君がいた物語   作:エヴリーヌ

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うそすじ

「このサンドイッチを作ったのは誰だ!」

 大声が聞こえたので振り向くと、そこにいたのは厳つい顔をしたおっさんだった。
 いや、マジで誰だよアンタ。



五話

 おばちゃんの店を出てから赤土の案内で奈良の観光地を巡る俺たち。

 奈良市に来るまでに有名な天理市や長谷寺などを回り、現在奈良公園にて観光中。途中はしゃいだ赤土が鹿煎餅を食べようとしたこと以外は問題なかったが、その後それなり歩いて疲れて来たし、小腹もすいてきたということで、人間用の食べ物と飲み物を買って休憩することとなった。

 

 食べながら先ほどまで見て回った観光地や、ここから見える綺麗で長閑な風景について話す。

 基本食事は静かに取るものだけど二人とも多弁な方だし、友人同士ならお喋りに興じるのも普通にあるということで許してほしい。

 

 

「いやー、久しぶりに来たけど改めて来てみると良いもんだねー。高校の修学旅行は東京だったから小学校の遠足で来て以来かな~」

「修学旅行かー。俺は沖縄だったから同じように東京に行きたかったぜ」

「えーなんで? 修学旅行で沖縄とかすごく良いじゃんっ!」

「普通ならそうだけど行ったのが三月……しかも雨のせいで関東の方が暖かかったっていうオチがあるけどな……」

「あはは……それはご愁傷様だねー。よっと、やっぱお茶は爽○美茶だよね」

 

 

 こんな感じでグダグダと話をしている中でふと気づいたんだが、一応観光ってことになっているけどこれってやっぱデートじゃね?

 別に年頃の男女が一緒に出掛けたぐらいでデートとはならないだろうが、二人っきりだしな。

 そのことを考えていたら、あることが浮かんだので赤土に尋ねてみる。

 

 

「そういえば赤土はやっぱ彼氏いないのか?」

「ゴフッ!? げほっつhげっほっへgふ!?」

「お、おい大丈夫か? ほらハンカチ」

 

 

 唐突な俺の質問に驚いたのか、お茶を吹き出し盛大に咽た赤土にハンカチを渡して背中をさすってやる。

 つい気になったので聞いてみたら予想以上の反応をしてくれた。

 やるな、赤土。いいリアクションだ。

 

 

「ゲホゲホ、あ、ありがとう……というかいきなり何言いだしてるのさ、もう!」

「い、いや……もし彼氏がいるならこうして二人っきりで出かけてるのばれたらやばいなーと思ってな。おばちゃんは男連れを初めて見たって言ってたけど、実は知らないだけって可能性もあったし」

 

 

 涙目でこちらに抗議する赤土に対し、内心焦りながら身振り手振りを交えながら説明をする。

 

 口には出さないが赤土って可愛いし、話してても面白いから彼氏の一人や二人いてもおかしくないと思うんだが……いや、二人はおかしいか。

 そんな言い訳をする俺に赤土は頬を膨らませる。

 

 

「もう、男子としっかり話すの久しぶりって言ったでしょ。というか私のこと、彼氏がいるのに他の男と出かけるような軽い女だって見てたわけ?」

「あ、いや、それは、えーと……」

「じぃぃぃぃーーーーーーーーー」

「すまん! つい出来心なんだ許してくれ!」

 

 

 ジト目でこちらを見つめてくる赤土に流石に言葉が悪かったかと思って手を合わせ急いで謝る。

 確かに気にはなったけど、聞き方も悪かったし次からは気を付けた方がいいな。

 というか、じーって口に出すなよ。

 

 

「……くく、冗談だって! というかその言い訳可笑しすぎ! あはははは!」

「えー、そこまで笑うことないだろ……」

「あはは、ごめんごめん。まあ、残念ながら生まれてこの方彼氏どころかまともな男友達もいたことなんてないよ……って! 何言わせんのさっ!」

「いてえっ!」

 

 

 ジト目でこちらを見ていたと思ったら俺の様子が面白かったのか当然笑い出した赤土。

 しかし途中でいきなり男性経歴を語りだしたと思ったら、恥ずかしくなったのか照れ隠しに背中を叩いてきた。

 

 本気ではないのだろうが、それでも恥ずかしさが乗った一撃に思わず顔を顰めてしまう。いや、まったく……照れたり怒ったり、元気有り余りすぎだろこいつ。

 

 

「しょうがないじゃん女子校なんだし、出会いがないのも当然でしょ」

「そういうもんか? まあ、俺は共学だしわからないが」

「そういう須賀君はどうなのよ? 共学なら彼女いないの?」

 

 

 プンスコ怒りながら聞いてくる赤土。いや、怒るか聞くかどっちかにしろって。

 しかし彼女か……あーどう答えるべきか……。

 

 

「あー……うん、俺か? ……俺に彼女は……いるかいないかと言われれば……ないアルヨ」

「いや、それじゃ全然誤魔化せてないし使い方違うし」

 

 

 痛い所を突かれたので誤魔化そうとしたが無理だった。

 ちくしょう……どうせこっちも彼女いない歴=年齢だよ。ま、まあそれでも高校の時は何度か告白されたことはあるけどな。フンス。

 男慣れしてない赤土とは違うのだよ、赤土とは。しかし……。

 

 

「それにどうせ須賀君のことだから、たまに誰から告白されても断ってるんじゃないの?」

「なぬ!? なんでわかった?」

「んー……女の勘ってやつ?」

 

 

 え? やだなにこの子怖い。エスパー?

 

 

「まあ、冗談はさておき。実際の所、須賀君チャラそうに見えて奥手っぽいし、遊びで誰かと付き合わなそうだしね。その上告白してきた子が好みとは限らなくて、好みのタイプからは良いお友達でいましょうとか言われてそうだし」

「べ、別に俺が本気になれば彼女なんていつでも出来るし、今はそういう気分じゃないだけだからな」

「はいはいそうだねー、須賀君なら大学行けばすぐ彼女出来るよー」

 

 

 詳細に俺の女性遍歴を当ててくる赤土に対し虚勢を張るが、にまにまと笑いながらからかってくる。ぐぬぬ……。

 恋愛経験ないみたいなこと言っておきながらこの観察力とは女子校クオリティー半端ないな。

 

 さっきの仕返しか積極的に攻めてくるので、このままではいけないと思い反撃出る。

 だって負けっぱなしって悔しいじゃん(小学生並みの発想)

 

 

「そうだ。さっき言ってたけど、赤土から見て俺って一応告白されるぐらいにはイケてるんだよな? つまり赤土から見ても俺って好みのタイプに近いのか?」

「へ……? うぇい!? いいいいきなりなに言ってるのさ!?」

「いや、だってそうだろ。赤土がイケてるなーって思ったからそう言ったってことじゃん?」

 

 

 慌てる赤土に対し畳み掛けるように言葉を重ねる。

 言葉だけ見れば「俺ってカッコいいよな?」って言いだしたナルシストそのものだが赤土はテンパって気付いてないのでこちらも気にしない。

 

 

「うー……べ、別にそういう意味で言ったんじゃないし……! ほら、リップサービスだよリップサービス! ……まあ、確かに最初見た時、須賀君のことちょっとカッコイイなーって思ったし、話したらいい人だったから今も楽しいけどさ……」

「え? なんだって?」

「な、なんでもない!」

 

 

 本人的には小さく呟いていたつもりだろうが、バッチリと聞こえていたので、あえて聞き返してみたら誤魔化されてしまった。

 しかし、カッコいいって思われてたのかー……やべえ、なんか嬉しいわ。

 

 

「ほら、もう十分休憩したし次行こう、次!」

「え? おま!?」

 

 

 突然立ち上がったと思ったら、赤土は隣で驚く俺の手をいきなり掴み引っ張り、そのまま広い奈良公園の中をダッシュで走り出す。

 いや、さっきも言ったが照れ隠しとは言え行動的過ぎるぞ。

 

 そして数分後、手を掴んでいたことに気付いた赤土がまたもやテンパって顔を赤くしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 その後観光巡りを続け、阿知賀に戻ってくる頃にはすっかり夜も更けていた。

 そしておばちゃんの店で自転車を回収し、家までそれなりにあると言うので一人で返すのは危ないから、大丈夫だと言う赤土を説得して途中まで送ることになった。

 

 それなりに距離はあったのだが、楽しい時間は過ぎるのは早いというのを現実にしたかのように、話している間にあっという間に近くまで来てしまった。

 

 

「そろそろここらへんでいいよ、あまり遅くなるとそっちも宿が駄目だしね」

「わかった、今日はありがとうな。おかげで助かったし、楽しかったぜ」

「いやいや、こっちも楽しかったしありがとうね。いい気分転換になったし……そうだ、明日はどうする? また案内するよ」

「いや、流石にそろそろ帰らないと行けないから今日宿に泊まったら明日直ぐに出るわ。赤土のおかげで今日だけでも色々回れたしな」

「そっか、もう帰っちゃうのか……」

 

 

 そう告げると寂しげな表情をする赤土。

 確かにもう友人と言ってもいいぐらい仲が良くなったが、それでも昨日会ったばかり相手に惜しんでくれるなんてほんといい奴だわ……。

 

 

「それじゃあ明日何時ぐらいに出る? 見送りに行くよ」

「あー……多分朝早くなるし無理しないでいいぞ」

「えー気にしなくて良いのに……むー……」

 

 

 下手に赤土とまた会うと楽しくて時間を忘れて明日も阿知賀に留まる、ということになりかねないので、悪いと思ったが断っておく。

 それに対し不満そうな赤土だったが、何やら考え込み始めた。

 

 

「むー……そうだ! それなら折角だし番号とメルアド交換しようよ! そうすれば帰ってからも連絡できるし」

「いいけど大丈夫なのか? あんだけ男相手に恥ずかしがってたのに。俺たち昨日会ったばかりだろ?」

「今まで散々遊んで話してたのに今更~? そ、それに……私たちもう……と、友達でしょ?」

「お、おう、確かに友達だな……ほら、携帯」

 

 

 わざわざ口に出して友達だという赤土にこちらも照れながら返事をし、こちらに携帯を向ける赤土に対し同じように携帯を取り出す。

 

 昨日だけでなく今日も何度か見る機会があったが、赤土の携帯はストラップとかがついていないシンプルなものだ。

 近頃の女の子らしくはないが、そういったのを気にしないのはらしいと思った。

 

 

「赤外線と……よし! 登録完了! おー……初めて男子のアドレスゲットだぜ!」

 

 

 某国民的アニメの主人公の如くはしゃぐ赤土。

 赤土の初めてをゲット……ってか。流石に口に出すわけにもいかず考えるだけにした。というかこんな時に何考えてるんだろうな俺。

 

 

「よし、交換もできたし、それじゃあそろそろ行くわ」

「ん、わかった。こっちからもメールするからそっちもちゃんとお願いね」

「おう、色々ありがとうな。それじゃ、またな!」

「うん、またね!」

 

 

 名残惜しいが宿のこともあるし、家がすぐ近くなのに赤土をいつまでも拘束するのは悪いと思って。もう行くことを告げる。

 それに対し赤土も残念そうな顔をしながらも同意したので、それを確認してからバイクに跨りエンジンをかける。そしてお互いに名残惜しみながらも手を振り別れる。

 

 走り始めたため、既に後ろを振り返ることはできないが、こちらの姿が見えなくなるまで赤土は手を振り続けているんじゃないかと、そんな気がした。

 

 

 その後、時間も遅かったので近場の宿を探し、昨日とは別の宿に泊まることとなった。

 寝る直前に携帯を開いて赤土のアドレスを表示し、メールを送ろうかと思ったが、時間も遅いし流石に止めておいた。

 

 ――そして気が付かないうちに疲れていたのか、布団に入ると直ぐに眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまーカピー」

「キューキュー!」

 

 

 翌日阿知賀を出て、寄り道をしつつもようやく帰宅。

 既に深夜に近い時間だったので、寝る直前だった親父達と軽い会話だけして土産を渡した後部屋に行くと、先ほどまで眠っていただろうに俺の姿を見て急いで駆け寄ってきたカピバラのカピを抱き上げる。

 

 

「いやーなんかお前と会うのも久しぶりだな、元気にしてたか?」

「キュキュー!」

「よしよし」

 

 

 それなりに重いのでベットに座ってカピを抱きしめると、久しぶりの感覚に旅の疲れが癒される。

 

 

「さて、どっこいせっと。えーと……携帯携帯っと、あれ?」

 

 

 しばらくカピを撫で続けた後、そのままベットの上に寝転び携帯を取り出すと、メールが来ていることに気づく。開いてみると赤土からだった。

 二時間ほど前に来ていたみたいだが、ちょうど運転中だった為まったく気が付いていなかったな。

 

 

「えーと何々?」

 

 

『やほー、そろそろ着いたかな、と思って初メールも兼ねて送ってみたよ。しかしなんかあれだね……顔合わせてた時と違ってこれはこれでなんか照れくさいね。だからこれからメールだけじゃなく電話もしてくれると嬉しいかなー……なんてね! それと改めて言うのもなんだけどこれからよろしくねっ! それじゃ、須賀君も疲れて眠いと思うからこれで終わりにするね、お休み~』

『あ、疲れてるだろうし返事は出さなくて大丈夫だから。その分明日から電話とメールに期待してるぞ♪』

 

 

「ははは、こりゃ責任重大だな」

 

 

 赤土からのメールを見て思わず笑みがこぼれてしまう。

 ほんと今回の旅は楽しかったわ、息抜きという理由だったがそれ以上のものが得られたな。

 

 

「しっかし心と体は別ってやつで、ずっと走りっぱなしは疲れたな……風呂も入ってないけど寝るか……お休みカピ」

「キューキュ」

 

 

 既に遅い時間だったのと疲れから眠気が来てしまったので、カピにお休みを告げ電気を消して、明日どんなメールを赤土に送るか悩みながらそのまま眠りについた。

 

 

 

 ――こうして短いながらも俺の高校生最後の夏休みの充実した旅は終わった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「うーん……うーん、なんて送ろうかなー」

 

 

 須賀君と別れてから一日。

 ベットの上でゴロゴロしながら携帯のボタンを押して文字を打ち、文章を作り、悩んでから消す、という動作を繰り返している。

 

 昨日からどんなメールを送ろうかずっと悩んでいて、今日の夕食を食べた後の今も、ベットに寝転びながら悩んでいる。

 丸一日悩みすぎていたせいで勉強も集中できなかったし……。

 

 

「うーん、うーん……」

 

 

 今まで父親以外の男を相手にメールを送るなんて一度もなかった身としては非常に悩ましい状況だった。

 

 

「と言うかむしろここは男らしく向こうから送ってきて欲しいよねー。むー……こっちは女子校育ちで慣れてないんだから気を利かせて向こうが送るべきでしょー」

 

 

 メールの内容を考えながらも向こうからの連絡も待ってたのにさー。

 まあ、昨日はずっと後ろに私を乗せて運転してたから疲れてただろうし、今日も長野まで帰るのに忙しいだろうからメールなんてする暇なんてないんだろうけどさ……それでも送ってほしいと思ってしまうのは我が儘かな……?

 

 望達みたいな女子相手の距離感はわかってるけど、同年代の男子なんてほんと話すことなんてなかったからどうしたらいいかわかんないし……。

 

 

「でも、思ってたよりも普通に話せてたよね」

 

 

 今までなにか用事で男子と話す機会が会った時も、事務的ことでも緊張してうまく話せないってこともあったのに、須賀君とは望達みたいに気楽に話せたんだよね。

 しかしこうやって改めてこの数日間の自分を顧みると、普段よりも実に大胆だったと思う。

 

 最初の道案内やお礼でおばちゃんの店に行ったのは兎も角、二人乗りや手を繋いだのは――

 

 

「……うひゃあっ!? うーうー! んんっー! ッ!」

 

 

 

 昨日のことを思い出してしまい、思わず携帯を放りだして恥ずかしさのあまり枕に顔をうずめたり、両手でベットをバシンバシンと叩いてしまう。

 

 会ったばかりの相手にあんなことするってどうなのよ、大胆すぎたんじゃないかな……須賀君は普通にしてくれてたけど、もしかしてはしたない女だって思われてたりして!?    

 ……でも……今までそういう機会なんてなかったから普通なんてわかんないし……。

 

 

「須賀君……初めての男の友達か……」

 

 

 先ほど投げた携帯を拾い上げ、この一日何度も見ているアドレスを開く。

 

 ――今まで父親以外になかった男の連絡先か……。

 

 昨日はあれで終わりだと思ったら残念だと感じてしまい、いきなり連絡先聞いちゃったけど流石に大胆だったかな……。

 

 そのまま携帯を操作して写真が入っているフォルダを開くと、そこには昨日須賀君と撮った写真がいくつか出てくる。

 

 餌をあげようとしたのにその鹿に追いかけられている須賀君の写真。

 甘味処で美味しそうにおやつを食べてる須賀君とそれを私に撮られて慌てている須賀君の写真。

 そして……私と須賀君が一緒に映ってるツーショット写真……。

 恥ずかしいからやめとこうぜ、という須賀君を強引に引っ張って撮った写真だ。

 

 

「うー……やっぱ昨日はなんか大胆すぎたでしょ私……」

 

 

 普通同性相手でも会って少ししか経ってない相手にここまでしないし……初めての異性の友達と言うことで浮かれすぎたのもあるが、それでもやっぱり大胆すぎる。

 

 多分……昔からの知り合いみたいに須賀君が話しやすい人なのと、お互いに波長があったせいだと思う……というかそういうことにする。

 まあ、でも……あれだよね…………この前気晴らしに見た、有名なローマの休日って映画も二人の男女が一日で恋に落ちてたし…………って――

 

 

「違うって!? す、須賀君とは恋人とかじゃなくてただの友達だし!」

 

 

 誰もいないのに思わず大声で言い訳してしまった。

 そりゃ確かに須賀君は結構カッコいい上に話してて楽しいし、軽薄そうに見えて実は真面目な人で、クラスの子達がよく言ってる将来的に見て有望株ってやつなのかもしれないけどさ……。

 

 そりゃいままで男っ気のない生活を送ってきたから、私だって彼氏欲しいなーとか、もし彼氏が出来たらこんなことしたいなーって相手もいないのに色々考えてみたりしてたけど……そもそも友達になったばかりだし、会ったばかりの相手と恋人とかそういうのはまだ早いし……。

 

 そんな感じで結局グルグルと思考が回って、結局メールを打とうにも色々と詰まってしまうのだった。

 

 

「うー……もういいっ! やけくそだ!」

 

 

 これ以上悩むとさらにどつぼにはまってしまいそうで思い切ってメールを打つ。

 ……まあ思い切ってと言っても硬すぎず柔らかすぎずと注意はしたし、送る前にはちゃんとどこかおかしい所はないかとチェックはしたけどね。

 

 

「むー……よし! これでいいや! 送っちゃえ!」

 

 

 30分近くかかりながらもできたメールを送信する。

 その後送ったメールを開いてもう一度眺めてみるとなんともいえない気持ちになった。

 

 

「なんで最後に♪なんてつけたんだよー!」

 

 

 流石に初メールにしても硬すぎるかと思いつけてはみたが、今更になって恥ずかしくなってきた。

 だってつまらない奴だって思われても嫌じゃん……。

 

 その後お風呂を済ませてからまた携帯を開いたが、着ていたのは学校の友達やメルマガばかりで、残念ながら須賀君からの返事はなかった。

 

 

「確かにこっちから返事はしなくていいって書いたし、お休みとも書いたけどさ~」

 

 

 理不尽に怒りつつも思わず愚痴を言ってしまう。

 しょうがないじゃん、まだ向こうからも一回も連絡ないんだし。

 

 

「いいや、寝よう! 須賀君のことだし明日きっと返事くれるよね」

 

 

 長い時間過ごしたわけではないけど、須賀君がこういったのを放置する人じゃないのはわかってるしね。

 

 

「にひひ、明日が楽しみだな~」

 

 

 夏休みもまだ少し残ってるし時間もあるんだからと、明日の返事を楽しみに待ちつつ眠りにつく。

 初めての男友達に浮かれすぎているのは自分自身でもわかっていたが、楽しいもんは仕方ないでしょ。

 

 そして楽しみすぎて眠るのに時間がかかってしまった為、朝に須賀君からメールが来ているのにすぐに気付かなかったのはご愛嬌だ。

 

 

 

 ――多少意識していたとはいえ、初めての男子の友達としか思っていなかった須賀君とあんな関係になるとは、この時は想像もしていなかった。

 




 少しレジェンドが意識しすぎな気もしますが、本人の言うとおり初めての男友達にテンパってるだけでチョロインじゃないですよ………きっと。
 むしろレジェンドみたいなのは友達や仲良くなるのは簡単だけど、そこから先の関係に行くのは難しいタイプと思う。

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