君がいた物語   作:エヴリーヌ

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うそすじ

「汚物は消毒だ~!」

一夜のうちに何故かモヒカンサングラスに進化していた赤土晴絵。
世紀末系ヒロインとかありじゃね?


四話

 先ほど、昨日世話になったばかりの赤土さんに偶然再会したのだが、いきなり俺が現れたのが予想外だったためか固まってしまった。

 とりあえずもう一度声をかけてみるか。

 

 

「え~と、大丈夫赤土さん?」

「……え? あ!? す、須賀さんがなんでここにっ!?」

 

 

 再び声をかけたことでようやく起動する赤土さん。動揺しているのか、漫画のごとく手をワタワタ動かしている。

 

 

「いや……宿出た後に走ってたら、たまたま赤土さんの声が聞こえたから話かけてみたんだけど……」

「声って……もしかして、さっきの見てた?」

「あーー……うん」

「………………くぁー!!!」

 

 

 恐る恐る聞いてきた赤土さんに頷くと、先ほどの奇行を見られていたのが相当恥ずかしかったらしく、顔を真っ赤にして蹲ってしまった。

 

 しまったなー、なんとか誤魔化すべきだったかなー、恥ずかしがる顔が見れて役得だなんて思ってないぞー。うん。

 とりあえず向こうが再起動するまで待つことにする。

 

 

「………………………………………………よし! ……やほっ! 昨日ぶりだね!」

「ああ……うん、昨日ぶりだな」

 

 

 時間を置いたおかげで持ち直したのか、自分の顔を叩いてから立ち上がり、改めて挨拶をしてくる。ただし叩いたのとは恐らく別の原因で顔は赤いままだ。

 

 

「あの後はどうだった、旅館は見つけられた?」

「おう、ちょっと迷ったけど見つけられたしいい旅館だったぞ、ありがとうな。そっちもあの後大丈夫だったか? 友達を結構待たせてたみたいだったけど」

「あー、大丈夫大丈夫! 向こうの家で待ち合わせだったから待つのも楽だったからね!……まあ、色々と詮索されたけど」

「???」

 

 

 なにかボソッと呟いていたみたいが、声が小さすぎて聞こえなかった。なぜか顔がまた少し赤くなったが。

 呟きも気になるが、しかし今はそれよりも大事なことがある――鼻の上の汚れが先ほどから放置されたままで、赤土さん自身もまだ気付いてないみたいなのだ。

 

 

「あー、とりあえずこれ使ってくれ。使ってない清潔なやつだから大丈夫なはずだ」

 

 

 鼻の上の汚れをいつまでも放置するわけにはいかず、カバンの中からハンカチとウェットティッシュ出して渡す。

 なんとなく予感はしていたが、まさか本当にまた使うことになるとは思わなかったな。

 

 

「え? ハンカチ? なんで?」

 

 

 突然出されたハンカチたちに疑問顔の赤土さん。

 しかしここで詳しく言うと恥をかかせるような気もするので、なにも言わずバイクについているミラーを指さす。

 

 

「??? ………………??? …………!?!?!?」

 

 

 バイクまで歩いていき、ミラーを覗き込んで自分の顔を確認する赤土さん。

 すると最初何が起きているのかわからなかったみたいだが、理解すると急いで顔を拭き始めた。

 

 こういった場合ってどうするのが正解なんだろうな……帰ったらハギヨシに聞いてみよう。

 

 

「………………………………」

 

 

 顔を拭き終えた後、赤土さんが顔を下に下げたまま無言で戻ってくる。

 汚れも取れてキレイになったみたいだが、なんか居た堪れなくなってきたな……顔真っ赤だし。

 

 

「………………………………アトデアラッテカエス」

「あー、使い捨て用にまとめ買いしてるやつだから別に気にしなくていいぞ」

「………………………………アリガトウ」

 

 

 なにこれ萌える。

 

 

 

 

 

「そういえば……さっきから何の作業してたんだ?」

 

 

 その後、戻ってきてから少しの間気まずい沈黙が続いたが、流石にこのままと言うわけにもいかずこちらから話しかけることにした。チェーンが外れるのを見ている為なんとなくわかるが、話のきっかけとしてはちょうど良いだろ。

 

 さっきのこともあり、こちらの質問に答えづらそうにしてた赤土さんだったが、なんとかこっちを向いてくれた。

 

 

「……自転車のチェーンが外れたから直してた……」

「ああ、確かにそれなら汚れても仕方ないし、気にしない方が…」

「ううぅ……」

 

 

 やばい、選択肢をミスった。多少持ち直していた赤土さんだが、俺の不用意な再び顔を下に向けてしまった。

 そりゃ年頃の女の子があんな姿見られたら恥ずかしいもんな……。フォローも失敗したし、どうするべきか……。

 

 

「ん、よし! まかせとけ!」

「……え?」

「ちょっと自転車弄らせてもらうな」

 

 

 いきなり胸を叩いて任せろと言いだした俺に赤土さんは目を丸くして驚いていたが、あえて触れずに自転車に向かう。流石に女の子に恥をかかせたままではいられないから、せめてもの償いをする為に動きだす。

 チェーンが外れたぐらいなら持ち歩いている道具があればなんとかなるかな。

 

 

 

「よし、直った! これで大丈夫だと思うけど一応試してみてくれ」

 

 10分ほど自転車を弄っているとようやく直ったので、後ろで手持無沙汰にこちらの作業を見ていた赤土さんに声をかける。

 うん、さっきより顔の色も戻っているし大丈夫かな。

 

 

「え? うん…………あ、本当だ! 直ってる!」

「あーよかった。しばらく弄ってなかったからちょっと自信なかったけどなんとかなったわ」

「なによ『まかせとけ!』って自信ありげに言いながら実は自信なかったの?」

「まあ、そこらへんは自分を鼓舞するためってことで」

 

 

 向こうも落ち着いてきたためか、笑いながら軽口にも乗ってきてくれる。いや、まったく。一時はどうなることかと思ったよ。実際に自転車のチェーンなんて外れる機会もそう多くはないから、あまり直したことなんてなかったけど出来てよかったわ。

 それに多少強引に直したから引かれてもおかしくなかったけど、特に気にしてないみたいだな。

 

 

「あー……なんか恥ずかしい所見られちゃったけどありがとうね、おかげで助かったよ……そうだ! せっかくだし、なんかお礼させてよ」

「いやいや、俺も昨日助けられたしお互い様ってことで」

「ダメだって。自転車を直してもらったのと違って昨日のはただの道案内だし。それにそれはジュースで手打ちにしたでしょ」

「あー……それじゃあなんか適当にお願いしようかな」

 

 

 赤土さんの提案に一度断る俺だったが、食い下がられてしまったので考えた結果、下手に断り続けても粘られそうだったので提案を受けることにした。

 あまりないとは思うが、大げさな内容なら断ればいいし。

 

 

「よし! じゃあお腹すいてない? 近くに面白い喫茶店知ってるんだ」

「朝は軽く食べただけだから入るっちゃ入るけど……そこまでしなく 「いいからいいから、行こう!」 ……まあいいか」

「よし、じゃあ案内するから着いてきて!」

 

 

 まあ喫茶店ならコーヒーぐらいで済ませられるかと思い了承する

 こちらの承諾を得た赤土さんが自転車を漕ぎだしたため、こちらもそれに合わせたスピードで後に続く。

 

 面白い喫茶店かー、美味いコーヒーとかが出来てくるんだろうか。

 

 

 ん?…………面白い喫茶店?

 

 

 

 

 

「到着ー! この店だよ」

「へー、結構落ち着いた感じで良い店だな」

 

 

 数分ほど赤土さんの後についていくと目的地の店に到着した。面白いと言っていたが、別に可笑しい外観をしているわけでもなく普通の喫茶店だ。

 ただ、雑誌とか出てくる今どきの女子高生たちが行くタイプではなく、主婦やサラリーマンが行くようなモダンな感じの建物だった。

 

 

「知り合いのおばちゃんが一人で経営してるお店で個人的にお気に入りなんだ。それじゃあ暑いしさっさと中に入ろうか。あ、そこにバイク停められるから」

「了解」

 

 

 お互いに愛車を停めて中に入ると、夏らしく冷房が効いており、炎天下の中で火照った体を冷やしてくれる。

 店内も外見通り落ち着いた感じであり、ゆったりとした雰囲気がある。しかしまだ早い時間帯の為かお客さんは他にいないみたいだ。

 

 そんな感じで店の中を見回していると、奥から年配の女性が出てきた。

 

 

「いらっしゃいませ~。あら、晴絵ちゃんいらっしゃ~い」

「こんにちはおばちゃん」

「こんにちは~。あら、男連れ? いや~晴絵ちゃんが彼氏連れてくるなんて明日は雪かしら~」

 

 

 先ほど言っていた通り知り合いらしく二人とも軽い挨拶を交わすが、おばちゃんは俺がいることに気付くといきなりからかい始めた。

 

 しかし雪って……そこまで男連れが珍しいのか?

 疑問に思っていると、その言葉に焦った赤土さんがこっちとおばちゃんを交互に見ながら否定し始めた。

 

 

「ちょ! ちち違うっておばちゃん!? 確かに男の人を連れてくるなんて初めてだけど彼氏じゃないし、いくらなんでも夏に雪は大げさでしょ!」

「何言ってるの。晴絵ちゃんが男の子と一緒にいたのなんて小学校の時以来見たことないわよ~。彼氏さん、この子パッと見、男勝りで女の子らしく見えないかもしれないけど、結構女の子らしい所もあるから大事にしてあげてね」

「だから彼氏じゃないって!? もうっ! なんでみんな勘違いするのよー!」

「あはは……」

 

 

 赤土さんの必至の弁明もむなしく、彼氏だと決められてしまい苦笑いするしかない俺。

 流石おばちゃんパワー、赤土さんの話をまったく聞いていない。おばちゃんが人の話を聞かないのはどこに行っても共通だな。

 

 

「はぁ~……とりあえず座るから、後で注文お願いね」

「はいはい。ちょっと奥から冷たいお水取ってくるから、それまでは若い二人でゆっくりしててね~」

 

 

 誤解したままおばちゃんは奥に戻っていく。まあ、おばちゃん特有の軽口で本気では言ってないだろうしな………多分。

 

 

「はぁ~疲れたぁ~~~」

 

 

 奥の方のテーブル席に対面になるようにお互い座った後、先ほどの応酬で疲れたのかテーブルの上にくだ~っと体を預ける赤土さん。その様子は一昔前に流行ったたれパンダの様だ。

 しかし隣りあわせは論外だが、向かい合わせで座るのも正面から顔を見る感じになるから結構照れるな。

 

 

「とりあえずお疲れさん。さっき言ってた通りかなり仲良いみたいだな」

「まぁ、昔からの付き合いだしね、ここらへんじゃ人も少ないから知り合いも多くなるし」

「はは、赤土さんが完全に翻弄 「ストップ」 ん?」

「えーと、あれさ、それ……やめない? その赤土さんって言うの。結構今更だけどさ……同学年だからため口で話してるのにさん付けってなんだし……なんか~こう……ね? ムズムズする」

 

 

 話を遮られたと思ったら、口元をウネウネとしながらの赤土さんからのいきなりの提案。

 確かにお互いため口で話しているのにさんづけはちょっとおかしかったな……俺も須賀さんって呼ばれるたびになんかむず痒かったし。

 

 

「あー、確かにそうだな、それじゃあどうしよう? さんが駄目なら………赤土ちゃん?」

「はぁ!? ちょちょ、なし! それはなしっ! 流石に無理無理!?」

 

 

 おばちゃんの真似でちゃん付けしたら、顔を赤くしながら机をバンバン叩き否定する赤土ちゃん(仮)。

 そりゃそうだわな。年下相手ならともかく流石に同い年にちゃん付けはこちらも恥ずかしい。

 

 

「それじゃあ呼び捨てで赤土になるけど大丈夫か?」

 

 

 名前呼びなら親密さが上がるだろうがそこまでの度胸はない

 

 

「うん、そこらへんが妥当かもね。それならこっちは須賀君かな」

 

 

 ん?

 

 

「いや、そこはそっちも君付けしないで須賀呼びだろ」

「だってさ………その………男子を呼び捨てってなんか……恥ずかしいじゃん」

 

 

 下を向き、落ち着きなく両手の指同士を合わせながら答える赤土(決定)。

 なにこの可愛い生き物。おばちゃんの言っていたとおり確かに乙女だわ。

 

 

「そりゃ須賀君はなんか女子と話すの慣れてるみたいだけど……私は女子校だから男子とめったに話さないし……」

「あー……まあ、うちは一応共学だしな。確かに慣れてるっちゃ慣れてるけど……」

「ほらやっぱりズルい! だから須賀君呼びね。ハイ! 決定!」

「ズルいって……まあ、いいか」

 

 

 確かに大抵の女子からも須賀君呼びで、後輩からも先輩呼びだから別に名前で呼ばれることに拘りもないし。

 でも名前呼びする奴なんて少ないし、新鮮だからちょっと呼ばれてみたいと思ったのは内緒だ。

 

 

「それとお互い微妙にため口に慣れきってないから、そこもしっかりとしようか」

「おう、わかったよ赤土」

 

 

 とりあえず試しに名前で呼んでみると――

 

 

「え!? ちょ、いきなり!?」

「なんだよ、何も問題ないだろ。なあ? 赤土」

 

 

 いきなり呼び捨てで呼ばれて焦る赤土に追い打ちをかけるようにもう一度呼ぶ。

 なるべく普通の表情でいるようにしてるが、確実ににやけてるだろうなー俺。

 

 

「あーうー……あ、あんま呼ばないでよ。……す、須賀君」

「いやいや、赤土が慣れないみたいだしそれに付き合う意味ってことで」

「うー……須賀君」

「なんだ赤土?」

「……須賀君」

「赤土」

「須賀君」

「……赤土」

 

 

 顔を赤くし照れながらもこちらの名前を呼ぶ赤土に普通に返していた俺だが、お互いに見詰め合って呼びあう現状に今更照れてきた……。

 赤土もさらに顔が赤くなってるしここら辺でやめとくか。

 

 

「す 「はい、お水ね」 うひゃああ!!!!!?????」

「いや~若いって良いわね~、初々しくて~。あ、これメニューだからね」

 

 

 再び名前を呼ぼうとした所で現れたおばちゃんに驚き大声をあげて芸人の如くひっくり返る赤土。それに対しおばちゃんはからかいながらも、メニューを置くとまた奥に戻って行った。

 

 タイミング良すぎたし、おばちゃん今の狙ってやったな……。赤土の奴は先ほどのやり取りをおばちゃんに見られていたのが相当恥ずかしかったのか、顔が伏せてしまっている。

 

 

「大丈夫か? ほら、とりあえずメニュー見てなに頼むか決めようぜ」

「……うん、そうだね! アハハ……」

 

 

 顔は赤いが空元気で無理やり笑い出す。これ以上突っ込むのは可哀想なので、話題を逸らしておばちゃんに渡されたメニューを見る。

 喫茶店らしくコーヒーや紅茶などの飲み物とサンドイッチなどの軽食が中心みたいだな。

 

 

「う~ん、それじゃあ私は冷たい紅茶とサンドイッチにしようかな。須賀君はどうする?」   

「そうだなー、俺はそこまで腹も減ってないしアイスコーヒーだけ頼もうかな」

「いや、それだけじゃお礼にならないし、ここは一つこの欄から選んでみてよ」

 

 

 なにやら含みがありそうな笑いを見せながら指をさしたのはメニューの裏の左下の部分だ………………なんだこれ?

 

 

「ふたるさんサンド、熊本サンド……なんだよこれ? 他にも変な名前のやつあるし…」

「面白い名前でしょ。どうせ私の奢りだしそこから好きなの頼んでよ。あ、おすすめはふたるさんサンドかな」

「あー……なんか怖いし、パスということで」

 

 

 いくら奢りと言えども、まず食べ物か怪しいものは頼みたくない。

 どうせアレだろ。見るからにおかしな料理が出てくるけど捨てるのはもったいないから結局俺が食べるって流れだろ。テンプレ乙。

 

 

「いやいや、男子なんだしそこはチャレンジするところでしょ。いつ頼むの? 今でしょ」

 

 

 もうブーム過ぎてるぞソレ、つーか男子関係ねえ。あとドヤ顔やめろ。

 

 

「おばちゃーん! 冷たいコーヒーと紅茶にサンドイッチとふたるさんサンドね!」

「は~い。しかしアレを頼むなんて彼氏さんも勇者だねえ~」

 

 

 結局空気の読めない赤土によって自称オススメの料理が頼まれてしまった。

 アレ扱いかよ。しかも勇者って。

 

 

「おい、なにが出てくるか不安でしょうがないんだが」

「大丈夫大丈夫。一応食べ物だから」

「一応ってなんだよ一応って……まあいいけど」

 

 

 頼んでしまった物はしょうがないから諦める。

 喫茶店のサンドイッチだし食べれないことはないだろ……多分。いざとなったら赤土にも手伝わせればいいしな。

 そんな黒いことを考えていると、待っている間暇なのか赤土が話しかけてきた。

 

 

「そういえば聞いてなかったけど、須賀君ってどこから来たの?」

「あー、長野から来た」

「え? 長野って冬は雪がいっぱいで、夏は軽井沢で優雅に過ごせて、グンマーっていう原住民が住みついてるっていわれてるあの長野?」

「前のはともかく後ろはなんだよ……そりゃ隣だ」

 

 

 長野県民だけでなく群馬県民にも失礼な奴だ。竹槍で刺されるぞ。

 

 

「長野かー、行ったことないんだけど夏は過ごしやすくて気持ち良いって聞くよね」

「そりゃ標高が高い所だけだな、確かにそういった所は朝なんか涼しいが俺が住んでるところは普通に暑いぞ」

 

 

 それに標高が高くても晴れた日なんかは太陽が近いせいかしらんが相当ヤバくなるから特別快適と言うわけでもない。

 しかし隣の芝生は青く見えるのか、どこか羨ましげな表情をする赤土。

 

 

「でも涼しい所はあるんでしょ、いいなー」

「いや、奈良だって良いとこあるだろ」

「たとえば?」

「あー……ほら、鹿とか大仏」

 

 

 とりあえず思いついたのをあげてみる。前に写真で見た律儀に信号待ちしてる鹿は可愛いと思った。

 

 

「他には?」

「えーと……ほ、ほら、大阪に近いじゃん」

「奈良関係なくない?」

 

 

 ……すまん、もう思い浮かばない。奈良に旅行に来たのなんてはじめてだし、TVとかもバラエティぐらいしか見ないからさっぱりわかんねー。

 そんな困ったような俺の様子が面白かったのか赤土が笑い出す。

 

 

「あはは、まあ大阪とかに比べれば田舎だししょうがないさ、逆に私も長野のこと全然知らないしね。と、それで須賀君は息抜き旅行って言ってたけどこれまでどんな所行ってきたの?」

「どんなとこって言ってもなあ……普通に愛知できしめん食ったり、名古屋城見たりして、三重では赤福食ったな」

「おぉ! いいねー、近いと逆に行く機会ないんだよねー。いいなー、私も免許取って旅したいなー」

「赤土は免許取る予定はないのか?」

 

 

 羨ましそうな声を上げる赤土に気になったので尋ねる。バイクの免許は知らなかったけど、車はもうすぐ取れるだろうしな。

 

 

「いや~、もう18だし車の免許取りたいんだけど先立つものがね~」

「へえ、18ってことは一応年上か。こっちは二月生まれでまだ先だから羨ましいわ」

「お、ならこっちがお姉さんだねっ! どうする? 晴絵お姉ちゃんって呼んでみる?」

「なにが悲しくて同級生を姉呼びばわりしなくちゃいけないんだよ。それに、本当に呼んだらまた例の得意技で顔赤くするんだろ?」

「ちょ!? と、得意技って何よ! 得意技って!」

「赤土晴絵18歳。ピチピチの高校三年生。趣味赤面」

「趣味扱いされた!?」

 

 

 棒読みで赤土の自己紹介を読み上げる俺にショックを受けている赤土。昨日会ってから何度も赤面する姿見てるしな、特技や趣味と言っても過言ではない。

 勿論向こうも冗談だとわかってて反応をしてくれるので、打てば響くといった感じで話が弾む。お互い結構相性がいいのかもしれないな。

 

 そんなこんなでバカ話をしている間に注文していた品が届いた。

 

 

「はい、お待ちどうさま」

「ありがとうおばちゃん」

 

 

 おばちゃんが持ってきた注文品をテーブルに置いたことにより、先ほど頼んだ品の姿が見えるようになった。

 

 

 ―

 ――――

 ―――――――――――――――――――なにこれ?

 

 

 そこにあったのはサンドイッチと呼ぶにはあまりにも不似合いなものだった。

 パンは白く大変ふっくらとしており、見ていると食欲をそそられるのだが、その間に挟んであるものが問題だ。

 

 レタスはまあいい、だけど魚一匹まるごとはあり得ないだろ……しかも生きて動いてるし。踊り食いってレベルじゃねーぞ……。

 一応パンで挟んであるから定義的にはサンドイッチであってるんだが、これをサンドイッチと呼ぶのはこの世すべてのサンドイッチに対する冒涜じゃないだろうか……。

 

 

「あははははっ、おばちゃん料理は上手だから創作料理作るのも好きでさ」

「昔リボン付けた女の子のお客さんが来てね、色々話しているうちにアイデアを貰ったんだよ」

「……これを食べろと?」

 

 

 馬鹿笑いをする赤土となぜか自信ありげに答えるおばちゃんに対し虚ろな目で尋ねる俺。いやだって、これ絶対まずいだろ……。

 漫画で見るような名状し難いような食べ物と違って見た目はまだ食べ物に見えるが確実にヤバい。

 

 どれくらいヤバいかっていうと、不思議なダンジョンでミドロとにぎり変化に挟まれた時ぐらいヤバい。

 

 

「いや、見た目はあれだけど案外いけるんだよこれが」

 

 

 フォローをしている赤土だが、実はさっきのことを根に持ってて、仕返しの為に頼んだってオチじゃないかコレ……。

 助けを求めようにもいつの間にかおばちゃんはいなくなってるし……。

 

 

「じゃあ熊本サンドに変えてもらおうか? あっちはキムチと梅干が挟んであるけど」

「なにその究極の選択肢? ……まあ食べ物無駄にするのもあれだし食べるさ」

 

 

 やっぱテンプレオチじゃないか……。

 テーブルの上に置いてあるサンドイッチを見ると魚と目が合った。こっちみんな。はぁ……奈良的ですもんね。乗るしかない、このビッグウェーブに。

 

 

「南無三!」

 

 

 少しずつ食べるのは怖いから一思いに一気に行ったが、その分口の中で魚が動いているのが感じられる。

 パンの触感とレタスの風味と魚の磯的な味が絡み合って何とも言えないハーモニーを――

 

 

「モグモグ……ゴクン…………あれ? 意外に行けるなコレ」

 

 

 見た目と反して味は悪くなかった。むしろ絶妙なバランスで作られており普通に美味いと言えるものだった。

 そんな俺の様子が面白かったのか、こらえきれない表情で赤土が笑い出す。

 

 

「そりゃ見た目はあれだけど、おばちゃん料理上手だし、喫茶店だから味はしっかりしてるさ」

 

 

 赤土がドヤ顔で言ってくる。ウゼぇ……。

 

 

「いや、普通に考えて美味いなんて思わないだろコレ」

 

 

 【隠しきれない】嫁のメシがまずい【隠し味】の系列だと思うだろ。まあ、そもそも嫁じゃねーけど。

 

 

「まあまあ。そこは言いっこなしで。あ、こっちのも食べていいからそれ貰うね」

「貰ってから言うなよ」

 

 

 赤土がこちらのサンドイッチに手を伸ばしてきたので、お互いの食事を交換して食べる。おばちゃんの腕が良い為か普通のサンドイッチも美味いな。

 

 

「そうだ、さっきの続きだけど奈良ではどんなの見て来たの?」

「んー? 昨日奈良に入ったばかりだからまだ特に見てないなー、入ったあたりですぐにガス欠になったし」

「ああ、昨日会った時ね」

「そういえば昨日会ったばかりなのか俺たち。なんか赤土とは話しやすいせいか結構前からの知り合いのような感じがするな」

「そうだねー。確かに私も男子とこういった会話するのも久しぶりだけど、なんだか須賀君とは話しやすいね」

 

 

 まあ、おばちゃんが言ってた通り男勝りな所があるせいだろうな。

 しかしそれは決して口には出さない。同性のおばちゃんが言うのと異性の俺が言うのでは意味がまったく別なのである

 

 

「それじゃあ今日は奈良観光ってわけか………んー、よし!」

「どうした?」

 

 

 考え込んでいたと思ったらいきなり声を上げて立ち上がる赤土。

 しかし昨日から気になっていたが頭の触手みたいな前髪はなんだろうな……すっごい気になるわ。

 

 

「よかったらここらへん案内しようか? さっきの話だと観光地も詳しくなさそうだし」

「え? そりゃ助かるし嬉しいけど、外に出てたってことは今日もなにか用事あるんじゃないか?」

「えーと……ま、まあ、そこらへんは良いじゃない! 行こう!」

 

 

 いきなりの提案に対し戸惑う俺とは反対にずいぶんと乗り気な赤土である。

 

 あれか、勉強しようと思ったけど暑いし面倒だから外に逃げたといった所だろうな。

 こんな日はクーラーが効いている部屋で昼寝でもしてるのが一番だが、華の高校生なら遊びたいか。

 

 

「良いけどどこに行くんだ? 場所によっては足も変わるし」

 

 

 阿知賀周辺ならいいけど遠出するなら結構大変だし、地方の路線だと本数も少ないから乗り換えに失敗すると非常に困って下手すると帰ってこれなくなる。

 まあバイクはあるけど、二人乗りは問題ないのか?

 

 

「んーそうだねえ、観光地と言えばここらへんもあるけどやっぱ春日大社や奈良の鹿がいる奈良市が一番かな~。ここからならバイクで一時間ぐらいだし、途中に長谷寺とかもあるからちょうどいいと思うよ」

「そうだな、それぐらいなら二人乗りですぐだな」

「え? ………あ! そ、そうだよね! 案内するなら後ろに乗らなくちゃいけないのか……」

 

 

 自分が何を言っているのかようやく理解したのか、途端に顔を赤くしてモジモジしだす赤土。

 自分からバイク使うことを提案したから二人乗りは大丈夫なのかと思ったら、そもそも後ろに乗るのは考えてなかったのかよ。

 

 

「大丈夫か? なんだったら近場の案内でもいいぞ」

「うー……い、いや! 男子の後ろに乗るぐらいで恥ずかしがってられないし行こうか!」

「まあ赤土がそれでいいならいいけどな、それじゃ頼むわ」

「おまかせあれ!」

 

 

 悩んだ赤土だが赤面しつつも大丈夫だと言い張るので、厚意に甘えることにした。

 まあ、恥ずかしさで死ぬわけじゃないし本人がそういってるなら大丈夫だろ……少し不安だが。

 

 

「おばちゃん! 出るから会計お願い!」

「はいはい、でも晴絵ちゃんが彼氏さんを初めて連れて来たんだし今日はタダでいいよ~」

「だから違うってもー! はい、お金置いていくからね! 行こう須賀君! ………あ、おばちゃん! 自転車置いていくからお願いね!」

 

 

 お金を置いて逃げるように外に出て行こうとする赤土だが、自転車の事を途中で思い出したのか振り向きおばちゃんにそれを告げてから再び出ていく。

 というか、行こうって言いながら俺を置いていくなよ……まだコーヒー飲み終わってないし。

 

 

「ゴクゴク、ふぅ……美味しかったです。ご馳走様でした」

「ありがとう。あと晴絵ちゃんのことよろしくね、お兄さん」

「はい、任せてください。それじゃあ失礼します」

 

 

 おばちゃんに挨拶をして店を出る。

 最後呼び方変わってたし、ありゃ完全に彼氏じゃないのをわかっててからかっていたんだろうな。

 

 おばちゃんに挨拶をしてから店を出ると、バイクの隣で赤土が頬を膨らませながら待っていた。

 

 

「遅いよ須賀君。早くいかないと日が暮れちゃうよっ!」

「まだ昼にもなってないし焦るなって……ほら、ヘルメット。しっかり被らないと危ないし俺が捕まるから気をつけろよ」

「いくら私でもそれぐらいわかってるって」

 

 

 赤土にヘルメットを渡し、エンジンをかける。

 やべえな……女子を後ろに乗せるとか久しぶりで、おらワクワクしてきたぞ!

 

 

「へい! YOU、乗っちゃいなよ!」

「いや乗るけど、どうした?」

 

 

 恥ずかしさを誤魔化す為におちゃらけたが余計に羞恥心を感じるだけだった。

 

 

「……それじゃあそれなりにスピード出すから、乗った後はしっかり掴まれよ」

「りょーかい。それじゃ、お邪魔しますよっと」

 

 

 返事をしたあと、後ろに乗り込み腰から俺の体の前に腕を回す赤土――そして俺の背中にくっつく未知の物体おもち。

 見た目あんまりないと思っていたが、着やせするタイプなのか思ったよりも意外に大きなおもちが押し付けられる。

 

 

「(うお~これが本場のおもちかー……やべえ! マジで奈良に来てよかったぜッ!)」

 

 

 女っ気のなかった旅行だが、まさかこんなラッキーな出来事に出会えるとは……。

 初めての感触は下着がありながらも、薄い上着とそれなりにあるおもちのおかげで俺に今までにない感動を与えてくれる。

 

 やったぜ! カピ、ハギヨシ、照、咲! ……俺は一つ大人の階段を上ったぞ! ……ふぅ……。

 

 

「えっと……そろそろ行かない?」

「お、おう! それじゃあ出発するから腕を放すなよ」

「うん」

 

 

 お互いに初めての感動や恥ずかしさでしばらく動かずにいたが、赤土が声をかけてきたことによりようやく俺も動き出す。もう一度注意したことにより抱きつきが強くなり、俺に更なるおもちの祝福を与えてくれる。すばら!

 いつまでもこうしていたいが、そういうわけにも行かずエンジンをかけ出発する。

 

 

 

 

 

 ――こうして俺と赤土の観光巡り(デート)が始まった。

 




時間かかったくせに修正前とほとんど変わらない?

これがイザナミだ。

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