君がいた物語   作:エヴリーヌ

49 / 67
穏乃「さて、今日から現代編だから阿知賀の制服に着替えないと」

灼「(昔の体のままでピッタリ……まるで成長していない……)」



第4章
16話


「~~~♪」

 

 

 お昼休み。右手に昼食をぶら下げ、思わずスキップでもしたくなるほどの気分で私は学校の廊下を歩いていた。

 さて、何故ここまで私のテンションの高いのかと言うと、それは先日開催された全国予選の県大会団体戦に理由があった。

 

 何故なら――私がこの二か月鍛え上げたかいもあって、阿知賀の皆は一回戦目で強豪晩成高校を打ち破り、その後も快進撃を続け見事優勝を果たしたのだ。

 

 このことで地元では10年前の奇跡再び!みたいな感じで喝采され、私もよくやってくれたと肩を叩かれた。まあ、確かに私が今回の優勝に一役買っていたのは間違ってないけど、なによりも頑張っていたのはあの子達だ。

 今までの分を取り戻すかのように毎日遅くまで居残り、それこそ指に豆ができるのもお構いなしに続けていた。その中で私が声荒げるのも一度や二度ではなく数えきれないほどであったが、それにもめげずに皆しっかり着いてきてくれたから優勝できたのだ。

 

 だから過去の事もあって私の名前が挙げられかけたが、今回の功労者はなによりもあの子達だとしっかりと訂正しておいた。望や色んな人に事前にそのことを頼んでおいたし、私の名前は表には出ないだろうね。

 

 とまあそんなわけで大会があった翌日。本当なら休みにしてほしい所だけど、教師という立場上そんなわけにもいかず疲れた体に鞭打ち学校へ来ていた。

 

 そりゃ精神的には昨日の興奮もあって全然行けるけど、体はそれについていけるほど若く……いや、若いけど、月曜日が憂鬱なのは社会人も学生も一緒だった。

 

 とりあえずそういった事もあり今後の予定を話すためにも放課後の前に、昼休みに集まってミーティングというわけで今日も元気に部室へと向かっている。ついでに昨日の勝利で浮かれている皆に釘でも刺しておくつもりだ。

 なーんか京太郎のせいで私も微妙に真面目ぶるようになっちゃったな。

 

 

「おっす、やってるかー」

「あ、赤土先生!」

 

 

 扉を開けて部室に入ると、既に五人が固まって何かを囲むように座っていた。はっはーん、さては――

 

 

「先に食べるのは卑怯だろー、私も混ぜなさいよ」

「いや、お昼食べてるわけじゃないからね」

「え、違うの?」

 

 

 時間的にもてっきりみんなでお弁当を食べていると思ったけど違ったみたいだ。あ、なるほど、やれやれ……。

 

 

「無理なダイエットはよくないぞ」

「ち・が・う・か・らっ!」

「そ……そう?」

 

 

 先ほどよりも強い憧の否定に思わず引け腰になる。あれかなーガチでダイエット中だったかな?藪蛇だったみたい。

 

 

「違うっての。私はハルエみたいに無駄肉ついてないから大丈夫なの」

「ちょーちょっちょっちょい待ちっ! 誰が贅肉の塊だって? これでもボンキュボン……ではないけど、しっかりとスタイルは維持してるんだよっ」

「へぇ……この前お姉ちゃんが誰かさんに余分なお肉を落とす運動について聞かれたって言ってたけど?」

「望ぃぃぃぃいいっ!!!!!!????」

 

 

 まさかの親友からの裏切りに悲鳴を上げる。

 内緒だって言ってたのに……あれか?この前酔った時に喧嘩したのを根に持ってたのか?単に望は良い相手はいないのかって聞いただけなのに……。

 

 

「べ、別に危ないってわけじゃないわよっ。BMIは一応平均より下だしぃ」

「……ならなんでよ?」

「きょ、京太郎と会った 「あーもういいや」 なんで!?」

 

 

 ジト目で聞いてくる憧に言い訳をしようとしたのだが、最後まで聞いてもらえなかった。思わず他の皆にも振り向くが、誰一人として目を合わせてくれない。

 最近憧だけじゃなく皆が京太郎の話を真面目に聞いてくれなくて困った……。

 

 

「でも憧もこの前 「これでも食べてなさい」 もぐぐぐ」

「贅肉……」

「お、おねーちゃんはその分おもちも大きいから大丈夫だよ!」

「フォローになってないし……」

「あったかくない……」

「あうぅ……」

 

 

 何故か体重の話から話が広がって胸の方へと行っていた。

 そういえば麻雀クラブでもしょっちゅう京太郎や玄が脱線させてたっけ。普段は真面目な京太郎も子供達と一緒の時はよく羽目外してたんだよね……。

 

 そんな懐かしい昔の思い出に浸っていると、口の中にお菓子を詰めたしずがモゴモゴと急いで消化させていた。そんなに慌ててどしたの?

 

 

「……ゴクン。それより先生! これ見てこれ!」

「これって……今朝の新聞?」

 

 

 そう言ってしずが皆で囲んでいたテーブルの上から取って渡したのは今日の朝刊だった。うん、実に似合わない光景だ。

 

 

「なんでまた新聞? いつからそんな真面目になったのさしず」

「違うってば先生。ほら、このページっ」

「ん……? ああ、そういえば予選の結果が載ってるんだっけ」

「皆さんご覧ください。この人がここの麻雀部の顧問です……」

「ど、ド忘れしてただけだからっ!」

 

 

 呆れ果てる灼に慌てて言い訳をするがその視線はしらーとしたものだった。今日は午前中も昨日の試合の事で後援会等の色んな人に連絡を取り合っていたから確認する暇などなかったのだ。

 とはいえわざわざ言う事でもないので、とりあえず視線が合わない様に新聞に目を落とす。スルーとは大人に大事なスキルなのだ。

 

 

「それでこれがどうしたの? どっかに知り合いでもいた?」

「はい、そこに和ちゃんが載ってるのです!」

「え……マジ!? どこの高校?」

「えっとぉ……どこだっけ?」

「長野の清澄高校だよ、玄ちゃん」

「そ、そう! そこなのですっ!」

「へぇ……長野の清澄ねぇ…………清澄?」

 

 

 なにやら聞き覚えのある名前だなーと思いつつ新聞の欄に目を通す。すると確かに長野の優勝校の欄に清澄高校という名前があり、そこに和の名前が――って

 

 

「嘘ぉ!!?」

「ほわぁっ!?」

「ちょ、いきなり大声出してどうしたのよ?」

 

 

 なにやら横で玄達が驚いているけど、そちらに返事をする余裕が今の私にはなかった。何故ならそこには和以上に驚く名前があったからだ。

 

 

「どうしたの先生?」

「……もしかしてあれじゃない? ほら同じ清澄の大将」

「あ、宮永……咲さんだっけ? チャンピオンと同じ名字だなんてめずらしいよねぇ」

「親戚とか?」

「でもこの人がどうかしたのですか?」

 

 

 玄の言葉に私に視線が集まる。普通だったら思わずその視線にたじろぐ所だけど、意識が半分飛んでいておざなりな返事しか出せない。

 さて、なんて言うべきか……。

 

 

「うん。ちょっとね……」

「なによ、また煮え切らないわね。言いたいことがあったら言ったら?」

「えっと……」

 

 

 とはいえこのまま誤魔化すことも出来ないし諦めて話すことにする。

 先に口の中の渇きを何とかしようと近くに置いてあったウーロン茶を一気飲みし、落ちつくように深呼吸をする。

 

 

「いや、なに人の勝手に飲んでんのよ」

「ま、まあまあ憧ちゃん」

「……この宮永咲って子なんだけどさ…… 「無視かい」 ……京太郎の幼馴染なんだよ」

「「「「「……え? …………えええええぇぇっっ!!?」」」」」

 

 

 私が告げた言葉に、以前三尋木プロの事を話した時のように皆が驚いていた。

 そりゃそうか、まさかここで京太郎が出て来るとは思いもしないだろう。そして驚くのはこれだけじゃない。

 

 

「それでさっき皆が言ったのもほぼ正解。咲ちゃんはチャンピオンの照ちゃんの妹だよ。ちなみにこの清澄高校って京太郎の母校で、京太郎と咲ちゃんの実家の近くだから多分同姓同名の別人じゃなくて本人だね」

「「「「「………………」」」」」

 

 

 ついには無言で驚き始めたが、まあ、気持ちはわかる。和の事があったのに、更にチャンピオンの照ちゃんとも京太郎の幼馴染だなんて夢にも思わないだろう。

 しかしそっか……咲ちゃんはしず達と同い年だからもう高校一年生か……懐かしいな。

 

 

「ちょ、ちょっと待って! それじゃあもしかしてハルエはチャンピオンとも知り合いなわけ!?」

「す、ストップ憧ちゃん!?」

「まぁ、一応ね。京太郎の帰省に付き合った時はよく一緒に遊んでたよ」

 

 

 憧に体を揺らされながら懐かしい思い出に思わず目を細める。

 最初は二人とも京太郎が大好きなのと人見知りなのもあって凄い避けられてたっけ。けど仲良くなってからは色々遊びに行ったりしたんだよね……ただ今は……。

 

 

「はぁ……京兄も凄い人と知り合いなんだね」

「流石師匠!」

「やるね……」

「というか私としてはハルエが黙ってたことが気になるんだけど……」

「いや、だって下手に言うとあんた達ってば上ばっかり気にして県大会に集中できなかったかもしれないでしょ?」

「確かに……」

 

 

 私の忠告になるほどとばかりに頷き納得する五人。ただでさえ初めての公式戦で緊張していたから余計な情報は与えたくなかったのだ。

 それに……個人的にはあまり言いたくはないからね。きっと二人とも約束を破った私を恨んでいるだろうし。

 京太郎と別れたことにより、失ったのもはそれだけではないのだと改めて実感して落ち込んでいると、誰かが服を引っ張っているのに気付いた。

 

 

「お、どうした灼?」

「それでこの人の実力はどんな感じ……?」

「え? いや……」

「なによ、今更隠さなくてもいいじゃない」

「えっとぉ……そのぉ……わかんない」

「「「「「………………」」」」」

 

 

 新聞に載っている咲ちゃんの名前を指さしながら聞いてきた灼にそう返すと、さっきとは違う沈黙が痛かった。だって――

 

 

「だ、だってほら、京太郎ってばあの頃まで麻雀出来なかったしょ? だから照ちゃん達も無理に誘わなかったみたいで私の前でやってることなんてなかったし……」

「「「「「………………」」」」」

「もう悪かったってばー。私も二年前に初めて知ったんだってばぁ……」

 

 

 諦めて降参すると、向こうも諦めたかのように皆がため息をついた。なんだよ……虐めか泣くぞ。

 

 

「まぁ、そこらへんは後で詳しく聞くとしてこれからどうすんの?」

「……どうするって?」

「全国大会への練習だってば先生」

「あ、ああ! そうだね大丈夫っ! ちゃんと考えてるから問題ないよ!」

 

 

 また白い眼で見られかけるが、さっきと違いこちらは抜かりないので太鼓判を押すようにしっかりと話す。

 

 

「それなんだけど、まずうちは個人戦出ないから早速全国に向けて練習ができるよね。他よりも余裕あるからそういったのは皆と相談しながら追々決めるよ。だから今話しておきたいのは遠征についてかな」

「遠征?」

 

 

 首を傾げる皆に午前中から考えていた今後の予定として、これからの土日の連休使って各地の県大会準優勝校の所に練習試合に行くことを説明する。

 勿論まだどこともアポはとっていないけど、向こうからすれば自分たちから行くならともかく奈良の代表がわざわざ出向いてくれるのだから受けてくれる所は多いと思う。

 

 

「ただ、毎週行くわけにも行かないから多分一か月に一、二回が限界だね」

「え、なんで?」

「そりゃ皆がしずみたいに体力馬鹿じゃないからよ」

「いやぁそれほどでもー」

「褒めてないから。そもそも馬鹿ってついてるし……」

 

 

 憧の呆れながらの言葉に何故か照れているしず。素直っていいねぇ……。

 まあ本当だったら経験を積ませるためにも毎週にでも行きたいところだけど、普段から遅くまで部活をしているし、今後もする予定なのに更に二か月休みなしだと皆の体が持たない。無理して風邪でもひいたら元も子もないし、何より後援会がつく予定だとしてもそんなお金はないのだ。

 

 

「まぁ、行ける場所も限られてるから今のうちに皆で第一希望とか決めときな。早めにアポ取りたいからね」

「えっと、どこが良いんだろう?」

「やっぱ強い人がいるとことか?」

「うーん……先生はどこがいいと思いますか?」

「私? 私はそうだね……」

 

 

 宥に言われてもう一度新聞に目を通す、一応麻雀の欄には優勝校だけではなく決勝に出た残りの三校の名前も載っている。その中にはチラッと見ただけでもいくつか知ってる名前もあり、すぐに目についた。

 そしてその中でも一際目を引いたのが――

 

 

「……長野の龍門渕とか?」

「長野?」

「言っておくけど京太郎は関係ないよ。この龍門渕って去年全国出てた上にMVPとってた天江選手がいる学校でもあるからね、練習相手としてはここ以上の所はないんじゃないかな? 言っておくけど京太郎は関係ないよ」

「二度言わなくてよろし……」

 

 

 言い訳がましく説明をするがしょうがない。だってこうでも言わないと皆、私が京太郎目当てだって勘違いするし。別に向こういったらもしかしたら会えるかなーとか考えてないよ。ほんとだよ。

 しかし案の上だれも聞いていなかった。

 

 

「それじゃあ長野に行ったら本当に師匠と会えるかも!」

「そうですよね! だとしたら県大会で優勝したし……」

「ああ、駄目だったわよ。昨日お姉ちゃんに教えて貰いに行ったら『約束は全国の後でしょ』って言われたわ」

「ちぇー」

「ま、それまでは試合に集中しろってことじゃない……? ここで気抜いて負けたら悲惨だし」

「残念だけどしょうがないよね……」

 

 

 そう言いつつも宥達のこちらに向ける視線には期待が籠っていた。

 いや、確かに私も会いたいけど、望との約束があるから諦めなさいって。別にまだ顔を合わす勇気が足りないとかじゃないよ。だからそんな目で見るなって。

 

 

「まぁまぁ、師匠と会うのは全国大会の後の楽しみに取っておいて今は大会の方に集中しよ。それで第一候補は先生のおすすめ通り龍門渕高校でいいかな?」

「そうね……あの龍門渕ならありだと思うわ」

「あれ? 憧も知ってるの?」

「まぁ去年の大会は見てたし、和と同じ長野ってことで調べてたからね。ほんと和もよく勝てたわね……これは清澄もかなりの強敵だわ」

「きっと和ちゃんのおもちの大きさに圧倒されて負けたんだよ」

「はいはい」

 

 

 なんだかんだで部長らしく皆をまとめてくれる玄のおかげで話もまとまりそうだ。普段はお調子者だけど、しっかりしてる面もあるから頼りになるね。勿論オチがついてるのも玄らしいけど。

 とまあそんな話を聞いていたら視界の端でしずが突如立ち上がり、窓際まで歩いたと思ったら窓を開けて外に向かって指を突き出したのが見えた。

 

 

「よっしゃ燃えてきたー! 待ってろ和ーっ!!」

「ふふ、あったかぁい…………あれ? でも和ちゃんは副将みたいだから闘うのは灼ちゃんだと思うよ?」

「え…………マジで!!?」

「しょうもない……」

 

 

 そういえばしずは和と戦いたがっていたけど確かにこれじゃ無理だわ。和が大将の可能性も考えてしずを大将に置いた面もあったからまさかの展開だった。

 しかし当時の知り合いが全く当たらないとかね。うちは個人戦出てないしどうしようか…………ま、向こうで顔合わせるだろうし、なんとかなるか。

 

 

「それじゃあ話も決まったしお昼 『キーンコーンカーンコーン』 え?」

「「「「「あ……」」」」」

 

 

 話も終えてようやく一息ついたので、ようやくお昼にしようとしたら聞きなれた音が聞こえ、もしやと思い部室の時計を振り返ると、話に夢中になっていたからかいつの間にか休憩時間が過ぎていた。

 

 

「ふぅ…………解散! 走らないで急げっ!!」

 

 

 その後、授業があるしず達だけでなく、私も午後は麻雀部の事で色々動き回らなければ行けなかったため、この日は結局放課後まで全員空腹と戦う羽目になったのだった。

 




 そんなわけで現代編四部一発目はいつも通りのレジェンドサイドからでした。
 出来るならもうちょっと県大会までの話(ニワカさんが出るとことか)などを挟みたかったんですが、どんどん話を進めたいですからね。だから残念ながらニワカさんの出番はない。実は京太郎と過去に知り合っていたという展開もありません(ちょっと考えましたけど話を膨らませすぎてもあれですしね)。

 ちなみにうちのレジェンドは京太郎の影響で原作よりちょっと思慮深くなってますがその分アホになり、クロチャーも頼りになる分アホにあっております。


 それでは今回はここまで。次回もよろしくお願いします。あとまたもや長くなりそうだから切りましたので、次回もレジェンドサイドの話です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。