もしも彼が生きてたら   作:憧れのまつたんぼ

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まだ会わない


散歩

ゾンビマンが最初に考えたのは、先日討伐されたハガネマッスルとの関係性だった。

突発性の高いことの多い怪人において無関係の生物を襲撃することは珍しくないが、ゾンビマンは少ない情報の中から敵の居場所を特定するため躍起になっているのだ。ーーそれは言わば、敵に早く辿りつかんとする焦りの現れだった。

 

 

 

「タツマキ、お前はこれからどうするんだ?ツーマンセルで行動するよう言われたが…まだ敵の影も見えない状況だ。暫くは俺といても退屈だろう。」

 

「んー…そうねぇ…でもアイツらにこの任務が終わるまで他の仕事はするなって言われたし…いいわ、もう少しあんたに付き合ってあげる。」

 

 

 

普段は例え協会の幹部だろうと指図は受けないたちのタツマキだが、今回ばかりは協力的な姿勢を見せている。ヒーロー最強と謳われるタツマキですら、今回の相手は強敵と見定めているのだ。

 

S級ヒーローすら戦慄させる件の怪人は、そんな事はいざ知らず。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「…全く、この星の生物は随分と知能に難があるな。そこらを飛び交う羽虫の方がまだマシだ。」

 

 

 

生半な怪人では絶望を隠せないようなヒーローに追われていることも知らないこの男は、悠々と異星観光に勤しんでいた。

しかし悩みの種が1つ、観光を楽しもうにも邪魔者が余りに多いのだ。ほかの星では挑む者すらなかったというのに、怪人も歩けば棒にあたる、命知らずの馬鹿が次々に攻撃してくる。

始めこそ闘争者としての血が滾ったが、これでは最早作業に等しい。

この星の日常風景も見たいというのに、これでは一般人はまず街に残っていないだろう。

 

(それに先程から香る敵の匂い…いかんな俺も、敵の存在に気づいていながら場所の特定も出来んとは情けない。やはりやつとの戦いの影響か…)

 

実際には例え天地がひっくり返るような偶然で、この男に不意打ちを仕掛けられる者がいたとしても…かすり傷1つ負わせられないのだろうが。それでも彼は自身の索敵能力の大幅な弱体化に不安があった。

なぜなら、彼を下したのは、この星の住人なのだから。

 

 

 

「とにかく一度街を離れるか。山奥ならば多少は静かに過ごせるだろうからな。」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

おちょくられている、ゾンビマンはそう感じた。

進むべき道を示すように粉々になった怪人の死骸たち、それはまるで誘っているかのような光景だった。

 

(これでは見つけてくださいと言っているようなものだ…!何故こんなにも不用心な真似を…?おちょくってるのか、それとも……俺たちに全く関心がないのか。)

 

 

 

「タツマキ、俺は一度この死体の道に従って進んでみる。…奴と出くわした場合、恐らくお前の力が必要だ。…頼めるか?」

 

「誰にものを言ってるのよ。頼まれなくとも気に食わない奴だったら叩きのめしてあげる。」

 

 

ゾンビマンにとっても、協会にとってもこれ程頼れる味方が他に居るだろうか。

いや居ない。断言できてしまう。この女に倒せない敵は、即ち人間には倒せない魔王であると。

慎重なゾンビマンでさえそう思わされる実力は、知らず知らずのうちにヒーロー協会に"慢心"を齎しているのだが、それは直ぐに身をもって痛感することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

男は隠れない。

ーーー何故なら、隠れるメリットが無いから

 

男は本気で闘わない。

ーーー何故なら、本気を出す必要が無いから

 

男は油断しない。

ーーー何故なら、自分より"強い敵"を知っているから

 

 

故にこそだ。

 

意図して起こった訳ではない。

 

災害とは常に意識とは無関係の因果で引き起こされる。

 

全て、無意識に撒き散らされた偶然の数々。

 

自己防衛という名の圧倒的蹂躙。

 

それはまさに

 

竜ならぬ"神"の所業である。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾンビマンは戦闘に秀でた特技を持たない。それは彼自身も自覚していることであり、他のS級に対し劣等感はあるものの、嫉妬する程でもなく現状を受け入れている。

その理由には自分の役割が決まっている事が大きいだろう。そして、その役割は現時点ではゾンビマン以外に務まらない。

 

諜報活動

 

それが彼の得意分野であり、そこらの警察より遥かに優秀であることはこれまでの実績が語っている。

そんな彼にとって今回の調査対象「一つ目の細胞」は非常に楽な仕事だった。何せ相手には隠れる意思が無かった。

しかしそれ故に警戒した。レベル鬼の怪人を倒し歩けばS級が動く可能性が高まる。それがわかっていて何故堂々と痕跡を残すのか

 

その理由は直ぐに解った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様が"一つ目の細胞"だな?」

 

 

灰色のローブに身を包む大柄な人物…いや怪人が振り向く。

 

 

「はて…?"魔神" "雷の化身"などと呼ばれることはあったが、その呼び名は初めてだな。

間違いでなければ俺の名はボロス。全宇宙の覇者…だった者だ。」

 

 

「貴様の正体などこの際どうでもいい。…タツマキ、悪いが仕事だ。」

 

 

瞬間、空気が揺らめく。

揺らめきはやがて木々を巻き込む暴風へと姿を変え、肌を切るような"タツマキ"が現れた。

その様子を表情1つ変えずに見る人物が2人、突風の元凶「戦慄のタツマキ」と相対する怪人ボロスだ。2人は無表情で睨み合い、そして戦いが、始まる。

 

 

「…面倒な仕事は一瞬で片付ける主義なの。文句は…ないわねッ!!」

 

 

全ての風が線を描くように収束され、ボロスへと向けられる。

しかし彼は尚、表情を変えず…否、笑みをこぼした。

 

 

「文句などあろうはずが無い。…タツマキと言ったか、見事な"曲芸"だな。」

 

 

「なっ…!!」

 

 

暴風は防がれなかった。生半な怪人であれば塵一つ残らない残忍な攻撃は確かにボロスの全身を襲い、そしてーーー…

打ち砕かれた。

 

 

(無傷…だと…!?今の攻撃は明らかに殺意があった!タツマキは、間違いなく奴を殺す気で放った攻撃だ…!それを無傷で…)

 

 

 

「成程…強力だな。物体を用いず空気圧のみでこの威力か。」

 

 

 

「ッ…!!」

 

 

 

間髪入れず追撃するが、手応えはない。タツマキは超能力の応用で相手の生体反応を見られるため、ダメージの度合いを正確に感知できる。

しかし今回限りは自分の能力を疑いさえしていた。何故なら相対する"一つ目の細胞"の生体反応は、まるで揺籠に揺られているかのように凪いでいるのだ。

 

 

 

(これ以上風や石をぶつけても埒があかないわね…!)

 

「ゾンビマン!!今すぐ離脱しなさい!!死にたくないならね!!」

 

 

 

上空に輝く星の一つが、ゆっくりと輝きを増していく。

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