【リリス】
あの日───私が鍛錬を始めた日から数年経つ。
あの地道な基礎運動から魔力の使い方まで、何から何まで行き当たりばったりだったけど、レミリアが手伝ってくれたおかげで、鍛錬はこの上なく順調だ。
私の魔力は能力のせいか、お父様の二、三倍以上の魔力を持っている。だから全開放するには苦労した。いつまで経ってもそこが見えない私の魔力に私が怖くなったことがあったけど、今はもう息ひとつでポンッて出来る。
レミリアが持ってきてくれた魔導書もあらかた習得した。
基礎の身体強化魔法から、召喚魔法、精霊魔法とか、そういうのはあらかた覚えた。
それ私にはグラム───《
─────だが、私は鍛錬をして強くなったわけであって、実戦を経験している訳では無い。
要は臨機応変の対応が戦場で出来るかどうか。今の私は見えない相手に武器を振るって強くなっているも同然だ。
「…今度レミリアに実戦頼もうかな」
正直不安で仕方ない。多分このまま見知らぬ相手と戦ったら負ける自信がある。
「お姉様!!」
そう噂をしていれば、レミリアか慌てふためいて私の部屋に入ってきた。
何かあったんだろうか?
「どうしたの?」
「───れた」
「え?」
「妹が生まれたの!!!」
「───ぇえええええええッ!?」
─────ふぉい!?聞いてないよ!?
私は妊娠したことすら知らないため、こんな反応になってしま
ったが─頭の中も大パニックである。
レミリアの時よりは幾分か落ち着いているが、それでも衝撃が大きい。
「ぇ、ちょ、ホント!?」
「うん!フランドールって言うの!」
─────ようこそ我が家へフランドールちゃん!!
内心そうやって生まれた喜びをぶちまけていると、レミリアは私の手を引いて───。
「行こ!お姉様もフランに会いに!」
「う、うん……!」
────そういや出禁だったなぁ。
これに気づくのは、数時間後のことだった。
◆❖◇◇❖◆
【レミリア】
先日、妹のフランドール・スカーレットが生まれた。
とっても可愛くて、綺麗な七色の羽を持つ女の子。
嬉しい。私に妹が出来たという喜びでいっぱいだった。
────お姉様も、私と会った時そうだったのだろうか。
そこで、そうだと私は思いつき、お姉様の部屋へと足を運ぶ。
────お姉様に報告しなきゃ!
「お姉様!!」
勢いよくドアを開けると、そこには魔導書を読んでいたお姉様がいた。きょとんとした顔で、私を見ている。
「どうしたの?」
「──れた」
「え?」
「妹が生まれたの!!!」
「───ぇえええええええッ!?」
妹が生まれた。
それを聞いた瞬間、お姉様は飛び上がり、大きな声を上げた。
「ぇ、ちょ、ホント!?」
「うん!フランドールって言うの!」
お姉様はキラキラと目を輝かせている。かく言う私も、そうなっているのだろうが。
私はお姉様の手を取り、お姉様を部屋から連れ出した。
「行こ!お姉様もフランに会いに!」
「う、うん……!」
廊下を走って、お母様の部屋へと入る。
「レミリア、少し落ち着い……て………?」
「……どうしたの?お母様」
お母様は私を注意しようとしたみたいだが、どうも言葉がつっかえっかえになり、固まってしまった。
「……リリスなの?」
「……うん、正真正銘のリリス・スカーレットだよ、お母様」
「よかった……元気そうでなによりだわ!」
そういえば、お姉様は幽閉されているからお母様とお父様は生まれた時にしか会ってないんだっけ?
あれ?幽閉されているのに連れ出しちゃってもよかったのかなぁ…。
──ま、いっか!
「お姉様!お母様が抱えてる子が、フランだよ」
私はお姉様の手を引いて、お母様の元へと向かう。
お姉様はお母様の腕の中で眠るフランをじっと見つめた。
「──七色の、翼」
「そうなのよ。とても綺麗じゃないかしら?」
「…そうだね」
………?
お姉様は顔を見た時は凄い嬉しそうだったのに、急に翼を見た瞬間、お姉様は暗い顔になってしまった。
「ごめん、ちょっとトイレに行ってきていいかな?」
「え?うん」
お姉様はその暗い顔のまま、部屋を出て行ってしまった。
◆❖◇◇❖◆
【リリス】
私のフランの第一印象は、とても可愛い子。
レミリアに似て、ものすごく可愛い。私も誇らしい限り。
でも、私はフランの翼を見た瞬間に、思ってしまった。
────どうしてそんなに綺麗な翼を持っているの?
私には吸血鬼を象徴する翼がない半端者。フランの綺麗な七色の宝石の翼を見た瞬間、私は姉にあるまじき気持ちを持ってしまった。
────どうして。
────なんで私はないの?
私も欲しかった。その綺麗な七色のような翼が。
別に、フランの翼が気持ち悪いという訳では無い。むしろ凄く綺麗だし、この子にぴったりのとっても美しい翼だ。
だからこそ、なんだと思う。
─────綺麗すぎて、私は見た瞬間に劣等感を感じてしまったのだ。
なんであの子はあるのに私はないの?
私の中に蠢くこの感情、人はこれを『嫉妬』と言うのだろう。
フランに劣等感を持ってしまったこと。
フランに嫉妬してしまったこと。
あの子は悪くないのに、こんな、憎悪にも似た気持ちを抱く私はとても姉とは呼べまい。
「…私は…最低だ……っ」
私は、生まれたことの嬉しさと劣等感による憎悪にも似た嫉妬がごちゃごちゃになり、堪えきれなくなった雫を垂らした。