【リリス】
あの決闘から数日。
私はお母様とお父様の前で、事情を話そうとしていた。あの力の正体くらいならば、二人も見抜けていはずだから。
「どうしたんだ?」
「……二人は、《死の天使》をご存知ですか?」
「「!?」」
私は彼女(彼?)が言っていた名前────その渾名である《死の天使》を口にした瞬間、二人の顔色は急変した。
「まさか、あの力の正体は」
「えぇ、恐らくヴァルキリアスに憑依した際に放ったものかと」
「まさか…《死の天使》が」
────二人は知っているようだが、サリエルとは何者なのだ?
私がそうやって首を傾げていると、お父様は恐れを含んだ顔で話し始めた。
「…《ラグナロク》からの神々の衰退時に、月を任され支配していたという堕天使だ。月の支配は本来神がすべきこと。それを奴は任されたのだ」
────月の支配者。
吸血鬼の象徴の一つである月を支配した堕天使。決闘で見たのは憑依とはいえ、あの力を易々と使いこなすサリエルを想像すると、少しゾッとしてしまう。
「…リリスはサリエルと何か話したのか?」
「……はい」
────そのサリエルに、私は気に入りられた。
あの友好的でもない声。おそらく良くない方で気に入られている。
「奴は私を気に入っています。魔界への招待をされました」
「…断ったか?」
「……いえ、選択権はありませんでした」
────断れば、私の大切なものが失われる。
そう、本能が理解してしまったのだ。そして、あいつなら本当にやりかねないと、思ってしまったのだ。
「……………」
「そこで、私からお父様達にお願いがあります」
私はお父様たちに深々と頭を下げた。
「……私が魔界へ行っている間、レミリア達をよろしくお願いします」
「しかし、お前をサリエルの元へ行かせるわけには…」
「アイツは行かなければ私ごとここを滅ぼすでしょう。それは決してあってはならない」
──────要は、頭の考えだ。
被害は最小限の方がいい。私含めた全員が死ぬより、私一人が死んだ方が被害が少ないのも確か。
………確かに、恐い。
正直、勝てるかすらわからない。勝負になるかすらも怪しい。けれど、大切な家族を守るためなら、私はどんな相手でも命を懸ける。
「──お願いお父様、お母様。レミリアとフランを守ってあげて」
「リリス…貴女…」
「……わかった」
──────ありがとう、お父様。
「ありがとう。私は貴方達の元に生まれて本当によかった」
「……」
「幽閉や、辛いことはあったけど……私を愛してくれる妹や貴方達と過ごして、幸せというものがなんなのか教えてくれた」
「……」
「だからこそなの。だからこそ、私を幸せにしてくれた貴方達を守りたい。それが私ができる唯一の恩返し」
──────あぁ、そんな顔をしないでくれ。
「私は、確かに死ぬかもしれない。でも、ただでやられるつもりは毛頭ないよ。ここで帰ってくるつもりでいるから」
──────あぁ、ただでやられるつもりは毛頭ない。
天使の象徴たる翼を全部へし折るくらいの抵抗はしてやる。でも死ぬつもりは無いし、私はあいつを倒す気でいるから。
「…お前は、わがままを言わなかった…誕生日に何が欲しいと言っても、今の幸せで十分だと言った」
「………」
「私達はお前に何も───」
「なら、このお願いはその誕生日分全てのお願い。だから」
「…わかった」
──────ありがとう。
こんなにも私を愛してくれる最高の家族が居て。
だからこそ。
私を愛してくれたこの人達を守る。
その為なら、私は夢だって捨てる。
────いざ、命散る逝くその時まで。