半端者が創造神となる日   作:リヴィ(Live)

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三十二話 面影

 ◆❖◇◇❖◆

 

【空】

 

 ─────今、私の頭の中は砂嵐に等しかった。

 

 今までの過去が作りあげた私と、知りえない記憶を持つ私。その二つが互いに混ざりあって、ごちゃごちゃになって自分が自分で分からない。

 

 私は何者?

 

 妖怪の賢者の式?それとも、得体の知れないあの少女?

 

 

 

『私を見て、ソラ』

 

 

 私の中の『彼女』が呼びかけていた声が頭の中で不思議に響く。私は、もはや自分という存在の理由さえ見失いかけている。

 

 もし、仮にあの少女が私だとしたら、今までの私は?今の今まで……紫様と藍様に拾われてからの幻想郷の生活は、全て嘘だったの?

 

 怖い。

 

 私の中で必死に私の名を呼ぶ『彼女』が怖い。

 

『彼女』を受け入れて私が消えてしまうのが怖い。

 

「………あ」

 

 私は宛もなく漂っていたが、いつの間にか、目の前には真っ赤な紅色の館が目に入った。そして、また私の知らないはずの映像が蘇る。

 

 ────紅い月に照らされた、紅の館を見下ろす少女とその二人の妹が。

 

 

 

 

「…『紅魔館』…ッ」

 

 

 

 

 その映像を見た瞬間、その名前が無意識に浮かんで口に出される。知らないはずの映像から、この知らないはずの紅の館の名前まで口に出てしまう。

 

 ズキン

 

 頭が痛む。この紅い館を見る度に。

 私の中の、『彼女』が暴れるかのように。

 

 ───『彼女』の叫びが、衝撃となって頭に響く。

 

 

 

 ガサガサッ!!

 

 

 

「ッ!」

 

 

 

 でも、頭痛による意識障害の中でも、今の音は聞き取るには十分すぎた。

 

 ガサガサ、ガサガサ

 

 1匹ではない。アリのように進軍する何か。でも、その茂みから発せられるその気配だけは分かる。

 

 ───人でも妖怪でもない、全てに当てはまることのない(・・・・・・・・・・・・・)瘴気に近いモノ。

 

「───っ!?」

 

 そこで、私が見たものは──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キキッ!ギィィィイイイイイイッ!!!!」

 

 

 見た事ない蜘蛛のような形をした、奇声を発する化物の群れだった。

 

 一匹、二匹────十五匹は優に超える。

 

 そしてそれらから発せられる良くないモノ………。肌に触れるだけでも、これに触れればヤバいということは、本能的にも理解している。

 

 生き物の本能的な恐怖が私を支配する。しかし、この数を逃げ切れるとは思えない。茂みから出てくるスピードから見ても、全速力で逃げたとしても追いつかれるのが関の山。

 

 ─────なら、導かれる答えは一つ。

 

「………倒す、か」

 

 ─────こいつらの数を減らし身の安全の確保をする。

 

 冷や汗をかきつつも、私は腰に携帯している刀に手をかけ、ゆっくりと引き抜く。そしていつでも駆れるよう、身体強化の術を体に張りめぐらせる。

 

 気を抜くと死ぬのはどの戦いでも同じだが………今回のこいつらは格が違うらしい。

 

 相手は正体不明の化物。どう出てくるかは分からない。だから最初は様子を────

 

 

「ギィィィイイイイイイッ!!!!」

 

 

 ────見る暇はなさそうだ。

 

 針のように鋭い四肢が私を貫かんと迫る。そしてそれにも瘴気は含まれており、さっきからするとてつもなくまずい感じはいっそう鋭くなっていた。それをすぐさま理解した私は防ぐことはせず潜り込む形でそれを避けて、刀をがら空きの下半身から切り裂く───

 

 

 ガキィンッ!!

 

「嘘……ッ!?」

 

 ───ことは無かった。

 

 刃すら食い込むことはなく、まるで鎧にぶつかったかのような感触が刀越しに伝わる。その見かけによらず鉄以上の硬さを持つこの化け物たちはそれを好機と見なして一斉に襲いかかる。

 

 まずい、動けな─────

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、その化け物達は轟音とともに吹き飛ばされた。

 

「えっ……?」

「大丈夫ですか!?」

「え、あ、はい」

 

 それを吹き飛ばしたのは格闘の構えを向ける中華風娘。頭には龍と彫られた星型のプレートが着いた帽子を被る彼女は、私に敵意を向けることなく化け物を見るとすぐさま構え直した。

 

 私に敵意はない。それだけはハッキリしていた。

 

「この紅 美鈴、手伝いますよ」

「感謝です……私は八雲 空」

 

 美鈴と名乗った女性は私の名前を聞くと少し目を見開いた。

 

「八雲の式ですか。にしては………主と似てますね(・・・・・)

「………?」

「いえ、今は戦闘に集中しましょう」

 

 美鈴が放った言葉に疑問を覚えた。

 似ている………?主とは紫様や藍様のことだろうか?それとも……

 

 しかし、そのあとに放たれた言葉で無理矢理思考を切りかえて戦闘に意識を向ける。戦場で敵は待ってくれないし、今は考えている場合ではないな。

 

 

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

【美鈴】

 

 あの異変以来、我々紅魔館の恐ろしさが身にしみたのか、幻想郷の住民は追い出せだの出ていけだのの文句は飛んでくることはなくとても平穏な日々だった。門番を任されている私ですら、居眠りしてしまうほど。

 

 そして、ふと前を見れば…………少女が得体の知れない化物の群れと戦っていた。

 

 こう見えて私は妖怪の端くれ。武術を収める者としても、あの化け物達はよろしくないものであるというのは確信していた。

 その化け物達を吹き飛ばす形で少女を救出した。そこまでは良かったが、その少女が発するその雰囲気は、我が主と酷似していたのだ。

 

 無類のカリスマを誇る我が主、レミリア・スカーレットとその母、サリー・スカーレットに。

 

 レミリアお嬢様はまだ当主になって日が浅い故、まだ子どもとしての幼い面が残る。その幼い面に何度助けられたことか。

 

 

 

 ……何が言いたいか。それは……

 

 

 

 

 サリー様の面影を残し、なおかつレミリアお嬢様のような優しさ溢れる雰囲気を醸し出しているのだ。

 

 そこで、私はお嬢様が話していたことをふと思い出す。

 

 この紅魔館を収める一族、スカーレット家。私がこの館に来る前に、サリー様と主の間の娘は、三人(・・)存在していたということ。

 

 現在紅魔館には彼らの娘は二人。姉のレミリア・スカーレットとその妹、フランドール・スカーレットである。妹様はとある事情で幽閉されているが、そこはまぁいいとしよう。

 

 私が昔メイド長兼門番をしていた頃、掃除していた際に家系図なるものを見つけた。そこには、サリー様と主の名前、そしてそれに連なる三つの子の名前。

 

 その家系図はお嬢様の前……兄か姉にあたる存在はまるでかき消されたかのようになっていた。それを見た私はお嬢様に聞いたのだ。

 

 そこで私は、彼女らに姉が存在することを知った。

 

 名前までは聞かなかったが……いや、行くことが出来なかったか。何せ、あんな嬉しさと哀しさが滲んだ瞳で話されたら、踏みとどまってしまう。

 でも、あの話をするお嬢様はとても嬉しそうだった。『私の憧れのお姉さま』と、自慢するように語っていたのを思い出す。

 

 …………つまり、だ。

 

 その現在不在である姉に当たる存在。それが彼女なのではないかと思ってしまった。

 直接あったことは無いし、話に聞いただけだが……これだけそっくりな要素を持つ彼女が、本当にそうなのではないかと思ってしまう。

 

 名を名乗る際には、八雲 空と名乗っていたが………。

 

 いや、今は一旦それを考えるのはよそう。今は戦闘、気を抜けばやられる。

 

 のだが………。

 

「……?」

 

 さっきから思うが、何やら化け物達の動きがおかしい。空さんを襲う時にはとても攻撃的なイメージだったのだが、私が参戦してからは、慎重に……まるでこちらの動きを掻き回すような動きを繰り返しているのだ。

 単に知能が高いといえばそれまでなのだが……それにしてもおかしすぎる。

 

 まるでこちらに気を引かせるような(・・・・・・・・・・・・・)………?

 

 

 

 

 

 

 いや、待て。気を引かせる………?

 

 まさか……!

 

 私はすぐさま館の方へと目を向ける。そこには、先程の群れの大半が門をぶち壊し、攻め入っていく様子が目に入った。

 

 しまった、戦闘と思考に集中しすぎて館の防衛が………ッ!!

 

 館に侵入する化け物達を食い止めようと走るが、それを超えて行く、蒼から真紅に変化した瞳(・・・・・・・・・・・)の彼女が目に映った。

 

「ちょ、空さん!?」

 

 全速力で空さんに追いつこうとしても、空さんはそれを上回る速度で館の門へ到達し、これも先ほどとは比べ物にならない速度で化け物を切り裂き、蹴散らしていく。

 

 私が門へ到達した時には、空さんは館内へ。

 

 あの目は…………まさか、本当に?

 

 私は館に侵入した化け物達を駆除するため、館の中へ足を踏み入れた。

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

【空】

 

 走れ。走れ。

 

 一匹も逃すな。侵入させるな。入り込んだヤツらを皆殺しにしろ。

 

 ただそれだけの意思が無意識に私の体をつき動かし、館の中の化け物を蹴散らす。

 

 なぜこの意思が出てきたのかは分からないが………私の、中の、奥底で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『守る』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼女』が叫ぶ気がした。




………多分、もう分かってる方もいるよね。

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