【レミリア】
私はいつものようにお姉様の部屋へと足を運ぶために廊下を歩いていた。ルンルン気分で歩いていると、お父様の部屋を通りかかった時に、三人の声が聞こえた。
─────お父様、お母様と……お姉様だろうか。
少し会話に興味が湧いた私は、少し耳を傾けた。
『…私が魔界へ行っている間、レミリア達をよろしくお願いします』
魔界………?
確か、この世界とは別に存在する、悪魔を初めとした種族が住む魔境世界だったか?
お姉様は、なぜそんな魔界へ………?
『アイツは行かなければ私ごとここを滅ぼすでしょう。それは決してあってはならない』
─────滅ぼす?
お姉様ごと、ここを滅ぼす?ありえない、そんな人間は……妖怪は、決して存在しない。
『──お願いお父様、お母様。レミリアとフランを守ってあげて』
……………なんだろう、この胸のざわめきは。
まるで、お姉様が居なくなるかのような………そんな言葉は。そんな雰囲気の言葉は。
『ありがとう。私は貴方達の元に生まれて本当によかった』
『幽閉や、辛いことはあったけど……私を愛してくれる妹や貴方達と過ごして、幸せというものがなんなのか教えてくれた』
『だからこそなの。だからこそ、私を幸せにしてくれた貴方達を守りたい。それが私ができる唯一の恩返し』
『私は、確かに死ぬかもしれない。でも、ただでやられるつもりは毛頭ないよ。ここで帰ってくるつもりでいるから』
────────お姉様か死ぬ?
それほどの相手なのか?お姉様が勝てるかすらわからない相手で……。
私には『運命を操る程度の能力』がある。万物全てに共通する運命を糸として見ることが出来き、尚且つ多少の干渉を可能とする。
私の勘と能力が示している──────。
お姉様の─────無残な姿を。
はっきりとは見えない。けれどお姉様の糸はそこで途切れているのだ。まるで引きちぎられたかのように。
…………このまま魔界へ行けばお姉様が無事では済まないことくらいは、幼い私でもすぐにわかった。
私ではまだこの運命を変えられるほど力はない。
私は失いたくない。大好きなお姉様を失いたくない。
どうすれば──────。
「どうしたの?レミリアお姉様」
私が考えながらさまよっていた時、フランが現れた。
──────そうだ。
可能性は低いけれど──────やってみる価値はある。
「フラン、お願いがあるの」
◆❖◇◇❖◆
【リリス】
私はお父様の部屋を出て、大図書館へ向かう。
お父様とお母様の前ではああは言ったけど、正直情報が少なすぎる。これでは死にに行くようなものだ。少しでも情報を集め、勝利の確率を1%でも上げるため対策を練らなければ。
お父様は元月の支配者と言っていたが………。
それにあの力も気になる。魔力、妖力、そして人間の持つ霊力にも当てはまらない力……。
だが、あの力を見て、思ったことがあるのだ。
魔力、妖力、霊力に当てはまらない力で、尚且つそれを含まない力。
───そう、私の『万物を創造する程度の能力』と仕組みが似ているのだ。
私の能力は、魔力、霊力、妖力を一切使用せずにイメージしたものをこの世に現界させる能力。
現界させる時に、イメージしたものを具現化する力───あれは三つの力のどれにも当てはまらない。
なおかつ、腕を振り下ろして、その場所から砲撃でも放たれたかのように地面がえぐれる………。
─────仕組みは全く同じであり、在り方は真反対。
私がそれを用いてものを創り、サリエルはそれを用いてものを破壊する。
サリエルが言っていた『創造主の片割れ』。
創造主は天地創造の儀で世界を創り、天地開闢の儀で天と地を切り開いた。そしてその管理者として神々を創り出した。
──────天地創造、即ち『創造の力』。
──────天地開闢、即ち『破壊の力』。
破壊と創造は表裏一体。創造の後に破壊があるように、破壊の後に創造があるように。
──────なら、サリエルの持つ能力はただ一つ。
創造の力、『万物を創造する程度の能力』と対を成す破壊の力……。
──────『万物を破壊する程度の能力』。
私と同じく創造主の力を持つ、対極の存在。
少なくともその力の規模はフランの持つ『あらゆるものを破壊する程度の能力』とは比べ物にならないだろう。仮にも天地開闢を担った力。
まぁ、あくまで憶測に過ぎないが……。
「破壊を止めるには創造しかないか」
破壊の後に創造がある。その逆も然り。
レミリア風に言うのなら、これは運命なのかもしれない。
対極の力を持つ私、リリスとサリエルがぶつかるのは必然なのかもしれない。
私は考察による考えをまとめながら、図書館へ向かおうとしていたその時。
「お姉様」
不意に、私の背後から可愛らしい子供の声が聞こえた。
この声の持ち主など、見なくてもわかる。私は振り向きながら、声の主をみて、やっぱりと思った。
「…どうしたの?レミリア」
──────何故だろう。
今のレミリアは、どこか余裕が無い。いつもはニコニコしていて、ものすごく可愛いのだが………今回に限っては、非常に真剣な顔つきだ。
「少し、付き合ってくれる?」
「ん、いいよ」
たとえそんな状態であっても、妹の頼みは断れない。
私はレミリアについていく。案内されたのは────。
─────館の外。そしてレミリアに案内された私を、レミリアと同じく真剣な表情で見つめるフランドールだった。
「…お姉様」
「なに?」
「………私達は、お姉様を止めるために決闘を申し込むわ」