もしも彼が生きてたら   作:憧れのまつたんぼ

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灯籠

 

 

 

 

(呼吸が乱れる。手脚の感覚が1秒ごとに消えていくようだ。

やはり不完全なこの身体では無理があったか…!)

 

 

 

 

圧倒的な熱に晒され、山脈の如く積み上がっていた超硬質チョコレートは跡形もなく溶け失せている。

 

その中心には、別人のように変貌したボロスが膝をついていた。

元来メタオリック・バーストは負荷が大きく、万全の状態ですら滅多に使わない切り札。

現状を把握するためのテストの意味もあったとはいえ、コレートの様な格下(・・)に使う技ではない。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ…ハァッ…こんな時に…!」

 

 

 

 

 

息を切らしながら背後に迫る気配に苛立つ。

索敵能力は減衰したものの、一度闘った"強者"の気配を見逃すはずなどなかった。

 

A市、ヒーロー協会のお膝元であるこの地でレベル竜同士が暴れたのだ。

ーー当然、彼女はやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりね、なんだか白くなったかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けたたましいサイレンが鳴った時点で、彼女は既に動き出していた。

到着が遅れたのは思わぬ邪魔が入った為だ。

カボチャ頭の怪人に遭遇し、ついでに殺しておこうかと手を出してみれば、事のほか相性の悪い能力を有していた。

 

 

 

(一応動けない様に四肢はもいでおいたけど…、あいつらちゃんと後処理してなかったらタダじゃおかないわよ…)

 

 

 

 

彼女、戦慄のタツマキにはサイレンから少し遅れて緊急招集がかかっている。

しかし凶暴な怪人をそのまま放置するわけにもいかず、近隣の家屋ごと捻じ切る(・・・・・・・・・・・)というかなり手荒な方法で戦いを終えた。

 

このひと月ほど、彼女はかつてない程に強い怪人とばかり戦っている。とはいえ全て無傷で処理出来ているが、ストレスは溜まるばかりだ。

 

何故ならまだ、大本命の怪人を斃せていないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メテオリック・バーストを解くと、左肩から胸部にかけて亀裂が走る。

膨大なエネルギーの放出に耐えきれなかったのだろう。失った左腕の断面から劣化が始まったのだ。

 

これはボロスにとって深刻な問題だった。この形態を維持出来ないとなれば、全宇宙の覇者など夢のまた夢

ーーーあの男(・・・)に挑むことすらままならない。

 

 

ふと顔を上げると、そこには先日戦った念動力の娘が1人。

元社長コレートの姿は見えない。

 

 

ゆっくりと息を整えると、ボロスは一つの提案を持ちかける。

 

 

 

 

 

「……小娘、今日のところは仕切直さないか。

 

貴様も万全でない俺を殺したところで面白くもないだろう。」

 

 

 

 

 

 

タツマキは彼の吐いた台詞に目を見開く。

 

施設(・・)を出て20年間、彼女は負けたことなど一度としてなかった。

凡ゆる怪人、犯罪者、テロ組織を無傷で捻り潰してきた彼女を、初めて下した敵。

 

ボロスの吐いた台詞は、まるで命乞いの様だったのだ。

 

 

 

 

 

「…………すこし混乱してるわ。あんた本当にあの時の怪人かしら。

見た目が同じだけで、実は全く別人じゃないの……。

 

………ッ!そんな弱い言葉を使うな…あんたに負けた私が惨めになる…!」

 

 

 

徐々に語気が強くなる。自分でもよく分からない感情だった。

あるいは"裏切り"と表現できるかもしれない。

タツマキは、とうにこの男を認めていた。だからこそーーーー

 

 

 

「…いや、もう良いわ。

つまらない奴に拘わっても私の人生がつまらなくなるだけ。

 

ーーー死になさ…」

 

 

 

 

彼女の言葉を遮るように、強烈な光と轟音が周囲に響き渡る。

足元を見やると、地の底が見えないほど、深く深く穿たれていた。

 

直ぐにボロスへ向き直す。

思えば先ほどから様子がおかしかった。自己顕示欲の塊の様だった男が、彼女を見るなり降参ともとれる言葉を投げかけてきた。

並の怪人ならばいざ知らず、ボロスは一度タツマキを下している。

 

 

 

「三度目は無いぞ。…この勝負は持ち越しだ。

 

今の俺には、お前に手加減できるほどの余裕はない…!」

 

 

 

 

先刻までの様子と違い、明らかに余裕を失っている。

ボロスは依然として弱々しく膝をついているが、そこに一切の隙は無かった。

 

彼が纏う絶対的強者のオーラに一瞬たじろぐが、タツマキは一歩も引くことなく言い放つ。

 

 

 

 

「みくびられたものね…!手加減なんか要らないわよ

全力で掛かってきなさい!!!」

 

 

 

 

 

 

ボロスは噴き出す汗を拭うと、真っ直ぐタツマキを見据える。

痛々しくひび割れた胸の裂目に、絶望の光が灯った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

町中の建物や地面が、真っ黒に焼け焦げている。

爆心地に近づくにつれ黒煙が濃くたちこめる。中心には深いクレーター、そして芋虫のようにされてしまったカボチャ頭の怪人が転がっていた。

 

彼の周囲に、数名のヒーローがにじり寄る。

A市にて災害レベル"竜"同士の争いを収める為、緊急招集のかかっているタツマキに代わり怪人の後始末を請け負ったA級ヒーロー達だ。

既に瀕死とは言えS級2位のスーパーヒーローを苦戦させるほどの怪人、生死の判断も慎重さが求められる。

 

 

 

 

 

「…大丈夫そうじゃないか?どう見ても死んでるだろアレ」

 

 

 

緊張した空気の中、最初に口を開いたのはA級11位のスティンガーだ。

愛槍タケノコを片手に、文字通り一番槍として怪人に近づいていく。

 

 

 

「…念のためとどめは刺しとくか」

 

 

 

スティンガーは槍の先端を地へ向け、怪人の胸をひと突きすると、足早に離れる。

この手の怪人は死ぬ時に爆発したり溜め込んだ熱を放出する事がある為だ。

しかし終ぞ怪人はぴくりとも動かずーーー。

 

彼の死亡を確認したスティンガーは仲間に合図を送り、ほっと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

死骸は協会の処理班に引き継ぎ、ヒーローたちが持ち場の市へ帰ろうとしたころ。

 

 

 

 

 

半年はやいハロウィーンの訪れを告げる火が、ジャックオランタンの眼窩に灯った。

 

 

 

 

 

 

 

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