半端者が創造神となる日   作:リヴィ(Live)

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筆が乗ったので。


三十九話 帰還

 ◆❖◇◇❖◆

 

【リリス】

 

 空一面に広がる、高度の魔力を帯びた紅い霧。

 それは妖怪達を狂気に晒すと言われる赤い月と同レベルの力を持つであろうほどの、魔性に帯びた霧。まるで紅い月をそのまま霧状にしたような、そんなものだった。

 これ程の魔力濃度ならば、人間は愚か、力の弱い妖怪にも悪影響を及ぼしかねないだろう。人間がこの魔力に当たれば吐き気などを催すだろうし、力の弱い妖怪なら力に溺れ暴走する。

 だが、それほどの魔力を秘めた霧を幻想郷全域に広めさせることの出来る魔法使いは、そう居るものでは無い。魅魔ならば朝飯前とか抜かして余裕でしそうなものだが、それは彼女が例外なだけであり、普通の魔法使いはこれ程の大魔術を発動するには数日かかるし、維持も簡単なものでは無い。

 

 それほどの力を持つ大魔法使いがいるということならば、気を引き締めなければならない。博麗の巫女ならばまだしも、友人である魔法使いは格上を見るとすぐ勝負を仕掛けたくなる好戦的な性格をしている。無茶はするなと念を押してはあるものの、心配は心配だ。

 

 今代の博麗の巫女、博麗 霊夢は、類を見ない天才だ。武術、霊術共に最高峰のスペックを持ち、あの紫でさえ、あの天才ぶりには驚いていたほどだ。

 あれが妖怪ならば、間違いなく紫を凌駕する最強の妖怪となっていたことだろう。彼女が人間であることに安堵すべきである。

 

 そして次に、その友人である魔法使い、霧雨 魔理沙。彼女は霊夢とは違い平凡な普通の女の子であったが、魔法使いになりたいと魅魔の元で修行し、持ち前の根性による努力で、霊夢と肩を並べるほど強くなった。

 

 スペルカードルールの試験的な実用での異変でも、二人は特に何も問題なく異変を解決して見せた。恐らくいつも通り、二人ならば問題なく異変解決に望めるだろう。

 

 

「……見えた」

 

 

 そんなことを思いながら空を飛んでいると、森を抜けて、白い霧に包まれた大きい湖が目に映る。そしてその奥には、うっすらであるが、紅い霧の発生源であろう紅魔館が見える。

 

 ───ここまで来た。

 

 もう引き返すことは出来ない。ここまで来たのだから、やることをしなければならない。

 数百年前の罪を、ここで償う。その決意をもう一度確かめ、館に向かって飛ぼうと思った刹那───

 

 

 

「あーもう!!悔しい!!!」

「落ち着こうよチルノちゃん…」

「大ちゃんは悔しくないの!?あんな人間達に負けて!」

 

 

 

 と、幼い子供たちの声が耳に届いた。

 その声が聞こえた方向に向いてみれば、何やら悔しそうな表情を浮かべる水色の髪の毛の女の子と、緑の髪の毛の女の子が何やら言い合っていた。

 大方、あの人間達というのだから、霊夢と魔理沙のペアに負けたのだろう。あの二人は弾幕勝負に置いて頂点に立つレベルの実力者なので、負けるのは無理もないと思うが……

 

 

「ぐぅ~……あ!そこのおまえ!」

「ち、チルノちゃん!指さしちゃダメだよ…!」

 

 

 どうやら、目をつけられてしまったらしい。

 

 

「……私?」

「そうだ!お前だ!」

 

 

 出来れば違って欲しかったが、その願いはあえなく砕け散り、八つ当たりのモルモットとして選ばれてしまったらしい。

 

 

「あたいはさいきょーの妖精、チルノ!お前なんかより何倍も強いんだ!」

「あわわ……」

 

 

 妖精、という言葉に私は耳を傾けた。

 よく見れば、吸血鬼のそれとは及ばないものの、小さな翼がある。チルノと呼ばれる妖精は氷のような針が私の翼のように三対六翼で浮かんでおり、緑の子は透き通った羽をしている。

 

 

「(…この冷気……もしかしてこの子が?)」

 

 

 そして次に耳を傾けたのは、最強の妖精という単語。

 

 以前にもこの『霧の湖』には何度か来たことがあるが、こんなに空気が冷たく感じる(・・・・・・・・・)のは初めてだ。今は夏の真っ最中だし、そんなことが起こることはまずない。あったとしても、それは妖怪などの人工的なものによるだろう。

 そして、明らかにその冷気の発生源はこの子。チルノの周りには、視認出来る程の氷の小さな粒が霧のように舞っているのがわかる。

 つまり、この子の最強の妖精という言葉には嘘偽りはないということなのだろう。妖精にしては力を持つ部類に入るのは間違いない。

 

 だからだろうか……私の胸の中で、何かに火がついた気がした。

 

 

「あたいと勝負しろ!」

 

 

 そして予想通り、八つ当たりが目的なのであろう勝負をチルノは仕掛けてくる。

 ならこちらもちょうどいい。ウォーミングアップとして、少し肩慣らしをしておくのも悪くは無い。

 それに───

 

 

「…わかった。相手になってあげるよ」

 

 

 私の心についた燻りを、どうにかしなければ。

 

 私の言葉にチルノはニヤリと不適の笑みを浮かべ、カードを高く掲げて宣言した───

 

 

「氷符『アイシクルフォール』!!」

 

 

 そして現れたの氷の針のような弾幕。一件、避けるのに苦労しそうな弾幕だが───

 

 

「…嘘でしょこれ」

 

 

 ────その弾幕は、あまりにもスキがありすぎた。

 

 スペルカードルールというのは、どれだけ難易度を上げ、その難易度を保ちつつどれだけ美しくできるかによる。つまり弾幕の難易度や美しさの両立を意識しなければ、弾幕ごっことは呼べない。

 

 だがこの弾幕は………あまりにもスキがありすぎる。

 

 何より───自分の目の前が抜け穴(・・・・・・・・・・)とは、これ以上にスキがある弾幕があるだろうか。

 

 私は最小限の動きでその弾幕すれすれでチルノに近づき、スペルカードを取り出して宣言する────

 

 

「魔剣『憤怒の鉄槌(グラム・モルガン)』」

 

 

 そのカードが私の相棒たるグラムへと変化し、魔力を帯びて超巨大な魔剣と化す。

 遠距離ならばまだしも、この距離は完全に私の距離だ。普通のグラムならば避けられるかもしれないが、このグラムは魔力を帯びて巨大化した魔力の渦そのもの。いくら弾幕ごっこ用に改造したものとはいえ、この零距離で食らえば────

 

 

「ああぁぁ負けたあぁぁぁぁぁ───…………」

 

 

 もちろん避けられるはずもなし。チルノはそれを何故か防ぐこともせずにそのままくらって落下していった。

 

 最強の妖精だというものだから、つい熱が上がってしまったのだが……ウォーミングアップの肩慣らしにもならないことに、少し落胆してしまった。

 

 

「あ、えっと…その…」

「!」

 

 

 そういえば、とチルノと一緒にいた女の子の存在を思い出す。

 戸惑っていることから、状況を飲み込めないのか……それは定かではないものの、チルノの身を案じているのは分かる。

 

 

「あぁ、手加減はしてあるから、特に大した怪我はしてないと思うよ」

「あ、良かった…」

 

 

 私がそう言うと、緑の髪の毛の女の子は安心したような顔をしていた。まぁ、あのスペルカードも見た目だけ見れば塵も残さないレベルのものだから仕方ないといえば仕方ないのだが。実際本気で放てばそうなってしまうし。

 

 

「謝罪は異変が終わってからする。今は急いでるから、ごめんね」

「はい……その、すいません」

「大丈夫だよ、それじゃ」

 

 

 流石にやりすぎたなと思いつつ、私は霧の湖を離れて紅魔館へと向かう。

 

 近づくにつれ、霧の魔力がだんだんと濃くなっていく感覚が身体に染み渡ってくる。吸血鬼だからか、その魔力は嫌という程馴染んでいた。

 そして、館の門の前へと辿り着く。ゆっくりと降り立つと、そこには少しボロボロになっていた美鈴が佇んでいた。

 

 

「…空さん。いえ、今はリリスお嬢様でしょうか」

「……その呼び方、久しぶりだから擽ったいな」

 

 

 リリス、という呼び方をされたのは本当に久しぶりだ。それどころか、お嬢様付きなんて本当に帰ってきたのだと実感する。

 その家族を出迎えるような温かみを含む笑顔をする美鈴の姿から察するに、既に霊夢や魔理沙は内部に居るようだ。

 

 

「負けた……って言わなくてもわかるか」

「えぇ……紅魔館の門番を任されておきながら、お恥ずかしい限りです」

 

 

 と、苦笑いをする美鈴。無理もないだろう。基本的にあの二人はいろんな意味で勝負には全力だから、ボロボロにされるのは仕方の無いこと。むしろ、この程度で済んだ美鈴の実力を褒めるべきだろう。

 それに、美鈴はこの手の勝負は苦手だろう。彼女は武術を極めた武人だ。霊術や妖術にはからっきしだろうし、霊術等にはてんでダメな霊奈よりは出来るだろうが、霊夢や魔理沙と比べてしまえば、基礎しかできない程度の術しか持たないのだから。

 

 

「私は彼女達の勝負に負けました。貴方と戦うほどの余力もありませんし、折角ですから一緒に行きます?」

「そうだね……じゃ、よろしく美鈴」

「はい、お任せ下さい」

 

 

 さて。

 もうすぐ、もうすぐ会える。

 

 待っててね、レミリア。フラン。

 

 

 今、助けるから。

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