半端者が創造神となる日   作:リヴィ(Live)

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連続投稿です。
今回、わかりずらい描写が多々あるかと思いますが、大目に見て下さると幸いです。


三十一話 彼女が残したモノ

 ◆❖◇◇❖◆

 

【紫】

 

 ─────今は一刻の猶予もない。

 

 吸血鬼異変の首謀者に起きたあの惨劇。それを巻き起こした人物の存在。そして、目覚めつつある『彼女』。

 いっその事ならば、空に眠る『彼女』を強力な封印式で封じてしまえばそれで終わりだが、仮にも『彼女』は空を形作る大事な要素の1つ。それを封印すれば空にどんな影響を及ぼすかは計り知れない。下手に手を出せば『彼女』が出てきてしまう恐れさえある。

 別に『彼女』の目覚めを恐れているのではない。『彼女と同化したアレ』が同時に表面化されれば終わりなのだ。『彼女』だけ目覚めてくれるのならばこちらとしてはとても嬉しいのだが、『彼女』と共に『アレ』が空の中に眠っている以上、可能性はないとは言い切れない。

 

『彼女』は『アレ』を封じるために自らの存在と記憶を封じた。『アレ』と対峙出来るのは対の能力を持つ『彼女』しかいない。

 しかし、『彼女』は『アレ』を封じるために眠っている。『アレ』が『彼女』を取り込んでしまえば終わりなのだ。

 だからこそ、今は少しでも空の負担を減らしつつ、戦力を集めなければならない。

 

「───」

 

 目の前に広がるのは紅。内装すら紅く染まった館。

 戦力を集めるのもそうだが、今はまず空の負担を減らすことが最優先事項。『彼女』を知る彼女らには、少し事情を知ってもらわねばならない。

 

「妖怪の賢者………」

「吸血鬼異変以来ですわね、サリー嬢」

 

 サリー・スカーレット。

『彼女』を知る数少ない実力者。精神的な負荷が大きいのかやせ細り、弱々しい姿だが、これでもかつて自分と同じく世界に名を轟かせた強者の一人。戦力には申し分ない。

 

「少しお話がありまして。幻想郷の未来に関わる出来事です」

「それで?私には関係──」

 

 

 

 

 

「───貴方の娘が関わっている。となれば話は別でしょう?」

 

 

 

 

 そこで、サリーは顔色を変えた。かつて吸血姫として名を轟かせた頃の鋭い殺気のような目付きが私を射抜く。

 

「──あの娘が関わっている?」

「えぇ、正確には私が制御下に置いている、と言った所でしょうか」

 

 さらにサリーの放つ魔力と殺気は膨れ上がり、その全て針のように紫にぶつけられる。

 

『娘を返せ』

 

 そういう意思が含まれているのは、明らかだった。

 

「さらに的確にいえば、『彼女』自身が施した封印式を私が保っている状況です」

「……封印式?」

「あの『アレ』を抑えるための、唯一の封印式。『彼女』の存在と記憶を掛けて封印した術式を私が保っている状況です」

 

 そこでサリーはハッとしたような顔をした。

 

「つまり、あの娘は記憶を……?」

 

 私は肯定に意志を示す。それを見たサリーは少し残念そうな顔をしていたが、すぐさまそれは消えうせ、瞳の光が少し強まった気がした。

 

「あの娘が生きていた。母親としてこれ以上に嬉しいことはないわ」

 

 ────今のサリーは、まさに子を思う母親そのもの。

 それだけあの子のことを思っている。それは空を愛する者として私としても同感出来るものもあった。

 

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

 

 時は移り、場所は魔界。

 魔界とは、幻想郷や外の世界にも当てはまらない無限に拡張する世界。特徴としては、普通の人間は霊力を宿すのに対し、魔界人は魔力を宿すことが多く、その分体も丈夫に出来ており、寿命も長い。

 

 しかし、驚きなのは無限に拡張する魔界を作りあげた神は、一人。たった一人で造り上げた。

 

 それにはある理由があるのだが────

 

「久しぶりね。紫」

「えぇ、あなたも元気そうでなによりよ、神綺」

 

 私の目の前に現れたのは、『彼女』と瓜二つの顔を持つ女性。雰囲気は『彼女』のそれとは子となり、大人びた美人といったところだろうか。

 

 彼女の名は神綺。無限に広がる魔界を作りあげた唯一の魔界神その人であり、かつて世界を作りあげた創造神の妹に当たる。

 そう、かつて『彼女』が『アレ』を封じた時に共に戦っていた一人だ。

 

「…それで、なんの用?」

「天使についてよ」

 

 そう、他でもない『アレ』の事だ。あの天使に対抗できるのは天使の上位種である神か、対の能力を持つものだけ。神綺は神の中でも上位に食い込める程の権力と実力を兼ね備え、創造神の妹なだけあって物を創り出すことに対しては右を出るものはいない。その産物がこの無限に拡張する魔界と言えるだろう。

 

「……貴方の気持ちは分かるわ。でも、悔やんでばかりでは始まらない」

 

 神綺は自分の実力不足のせいで『彼女』を封じてしまったと考えている。神綺が赤の他人であるはずの『彼女』にそこまで突っかかるのか、それは神綺の過去にある。

 

 さっきも言ったように、神綺は創造神の実の妹である。創造神と神綺は同格の存在だった。

 だが、それは一瞬にして変わる。神々の戦争、ラグナロクの発生により創造神と神綺はその座を奪われ、創造神は神綺を庇ってその身を犠牲にした。以来、神綺は自分が何も出来ないことを誰よりも呪い、強くなると決意したのだ。

 

 そして魔界創造後、創造神と神綺を神の座から突き落とした張本人が魔界と地獄を同時侵略。支配されてしまった魔界をどうにかして取り戻さんと考えていたところに、兄の能力を持つ『彼女』が現れた。

 

 だからこそ、『彼女』を失った時の喪失感が、神綺にとってのトラウマを呼び起こしたのだ。

 

 また、兄を失ってしまったと。

 

「……そうね。兄様も、そうなることを望んでいるはず」

 

 しかし、神綺は入れ替えたように私の話を聞いた。

 

『彼女』が記憶を失っていること。

 

『彼女』が『アレ』を封じ込めていること。

 

「…情けないわ。あの子があんなに頑張ってるのに、年上の私がこんなになんてね」

 

 …………しっかりしろとは言わない。

 

 それは今の彼女にとって酷だろう。何せトラウマをもう一度目にしてしまったのだから。愛する兄とその力を持つ幼い子を、目の前で失ってしまったのだから。

 

 大切な人を失う喪失感は、失った者しか分からない。私と妖怪として長い年月生きて、人というのがどれほど脆いか、命がどれだけ儚いものなのかというのを理解した。

 

 大切な人を守れなかった。

 

 それは、神綺も私も同じ。だからこそ、今度こそ。

 

「それに応えるのが大人ってモノでしょ?」

「…フフ、それもそうね」

 

 やっと笑った。やはり追い詰めてばかりの顔は神綺には似合わない。そうやって花のような笑顔が、神綺には一番似合うのだ。

 

「そう言えば」

 

 そんなことを思っていると、神綺はふと思い出したかのように言った。

 

 

 

 

 

「あの娘とアレが落ちていった時、その底には二人共いなかったのよ(・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 ─────いなかった?

 

『彼女』の回収は私が行った故、『彼女』がいないことはわかるが……『アレ』の肉体が存在しなかった?

 

 普通、肉体……つまり、人柱にものを封印するのには条件がある。

 一つは、その人柱の強さだ。例えば、普通の人間を人柱として、ある国を滅ぼした邪龍を封じ込めるとしよう。当然、その邪龍の魔力に人間の体が耐えきれず、体は朽ちていく。故、人柱の人選というのは重要事項の一つ。これは人柱に限らず、封印術全般に言えることだ。

 

 二つは、その肉体。人柱に入るのはあくまで『意志と力』のみ。そこに肉体は含まれない。つまり人体を人柱に封印した場合、抜け殻が残るはずなのだ。

 

 今回のケースでは、二つ目……抜け殻が存在しない。

 

 ────吸血鬼異変の首謀者に起きた惨劇は、まさか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────抜け殻に芽生えた意識が、抜け殻を操り襲撃を仕掛けた?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だとすれば、『アレ』が二人存在する辻褄が合う。

 

 本体が『彼女』を、取り込んでいるあいだ、抜け殻は力を蓄えその手始めとして自分に仇なすスカーレット家を襲撃。そして、私に本体が二つ存在すると錯乱させるのが目的。

 

 ────幻想郷の大きな戦力低下と錯乱による創造主不在。

 

 それが目的だとすれば…………ッ!!

 

「ごめんなさい、事情が変わったわ」

「……なら私も行くわ。あの時の落とし前、付けておかないとね」

「!……ええ、行くわよ!」

 

 私達はすぐさまスキマを開けて幻想郷への入口を開き、足を踏み入れる。

 

 そこに広がっていたのは──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲鳴を上げ逃げ惑う人々とかつて魔界と地獄を蹂躙した化け物の群れが、幻想郷を覆い尽くしていた。





悲劇、幕開け。
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