君がいた物語   作:エヴリーヌ

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現代編はじめました。



最終章
24話 NEW!


『やはり鉄板は宮永照率いる白糸台か!?』

『昨年の屈辱を果たす!精鋭揃う臨海!』

『Vやねん千里山!』

 

 

「はぁ……」

 

 

 鬱陶しくなりラジオのチャンネルを回すのをやめて消す。

 視線を正面から外さずに凝った肩と首を軽く回して、筋肉をほぐしていたら思わずため息が出た。

 

 

「ふぅ……猫も杓子も取り上げるのは常連校ばかり……まあ、そりゃそうか」

 

 

 ラジオだけでなく、先日読んだ雑誌の事を思い出す。

 全国的に売られている有名な麻雀雑誌1800円(税抜)。そこにはプロからアマの試合解説、麻雀一口アドバイス、果てには麻雀占いなど、麻雀について色々書かれているが、一際目立つのはやはり夏のインターハイについてだった。

 

 野球でもそうだがプロには入る前、高校生の大会というのは注目が集まる。それこそ中学やそこらのプロの試合よりもだ。

 だからこうやってインハイ前には受けを狙ってラジオや雑誌などの話題の中心にもなるのはおかしくない。そして、その『中心の中心』になるのもまた受けがより良いものとなる。

 

 雑誌でもどこでも、話題の中心は昨年の上位入賞校や常連校ばかり。当たり前だが、そこには我が清澄の名前はほとんどない。だってよくわからない高校の特集なんて見ても面白くないのだから。

 うち以外にも穏乃たちがいる阿知賀、シロがいる宮守もほとんど空気だ。

 中にはそういったのを好む層もいるし、需要もある。しかし少数派の意見は届きにくい。しかも売り上げ等が関わるものならばなおさら――いや、もう拗ねるのはやめよう。

 評判なんてクソくらえ。あいつらの凄さは試合で見せてやればいい。だからそろそろ……。

 

 

「ほら、おまえら起きろ!」

「「「「「zzz…」」」」」

 

 

 朝早かったせいか、車に乗ってから速攻で爆睡し始めた五人に声をかける。まったく……気持ちよさそうに寝やがって。ま、昨日はあんまり眠れなかったんだろうな。

 あまりにも気持ちよさそうな寝顔なので、出来るならもう少し寝かせてやりたい。しかしそうもいかない。何故なら――

 

 

 

 

 

「もう東京に入るぞ!」

 

 

 

 

 

 四校で行った合宿も終わり、夏休みに突入した八月。俺たちはついにインターハイに出場するために東京へ出発した。

 移動には経費節約のために車を使い、高速を渋滞に嵌らないままなんとか此処までこれた。首都高は少し詰まったし怖かったけどな。まあ問題なく、なんとか到着できた……が。

 

 

「いやーよく寝たじぇ!」

「お腹減ったわねー」

「あ、あれは夢にまで見た紀伊○屋!!」

「ちょ!? 咲さん一人で行くのはやめてください!」

「むぅ……流石東京。あの服装は最先端じゃ」

 

 

 着いた早々フリーダム過ぎる教え子たちである。せっかくの機会だから色々回らせたやりたくもあるが、立場上そうもいかないのだよ。休憩もそこそこにとりあえず全員をもう一度乗り直させる。

 ブーイングが聞こえるが無視して宿泊所へと向かう。

 

 そしてついたのはこういったイベントなどに使われる宿舎。一泊云千円だ。

 いくら人気競技の大会といっても普通の高校生、ホテルなんて泊まれるわけがない。またもやブーイングが上がったが当たり前だ。現実を見よう。

 

 それで宿舎についたら当たり前だが別々の部屋に移動する。あいつらは大部屋に五人。俺は別棟で一人部屋。贅沢だけど一人で寂しいなぁ……と思っていたのだが。

 

 

「なんでいるんだ?」

「お嬢様の付き添いです」

 

 

 なぜか隣の部屋はハギヨシだった。

 いや、東京にいる理由はわかるけどなんでこんな所にいるんだよ。龍門渕さんはいいのか?

 

 

「お嬢様たちもこちらの宿舎ですよ」

「ほんとかよ」

 

 

 なんでわざわざこっちに……確か龍門渕家がオーナーのホテルが近くにあった気がするんだが。

 

 

「そちらも一応部屋をとっておりますが、何よりも清澄の皆さまのお相手をしたいそうなので」

 

 

 ま、大体予想はついていたよ。風越もここだしな。合宿の延長かよ。

 とはいえ龍門渕さんもあれで庶民的な物には慣れてるし大丈夫か。決して俺とかのせいではない。そりゃ昔色々と遊びに誘ったこともあるけど若気の至りだ。

 

 

「それでこれからどうするんですか?」

「んー、一応夕方までは自由行動だ。移動もあったし、無理させて明日に響いてもしょうがないしな」

「ほうほう……それではどこか行きましょうか」

「いきなりだな……そっちは大丈夫なのか?」

「ええ、お嬢様から今日はお暇を頂いておりますので」

 

 

 何気に乗り気なハギヨシである。こう見えてノリのいいやつだし、最近なんだかんだで遊びに行くってこともなかったからな。

 

 ちなみに咲達には一人で行動しないことと行き先を事前に知らせることで自由行動を許している。何か事件があっても嫌だが、宿舎に缶詰めにしたり、教師が常に行動を共にしていたら逆に試合に影響が出るだろうとの判断だ。

 どうせ明日の組み合わせ発表まで話し合うことも大してない。流石に昔の晴絵みたいに対戦選手を調べまくるという芸は俺には真似しようにもできない。出来る範囲でやっていくさ。

 

 

「それじゃ昼飯もかねて軽く出かけるか」

「賛成です」

 

 

 ま、教師にも休息は必要だ。明日からクソ忙しくなるからな。

 久しぶりの東京ということでテンションが上がる俺達。地方に住んでいる人ならこの気持ちはわかるはずだ。

 

 

「それで何食うよ?」

「ハンバーガーでどうでしょう」

「いいなそれ、向こうじゃ何処にでもあるチェーン店しかないしな」

「では早速」

「おう」

 

 

 咲達へ外に出ることメールで伝えて街へ繰り出す。東京も久しぶりだなー。

 東京なんて三尋木の所に遊びに行った時のついでや、大学の頃に旅行で行った時ぐらいでしか来た事がない。若者……の枠からは少し飛び出してしまったが、それでも心躍る。

 

 

「車出すか?」

「いえ、電車で行きましょう」

「道も混むし、停めるところもないしな」

「ええ」

 

 

 そんなわけで駅へ向かって歩きはじめたのだが、外は真夏の東京、早速汗が出てくる。あっちぃいな……。

 ちなみに当たり前だが俺もハギヨシも今は私服だ。どっちもジーパンやスキニーパンツ、シャツといった軽めの服装である。流石にプライベートで執事服を着るほどハギヨシも酔狂ではない。

 

 

「しっかし相変わらず東京って凄いよな、2,3分待てば次の電車来るとか……」

「それでいて席に座れないのがほとんどですからね」

「ほんと、どんだけ人がいるんだよ」

「日本の人口の1割が集まっていますからね。しかも昼間は近隣の県から仕事や通学でさらに人が集まりますから下手をすると倍近くなるそうですよ」

「そりゃ多いわけだ」

 

 

 辺りを見回せば人、人、人の群れ。こんだけ多いと自分が浮いていないか不安になってくる。特に服装とか浮いてないか少し怖い。

『キャー、あのおじさんダサぃー』とか道行く女子学生に言われたらガチへこみしそう。隣にいる男が男だけに比較対象にされるからなぁ……この完璧超人め。

 

 

「いえいえ、私なんかより須賀君の方が魅力的ですよ。ほら、あちらの見た目麗しい女性も熱い視線で見つめていますね」

「……どうみてもうちのお袋より年上の淑女なんですがそれは」

「そうですか? 中々お綺麗だと思いますが」

 

 

 相変わらず好みも人並み以上に外れていやがる。

 

 

「おや、あれは……」

「ん? ……おお」

 

 

 くだらない話をしながら歩いていると、前方からこちらに向かって歩いてくる女性二人を発見。日差し避けかどちらもグラサンをかけているので素顔はわからないが、それでも遠目ながらも綺麗な顔立ちをしているのはわかり、俺たちの目を引いた。

 声量を落とし、周りに聞こえないぐらいの声でヒソヒソと話す。

 

 

「どっちが良い?」

「うーん……背の低い方でしょうか。ただ後二回りほど年配でしたらですけど」

「言うと思った……」

 

 

 真面目そうに見えてプライベートでは結構はっちゃけてるハギヨシ。公私がきっちり分けられてる証拠である。

 しかし見たところあの女性たちはどちらも20歳ほど。つまるところ40歳辺りが好み。昔からそうだったがコイツも中々に業が深いな……。

 

 

「須賀君は?」

「うーん……どっちもいいけど背の高い方かな」

「なるほどなるほど……ただ、どちらもアリそうな感じですが」

「どこ見ていってる」

「さて、どこでしょう」

 

 

 ニコニコ笑っているが言いたいことはわかる。二人とも服の上からでもわかるぐらいの立派なおもちだ。見た目も合わさり俺のストライクゾーンど真ん中だ。

 

 

「流石東京、美人が山盛りだなぁ……」

「ふむ、中々下品ですね」

「お前といなきゃ言わねーよ」

 

 

 日ごろ周りにいるのが女子ばかりな為、こういった発言も普段は控え気味だ。そのせいかちょっぴり頭の螺子も外れかけだわ。なんだかんだで男同士の方が気も楽だし。

 

 

「それで声でもかけますか?」

「いや、やらねーよ」

 

 

 とりあえずはっきりと否定。今ここにいる立場もあるし、いきなり声をかけるなんてノリでもない。ハギヨシもこうやって話には乗ってくれるけど行動を起こすタイプじゃないからな……決して俺たちが草食系なわけではない。

 

 そんなバカな話をしている内に相手との距離が近づいてきたので話をいったん終え、お互いが通れるように横にずれる。

 

 

「そ、それでランチはどうしましょうか?」

「う、うーん……パスタがいいかな☆」

「……さっきと変わっていますよ」

「そういうこと言わない!」

 

 

 どうやらあっちもお昼のようだった。しかも何故かアタフタしていた。しかしあの二人、よく見ればどっかで見たことがある様な……うーん。

 

 

「…………」

「ちょっと惜しかったなって考えていませんか?」

「ねーよ」

 

 

 軽口を叩きながら歩みを進め、駅へと向かう。可愛かったけど俺達には高嶺の花だ。

 

 

 

 

 

 それから適当に行ける範囲で近くをぶらついた。流石東京、長野よりも品が豊富だ。

 本屋に入って漫画を物色したり、ゲームショップに入って面白そうなゲームを探したりする。服は……そこまで興味はないのでスルーだ。インテリアとかのお洒落な店は流石に男二人では無理だった。

 

 とりあえず成果としてはこっちでの暇つぶし用の本とゲームぐらいだろう。ハギヨシと同じのを買って今度通信対戦する約束をした。時間はあまりとれないけど、社会人になってもゲームはやっぱり面白いからな。

 

 夕方になり、少し日が傾いてきたので戻ることにした。夜は一応ミーティングをする予定だし、あんまりあいつらから離れるのもよくないからな。

 そのまま宿舎に戻ってきて部屋の前でハギヨシと別れる。

 

 さて、これからどうするかなぁ……時間的にはまだ飯には早いし、とりあえず荷物置いとくか。

 軽く部屋に入り、そのままベッドの方へ荷物を放りなげる。

 

 

「さて、どうすっか「いたっ」………………」

 

 

 踵を返そうとした足を戻し、振り返る。おいおい、人の声がしたよな今。

 

 

「…………………………」

 

 

 部屋の中は安めの施設だけあってクローゼットとベッド、小さな冷蔵庫とテレビぐらいだ。後は俺が持ってきたスーツケースとベッドの上に放り投げた先ほどの買い物袋だけだ。

 テレビはついてない。冷蔵庫は入れない。クローゼットは開けっ放しだ。だとすれば――というか一目でわかるぐらい膨らんだベッドがモゾモゾと動いていた。

 

 

「………………」

 

 

 足音を立てないように近づく。今更だけどしないよりましだ。

 そして恐る恐る掛け布団を捲ると…………中にいた人物と目が合った。

 

 

「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………(鍵)開いてた」

「ウソをつくな」

 

 

 そこには、眠たげな顔をした従妹――小瀬川白望がいた。

 

 




 そんなわけで現代編最終章一発目の24話でした。レジェンド?あいつはもう消した!

 しかしこの主人公、全国に来て早々なんで男と遊びに行ってるんですかねぇ……仕事(女子とイチャイチャ)しろよ。
 二人が会った女性二人はいったい何処の誰なのか……ヒントは短編で。

 それでは今回はここまで、次回もよろしくお願いします。
 ちなみに個人的にはマヨイガといえば水月だけど、知ってる人は少ないんだろうな……雪さん。

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