……気になるから言いたいことあるなら言えって」

「なんでもないよーほら、まだまだ酒は残ってるんだから飲もうぜぇ~」

 

 

 はぐらかされてしまったが、こちらとしてもこういった席にあまり昔の事を持ち出したくないのでそれに合わせる事にした。

 それからお互いの近況や下らないことをグダグダと話しながら酒を飲み続け時間は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

「あー、飲み過ぎたーつれーつれー」

「だからペース押さえろって言っただろ」

「わかんないニャ」

「キャラまで崩れてるぞ。つーか背中で動くな、くすぐったい」

 

 

 飲み終わった後に居酒屋を出て歩いていたのだが、途中気持ち悪くなった三尋木がおんぶをしろと言い始めたのだ。

 万が一にも背中に吐かれるのは嫌だったので、断ろうと思ったのだが、昼に言った台詞のせいで退路は絶たれてしまっていた。

 まあ、昔からよくやっていたし三尋木は軽いので問題ないのだが、余所から見ると中学生を背負っている様に見えるのが心配だ。

 

 

「それでこの後どうする? 時間も遅いし、ホテルでも取ってるのか?」

「んー? いつも通りセンパイの家でいいんじゃねぃ? カピにも触りたいしねぇ」

「俺んちか? 別に良いけどパパラッチとか大丈夫なのか?」

 

 

 こんなのでも一応有名人。ゴシップからすればいいネタだろう。

 

 

「なーんで先輩の家に泊まるだけなのに、私がそんな奴らに気を使わなくちゃいけないのさぁ。気を使うのはおばさん達にだけで十分だよ」

「まあ、お前が良いならいいけどな。んじゃ、体が冷える前にさっさと帰るか」

「おー! いけー京太郎号ー!」

「声がでかい、落とすぞ」

「うお~暴力反対ィ~」

 

 

 深夜に近い時間帯だと言うのに大声を上げる三尋木を窘め、近所迷惑にならない程度の声量で騒ぎながら三尋木を背負ったまま自宅へと向かう。

 その後、自宅に帰るとまだ起きていた親父達と一緒にまた飲んだせいで、次の日に二人とも二日酔いになったのはご愛嬌だ。

 

 

「う、きもちわるぃ……今日も泊まって行こうかな……」

「いや、お前も明日仕事なんだから帰れよ……頭いてえ……」

 

 




 今回は弟子が師匠に一度コテンパンにやられる的なよく漫画とかで見かける王道展開でした。
 原作の清澄では一応カツ丼さんがそんなポジだった時もありましたが、それでは足りなく、また京太郎では実力不足なので代わりに咏ちゃんに出張ってもらいました。
 あとオカルト云々は適当です。


 それでは今回はここまで。次回もよろしくお願いします。


 キャラ紹介現代編に【三尋木咏】を追加しました。無駄に長くなった…。


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