少しスランプ気味になってしまい、一ヵ月近く投稿が遅れてしまったこと、この場で謝罪します。申し訳ありません。
他作品も含め投稿が遅くなる場合がありますが、決して未完で終わらせる気は無いのでご安心ください。今投稿している作品だけでも完結させるつもりですので。
こんな作者を暖かい目で見守ってくだされば幸いです。それでは、どうぞ。
◆❖◇◇❖◆
【リリス】
「……ただいま、お母様」
私の目に移るのは、痩せこけてベットに横たわる弱々しい母の姿だった。けれど何年経とうが変わらない焼き付いた母の顔は、全く鈍ることなく私を見つめている。
───あぁ、ここで私はようやく自覚する。
ようやく、母の元へ帰ってこれたのだと。生まれ育った我が家に帰ってこれたのだと、今度こそ自覚した。
一歩、一歩と横たわる母へと歩み寄る。
私が譲り受けたアルビノのような白い肌に白い髪。そしてルビーの宝石のような真っ赤な瞳。痩せて弱々しくなっても尚、私には母の姿が数年前から何も変わっていないように見えた。
「あぁ……あ…あ……!」
ポツ、ポツと母の顔から雫がベットにこぼれ落ちる。段々と母の顔は歪んでいき、手で顔を覆う。
────無理もない。死んだと思っていた娘に会えたなら、誰だってこうなるだろう。
「良かった…ほんとうに、よかった……!」
「…うん」
私は罪深いことをした。サリエルを倒すために魔界へ行くなどという命を投げ捨てることと同意義なことをした。残された人達の苦しみを知らず、そんな馬鹿な真似をした。
事実、私は一度死んで『ソラ』として生まれ変わり、『ソラ』という犠牲があって今の私がある。
───だがら、今ここに戻ってきた。
残してしまった人達の苦しみを
母、サリーはもちろん、愛しい妹達───レミリアと、フランも。
「でも、ごめんなさい。今は感傷に浸っている場合じゃないの」
「…え?」
「…今、レミリアとフランは
薄々、気がついていたのだ。
私が不在になった間に起きた出来事……サリエルの部下達による襲撃。父の失踪。そしてこの赤い霧。
この異変も、日を覆うのなら、普通に霧を出せばいい。日が大地に降り注ぐことがないほど分厚い雲のような霧を貼ればいいのだ。
けれど、この霧の濃度は正直
何故そんなに魔力を集める?集めたところでどこに使い道があるというのだろうか。
首謀者であるレミリアがそんな無駄なことをするとは思えない。そんな集めたところで無意味な魔力を無駄に集めるなんて絶対にしないだろう。
それをするということは、それほどの事態が起きているということ。つまり、その膨大すぎる魔力の使い道があるという事だ。それほどの力を使う事態など、決して隠密に済む問題ではない。
その答えが示すのは、ただ一つ。レミリアとフランの身に、何かが起きたと言うこと。
「…貴方がいなくなった後、レミリアとフランは私に内緒で悪魔を降ろしたわ。今と同じ手段でね」
「…悪魔?」
「えぇ、とても強大な悪魔を。けれどそれは二人にはとてつもなく大きすぎる力だった」
───悪魔。
それは魔界を中心に動く妖怪。日本の妖怪とは少し種別が異なる魔界の鬼。その大半は人には余るほどの力を有し、その力を持って魔界の門を守っているとされている。
私もかつて上位悪魔であるエリスと戦ったことがある。エリスが規格外というのもあったが、彼女と同格の悪魔が魔界にはいるということの事実は、今でも寒気を覚えることだ。
「結果、悪魔はフランに取り憑いた。力の制御を失ったフランをレミリアは幽閉する形で封印した」
───大きすぎる力は身を滅ぼす。
まさにこの言葉が当てはまるだろう。力が欲しいがために力を欲し、溺れ、制御を失い自滅する。話を聞いた限りでは自滅まで行かなかったようで、私は内心安心していた。
ふと、私はひとつの想像が頭に過った。
「……まさか、この異変は…」
「…えぇ、レミリアはもう一度悪魔を自分に降ろして、フランを救おうとしているのよ」
───なるほど。
力の制御を失い、暴走する力はとても手に負えたものでは無い。それがもし上位悪魔なら尚更だ。街ひとつを更地にしかねない強大な力が制御を失い暴走すれば、誰も手をつけられなくなり、たちまち国ひとつさえ潰れてしまう。
だからこそ、目には目を、歯には歯を。
暴走する強大な力には、同じ強大な力をぶつけ相殺しあえばいい。
そのためには、その強大な悪魔を下ろすだけの穴を開ける膨大な魔力と、自らの身に押し留める強靭な精神と魔力が必要だ。
土地の隠された魔力は神と同格だ。その土地の魔力を吸い上げ、召喚に全てつぎ込めば、上位悪魔どころか最上位──神の領域まで達した悪魔さえも呼びかねない。
もし顕現してしまえば、私でさえどうなるか……
一刻も早く阻止をせねばならない。そうなれば、幻想郷どころか外の世界まで顕現の影響が出る可能性もある。
「…わかった。お母様はここで休んでて」
「…駄目」
私がその部屋を後にしようと背を向けた時、母の手が私の腕を掴んだ。それに気がついた私は母に振り向くと、母は今にも泣きそうな顔で私を見つめていた。
───きっと、怖いのだろう。
こうしてもう一度背中を見送ってしまえば、また私が消えるのではないかと。今度こそ帰ってこないのではないかと。
「…大丈夫だよ。確かに前は失敗したけど、今回は違う」
そう、言わばこれはただの姉妹喧嘩。道を違えた妹を正すのは、姉たる私の務め。故にこれは殺し合いではなく、ただの喧嘩だ。
───決して、どちらかが居ない結末なんてありえない。
「妹に喝を入れてくるだけだから、安心して」
「…本当に?」
「うん。約束するよ」
───それじゃ、ちょっと大喧嘩してくるね。
私は母にそう言って、妹の元へ向かった。