君がいた物語   作:エヴリーヌ

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 今週は色々あって本編を書けなかったので投下しないつもりだったのですが、流石に誕生日はスルー出来ないだろと思って急遽書きました。短かったり荒いのは許して。

 ちなみに時間軸ですが、本来なら教師をやっている現代編でやるべきなのでしょうが、時期的に色々難しいので過去編にしました。

 タイトルは適当。別に某ネタを使っているわけではない。ホントダヨ。


京太郎の誕生日(仮)

 2月2日。国民の休日でもない普通の日だ。

 ツインテールの日だとかなにやら色々と変な記念日で呼ばれることもあるが、世間一般にとっては取るに足らないまさに普通の日だ。

 だけど中にはそうでない人もいて、この俺、須賀京太郎にとっても、二月二日は一年に一度しかない誕生日という特別な日であった。

 とはいえ、その日で18歳にもなるのだから今更大げさに祝うことでもないし、受験真っ只中の身としてはハッキリ言って忘れていたし、覚えていてもきっとうまい飯が食える程度にしか考えていなかったはずだ。

 しかしその日は、当の本人が忘れていても記念日と言うものが周りにとってもいかに特別な日であるかということを実感させられる2月2日であった―――

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ふむふむ…よし、これで終わりっと。いったん休憩するか」

 

 

 朝から続いていた勉強も昼になったということで区切りをつけ、一時休憩をすることにする。

 最初に受けた試験の結果が先日合格だとわかったのだが、まだ他にも試験はあるし、数日後には本命の試験が迫っているので気が抜けない日々が続いている。

 本来ならこんな真面目なのは性に会ってないのだが、赤土との約束があるので、反故にするわけにもいかずこうやって頑張っているのだ。

 中学時代の友人達に今の自分の姿を見られたら絶対にからかわれるだろうな、と考えもするが、そもそも自宅の自分の部屋と言う絶対不可侵スペースなので誰にも気兼ねすることはない。

 

 

「さて、なんか食うか―――ん?」

 

 

 空腹だと頭もまわらないので、何か腹に詰めに行こうかと席を立つと、扉の向こうから足音が聞こえ―――

 

 

「京ちゃんお昼だよっ!」

「おひるー」

 

 

 そういって勢いよく扉を開けたのはお馴染みの宮永姉妹だった。

 

 ――あー…俺の絶対不可侵スペースもこいつら+αの前には意味ねーな…。

 

 その事実に少し落ち込みつつも照達に話しかける。

 

 

「おう、ありがとよ。だけど勉強終わったのがよくわかったな」

「ん、おばさんが『京太郎の腹時計は正確だから』って言ってた」

「………」

 

 

 勉強をしている時は遊びに来ても邪魔をしないように一階にいる照達がいいタイミングで来たことについて尋ねると、知らないでいいことを聞かされてしまった。

 俺の人生で一番付き合いが長い相手だからな、そりゃバレバレか。

 

 

「はぁ…そうだな、ちょうど腹も減ったし行くよ」

「うん、じゃあおんぶ」

「あ、わたしだっこ」

「おまえら…」

 

 

 近頃かまってやる機会が減っているので、ここぞとばかりに甘えてくる強かな姉妹であった。

 

 

 

 

 

「あー腹減った、お袋飯ー」

「飯ー」

「めしー」

「二人に悪影響だからやめなさい。二人も女の子がそんな言葉遣いしちゃだめよ」

「「「はーい」」」

 

 

 お袋に窘められ声を揃えて返事をする俺達。………俺の精神年齢こいつ等と同じか?

 自分の脳みそが不安になりながらも視線をテーブルの方に向けると―――

 

 

「………なんかすごく多くないか、客でも来るのか?」

「なに言ってんの、あんたが食べるのよ」

「え?なぜに?」

 

 

 テーブルの上にはピザや唐揚げなど、他にも沢山の食事が並べられていた、

 昼にしては色々と豪勢すぎる食事に目を丸くして聞いてみると、お袋からはあり得ない言葉が返ってきた。

 いや、腹が減ってるって言ってもこれはきついだろ…。

 

 

「はぁ、やっぱり忘れてるわね…勉強してくれるのは良いけど、一つの事に集中したら他の事に目が向けられないのは誰に似たのかしら…。ほら、照ちゃん。咲ちゃん」

「うん」

「あ、まってー」

 

 

 さっぱりわからない俺に、お袋は褒めてるのかけなしているのかわからない言葉をかけた後、照達の名前を呼ぶ。

 すると照達は揃ってリビングを出て、どこかに行ってしまった。

 

 

「………なに企んでるんだよ?」

「なにも企んでないわよ、少し待ってなさい」

「はいはい。んで、親父は?」

「少し買い物に行かせてるけど直ぐに帰ってくるわ」

 

 

 休日だと言うのに姿の見えない親父についてきくと、そう返事が返ってきた。相変わらず尻に敷かれているMy fatherであった。

 テーブルにあるご馳走に手を出したい誘惑を我慢しながら一分ほど待っていると、奥の部屋から照達が返ってきた。ただし何故か両手を後ろに回しているが。

 

 

「どうしたんだ、二人とも?」

 

 

 その様子を疑問に思い尋ねるが、二人とも後ろに手をやったままもじもじして話そうとはしない。

 すると見かねたお袋が笑顔で二人の後ろに行き、しゃがんで二人の肩に手を乗せてこちらへと押した。

 

 

「ほら二人とも」

「うん…咲、せーので行くよ」

「うん」

「「せーのっ、京ちゃん!誕生日おめでとっ!」

 

 

 お袋に背中を押された二人が、俺に向かって揃って手を前に出して同じように口を揃えてそう言った。

 

 ――誕生日?…あ!

 

 

「あーそっか…そういえば今日だったな、すっかり忘れてたわ」

「まったくこの子ときたら…ほら、二人からのプレゼント受けとりなさい」

「わかってるって。ありがとうな、照、咲」

「ふふ」

「えへへ~」

 

 

 礼を述べて受け取ると嬉しそうにする照と咲。そうして二人から受け取ったのは、ガラス細工で出来たストラップだ。

 子供である照達からなので流石に高価なものではないだろうが、見た目的にそこいらのショップに置いてあるやつには見えない。

 

 

「おとうさんたちと旅行に行った時に作ってきた」

「おそろいだよー」

「綺麗だな、ありがとう」

「えっと…まだあるよ」

 

 

 咲がそういうと、二人とも俺に渡したのと似たストラップをポケットから出して見せてきた。

 そして二人に改めて礼を言うと、なにやら二人がさらにポケットをゴソゴソと探り何かを取り出した。

 

 

「はい、ちょっと遅れちゃたけどこれも」

「がんばってつくったよっ」

「二人とも京太郎が合格できるようにって、色々教わりながら自分たちで作ったんだよ」

 

 

 そういって目の前に差し出されたのは「合格祈願」と糸で縫われたお守りだった。

 先ほどのガラス細工とは違い、完全に一から作った手作りの為か、文字がゆがんでいたり、糸がほつれていたりとお世辞にも上手とは言えない出来の物だった。

 しかし、言われなくとも分かるぐらい二人の真心が籠ったものだ。

 

 

「ったく、二人ともありがとうな」

「わきゅ」「ふきゅ」

 

 

 嬉しさのあまり少し涙が出てしまいそうになったので、それを誤魔化すかのように両腕で二人を抱きしめる。

 こいつらからこうやってなにかを渡されるのは初めてではないとはいえ慣れないし、こういったのは恥ずかしいものだ。

 二人とも最初は驚いたようだったが、しばらくそのままでいてくれたので、落ち着くまでそうしていた。

 

 

「ふぅ…悪いな、いきなり抱きしめたりして」

「別にもっとやっていいよ」

「うん」

 

 

 落ち着いたので二人を離すと、逆にもっとやれとせがまれてしまったが、これはこれで恥ずかしいので断っておく。

 お袋がニヤニヤとこちらを見てるし、勘弁してほしい。

 

 

「ほら、感動的シーンが終わったなら手を洗ってきなさい。お父さんもそろそろケーキ持って帰って来るし、勉強もいいけど少しぐらいゆっくり休んで試験に備えなさい」

「おとうさん達も後で行くって言ってた」

「そうか、じゃあ飯前に一緒に手洗いに行くぞ」

「「うんっ」」

 

 

 どうやらおじさん達も来るようなので、受け取ったプレゼントをお袋に預けてから照と咲を連れて洗面所へと向かう。

 試験も間近だけど、近頃勉強詰めだったしこんな日もいいだろう。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 それから宮永家を含めた俺の誕生日パーティーはそれなりの盛り上がりを見せた。

 しかし普段だったら夜まで騒いでいるだろうに受験勉強中の俺を気遣ったのか、夕方になる前にはお開きとなった。

 そしてお袋の言っていた通りこれが気分転換となったのか、午後の勉強は随分とリラックスしてできたので、皆には感謝をしている。

 

 また、俺の誕生日を祝ってくれるのは家族だけではないらしく、それから友人達からのおめでとうメールが来たり、いとこやハギヨシ、三尋木からも宅急便を使って誕生日プレゼントが届いた。

 

 ハギヨシからは向こう行った時に使えるようにと、屋敷で余分に注文して余っていたと言うフライパンや鍋などの調理器具一式を貰った。

 しかしどう考えてもこれだけのセットがまとめて余っているのはおかしく、器具なんて余っていても無駄にならないものだ。恐らくこちらが気を使わないようにそういうことにしたのだろう。

 あいつには借りを作りっぱなしだからそのうち返さないといけないな。

 

 そして三尋木からは手編みのマフラーだった。以前、古くなったマフラーを買い替えようか悩んでいると話したのを覚えていたみたいだ。

 一緒に入っていたメッセージカードには『私の誕生日も期待してるぜ♪』と書いてあった。

 まあ、それぐらいには試験も終わってるだろうし大丈夫だろう。偶にはこっちが向こうに行ってやるか。

 

 

 

 

 

 その後、届いたプレゼントを丁寧に整理してしまってから再び机に向かい勉強に取り掛かり、しばらく参考書を読み進めていると、突如携帯の着信音が鳴り響いた。

 学校の友人かと思い手に取ると、そこには奈良に住む赤土の名前が表示されていた。

 近頃はメールで済ませて電話などほとんどしていなく、向こうも数日後の試験に向けて忙しいはずなので何の用かと疑問に思いつつも出てみる。

 

 

「もしもし?」

『ハッピーバースデー。誕生日おめでとう!』

「え?ああ、ありがとう。でも、なんで今日が俺の誕生日だって知ってるんだ?話したことないよな?」

『なに言ってんの、携帯のアドレス交換した時に一緒に付いてきたプロフィールに書いてあったじゃん』

「あー、そういえばそういう機能もあったな」

 

 

 赤土に指摘されて思い出すと、確かに買ったばかりの頃に適当に入力した記憶がある。

 住所みたいなプライベートとは違ってたいした内容でもないから書いたので、余計に記憶から喪失してたな。

 

 

「それでわざわざ電話して来たのか?」

『む、なにそれ。折角お祝いの電話かけてあげたのにさっ』

「わりぃわりぃ、この忙しい時期に手間かけさせたと思ってな」

 

 

 機嫌が悪くなった赤土に対し急いで謝る。こうやって電話の一つでも祝いの言葉をかけてくれるのは嬉しいけど、赤土にとっても大事な時期だからな。

 そう告げると赤土が先ほどまでとは裏腹に笑い始めた。

 

 

『まったく、須賀君って損な性格してるね。こういう日ぐらい踏ん反り返ってもいいんじゃない?』

「悪いがこれが俺の性分だよ。まあ、でもおめでとうの言葉一つでも嬉しいぜ」

『おや、もしかして私が言葉一つだけで済ませると思ってる?』

「思ってるって、なんかくれるのか?」

『まあねっ』

 

 

 俺の言葉に自信満々に答える赤土。

 大事なのは気持ちであって、ものじゃない。とはよく言われるけど、それでも形あるもので表してくれるのは嬉しいものだ。

 しかし奈良と長野離れてるし、どうするんだ?確かまだ住所とか教えてなかったし。

 

 

『それで用意はしたから渡したいんだけど住所がわかんないからね。だから大学受かってこっちに引っ越してきたときに渡すよ』

「受かった時って…落ちたら?」

『考えてないっ!』

「いや、力強く言うところでもないだろ」

 

 

 ハッキリと答えた赤土にツッコミを入れる。いや、まあ赤土らしいがな。

 ツッコミに対し赤土は笑っていたが、いきなり黙ったかと思うと、先ほどとは違い落ち着いた感じで話を続けてきた。

 

 

『…だからさ、お互い頑張ろう』

「…ああ、そうだな」

『それじゃあ試験終わったら会おうね』

「ああ、またな」

 

 

 そういってお互いに次に会う時の事を決めて名残惜しみながらも通話を切る。

 もう少し話していたいが、皆からの応援や先ほどの頑張ると言う約束を守る為にもなるべく勉強をするべきだろう。

 

 

「さて、もうひと頑張りするか」

 

 

 そういって勉強に取り掛かる。

 

 

 

 ―――こうして、俺の18歳の誕生日は受験勉強最中でありながらもいつもの如く騒がしく過ぎて行き、俺の試験への意欲をより滾らせてくれる日となったのだ。

 

 




そんなわけで京太郎の誕生日でした。京太郎おめでとう。
え?バレンタインや咏ちゃんの誕生日?そんなん考慮しとらんよ…。

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