九条院金丸の華麗なる学園生活   作:ニョニュム

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問 次の英文を日本文に訳しなさい。
 Nice to meet you.

 九条院金丸の答え
 お会いできて光栄です。

 教師のコメント
 正解です。金丸君には簡単過ぎましたかね。

 吉井明久の答え
 あなたは肉?

 教師のコメント
 不正解です。meetは会う。肉はmeatですね。



第7話

 電撃作戦のおかげで捕虜となっても補習室へ連れて行かれる時間はなく、鉄人の補習から逃走することが出来た僕達はAクラス戦に向けて、点数補給のテストを今まで受けていた。一緒にテストを受けてみてやっぱり思ったけど時間制限の一時間は金丸の手が一度も止まっていない。考えながら問題を解いているみたいだった。

 

「うぅ、金丸のせいで酷い目に遭ったじゃないか」

「ふむ、これからアレを使う時はもう少し敵を巻き込むことにしよう」

「違うよ! 味方を巻き込むあんな攻撃はもう使っちゃダメ!」

「む、巻き込んだのは申し訳ないと思っているがあの攻撃は上手く使えば効率的に敵を排除出来るぞ?」

 

 補給テストの帰り道。死屍累々、といった表現がぴったりと合う生きた屍状態の僕を含めた金丸に巻き込まれたFクラスの皆を代表して、金丸に苦言する。金丸は僕の指摘に反省の色を見せているけど反省する所が違う。首を傾げてまだまだあの腕輪を使う気満々の金丸に脱力。確かに混戦になった場合、金丸の腕輪は大活躍するだろう。もし、こちらが戦線を十人で支えて相手が二十人で襲ってきた場合、金丸さえ守り切ればこちらは十人が犠牲になるだけで相手を二十人も削ることが出来る。あの腕輪は発動すれば全てを消滅させる最強の攻撃だ。

 

 多分、Aクラスの召喚獣でも耐えきることは出来ない筈。それなら戦線を広げるだけ広げて、金丸を投入すればそれだけで莫大な戦果が見込まれるだろう。

 

 ……やる。雄二なら間違いなくやる。良心という心を異世界へ捨ててきたような男だ。金丸が言う通り、効率的な面で見ればAクラスの二十人を消す為にFクラスの十人が必要なら必ず用意するのが雄二だ。なんだか、悪の組織のボスに大量破壊兵器が渡ってしまった気分だ。それも総合得点から察するに複数の教科が800点越え確実だ。金丸さえ守り切れば数回は発動可能な大量破壊兵器が。

 

 それもこれも雄二より頭が良くてスペックが高い筈なのに、雄二の指示にはしっかりと従う金丸にも問題があると思う。そんなことを考えたら一つの疑問が浮かんでくる。理由は知らないけど金丸は雄二のことを高く買っている。金丸のスペックからしたら僕も雄二もその辺にいる有象無象にしか見えない筈なのに。

 

「ねえ、金丸。今まで疑問には思っていたんだけど特に気にならなかったから聞かなかったけど質問があるんだ」

「ふむ、明久が私に質問とは珍しい。さきほどのテストで解けない問題があったのか? それなら休み時間に解説してやるぞ?」

「金丸、明久に限ってそれは……」

「そうそう、吉井に限ってそれは無いわよ」

「む、明久もやる気になったかも知れないではないか」

 

 金丸の言葉に言い淀む秀吉とハッキリ物申す島田さん。僕に対する皆の評価が明らかに低い気がする。…………まあ、その通りなんだけどね!

 

 だからこそ、なぜか無条件に僕を高く評価する金丸の気持ちが痛い。

 

「そ、それよりもウチに勉強を教えて欲しいかも……」

「それは別に構わないが……。しかし、島田は数学ならそれなりに解ける筈では?」

「い、いいから約束だよ!」

「む、廊下を走るものでは――――行ってしまった……」

 

 太陽のような明るい笑顔を見せながら顔を赤くして走り去っていく島田さん。

 

「お、おい、あれって……」

「そう、なのか?」

 

 廊下を走っては駄目だと注意出来ずに落ち込んでいる金丸を余所に金丸と島田さんのやり取りを目撃したFクラスの皆が顔を見合わせている。

 

 うん、やっぱりあれで気付かない金丸の方がおかしい。島田さんは照れ隠しに手が出ちゃう僕の天敵だけど客観的に見て、十分可愛い女の子だ。二人の馴れ初めに関わっている僕としては島田さんに頑張ってもらいたい所だけど、金丸の唐変木をどうにかしない限りカップル成立は無さそうだ。正直、あの頃のやり取りの結果、島田さんが僕を好きになっている、なんて未来もあったりと考えたこともあったけど、今は詮無きことだ。

 

 あの頃の島田さんを支えたのは金丸で、島田さんが皆に島田さんらしさを見せるようになったのは金丸の努力に他ならない。

 

「それで質問なんだけど、金丸って雄二のことを高く評価しているけどどうして?」

 

 島田さん以外にもファンクラブに入っているメンバーのようなアイドル的な憧れではなく、異性として金丸のことを好きな女子生徒は数人いる。ムクムクと湧き上がる嫉妬のオーラを押さえつつ、冷静になる為に話題を変える。

 

「ふむ、明久は以前、私が雄二の“人を有能足らしめる才”を認めていると話したな」

「うん、その話は聞いたけど、元々“人を有能足らしめる才”ってなんなのさ?」

「そうだな……。無能な人間とはどういう人間だと思う?」

「そりゃあ、能力が無い人間じゃないかな」

 

 少しだけ考えるしぐさを見せる金丸の問い掛けに答える。無能な人間は能力が無いから無能と罵られる。勉強の出来ない僕らが最低設備のFクラスに所属しているのと同じだ。

 

「その通り、無能とは文字通り能力が無い人間のことだ。それならば能力の有無は何を基準に決めている?」

「え~と、それは……」

「学生なら勉強、社会人なら仕事と言ったところじゃな?」

 

 金丸の言葉に言い淀む。僕の代わりに答えた秀吉の返答に金丸は頷いている。

 

「有能や無能といった判断はその人物に与えられている役割で判断される訳だ。もし働いていたとしてアルバイトに求められる能力と正社員に求められる能力は違ってくる。平社員と社長でも同様だ。そうだな、明久に判りやすく言うとRPGで僧侶が戦士の代わりに戦った所で無能だが、僧侶が僧侶として働けば有能だろう」

「なるほどね、それなら確かに雄二は有能かもしれない……」

「私はどうも、その辺りのさじ加減が苦手でな。いずれ九条院グループを引き継がなければならないからな。人の上に立つ人間として、今の内に雄二から学べるモノは学んでおきたい」

 

 苦笑いを浮かべて恥ずかしそうに頭を掻く金丸の説明を聞いて、僕は納得する。金丸は自分が完璧だからこそ、出来ない人の“出来ない”という理由が元々、理解出来ない。それに比べて雄二は人の配置を的確に行う。その人間に出来る仕事を与えて、僕らを顎で使う。そういった意味だと確かに雄二は有能かもしれない。

 

 ――――なんだか初めて、大財閥である九条院としての金丸を見た気がした。

 

 

 

 

「――――であるからして、さきほど導き出したXの値をここに当て嵌める。そうすればこの式は完成してYの値が導き出される訳だ。何か質問は?」

 

 

 ――――多分、僕は今、奇妙な光景を目にしている。

 

 放課後、教壇の上でボロボロの黒板へ白のチョークで数式を書き込んで、Fクラスの皆へ補給テストで出題された数学の問題を解説している金丸の姿があった。金丸の解説はかなり解り易く、いまいち理解力の足りない僕でも十分に理解出来るような説明だ。

 

 勉強嫌いのFクラスが放課後にも関わらず、大人しく金丸の解説を聞いて、ノートへメモを書き込んでいる。元々、勉強会にFクラスの皆が参加している方がおかしい。これはもう、金丸のカリスマ的なパワーのおかげだろう。それはそれとして、皆が真面目に金丸の解説を聞いているのには理由がある。

 

 ――――須川君という尊い犠牲によって、皆は大人しく金丸の解説を聞いているのだ。勉強会が始まる前、金丸によってFクラスに集められた僕達は金丸から島田さんの提案で勉強会を行うことを皆に伝えた。まあ、この時点で既に何かおかしいけどそれは後回しだ。

 

 勉強会、と聞いて逃げ出そうとした須川君に金丸は短くなったチョークを投擲。目にも止まらぬ速さで須川君の眉間に直撃したチョークはギャグ漫画のように粉末に砕け散り、須川君は身体をピクピクと痙攣させて帰らぬ人となった。その時、金丸がふむ、明久に借りたあの漫画通りになるとは漫画も中々侮れん。確かこれを繰り返せば皆大人しく授業を受けていたな、なんて呟いた言葉を皆が聞いていた。

 

 僕が漫画を読んだことがないという金丸に貸した漫画は先生が主人公の理不尽系ギャグ漫画で、先生の投げたチョークが弾丸になって授業から逃げ出す生徒を捕まえるのは定番のギャグだった。

 

 何回か、手首のスナップを利かせてチョークを投げるしぐさをした金丸を目撃して、皆は勉強会から逃げ出すのを止めた。

 

 ちなみに須川君はいつの間にか金丸が頼んでいたのか、テストのプリントをコピーしてきてくれた鉄人によって保健室へ連れて行かれた。鉄人は先生のくせして僕らの命を見限り、戦争が早く終わり過ぎて補習室で仕込めなかったから丁度いい、と良い笑顔で僕らを見捨てた。

 

「…………(なんでこんなことになっている)」

「…………(なんでこんなことになっているのじゃ)」

「…………(解せぬ)」

「…………(これはちょっと、島田さんが……)」

 

 授業ではなく、勉強会ということで雄二達と集まって金丸の解説を聞いていた僕達はチラッ、と視線を合わせた後、僕達から少し離れた所で金丸の解説を見ている島田さんへ視線を向ける。

 

「うふふふふ……」

 

 現実から目を逸らした不気味な笑みを浮かべていた。いつも瞳に強い意志を感じる島田の瞳から光が消え、ハイライトさえ消えている島田さん。

 

 …………怖い。本当に怖い。今の島田さんに近付いた人間は確実に殺られる!

 

 島田さんが補給テストの帰りに金丸を誘った勉強会。それはおそらく、放課後の誰もいない教室で“二人きり”の勉強会だった筈。だけど、島田さんの提案を受けた金丸は何をトチ狂ったのか“Fクラスの皆”で勉強会を始めてしまった。

 

 正直、これは島田さんの失態である。金丸の性格と価値観をよく知る島田さんだからこそ、二人きり、というワードを先に着けておくべきだった。きちんと金丸がどうしようもない唐変木であることを島田さんは知っているんだから。最も金丸が一番悪いのは当然のことだけど。

 

「やはり、金丸の奴。あの言葉を本気にしておるのか?」

「秀吉、あの言葉って?」

「朝、わしと金丸で話しておったのじゃ。わし等と金丸では成績が違い過ぎるから三年に進級したらクラスが別れると。そうしたら金丸が、ならば来年は皆がAクラスになれるように勉強を教えてやろう、と言い切ったのじゃ」

「いや、だからってこんなことに……」

「バカ明久、忘れたのか。それが金丸だ」

 

 雄二の言葉に僕らは納得してしまう。一般常識を踏まえているように見えて妙な所で恐ろしく人とずれているのが金丸だ。

 

「はい、質問! そこが分かんないだけど……」

「む? ここが分からないのか?」

 

 放心状態の島田さんを見なかったことにして、金丸の立つ教壇へ視線を戻す。クラスの一人が手を挙げて金丸に質問する。解説を終え、質問を受けた金丸は困った表情を浮かべて思案顔をする。

 

 ここで一つ、金丸の弱点を紹介しよう。金丸は完璧である。問題の解説も本物の先生に授業を教えてもらっているように解り易い。だけど、完璧である故に問題の解説を受けても問題が解けない人間の“何が分からないか”が分からない。理解出来ない人間が理解出来ないのと同じ理屈だ。金丸的に完璧な解説だったとしても解らない人間はたくさんいる。相手が何故解らないのか、理解出来ない金丸は物を教えるのに向いていない。

 

 実際、普通なら理解出来る解説を受けても理解していないFクラスメンバーの質問に金丸は何度も困っている。金丸としてはこれ以上、解説することが無いのだ。そんな風に困っている金丸へ助け舟を出すのが、僕らの姫路さんだ。

 

「え~とですね。この問題は――――」

 

 恥ずかしそうに解説を始める姫路さんの説明はとても丁寧で、バカでも解る。金丸を専門家に物事を教える先生に例えるなら姫路さんは何も知らない素人に物事を教える先生と言った所だ。同じ天才でも出来る人間に教えるのとバカに教えるのではレベルが違う。

 

 教壇の上に立ち、解説を終えた姫路さんがペコリと頭を下げて金丸へ教壇を譲る。そんな姫路さんの愛くるしさに可愛いなぁー、と眺めていると姫路さんと視線が合う。姫路さんは頬を赤らめた後、てくてくと歩いて僕の所までやってくる。

 

「あの……。吉井君、私の説明で理解出来ましたか?」

 

 姫路さんが心配そうに僕へ声を掛けてくれた。な、なんて良い人なんだ。今すぐにでも告白したい! いや、姫路さんが金丸のことを好きなのは知っているけど。

 

「うん、大丈夫だよ。姫路さん。僕は金丸の説明で十分だから!」

 

 僕は金丸の説明で理解出来ないFクラスのバカ達とは違う。せめて、それぐらいの虚勢は良いだろう。実際、姫路さんの説明の方が解り易いんだけど。

 

「そ、そうですか……」

 

 僕の返事を聞いて、少し寂しそうに去っていく姫路さん。姫路さんは目が虚ろな島田さんに気付くとトボトボとそちらへ歩いていく。今の島田さんに近付くのは危険だけど、同じ女の子である姫路さんなら大丈夫だろう。

 

『うぅ……、ダメでした』

『……大丈夫よ、瑞樹。ウチなんて競争率も高いんだし……』

『お互いに頑張りましょうね』

『そうよ、絶対にあのニブチンどもを振り向かせてやるんだから!』

 

 少し気になって観察していると島田さんの瞳に光が返ってきた。何を話しているのか聞こえなかったけど、姫路さんは島田さんをやる気にさせたようだ。流石、姫路さんだ。

 

「あれでわざとじゃないのがおそろしいの……」

「……まったくだな」

「――――同意」

「ほんとに金丸には困ったもんだよね」

「…………」

「…………」

「…………」

「え、なに、その溜息?」

 

 金丸の鈍さに呆れる雄二達に賛同すると何故か雄二達に盛大な溜息を吐かれる僕だった。

 




てきとーキャラクター紹介
【名前】九条院金丸
【容姿】モデルをしていないのが不自然なくらいカッコイイ
【頭脳】高橋先生が驚くくらい頭がいい
【運動】九条院家でなければ指定強化選手に選ばれるほど
【召喚獣】金ぴか・王の風貌を備えている
【腕輪能力】
・パニッシュメント
処罰、刑罰という意味。王である金丸が裁きを与える為。
点数を攻撃性の光に変える能力で最大威力の777点を変換すれば誰の召喚獣だろうと消滅させる。
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