【リリス】
あの日から、私はこのひ弱な体でひたすら運動をしていた。
何事にも基礎から。篭もりっきりのこの身体は運動神経が著しく低下している。まずはそれを正さなければならない。
みんなが寝静まった時にこっそり外に出て館周辺をランニングしたり。
暇がある時は腹筋と腕立て伏せをやったり。
取り敢えず基礎を上げるためにひたすら汗を流して、ご飯食べて、ひたすら汗を流しての繰り返し。
「……ふぅ、こんなものかな」
今までの日々を振り返っていれば、いつの間にかランニング十キロは終わっていた。早いものだなと思いながらこっそり部屋に戻って作り置きしてくれたご飯を食べる。
─────そろそろだろうか。
そろそろ基礎体力も並の吸血鬼にはなってきたし、そろそろ魔力の使い方と能力の使い方もマスターしないと。
幸い、私のこの狭い部屋にも魔導書は置いてある。半端者の私はどうせ読んでもわからないとでも思ったんだろう、そういう魔導書関係の本はある。
取り敢えず目を通しておくか。そう思った私はそのうちの一冊、『魔法・初級』のわかりやすい本を取った。
その本を開き、『魔力の使い方』についての項目を開く。
─────魔力とは。
かつて神界から下った天使の名残と言われる。その名残を強く受け継ぐのは、人外───即ち、妖怪である。
基本的に魔力は己の中に眠っている。それを目覚めさせるには、身体強化魔法を習得するのがいい。
─────へぇ、魔力ってかつて地上に降りた天使の力の名残なんだ。
思わぬ所で知識を得たことに驚きつつ、その先を読み進めていく。
身体強化魔法は、己の中に眠る魔力を身体に纏い、身体能力を飛躍的に上昇させるものである。
まず、魔力を目覚めさせるには、極限に集中し、自分の中に眠る魔力を引き出すこと。それが出来れば自然にコツをつかみ、自由に魔力を扱える。
なるほど………わかりやすいな。
極限まで集中か───恐らく、周囲の音が聞こえなくなるくらいに自分の事に集中する、ってことかな。
そう思った私は、一応ダメ元で集中する。
──────ダメだ、まず集中が出来ない。
疲れているからだろうか………。
取り敢えず、一度寝てリセットしようと考えた私は、ベットに身を放り投げた。
◆❖◇◇❖◆
目を閉じる瞼に、月の光が差し込み、私の目を覚ましていく。
─────よく寝た。
今日もいい月だとそう思った私は、作り置きされた食事を食べる。
ふと、その食事が置いてあった所に、書き置きのような何かがあった。なんだろうか、現状報告のような何かだろうか。
私はそれを手に取り、目を通した。
─────愛する娘、リリスへ
先日、貴方の妹のレミリアが生まれました。
貴方に似て元気一杯です。喋れるまで成長したら、貴方に合わせたいと思います。
こうして手紙でしか伝えることしか出来ないこと、本当に申し訳なく思います。
眷属達は貴方を嫌っているけれど、私と夫は貴方を愛しているわ。
────母、サリーより。
「うっそだろぉぉぉおおおっ!!? 」
普段の私とは思えないほどの絶叫を上げた自分に驚きながら、自分を落ち着かせるために胸に手を当てた。
お母様には申し訳ないけど──最後の文章の眷属達は~の部分が頭に全く入ってこない。
それほど、私は妹が生まれたという事実が私に衝撃を与えた。
衝撃すぎて、いつものようにサイドテールにしようとしても手が震えて全く出来ない。
「…なんか…もう……はぁ」
私はこの衝撃だけで一日分トレーニングしたような錯覚を覚える。
もうほんと……こういうのは心臓に悪いなもう。
深呼吸をして、自分の心を落ち着かせる。
まだあわてるような時間じゃない………。
「ふぅ………それにしても、妹かぁ」
レミリア。恐らくこの書き置きの文章を見る限り、半端者がどうのこうのは書いていないことを思うと、レミリアは正常───つまり
正式な次世代スカーレット家当主となるだろう。
本来、それは私であるが、こうして半端者として幽閉されているし、スカーレット家の跡取りとは考えていないはず。
──まぁ、そんなことは置いておいて、だ。
「どんな子だろう……会うのが楽しみだな~♪」
──────どんな子か、楽しみで仕方ない。
私に似てるのだろうか?お父様かお母様どちらに似ているのだろう?
────後日、メイド達の報告では、この日一日リリスは腑抜けた顔をしていたという。