君がいた物語   作:エヴリーヌ

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前回よりは早かった(現実逃避)



21話

 麻雀の県大会やら古い友人からの久しぶりの連絡、そして東京にいる幼馴染の突然の帰省など色々忙しかった六月を終え、日差しも強く、茹だるような暑さの新しい月を迎えた。

 

 そんな外に出るのも憚られるような陽気が続くある日、俺たち清澄麻雀部は車でとある場所へと向かっていたのだった。

 そう、それは咲達にとって新たな成長となるであろう場所であり、俺たちは緊張した面持ちで――

 

 

「ほい、センパイ皮向けたぜぃ」

 

 

 ――いるわけもなく、久しぶりの合宿でウキウキであった。しかも本来なら一番関係ない奴が。

 

 

「はぁ…………おいおい、見てわかるだろ。今手離せないってーの」

「ふんふむ、つまり食べさせてほしいと……しょーがねぇな」

「丸ごとはやめろよ、口に入りきらないからな」

「……注文は付けるけど断わらないのね」

 

 

 後部座席からため息交じりの声が聞こえたためミラーを見ると、竹井達が疲れたような顔をしているのが見えた。

 どうした、酔ったのか?

 

 

「違います。自然に溶け込んでいたからツッコまなかったけど、なんで三尋木プロがいるのよ……」

「そりゃあ俺じゃ頼りないからな」

「自分でいうんかい」

「ま、いいじゃない。合宿ならやっぱ私は必要っしょ。知らんけど」

 

 

 扇子を開いてドヤ顔で踏ん反り返る三尋木だが、まあ間違ってはいないのだ。

 今回俺たちは藤田プロの提案で行われる決勝で戦った他校三つとの合同合宿に向かっており、そんな中、俺一人ではどう考えても力不足ゆえに指導役として三尋木にまた付き合ってもらったのだ――というか合宿の話をしたら自分から行くと言いだしたのだ。

 

 

「ハギー先輩も来るしねぃ、三人集まるのって久しぶりだし」

 

 

 まあ、こんな感じでノリノリなのだ。でも気持ちもわからなくはなかった。

 仕事や距離的な問題もあり、昔からのメンバーの中でも特に忙しい二人だからな。どっちかが集まりに来られることはあっても、両方が揃うというのは久しぶりのことであった。

 それに俺としても出来るなら聞いておきたい事もあった。先日竹井達清澄&龍門渕に嵌められて連れて行かれたプールではあまり話す機会もなかったし。

 

 

「むぅ……この合宿の主役は私たちのはずだじぇ」

「まぁまぁ」

 

 

 愚痴る片岡に同感だが、口を挿むと面倒なので此処はスルーだ。

 とまあ途中渋滞にはまりつつも、そんな感じで談笑をしていたらあっというまに無事に目的地へと着くことが出来た。

 

 

「ふぅーーーやーっとついたじぇ」

「それなりに遠かったねぇ」

「長野は広いですから」

 

 

 車から降りると、咲達が凝り固まった体を動かしながら辺りを見回している。

 場所的には特に物珍しい所ではないが、以前泊まった所と同じで静かだし、集中して合宿をするには向いていそうだな。来る途中、コンビニもあったからそこまで不便でもなさそうだし。

 

 

「見物するのもいいが、はよう荷物おろすぞ。他の学校は既についとるんじゃろ?」

「ええ、美穂子たちはもう来てるみたいね」

「マジか、じゃあうちらが最後か」

「仕方なかろう。途中渋滞にはまってしもうたし」

 

 

 荷物を降ろしながら竹井が携帯を開き、他校の状況を知らせてくる。

 一応時間内に間にあったとはいえ、最後についたのは失礼だからな、顔合わせたら謝罪しないと。大人って実に面倒だ。いや、大人じゃなくても謝るけど。

 

 

「おーい、置いていくぜーーー!」

 

 

 まあ、中にはお気楽な大人もいるけどな。視線の先には一足先に三尋木が駐車場の端まで移動し、手を振っているのが見えた。

 なんであいつが一番テンション高いんだろうなぁ。

 

 

「またお酒でも入ってるんですか?」

「もしくは徹夜したとか」

「昨日はさっさと寝たはずだぞ。だからそんな目で見るな、さっさと行くぞ」

 

 

 だらしない大人を見るような視線の和と咲から目を逸らす。本当に疚しいことなどないのだが、こうやって見られると思わず目を逸らしてしまうのであった。

 

 とりあえず騒ぐ三尋木と合流して建物へと向かう。すると建物の前に人影があるのに気付いた。

 

 

「あれって……」

「鶴賀じゃの」

 

 

 染谷の言う通り、そこにいたのは決勝で当たり、今日から一緒に合宿を行う鶴賀高校の面子だった。荷物を持っていないのを見るに、俺達と違ってどうやら今着た所というわけではなく散歩でもしていたのだろう。

 竹井が一人早歩きで俺達より先に近づくと、足音で向こうもこちらに気付いたみたいだ。

 

 

「久しぶりね、ゆみ」

「来たか、随分ゆっくりだったな」

「そうなのよ~ちょっと先生が寄り道しててねぇ」

「まったく、やめんか」

 

 

 さり気なく俺一人の責任にしようとした竹井にすかさず追いついた染谷がツッコミを入れる。それを見て笑いながらも加治木は後から来た俺たちに向かってぺこりと頭を下げた。

 

 しかしこいつら随分と仲がいい感じだな。合宿会議の時に一度顔を合わせただけだと思ったが、その後も電話か何かで連絡を取っていたのだろう。

 部長同士……ちがった元部……じゃない、三年同士気が合うのかもな。

 とりあえずあっちも盛り上がっているようなので、こちらはこちらで――

 

 

「やぁ新部長さん、お疲れ様」

「う……か、からかわないでください須賀先生」

「はは、スマンスマン、東横も久しぶり」

「どうもっす。なんかおまけ扱いが気に入らないっすけど」

「気のせい気のせい。元部長達の姿が見えないけど二人は別行動か?」

「はい、近くのコンビニまで行ったっす」

 

 

 なるほど三人の姿しかないと思ったらそういった事か――と、そんなことを考えていると背中を突かれる感覚があったので振り向くと、咲がじーっとこちらを見つめていた。

 

 

「……京ちゃん、久しぶりって言ってたけど、話し合いの時に会った加治木さん以外といつ知り合ったの?」

「…………目が笑ってない人には教えたくないです」

「だったら私に教えて貰えませんか?」

「口元が笑ってないから嫌です」

「ま、せんせーが女を引っ掛けてくるのはいつもの事だじょ、しっかし何があったのやら」

「人聞きの悪いことを言うな、別にこの間の休みに偶然あっただけだぞ、ホント」

 

 

 特に秘密にすることでもないし、ここでグダりたくもないから軽く説明する。

 先日、釣りに出かけた時に、偶々鶴賀のメンバーと出会っただけだし。

 

 

「あの時は本当に助かりました。あのままではサワガニが晩御飯だったので……」

「ほんとにいったいどういう状況だったんだじぇ……」

 

 

 深刻そうに話す津山に思わず笑いそうになるが、確かに気持ちはわかる。あんな所でサワガニと調味料だけの夕食を迎えるのは俺だって嫌だな。ちょうど俺が釣った魚があってよかったよ。

 

 その時の事を思い出して苦笑いをしていると、後ろで様子を窺っていた三尋木が興味深そうに脇から顔を出した。

 

 

「お、この子が前に話してた消える一年生? ふぅ~ん……確かにちょっと薄いね」

「え、あれ……? もしかして……私の事普通に見えてるっすか!?」

「うん、一応最初から見えてたよ」

「それじゃあ――」

「ああ、こいつが前に言ってたダチの一人だ。やっぱ見えるよなぁ」

 

 

 驚きで目を見開く東横に軽く頷く。なんでも東横は普段から人に認識されにくい体質らしく、こうやって初見の相手に話しかけられるのがほとんどないらしいのだ。

 実際に咲達も俺がこうやって東横さんに話しかけるまで気付いていなかったし。

 

 そんな理由もあってなにやら感動している東横さんなのだが、元々三尋木なら普通に見えるだろうと思っていたから俺としては不思議ではなかった。多分ハギヨシも見えるだろう。

 ちなみに俺は普通に見えている。多分、昔から変人を相手にすることが多いから免疫がついたのではないかと思う。

 そんなことを考えながら話していると、なにやら津山が首を傾げながら三尋木を凝視しているのに気付いた。

 

 

「どうしたんっすか、むっちゃん先輩?」

「いや、えーっと……」

 

 

 なにやら悩んでいるみたい――あ、そうか、変装しているからわからないか。

 ちょっと早いがもういいかと思い、手を伸ばして眼鏡を外し、三尋木の変装を解く。

 

 

「こいつはうちの先生役をやってる三尋木咏だ。合宿中はよろしく頼む」

「よろしく~」

「えっと……確かプロの方っすよね」

「そうかもねぃ、知らんけど」

「っっっっつ!!!!!!??????」

 

 

 俺たちの発言――特に三尋木の口癖がきっかけだったのか、津山が目と口を大きく開けたまま固まってしまった。

 確かにプロってのはビックリするだろうけど、驚きすぎじゃないだろうか?

 

 

「ああ、むっちゃん先輩ってばカード集めるほどのプロファンですからね、しょうがないっす」

「へぇーそうなのか、でもカードって?」

「ほら、おせんべいのおまけについてるやつっすよ」

「うーん……あ、もしかしてこれか?」

「!!!? そ、それはっ!? 53万袋のうち1袋にしか入っていないと言われる三尋木プロのSSSレアカードッ!!!」

 

 

 心当たりがあったので懐にあるカード財布からそいつを取り出すと、津山がものすごい勢いで覗き込んできた。

 

 

「す、すごいレアものなのにどうやって!!?」

 

 

 以前会った時の冷静な態度とは全く異なっており、相当なジャンキーであることが伺えた。思わず腰が引ける。

 

 

「えーと……確か昔、こんなの出来たから持っとけーって三尋木から俺達ダチ連中に渡されたんだよな」

「そうそう、大事に持ってて関心関心。いつも心に咏ちゃんってねぃ」

「俺としては閉まっておいたら呪われそうだから持ち歩いてるだけだけどな―――売ったらいくらになるんだろう」

「……七代先まで祟るぞ」

「こえーから前髪たらすなっての」

 

 

 そんな俺たちの様子に顎を落としながら茫然と津山が見ていた。

 ただその状態にもかかわらず視線の先は俺が持っているカードに注がれており、何処か――というか凄く羨ましそうだった。

 

 しかしこんなのがレアなのかぁ……ただ単に三尋木がかっこつけたポーズ取ってるだけのだし、よくわからん。

 だから別に俺は集めているわけでもないし、そんなに欲しいならあげてもいいんだけど、流石に三尋木から厚意で貰った物を渡すのはなぁ……一応こんなんでもこいつの努力の証だし。

 すると俺のカをちらっと見た三尋木が、顎に扇子を当てながらなにか考え込んでいた。

 

 

「ふぅん、なんか私のカードは持ってないの?」

「え……? あ、はい、あまりレア度は高くはないのですが……」

 

 

 そういって津山は何処からともなくバインダーを取り出したと思ったら、その中から一枚カードを見せてきた。

 それを確認した三尋木は懐からペンを取り出し――

 

 

「そいじゃちょっと貸してねーっと、ちょちょいのちょい。うん、これでいいかもねー」

 

 

 ――そのカードに自分のサインを書いてから返した。

 

 

「え……え、え……っ?」

「お、これじゃダメな感じ?」

「い、いえっ!? ああありがとうございますっっっ!!!」

 

 

 首が取れるんじゃないかとばかりに激しく振りながら津山が感謝の意を伝える。

 確かにこっちの方がいいだろう。コピーではないマジもんの本人のサインだ。俺が持ってるのとは違い、本当に世界に一つの品だった。

 

 

「で、でもよろしいんですか……?」

「ま、これも何かの縁ってね、出来れば大事にしてくれると嬉しいかな。あと清澄の奴らとも仲良くしてやってくれってね」

「勿論です!」

 

 

 その三尋木の言葉に津山だけでなく、今まで黙って聞いていた咲達も感動していた。

 鶴賀の次期部長である津山に清澄の好印象を与え、尚且つそれによって咲達からの印象をよくするという策士であった。流石三尋木汚い。俺はそんなお前が好きだ。友人でよかったぞ。

 

 

「むっちゃん先輩、涎垂れてるっすよ」

「…………」

「……駄目だこりゃ」

 

 

 東横が首を横に振ってため息をつく。津山は完全に別の星――多分ナメック星辺りに意識が飛んでいた。

 

 

 

 

 

 その後、まだ戻ってこない二人を向かいに行くために津山を引き摺る加治木と東横と別れ、俺たちは建物の中に入る。結構外で話していた為、予定時間ぎりぎりとなってしまった。

 まずいかなーと思いつつ中に入ると、ロビーの所で固まっている一団を発見した。この施設は今うちらの貸し切りだから相手は詳しく見なくてもわかった。

 

 

「お待たせして申し訳ない」

「いえ、私達が先に到着しただけですから問題ありませんよ」

 

 

 そういって最初に話しかけてきたのは風越のコーチである久保さんだった。

 これで俺より年下の23歳と聞いた。貫禄あるなぁ。

 

 

「さっき鶴賀の子達とは会ったのですが、そちらの子たちは?」

「ええ、ここに全員そろっています。龍門渕の方も」

「そうですか、ありがとうございます」

 

 

 視線をチラッとずらして周りを確かめると、確かに見知った顔がいた。それぞれの選手だけでなく、ハギヨシや藤田プロと勢揃いであった。

 そして俺たちの会話が終わったのがわかったのか、目立ちたがり屋な龍門渕さんが両手を腰に当てながら早速に前に出た。

 

 

「さて、これで全員揃いましたわね。今すぐ始めますわよ!!」

「透華。挨拶が先だよ。しっかりとけじめはつけないと」

 

 

 早速暴走しそうな龍門渕さんを国広が抑えてくれる。いつもの光景であった。

 

 

「でも早く打ちたいんだし!」

「こら華菜、清澄の皆さんもここまで来るのに疲れているんだから無理言わないの」

「でもキャプテン~~」

「池田ァ! 恥ずかしいから気の抜けた声を出すなっ!」

「ひぃ! ごめんだしコーチッ!」

 

 

 そしてこっちはこっちでよく見る光景であった。あまり顔を合わす機会がないとはいえ、やはり皆相変わらずといった所だな。

 そして騒ぐ二校の端に、なにやら藤田プロが何度も目をこすっている姿が見えた。どうしたんだろう?

 

 

「あら? どうしたの靖子?」

「いや、なにやらあり得ないものが見えてな……」

 

 

 そういう藤田プロの視線を辿ると――

 

 

「やぁやぁ藤田プロ元気ぃ~?」

「マジか……」

 

 

 背後から姿を現した三尋木を見て、頭痛がするのか藤田プロが額に手を添える。他の皆の中にはわかっている者もいるが、未だ眼鏡以外の変装はそのままなので誰なのか理解していないものも多く疑問顔だ。

 まあ、着物の印象がデカいから洋服だけでも十分な変装になるんだよなこいつ

 

 

「なんでここにいるんだよ――――三尋木プロ」

 

 

 しかしため息交じりの藤田プロから出た名前で、ついに三尋木に驚愕の視線が集まる。やっぱトッププロの注目度はヤバいな……まあ咲みたいなタイプじゃなきゃ知ってて当たり前か。

 それはさておき、藤田プロの驚く姿が面白いのか三尋木が指を振りながら俺の隣に来て小さな胸を張る。

 

 

「そりゃセンパ……須賀先生とマブだからさ、これでも清澄のコーチみたいなことやってたんだぜ私」

「……久」

「だって黙ってた方が面白いじゃない」

「…………ハァ」

 

 

 ついには額を抑えながら近くにあった椅子に座り込んでしまった。そんな藤田プロの肩を三尋木がバシバシと叩いて慰めていた。いや、お前のせいっぽいから意味ないぞ。

 しかしさっきから様子がアレだが、この二人何かあったのだろうか?心当たりがあるとすればプロ時代と三尋木がこっちにいた中学の頃か?今度聞いてみよう。

 

 

「まぁまぁ、私は級友達に会いに来ただけでなにもしないから心配ないって。わっかんねーけど」

「一言余計だろう――――――ん? 達って?」

「ほら、ここにいるセンパイとあそこで一人、自分は関係ないですよーって澄まし顔でいるお人さ――そうだろ、ハギー先輩」

 

 

 三尋木の発言で、今度は一歩下がって一人龍門渕メンバーの後ろに控えていたハギヨシに視線が集まる。特に龍門渕さんなんかは明らかにやばい顔をしていた。

 そんな状況に思わずハギヨシも苦笑いだ。

 

 

「お久しぶりです、三尋木さん。相変わらずお綺麗で」

「ありがとう、相変わらずそっちもイケメンでお世辞がうまいねぃ。少しはセンパイに爪の垢を飲ませたいよ」

「どっちの意味でだ? 勿論どっちでもかまわねーけどなぁ」

「そのグリグリする構えはやめとこーぜぃ」

 

 

 両手をワシワシさせると、三尋木はすかさず構えを取って臨戦態勢となる。勿論何か武術を習っているわけではないので、なんちゃっての構えだ。

 そんなアホな俺達に視線が集まるが、その一方で龍門渕さんは取り乱しながらハギヨシに詰め寄っていた。

 

 

「ちょっ、ハ、ハギヨシッ! 聞いていませんわよっ!!」

「聞かれませんでしたので」

「へぇ、やっぱ凄い人の所には凄い人が集まるんだなぁ」

「同感だ。だがとーかには教えなくて正解だな、厚顔無恥にもハギヨシを通して我儘を通していたろう」

「でも衣も不満顔」

「ま、気持ちはわかるよね」

 

 

 例え主でも友人は売らない。主を甘やかすだけではないという実に執事の鑑であった。

 あと井上、その発言は俺にグサッとくるからやめろー。別に今さらこいつらに劣等感持つつもりはないが、口に出されると微妙に考えてしまうんだよ。

 

 

「むむむ、なにやら向こうは凄いな……コーチ! こっちにスペシャルゲストは?」

「……拳骨ならいくらでもくれてやるが?」

「い、いらないからその手を下げて欲しいんだし!」

 

 

 へこむ俺を余所に、相変わらず向こうはあの二人だけで十分にぎやかであった。

 ただ、一人――確か一年の文堂さんだったか? 彼女が三尋木を見て目を見開いているがどうしたんだろうか?

 

 

「それより先生。そろそろ荷物」

「と、そうだな。それじゃあ悪いけど俺たちは荷物置いてくるからまた後で」

「わかりましたわ、先に会議室でお待ちしております」

 

 

 こんなことをしている間に鶴賀の人たちも戻ってくるだろうし、このまま始められないなら本末転倒なので、急かす竹井を先頭に俺たちは部屋へと向かうことにした。

 ちなみに流石に今回は三尋木とは別部屋である。三尋木は別に一緒でもいいと言っていたが、他校には恥を晒せないからな――夜はしっかり鍵しめてさっさと寝よう。

 

 

 

 

 

 それから荷物を置いてから再び集まり、代表という事で竹井の挨拶で開会式の様なものを行った。

 そして時間ももったいないので、早速皆各々卓を囲んで練習することとなったのだが――

 

 

「んで、俺たちはどうする?」

「そうですねぇ……」

「飲む?」

「アホか、そもそもお前は対戦相手として引く手数多だろ」

「イテッ」

 

 

 どこからともかく酒瓶を取り出した三尋木にチョップを入れる。

 

 そうなのだ、ちょうど各校の生徒は五人。それで四校だから俺たちが入る隙間が無いのだ。まあ、元々生徒たちのスキルアップの場なのだから俺たちが入ってもしょうがないんだけどな。

 

 アホな話をしながら壁際で手持無沙汰にしていた俺たちだったが、それに気付いた藤田プロがこちらに向かってきた。

 

 

「お二人は入らないんですか?」

「いや、俺たちの実力じゃ精々数合わせ程度にしかならないんで」

「え……もしかして執事さんも?」

「そうですね」

 

 

 不思議そうに眼を丸くする藤田プロの視線から逃れる様に顔を合わせる。お互いに苦笑いだ。

 意外なことに、何でも出来そうなハギヨシなのだが、何故か昔からボードゲームの類だけは苦手なのだ。それは麻雀も例外ではない。勿論それに甘んじてるハギヨシではないので、主の為に特訓はしているが、結局実力は俺とどっこいだ。

 

 だから正直出来ないわけではないが、教えられることは少ないし、皆の練習に割り込む理由もないので、いざという時の数合わせとしかならないからどうするか悩んでいるんだが――

 

 

「いいじゃんやろうぜぃ、この三人で麻雀打つなんて初めてなんだし」

 

 

 ――どっかの誰かさんがやる気満々であった。

 

 

「でもなぁ……」

「あ、もしかして負けるのが怖い? いやーまさかあの二人がそんなことねーよなぁ、わっかん「おー、いいぞやってやろうじゃねーか」おぶぶ」

 

 

 ニヤニヤ笑う顔がむかついたので、下から挟むように片手で頬をつかむとタコの様になっていた。

 まあ、わかりやすすぎる挑発であったが、流石に後輩相手にここまで言われて引き下がるわけにも行かないよな。

 

 

「よし、ハギヨシ行くぞ」

「ええ」

 

 

 それ以上言葉は交わさずとも思いは同じであった――この生意気な後輩、泣かせてやると。

 

 

「おう、早く席つけよ。後悔させてやる」

「いいねぇ、そうこなくちゃ。藤田プロ、付き合いな」

「え、え? わ、私?」

 

 

 展開の速さに困惑気味の藤田プロであったが、プロとして逃げるわけにはいかないのか、諦めて俺達と一緒に卓を囲む。

 ふむ……最初は乗り気ではなかったが、こうやって座るとやっぱ身が引き締まるな。

 

 

「さて今回はまじでいくぞ!」

「負けられませんね」

「む」

「ほう」

 

 

 俺とハギヨシの本気の気迫を感じたのか二人が真剣な表情をする。そしてそんな異様な空気に気付いたのか、周りで練習していた咲達の視線が集まるのを離れた所からも感じた。

 

 ――ふんっ、こちとら伊達にお前らより年食ってないんだ。偶には良い所見せてやる。

 

 

「行くぞぉぉおお!」

 

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほいツモ。6000・12000かな。知らんけど」

「ぐわあああーーーーッ!!」

「ふむ……困りましたねぇ」

 

 

 ――俺とハギヨシ、両者ともに同時に飛んでしまい対局終了。こんな時でも俺たちは仲良死だった。

 




 ようやく入った四校合宿編。しばらくは他校と絡みます。

 ちなみに――

 池田「妹たちの世話で合宿行けないんだし……」
 京太郎「どうせ俺暇だし面倒見といてやるから連れてこいよ」

 ――的な展開を思いつきましたが、池田がヒロインぽくなるからなしで。


 それでは今回はここまで。次回もよろしくお願いします。


 キャラ紹介に【風越】・【鶴賀】追加しました。
 龍門渕と違ってこの二校は出番が少ないので、今回はキャラごとではないです。

 しかしハギヨシ19歳かぁ……

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