君がいた物語   作:エヴリーヌ

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和「さて問題です。これはなんと読むでしょう」


つ『赤土晴絵』


照「空気ヒロイン」
咲「レジェなんとか」
咏「ハブらレジェンド」

晴絵「好きで出番がないわけじゃないからね!!?」



22話

 死屍累々――というには大げさだが、まさにその言葉が似合うような光景であった。

 

 

 結局あの後も二戦ほど対局を続けたのが、どちらも南場にすらいかず東三局、東四局で俺とハギヨシがそれぞれハコワレして一文無しとなってしまった。

 ちなみに付き合わされた藤田プロも巻き添えを食らって、焼き鳥という悲惨な状況となったのだった。

 未だに机に突っ伏したまま動かない藤田プロを見て、思わずため息が出る。

 

 

「おまえなぁ少しは手を抜けよ……」

「おや? 本当に抜いてほしかった?」

「……多分キレてた」

「だろぉ? センパイの事はよーくわかってるってね、知らんけど」

 

 

 三尋木のいう事はもっともだが、それでも悔しいものは悔しい。いい歳だし、こんなことで喚いたりはしないがやはり気は落ちる。勿論勝てはしないが、多少は泡を吹かせることぐらいは出来ないかと思っていた上での結果だしな。

 なんだかんだ言いつつも慕ってくれている後輩に良い所を見せたいと思うのは先輩の嵯峨というものだ。

 

 

「べっつにいいじゃん、一つぐらいはセンパイ達に勝てる物があったってさぁ」

「……なーに言ってんだが」

 

 

 なにやらしんみりした表情をする三尋木の額を軽く指で押す。ま、そう言われて悪いはしないけどな。

 

 

「へへっ、それに私に本気出させたぐらいだし、センパイ達も存外悪くないと思うぜ。わっかんねーけど」

「そうか?」

「さぁーてね。わっかんねーすべてがわっかんねー」

「おいおい」

 

 

 まあ、慰めてるのか本気なのかどっちかは知らないけど、本当だったら嬉しいね。

 ちなみに咲達は一度目の対局を見終えて早々、それぞれすぐさま席について続きを始めていた。どうせガッカリするような結果だったさ、ちくしょー。

 

 

「……ま、とりあえずハギヨシもいないし、時間的には短かったけど満足しただろ? 他の奴らにアドバイスでもしてきてくれよ。暇だろ?」

「ん~別にいいけど、ハギー先輩帰ってきたよ」

 

 

 俺の背後に向かって扇子を指したので振り返ると、皆のお茶を用意するために少し前に退室したハギヨシが戻ってきていた。しかも――

 

 

「……どう思う?」

「アリだと思うけど、向こうはそんなつもりないだろ。勿論ハギヨシも」

「だよねー」

 

 

 お互い短い会話だったが、長い付き合いゆえに言いたいことはわかる。どうせハギヨシの隣にいる風越キャプテンの福路の事だろう。

 どうやら先ほどから姿が見えないと思ったらハギヨシの手伝いをしていたみたいだ。

 

 あの心遣いを見習わせてみたいと実に思う。敢えて誰達にとは言わんがな。

 

 

「確かに福路はハギヨシの好みに近いけど、年下だしなぁ」

「あいっっっ変わらず年上好きかぁー……自分が年食うにつれて対象も変えてきゃいいのに。今のハギー先輩だと相手も限られてきつくねー? 知らんけど」

「その時はその時だろ、今時結婚しないってのも珍しくないしな。それにあいつは今のままでも十分に満足してるからな」

「あー……確かに」

 

 

 今の発言が己にも返って来ることに気付いた三尋木の言葉が途端に減った。

 俺は一時期晴絵と付き合っていたけど、お互い一人身期間が圧倒的に長いからな。今後も全くその予定もないし。

 あーーーもうめんどくさいから親父たちの言う通りお見合いでもしようかなぁー。

 

 自分のリアルな現状に嫌気がさして、そんな投げやりな気分になっていると、どっかで対局が終わったらしく、何人か立ち上がって真っ直ぐハギヨシ達の所へ行くのが見えた。

 

 

「タイミングもバッチリ、流石ハギー先輩」

「あいつらしいよ」

 

 

 昔から気の利かせ方では抜きんでていたからな。比べようとすることすら烏滸がましいぐらいだ。

 

 

「ま、あの通りしばらくはあいつも周りのサポートだから、今度こそどっか行ってこい。じゃないとマジでお前が来た意味がないからな」

「ちぇー、なんだよさっきから余所余所しいなぁ」

「ここには教師として来てるからな――ほら、どうやらご指名みたいだぞ」

 

 

 俺の視線の先にはこちらに向かってくる猫っぽい女子――風越の池田がいた。わざわざこっちに来るという事はお目当ては三尋木か。

 

 

「ようお疲れ、三尋木をご指名か? だったら心が折れない様に頑張れよ」

「そうしたいんだけど残念ながら違うんだなーこれが」

「「?」」

 

 

 俺の言葉に生意気そうにヤレヤレと首を振る池田。ここには俺と三尋木、後は既に心が折れた藤田プロしかいないが、どういうつもりだ?

 疑問に思っていると、池田がため息をつく。

 

 

「練習で勝った連中が三尋木プロと最初に戦えるって勝負してたんだし……」

「ああ、なるほどね」

 

 

 つまりこいつは負けたからその権利はまだ先だという事か。確かに視界の先では他の所で勝負に勝ったらしい龍門渕さんが高笑いを決めながら、こっち――三尋木を見ていた。

 

 

「三尋木に誰も寄ってこなかった理由はそういうことか、しかしだったらどうしてここに?」

「勿論相手を探しに来たんだし! 残念だけど須賀先生で我慢するかな!」

 

 

 ふむ――――つまりこういうことか。

 

 

「拳骨が欲しいと、お前好きだもんな」

「違うし!? 確かにコーチにはよく怒られてるけど好きでやってないから!」

 

 

 頭を抱え勢いよく首を横に振りながら否定する池田だったが、どう聞いても喧嘩を売っているとしか思えない。先ほどの言葉では説得力がないのだ。

 

 

「ほ、ほら、須賀先生って皆と違って古臭い打ち方してて練習になるから!」

「ったく、古臭いは余計だっつーの」

 

 

 やっぱり喧嘩を売ってるようにしか思えないが、これが池田の持ち味だから仕方ないのかもしれない。それに古臭いというのもあながち間違ってない。俺の麻雀の師匠は晴絵だからな。

 以前見た実業団の試合での晴絵はすっかり打ち方も洗練されていたが、俺が教えて貰っていた当初はまだ始め直したばかりで、ブランクもあったから昔の癖が移ったのだろう。

 

 

「あらあらそんなこと言っては駄目よ、華菜。さっきの先生たちの戦いを見て火がついたんでしょ?」

「キャプテン!?」

 

 

 昔の記憶に思いを馳せていると、ハギヨシの手伝いをしていたはずの福路がいつの間にか傍に来ていた。しかし火がついたね……負け犬根性にか?

 我ながら酷い言い草であった。 

 

 

「ふふ、華奈はこう言っていますけど、心の底では須賀先生と遊びたがっているので許してあげてください」

「キャ、キャプテン違うんだし!」

 

 

 慌てながら福路の台詞を遮ろうとする池田だが、福路は相変わらず『あらあらウフフッ』といった感じで、まったく意味を成していなかった。

 

 俺の周りの女子と言ったら基本的に咲や三尋木をはじめ、内弁慶含めて気が強いタイプばかりなので福路の様なタイプはやはり新鮮だ。

 こーんな感じの子が嫁に来てくれたらなぁ――と、んなアホなことを考えている場合じゃない。いつまでこうしていても時間がもったいないので折角の誘いだ。

 

 

「そこまで言われちゃ断れないなぁ~ほら、遊んでやるからこっち来い」

「猫扱いするなってば!」

 

 

 とりあえず先ほどまで座っていた卓は未だ藤田プロが死んでいるので移動すると、なんだかんだ言いつつもプリプリ怒りながらついてくる池田であった。

 久保コーチがこいつを可愛がる理由がなんとなくわかる。

 

 そんで先ほどまで池田たちが使って所が空いていたので、そのまま座る。しかし池田も座った所であることにようやく気付いた―――二人じゃ足りなくね?いや、確かに二人でも出来るけど流石に寂しすぎるだろ……。

 

 とりあえず余っている誰かを誘おうと思い、辺りを見渡そうとしたら――

 

 

「失礼するっすよ」

「お邪魔します……」

 

 

 ――何故か東横と沢村がぬるっと入ってきた。

 

 

「……なんだお前ら、他に相手いないのか?」

「いやいや、一言目がそれってどんだけ失礼っすか」

「だって俺と池田だぞ、もっとマシな相手がいるだろ」

「さり気なく華奈ちゃんまで混ぜないんで欲しいんだし!」

「だってリアルで私が見える人と打つ機会なんて早々ないっすからね」

「なるほど」

「そろそろ混ぜて欲しいし……」

 

 

 隣で池田がしょぼくれだして面倒なので、持ってたクッキーを渡すと途端に機嫌がよくなる。それでいいのかお前……。

 そんでそんな理由があった東横はいいとして沢村の方へと視線を向けると――

 

 

「……憂さを晴らしに来た」

「素直だなぁ」

 

 

 感情が込められてなさそうでしっかりと怨嗟を感じる一言だった。

 恐らく前の卓でやっていた決勝戦の時と同じ面子でのリベンジで振るわなかったのだろう。次鋒の全員が眼鏡という眼鏡カルテットだったのには驚いたっけな。

 

 

「ま、いっか、それじゃあこの面子でやるか」

 

 

 なんだかんだ言いつつ、ちょうど人も欲しかったし渡りに船であった。

 そして改めて面子を見回してみると、中々華(おもち)がある面子である。まあ一部は名前にしかないけどな。

 

 

「…………」

「なんで慰める様に肩に手を置くんだしっ!!?」

 

 

 隣で池田が騒いでいるが気にしない。

 そういえば置いてきた三尋木は今どうしているかと思い、なんとなく探してみ――

 

 

「「「「……」」」」

 

 

 少し離れた所で三尋木、咲、龍門渕さん、天江というなんとも恐ろしい組み合わせが揃っていた。しかも周りに充てられたせいか、どうやら龍門渕さんは『冷えている』みたいだ。

 俺だったら――いや、俺でなくともすぐに踵を返して裸足で逃げ出すだろこんなの。

 

 

「ふぅ――こっちは気楽にやろうか」

 

 

 俺の言葉に三人とも深く頷いていた。強敵に挑みたい気持ちもあるだろうけど、やっぱ楽しまなくちゃな。

 

 

「さて――それじゃあ普通にやっても面白くないから、誰かが振り込むたびに池田がモノマネな」

「なんでだしっ!??」

 

 

 安定の池田オチであった。

 

 

 

 

 

 その後、俺たちはのんびり楽しく麻雀を続け、お互いに切磋琢磨し合う良い時間となった。え、人外卓?なにそれ美味しいの?

 

 そんな練習も先ほど終わり、夕食をとった後は待望の自由時間となる。

 麻雀を続ける者もいれば、普通にお喋りなどをして他校と交流を深める者などもおり。うちの連中もその中に加わり、皆思い思いの時間を過ごしていた。

 そんな中、俺はというと――

 

 

「ふぅ……いいお湯ですね」

「まったくだ」

 

 

 ――ハギヨシと風呂に入っていた。

 

 勿論HOMO的な意味ではなく、単に飯食った後の流れだ。それに外じゃ誰が聞いているかもわからない為、こういった時にこのような場所は話をするのにもってこいなのだ。

 別に秘密の話などというものがあるわけではないが、教師としてではなく、一友人として腹を割って気軽に話したい事もたまにはある。

 

 

「いやー今日はほんと疲れたなぁ~」

「そうですね」

「嘘つけ、これぐらいお前だったら屁の河童だろ」

「ふふっ、実を言うとそうですね。ただお嬢様が冷え始めた時には流石に肝を冷やしましたが」

「あー……あれなー」

 

 

 苦笑しながら出たハギヨシの言葉に昼間の事を思い出す。

 

 龍門渕さんは周りに充てられると時たまああなることがあり、打ち方などがガラリと変わってしまうのだ。

 しかもそうなった場合、下手するとそのまま気を失うように寝てしまう事もあり、身内としては心配になるのも無理なかった。龍門渕さん自身あまりその状態を気に入っていないのもあるしな。

 

 とはいえ今日は三尋木がいたおかげで完全に成る前に対局が終わってしまったので、対戦後はいつもの龍門渕さんに戻っていた。三尋木様々だった。だけどなぁ……。

 

 

「あいつはしゃぎすぎじゃね?」

「私たちで遠出をするというのは久しぶりですし、無理もありません」

 

 

 こっちはこっちで更に長い付き合いなので、何の話かもすぐに通じる。三尋木の事だ。

 勿論あいつも立場をわきまえてしっかりと生徒たちの指導はしてくれて皆にもそれは身についているのだが、それにしても異様にテンションが高かった。確かに気持ちもわかるけどな。

 

 

「まあ、あいつの話はどうでもいいんだが、それより一つ聞きたいことがあったんだ」

「おや、なんでしょうか?」

「この前のプールで会った時……からだろうな。どうにもそっちの面子から変な視線を感じるんだけど一体なんなんだ?」

「ほう……」

 

 

 そう、聞きたかったのは最近龍門渕のメンバーから感じる視線のことだ。この間のプールで会った時から、龍門渕メンバーの全員から生暖かいような変な視線で見られているのだ。

 背中がムズムズするので、その時すぐに聞こうとしたのだが、結局機会がなくてハギヨシに尋ねることが出来なかったので今日こそはと思い問いただす。

 そんな俺の疑問に対し、ハギヨシは――

 

 

「気のせいじゃありませんか?」

 

 

 ――見事にはぐらかしてくれた。

 

 

「……ふぅ、つまり主人のプライベートに関することってわけか」

 

 

 とはいえいくらポーカーフェイスなハギヨシであろうと、流石に長い付き合いもあって何かを隠していることだけは掴める。勿論微かなことぐらいであって、何を隠しているかはわからないけどな。

 だけどハギヨシが隠すことと言ったら龍門渕さん達に関わることしかあるまい。そう当たりをつけて、鎌をかけたのだが――

 

 

「いえ、そうですねぇ……」

 

 

 ――なんと珍しくハギヨシが言い淀んでいた。

 

 本当に珍しい。こいつとは10年以上の付き合いになるが、それでも片手で数えられるほどしか見た事がない。いったいどうしたというんだ?

 

 

「……そうですね、私の口からは何とも……そのうちわかると思いますよ」

「うーん、わっかんねーけど、お前がそう言うならきっとそうなんだろうな」

 

 

 理由はわからないが言いたくなさそうだし、とりあえずハギヨシの言葉を信じてここは引き下がることにする。

 別にこいつを盲信しているわけではないが、こいつのいう事は大抵正しくもあり、あっていることがほとんどだ。その上友人の助言なら聞かないわけにも行かないだろう。

 

 

「まあ、とりあえず俺のどっかしらが可笑しくて笑っていたわけじゃないんだよな?」

「勿論です。いつも通り男前ですよ」

「……キモいからそういう物言いはやめろって」

「おやおや」

 

 

 なにがおかしいのかくつくつと笑い始めるハギヨシに思わず呆れる。全く……こいつの笑いのツボは相変わらずわからんな。

 

 

「さて、そろそろ上がりましょうか。きっと皆さん須賀君を待っていますよ」

「……すげえ出たくねぇ」

 

 

 ハギヨシの言葉で、酒瓶を持った三尋木やニヤケ顔を隠さない竹井の顔が真っ先に浮かんだ。

 

 ただでさえ清澄一校でも手に余るのにプラス三校だしなぁ……真面目な生徒も多いとはいえ、騒がしい面子を抑えきれるかというと話は別だ。

 そういえば竹井の奴、荷物の中に花火を持ち込んでたっけ…………。

 

 

「なんかあったら助けろよ」

「前向きに善処します」

「心強い言葉に泣けて来るぜ……」

 

 

 そんなことをぼやきながら俺たちは揃って風呂からあがり、皆の所へと戻るのだった。

 




 そんなわけで進んだのか進んでないのかわからない22話目でした。
 とりあえず池田は可愛い。

 しかし筆が進まない……今年の6月22日は本編に関係ない、原作準拠の京太郎主人公でレジェンドがヒロインの番外編書こうと思ったけど無理でした。早く本編進めましょう。

 それでは今回はここまで。次回もよろしくお願いします。

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