時間軸的には原作より数十年前、と言ったところですね。
二十五話 Re:start
人々を始め、この世界に存在するあらゆるものは生きている。
例え肉体が消え失せようが、それらを知る人物の心に刻み込まれる限り、それらは生きている。歴史上に名を残す人物などがその例だろう。
ならば、逆は?
─────
簡単な事。例え肉体があろうと、存在を刻まれることを拒まれれば、それは人に限らずあらゆる万物の死を意味する。拒まれることはなくとも、幻想の彼方へと葬られれば、それは死同然。
────だが、それらが安らぐ最後の楽園があったとしたら?
忘れ去られた過去の者達が集い、人間はもちろんかつて世界に名を轟かせ人々の幻想となった妖達。そして書物の中でしか語られぬ神話の存在である神々達を始め、数多の幻想が集う最後の楽園。
───ありとあらゆるものを受け入れる理想郷。
忘れ去られた者達は、それを『幻想郷』と呼ぶ───。
◆❖◇◇❖◆
【紫】
この幻想郷の現状に私、八雲 紫は頭を抱えていた。
長年の悲願である忘れ去られた者達の保護、そして『人と妖怪の共存』を目的とした幻想郷の創造は達成した。しかし、それ以降からその内政………人と妖怪の関係について何百年と頭を抱えている。
その悩みの種は主に妖怪であり、自分を始め妖怪はかなり厄介な性質がある。それはその存在意義に相当するものだ。
────それは、『畏れ』である。
古くから妖怪は人を襲い、人々に畏れを与えてきた。それは妖怪として必要不可欠であり、それが妖怪の糧となる。
だが、人と妖怪の共存が目的であるこの幻想郷ではそうはいかない。人間が外の世界の技術や力を持ちすぎれば、妖怪の立場をなくし『畏れ』が無くなって存在そのものが危うくなる。だが妖怪のトップに立つ存在……妖怪の山に居たという鬼の四天王や花の妖怪が暴れればあっという間に人々が滅ぶ。
『畏れ』を無くさず、かつ人間と妖怪の均等を保つというのは難しいものであった。
そこで、私は考えたのだ。
─────妖怪と人。二つの立場を持つものが必要だと。
これは極端な話、半妖でも構わない。半妖だって人と妖怪のハーフであり、人間と妖怪の狭間にいるどちらでもある存在。
この現状でも、妖怪側の人間もいるし人間側の妖怪もいるのも確か。
だから、私は試作として
もしこれが成功すれば、人と妖怪の両視点からの意見は参考になるだろうし、二つの立場と言う臨機応変な対応が可能となる。
───八雲 空。
この子が、幻想郷の希望となることを信じて─────
◆❖◇◇❖◆
【空】
私の名前は八雲 空。この幻想郷に生きる
式神でありながら人間?というのはいまいち私でも理解できない点があるが、紫様が『そういう風にしたのよ』と言ったからそうなのだろう。うん。
なぜ式神になったか…それは私の過去にある。
実は私、紫様に拾われて式神になる以降の記憶が全くないのだ。
その八雲 空という名前も紫様とその従者であり最強の式神、八雲 藍様が共に与えてくれた名前。本当の名前ではない。とはいえ、今の私は【八雲 空】だ。別に過去の事なんてどうでもいいし、今を生きれればそれでいい。
「あんたさぁ…いつも来てるけどやめてくれる?妖怪神社なんて言われたらたまったもんじゃないんだけど」
「いいじゃないですか。何か問題を起こしたら貴方が私を退治すればいいですし」
「それはそれで面倒って言ってんのよ……」
私は今、この幻想郷の最東端にある博麗神社と呼ばれる神社に来ている。ここは古く───幻想郷が造られる前から存在し、外の世界…人間界と幻想郷を隔てる結界の管理を行う重要な場所だ。
そして今私が話している巫女………幻想郷の人間解決者にあたる博麗の巫女、博麗 霊奈は、歴代最高のスペックと実力を持つ
────そう、超絶武闘の。
代々、博麗の巫女は妖怪を収める人間側の守護者としてその地位を確立し、その役目を果たしてきた。しかし、妖怪と人では圧倒的な力の差がある。そこを霊術や妖術といったもので埋めて、解決してきたのだ。
他がこの巫女……霊奈は違う。
そう、この巫女はそういうのにはからっきしなのだ。霊術も使えなければ妖術も使えない。巫女としては大失格もいいところの。
しかし、この巫女は言った。
『なら夢想封印(物理)で殴ればいいじゃない』
とかいう女に有ってはならない脳筋思考で妖怪を駆逐し始めたのだ。これには私達八雲一家も騒然とした。だって生身の人間が妖怪を素手で嬲り倒してるんですよ?立場逆転してるじゃないですか。しかもこの人身体能力に全振りしたかのようなスペックなので本当に人間なのかと思ってしまうくらいヤバい人。うん。
極めつけは『ひん曲がれっつってんだよオラァ!』とか言っちゃうヤクザ系脳筋、それがこの歴代最強の博麗の巫女、博麗 霊奈なのである。
「なんか無礼な事考えてない?」
「いえ全然」
「絶対考えてたわねあんた…潰すわよ」
もうやだこの巫女怖すぎる紫様藍様助けてぇ…(泣
◆❖◇◇❖◆
【???】
────幻想郷の一角。
誰も近寄らないであろう薄暗い場所に、二人の物陰が見える。片方は翼のようなものを持ち、片方はメイド服のようなものを着ている。
「奴の様子は?」
「未だ覚醒の予兆は全く」
「……フフ、孵化が楽しみね」
そう笑う天使は、どこか何かを楽しんでいた。
「貴方には呑み込まれてもらうわ………空。いえ
───貴方の中に眠る本当の自分にはね」