◆❖◇◇❖◆
【レミリア】
────あの日。
死の天使の策略。あの決闘に介入した死の天使の影響だった。お姉さまは奴に気に入られ、魔界へ行かなければ皆殺しにすると言われていた。だから、お姉さまは私達を守るために魔界へと向かった。
止めようとした。絶対に行かせてはならないと、私の本能が、能力が言っていた。ここで行かせれば後はないと。
でも、止められなかった。フランと二人がかりでお姉さまを止めるために戦ったけれど、結果はお姉さまの圧勝。私達は手も足も出ず、お姉さまは別れの言葉も告げずに紅魔館を出た。
多分、もう一度私達にあったら行けなくなってしまうと思ったのだろう。私ならば少なくともそうなる。でも、行かなくなってしまった方が私達は良かった。
─────お姉さまが魔界から帰ってこない日が何年と続いた。
あの時止められていれば。あの時勝っていれば。
これ程、後悔という言葉が身にしみたことは無い。未だに、私の能力によるお姉さまの運命は、あの日を境にプツンと切れたままで、先には何も無い。
─────それが意味することは一つ。
受け入れたくなかった。けれど、受け入れざるを得なかった。その現実を否定したかった。何度見ても、その運命は途切れたままで。
だから私達は誓った。
もう誰も失わないために強くなると決意したのだ。家族を、守る為に。
でも、それも間違いだった。
ある日、私達は強力な使い魔を得るために召喚術式を使用した。使い魔は強ければ強いほど知能が高い。主の命令には絶対だし、ある意味一番信頼出来る者だ。
でも、私達が召喚したものは違ったらしい。
───結果、その悪魔はフランに取り憑く形で憑依し、フランの心を蝕んで行っている。不安定な精神を制御するために地下へと幽閉するといつ苦肉の策を講じざるを得なかった。
この幻想郷の移住の時もそう。あの決闘の一族が、まるで狂戦士のように怒り狂い集団で襲ってきたのだ。あの、死の天使の雰囲気を持ちながら。
結果、お父様も私達を逃がすのに精一杯で、私達はお父様の護衛もあって無事に幻想郷へ到達したが、それ以来お父様は消息不明。
………私は何も出来なかった。守ると誓ったのに、お父様も、妹も……お姉さまも、何もかも守れなかった。
大切なものを失う哀しみ。それの痛みをここ数年で痛いほど痛感した。
私はどうすればいいのだろうか。
「……どうすればいいの………?お姉さま……」
その今は亡き姉にすがるほど、レミリアの精神は擦り切れていた。
「ッ!!?」
しかし、その束の間の休息は正体不明の奇声の共鳴によって打ち切られる。
─────今の鳴き声は、なんだ?
とても生物とは思えない奇声。それも今のは共鳴だ。それはその奇声を発する正体不明の敵が館内部に複数侵入しているということにほかならない。
私はその奇声の正体を確かめため、その手にグングニルを握り部屋を出る。
その左右を見渡すと、私は衝撃的な映像が映りこんだ。
─────数々のメイド妖精を血塗れで喰らう、四足の化物の群れが。
「6e!3qode5mkq@c@!」
「…っ」
私を認識した化物が理解不能な言葉を発し、それを聞き取った周囲の化物が私に敵意を向けた。そして、その一体一体から放たれる瘴気のような吐き気をもようす良くないモノを放っている。
あれは妖怪ではない。あの雰囲気は─────
「………死の、天使」
────決闘でお姉さまと戦った吸血鬼に憑依した際に放った時のモノと同質。
そこで私はこの化物の正体を知る。いや、正確にはその化物の生みの親の正体を。
お姉さまを追いやり、吸血鬼の軍勢をしむけお父さまを消息不明にさせ、挙句の果てにこの化物共を仕向ける。
私の家族を奪った死の天使。その下僕が目の前にいる。
────私が取るべき行動は、もう決まっていた。
「殺す……ッ!!」
私はただその殺意を胸に、全身に走る殺意のままに化物達に襲いかかった。
私は全速力で化物達との距離を一瞬にして詰め、そのグングニルをもって切り掛る。
だが、化物の皮膚は思ったより固く、グングニルは化物を貫くことは無かったが、深く深くその内部に突き刺さっていた。それを利用し今度は鈍器のように化物が突き刺さったグングニルを振り回し化物を吹き飛ばす。そして自分の周りの化物達を一掃した後、突き刺さった化物を放り投げた。
────この場の化物は一掃した。だが、私の部屋まで来ているとなると、到達するまでの過程で紅魔館全体に化物がいる可能性がある。
このままでは皆が危ない。早く、倒さないと皆が死んでしまう。
「早く────」
皆を守らねばと、私がこの場所を離れようとした瞬間───
「ギィィィイイイイイイッ!!」
先程放り投げた化物が、満身創痍になりながらも背後から襲いかかってきた。
「えっ───ッ!?」
予想外の出来事に動きを止めてしまう。しかしそれがロスとなり、化物との距離はゼロになり、私を切り裂かんと牙を振るう───
「(だめ、間に合わない───!)」
───────
「(………?)」
痛みが、来ない?
先程まで化物は私に向かって刃を向けて喰らい尽くそうとしていた。それが数秒前。なのに、傷つけられる痛みが………肉を食いちぎられる痛みががいつまで経っても来ない。
疑問に思った私はゆっくり瞳を開ける。
そこには───────
お姉さまと瓜二つの、蒼い瞳を輝かせる少女がいた。
◆❖◇◇❖◆
【空】
私の中の『彼女』の叫びが、無意識に私の体を動かして紅い館の内部に侵入した化物達を、私の体なのに、いつもとは段違いの圧倒的な体術と刀捌きで蹴散らしていった。
その意志に身を任せていると、私は『見覚えのある女の子』を見つけ、その子に襲おうとした化物を切り裂く。化物が死んだことに安堵したと同時に、少女の顔を見た。
薄い青色の、癖の強いの髪の毛。
ピンクの桃色のナイトキャップにスカート。そして背後に吸血鬼の象徴であるコウモリの翼。
あの知らないはずの映像が蘇る。
いつも、主人公となる少女の隣にいた女の子とそっくりで、少女と話している時はいつも明るい笑顔をしていた妹。
「…レミ、リア」
知らないはずの映像に出てくる、名前も知らないはずの女の子の名前がふと、口に出された。
「………え?」
レミリアという吸血鬼の少女はそのまま固まってしまう。それはそうか、見ず知らずの赤の他人に名前を呼ばれたら普通はそうなる。それを言えば、なぜレミリアという単語が出てきたのかも気になるのだが。
「…あぁ、敵ではないので安心してください……八雲の、使いです」
「!…そう」
一応、敵ではないと言っておく。それを聞くと、レミリアは驚きつつ顔を伏せた。
「ここに来るまでの間に何体も倒しましたが……まだ、残党はいるようですね」
「…そのようね」
まだ数十体はいるのか、周りからはあの気色悪い気配が残っている。この様子では、残党は内部のあちらこちらに散らばっているようだ。
その残党を狩り尽くすため、足を前に出した瞬間───
「面白い。実に面白いぞ小娘」
───私の頭に、聞いたことのある声が響いた。
………もうここまで来たら分かるよね?