九条院金丸の華麗なる学園生活   作:ニョニュム

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問 次の文の〔  〕に当てはまる語句を答えなさい。
 〔  〕年、源頼朝は朝廷から征夷大将軍に任命され、鎌倉幕府を開いた。

 九条院金丸の答え
 〔1192〕年、源頼朝は朝廷から征夷大将軍に任命され、鎌倉幕府を開いた。
 注・正確には1192年は源頼朝が征夷大将軍に任命された年であり、鎌倉幕府を開いた年は諸説存在する。

 教師のコメント
 正解です。先生の時代と違い、研究が進むにつれて常識が変わるのも歴史の醍醐味ですね。

 吉井明久の答え
 〔2960〕年、源頼朝は朝廷から征夷大将軍に任命され、鎌倉幕府を開いた。

 教師のコメント
 ……ゴロ合わせで間違えたんですね。なにかおかしいことに気付いてください。先生の前にデロリアンを持ってきてくれたら正解にしてあげます。



第6話

「さて、午後からBクラスとの戦闘が控えている訳だが、野郎共、殺る気は十分か?」

『おおーっ!』

「お、おーっ!」

 

 金丸と根本の交渉が雄二の意図的と言えど決裂に終わり、Bクラスとの戦争が決定した僕達Fクラス。雄二が教壇の上に立つと問いかけるようにクラスを見渡す。雄二の問いに大きな声で叫ぶFクラスの皆。相手がBクラスとは言え、初めての試験召喚戦争ということでやる気は十分だ。雄二の言葉で少しニュアンスの違う言葉が聞こえた気がしたけど多分気のせいだろう。

 

 レースを控えた競走馬のように鼻息が荒いFクラスの皆に若干怯えつつ、健気に自分なりの大声で叫びながら片手を挙げている姫路さんの姿が見える。その姿は愛らしく、見る人を魅了する。そんな姫路さんの姿を見た他の皆からも漏れ出さんばかりの闘志が漲っている。

 

 言葉に出さなくても分かる。僕達Fクラスに課せられた使命は姫路さんにこんなボロボロの設備で過ごさせないことだ。

 

「今回が初めての戦闘となるが心配するな。作戦はきちんと考えてある」

 

 その言葉で雄二に皆の視線が集まる。当然だ、これから始まる戦争において雄二の作戦が皆の指針になるんだから。

 

「はっきり言えば正面からBクラスと戦えばFクラスの俺達に勝ち目は無い。だが、俺達には金丸という学年――――いや、学園最強の味方がいる。勿論、これを使わない手は無い。お前たちの仕事は時間稼ぎと相手の逃走防止の二つ。人数に任せて渡り廊下を占領しろ。Bクラスに階段を使わせるな。階段の防衛には姫路と数名に回ってもらう。他の人間は全員で渡り廊下を封鎖、新校舎からBクラスを出さないようにする。そうすれば、後は金丸の独壇場だ」

 

 雄二の作戦は実に簡単で判りやすい。僕達のFクラスがある校舎のことを旧校舎と呼び、Aクラスなどの設備が整っている校舎が新校舎だ。新校舎は増築された建物で旧校舎との間には渡り廊下が存在する。その渡り廊下の近くに新校舎唯一の階段がある。その階段さえ塞いで渡り廊下を制圧すればBクラスの行動範囲は新校舎の三階部分だけ。金丸という狩人から逃げ出すには狭すぎる。

 

 勿論、三階から脱出する方法がない訳じゃない。ただ、三階から他の階に移動するには危険が伴う。ムッツリーニぐらいしか出来ないと思う。正直、金丸におんぶにだっこの作戦ではあるけど、特に恥ずかしいとは思わない。金丸は優れた人間が人に頼られるのが当然だと思っているし、僕らも金丸にならなんでも任せられる。嫉妬する気すら起きないほどの完璧超人、それが金丸だ。

 

 ある程度、補足説明があったものの雄二の作戦は勢いと速度が重要とされる。僕達が渡り廊下へ辿り着く前に二手に別れられたら面倒だ。昼休み終了のベルが鳴ったと同時に全力で渡り廊下まで走らないといけない。

 

 全員が終了のチャイムが鳴るのを待っている。そしてその時はついに来た。

 

 キーンコーンカーンコーン、と昼休み終了のベルが鳴り響く。

 

「よし、行ってこい!」

 

 雄二の言葉でいよいよBクラス戦が始まる。一斉に教室を飛び出して全力疾走。その中でも最前列を走る――――というか、足が速すぎて僕達を置いてきぼりにするのはやはり金丸だ。“廊下を走る”という普段の金丸なら絶対にやらない行為が新鮮なのか、どんどん距離が離されていく僕は金丸が楽しそうに笑っているのが見えた。久しぶりに見た心底楽しそうな金丸の表情に危機感を覚えつつ、頼もしく感じる。

 

 仲間である筈の僕達すらぶっちぎり、視線の先で金丸が渡り廊下まで一番乗りで到着する。というか、金丸の足が速すぎて召喚獣のフィールドを展開する先生すら置いてきぼりだ。このままではBクラスが用意した教科で召喚獣を行使することになる。

 

 焦る僕達を余所にゆっくりとした足取りで教室から出てきたBクラスのメンバーは既に渡り廊下で待ち構えていた金丸の姿を確認してギョッとする。当然だろう、まだ昼休み終了のベルが鳴ってから30秒も経っていない。それとBクラスが連れている先生は学年主任の高橋先生だ。

 

「ちっ、全員で掛かれば怖くないっ! 高橋先生! Bクラスの野中長尾、Fクラスの九条院金丸に総合で勝負を挑みます!」

試獣召喚(サモン)!』

 

 相手の不意を突いたとしても敵は金丸一人。これをチャンスと判断したBクラスのメンバーは教室から出てきた十人程度の人数で金丸を取り囲み、勝負を挑む。十対一、いくら金丸でもあの状況はやばい。

 

「皆、早く金丸の援護に――――」

 

 僕は最後まで叫ぶことなく、目の前に広がる光景に絶句する。召喚した生徒をデフォルメした姿の召喚獣が現れた瞬間、十体程現れた召喚獣の内、一瞬にして半数が消えた。

 

「む? 召喚獣とはこんなに脆いものなのか?」

 

 金丸は自身がデフォルメされた召喚獣を見て、首を傾げている。

 

 Fクラス 九条院金丸

 総合 8192点

 

 …………一言だけ言えることがある。金丸は召喚獣の脆さに驚いているようだけどそれは違う。金丸の召喚獣が“強過ぎる”だけだ。それに金丸の召喚獣は見た瞬間に直感で判るほど覇者の気配を漂わせている。

 

 無骨でありながら精緻な装飾を刻み込んだ黄金の鎧。金の刺繍で黄金の獅子が描かれた真紅のマント。なにより目を引くのは黄金に輝く光の剣と大小様々な大きさの剣が召喚獣の背後に浮かんでいることだ。右手には銀色の腕輪も装備している。

 

 金丸の召喚獣が剣を一振りしただけで五体の召喚獣が消えた。はっきり言えば格が違う。次元が違う。

 

「てっ、撤収! クラスに入って守りを固めろ!」

「ふむ、悪いが逃がす訳にはいかん。こちらは代表に殲滅戦と命じられているのでな」

「そ、そんなっ!」

「こちらは十人で囲ったのに1点も削れないなんて!」

 

 勝負にならない戦力差を受けて、慌ただしくBクラスへ戻っていこうとするメンバーを金丸が容赦無く切り捨てる。なんだか見ているこっちが可哀想に思えてくるほどの楽勝ぶりに僕達の士気はグングンと上がってくる。

 

 金丸の強さは単純な点数だけじゃない。召喚獣の操作技術も相当上手い。観察処分者として頻繁に召喚獣を召喚している僕と同等、もしかすると既に僕より上手い可能性すらある。圧倒的なステータスとそれを存分に発揮するだけの操作技術。金丸のことを止められる生徒は多分、誰もいない。金丸の一方的な蹂躙が始まる。

 

「こ、ここは任せ――――ぐはっ!」

「俺の事は気にす――――がはっ!」

「俺、この戦争がおわ――――ぎゃはっ!」

「せ、せめて捨て台詞だけで――――ぐおっ!」

「ふむ、さきほどから何か言おうとしているが聞いた方がいいのか?」

 

 黄金の剣を手に逃げ惑うBクラスの召喚獣を切り捨てていく金丸の召喚獣。操作している金丸は補習室送りとなった生徒が捨て台詞すら言えずにやられてしくしく泣いていることに首を傾げつつ、蹂躙を止めない。

 

「これは酷い……」

 

 清々しいほどの蹂躙に壁となって渡り廊下を塞いでいるFクラスの誰かが声を漏らす。他の皆もその言葉にうんうんと頷いて同意している。最後にやられた生徒が言っていたように、せめて捨て台詞くらいは言わせてあげようよ。まあ、金丸はそういうお約束に疎いから気付いていないだけだと思うけど。

 

 たった一回の攻防でBクラスの第一陣が壊滅した。最初に金丸を囲んだ十人と今の捨て台詞を言わせて貰えなかった四人の生徒。これだけでBクラスの生徒が十四人も脱落している。渡り廊下を塞いで、新校舎を金丸の狩場にする。雄二の考えた作戦はドンピシャだ。

 

 僕達も道を塞ぐ程度のサポートはしているけどフィールドを縦横無尽に駆け回っているのは金丸の召喚獣だけ。ぐいぐいとBクラスを押し込み、Bクラス前の廊下を制圧した所で、Bクラスの中を覗いてみる。前と後ろのドアを守るように五人ずつ生徒が配置されて苦虫を潰したような表情を浮かべている根本の周りに五人。合わせて十五人の生徒と根本がいる。

 

「あれ?」

 

 時間稼ぎをするFクラスの皆を指揮しながらBクラス内部の違和感を覚えて状況を整理する。金丸が最初に倒した十四人とBクラスに立てこもる根本を含めた十六人。合わせて三十人。文月学園のクラス分けは基本的に五十人単位。なら、残りの二十人は何処に行った?

 

「まさかっ!」

 

 ハッと気付いて、僕達が塞いでいる渡り廊下の向こう側。つまり、Fクラスへ振り返る。そこには元々“階段を利用して他の階に移動していた”Bクラスの生徒達が人の壁を作る為に守りが薄くなっているFクラスを襲撃している。Bクラス生徒二十人。守りが手薄となっている本陣ではそう長く持たないだろう。

 

『ちっ、根本の奴も馬鹿じゃないか! 確かに戦争が始まる時に生徒が教室にいなければならないなんてルールは無かったからな!』

『坂本君! 大丈夫ですか!』

『悪い、姫路! 作戦変更だ、俺の護衛に回ってくれ!』

『わ、分かりました!』

 

 ただ幸いなことにスタートダッシュに出遅れた姫路さんがBクラスの襲撃に気付いて階段を塞ぐ筈だったメンバーを引き連れ、雄二の護衛に回ってくれている。

 

『おい、なんでこんな所に姫路さんがいるんだ!』

『そんなこと知るかっ! それより早く姫路さんを倒さないと俺達の本陣がやられる! 相手はあの九条院だ! そんなに持たないぞ!』

 

 Bクラスの生徒達も姫路さんの登場には驚きを隠せないみたいだ。お互いがお互いの不意を突いた状況。どちらが先に代表へ大手を掛けるか。速さが勝負の決め手になる。

 

「金丸! 作戦変更だよ! 本陣が襲撃を受けた! 一気に蹴散らせて根本の首を早く取るんだ!」

「む、そうなのか? それなら長谷川先生、よろしくおねがいします」

 

 ドアを守っていた召喚獣を切り捨てた金丸は教科を数学に変える。それと何故か長谷川先生のフィールドは他の先生より大きい。根本は上手く逃げたようだけど、他の生徒は全員フィールドに巻き込まれたみたいだ。

 

 Fクラス 九条院金丸

 数学 850点

 

 金丸の姿をした召喚獣は教科が変わると背中に浮かぶ剣の中から一本の剣を引き抜き、今まで持っていた剣を背中の空中へ浮かべる。よく目を凝らして観察してみると召喚獣が持っている剣の柄には数と書かれている宝石が埋め込まれている。背後に浮かぶ剣も同様で、それぞれの教科に対応した文字の宝石がある。

 

「明久、私はこれから腕輪を使う! 力を使うには溜めが必要らしい! その間の守りは任せたぞ!」

「分かった! 皆、金丸を守るんだ!」

「今のを聞いたか! この場にいる全員で金丸の首を狙え!」

 

 金丸の言葉に反応して、皆が一斉に召喚獣を行使する。金丸が何か起こすつもりだと既にBクラスへばれているので、それを止めようとBクラスも守りの体勢から金丸を狙う体勢に変化している。僕の指示と根本の指示が飛び交い、戦場は混沌としている。そんな中、皆に守られている金丸の召喚獣が持つ剣に眩しいくらいの光が集まっていて、召喚獣の点数がみるみる減っている。召喚獣の点数がそのまま剣に集まっている光に変換されているみたいだ。眩しいのを我慢して目を凝らして見れば、剣の宝石部分に光に変換された点数がカウントされていた。

 

「全員、衝撃に備えろ!」

 

 そして剣のカウントが777に、つまり777点が光へ変換された時、金丸が良く通る大きな声で叫ぶ。

 

「――――パニッシュメントッ!」

 

 その言葉と共に金丸の召喚獣が光輝く剣を思い切り振り下ろす。圧倒的な極光が生まれ、Bクラスを白の光で埋め尽くす。全てを吹き飛ばす破壊の光がBクラスの召喚獣を襲う。

 

 そして――――。

 

「って、痛い痛い痛い痛い痛いッ!」

 

 召喚獣のフィードバックを受けた僕の悲鳴。金丸の放った光が僕の召喚獣にダメージを与えている。それはつまり――――。うぅ、と痛みで泣きそうな身体にムチを打ち、数学のフィールドを確認する。そこには金丸の召喚獣だけが立っていた。そう“敵味方関係なく”金丸の召喚獣以外は全て消し飛んでいた。

 

「さあ、来いっ! 全員、補修室行きだ!」

 

 敗北したBクラスの生徒を回収しに来ていた鉄人が目の前の現状が理解出来ず、唖然としていた僕らに真実を突き付ける。

 

「ふむ、強力な攻撃の代わりに敵味方の識別は無いのか。明久、それに皆も。誠に申し訳ない」

 

 うんうんと頷いて、腕輪の効果を確認した金丸が僕らを見ると深々と謝罪する。あの金丸が深々と頭を下げる。本当は驚くことだと思うけど、今の僕にはどうでもいいことだ。今の僕は完璧超人である金丸をどうやって殺すか。それだけに全ての思考を稼働している。

 

「ははっ、自分の力も使いこなせないならここでシネッ! 長谷川先生、Bクラスの根本恭二がFクラスの九条院金丸へ数学勝負を挑みます」

「む、やはりそう来たか」

 

 金丸との一対一。絶好のチャンスと判断した根本が金丸へ勝負を挑む。勝利を確信している根本と違い、勝負を挑まれた金丸の表情は険しい。

 

 Fクラス 九条院金丸

 数学 73点

 

 VS

 

 Bクラス 根本恭二

 数学 231点

 

 本来の点数なら逆立ちしても勝てなかった筈の点差も腕輪の力で消費してしまった金丸にはどうしようもない。満身創痍の状態にある金丸の召喚獣を根本の召喚獣が手に持った大鎌で一閃。

 

「ふむ、やられてしまったか……」

「やった、やったぞ!」

 

 消滅した自身の召喚獣を見届けた金丸がぽつりと呟き、自分は何もしていないのに初めて金丸へ勝利したことを喜んでいる根本。敗北を特に気にしていない金丸と一度の勝利に狂喜乱舞している根本。つくづく器の違いを感じさせる二人に溜息が出る。

 

「後詰の役割は本来であれば姫路嬢だったが、こうなっては仕方あるまい。よろしく頼んだぞ、康太」

「――――え?」

 

 勝利を確信していた根本は金丸の呟きに根本が驚きの声を上げる。Bクラスの人混みを駆け抜け、根本の前に二つの影が降り立つ。保険体育の先生とムッツリーニ。

 

 僕らが大量の人間を渡り廊下に投入したもう一つの理由。人の壁を作ることによって、Bクラスから壁の後ろに控えている人間を隠す。本来なら階段を封鎖した姫路さんが後詰として根本と戦う予定だったけど、雄二が念のために控えさせておいたムッツリーニでもこの状況なら十分に役割を発揮する。

 

「…………Fクラス、土屋康太。Bクラス、根本恭二に保険体育勝負を申し込む」

「ムッツリィニィーッ!」

 

 勝利を確信していた根本が悔しそうに叫ぶ。

 

 Fクラス 土屋康太

 保険体育 441点

 

 VS

 

 Bクラス 根本恭二

 保険体育 203点

 

 勝負は一瞬、ムッツリーニの召喚獣が一撃で敵を切り裂いた。

 

 Bクラスとの戦争はお互いの電撃作戦により、一時間も経たずに終了した。

 

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