もしも彼が生きてたら   作:憧れのまつたんぼ

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剣豪

 

八百万の神とは、この世全ての物には神が宿っているという教えであり、根底にあるのは現代の消費社会とは真逆の意識づけだという。

仮に本当に神が宿っているならば、

 

例えばそれが消耗品であれば、己の役目と割り切り、寛大な心で許してくださるのかもしれない。

 

例えばそれが長年に渡り大切にされていた物であれば、突然の不遇な扱いに、遺憾を示すこともあるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は怒っていた。意識が目覚めた瞬間から怒気が込み上げてきたため、具体的に何に怒っているのかすら判然としないが、腕の関節を黒く染める錆を見るたび、「絶対に許さない」という感情が身体を暴走させる。

 

彼の身体には全身に広がる錆のほかに、大きな傷が一つあった。

胸元に開いた10cmほどの穴だ。

丁寧に施された装飾を引き裂くように開いたその穴は、数百年前まで彼が実際に使われていた事の証明でもある。

 

 

 

彼が初めて使われたのは600年前のこと。

当時の主人は、歴史に名を残すことはなかったが、周辺他国から恐れられる偉大な騎士だった。

晩年まで祖国のため数々の戦場を駆け、生涯に斃した敵兵の数は実に1万。最期は1000人からなる敵軍を相手に1人、殿を務め壮絶な戦死を遂げたという。

 

それから何人かの主人の元を渡り、甲冑として本来の使い方をされることはなかったが、とても大切にされてきた。

 

100年、彼にとってはそれ程長い時間ではない。人が100年も生きられない以上致し方ないことだと自分に言い聞かせ、雨風を耐え忍んだ。

 

 

しかし、限界は訪れた。

 

 

何事もなければあと1000年はここで静かに眠っていただろう。

引金を引いたのは、近くの村に住む4人の童子。彼らは錆びれた西洋甲冑にちいさな石をぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強烈な鉄の臭いを感じ、来てみたが…」

 

 

 

ボロスは落ち着いた様子で廃墟となった洋館の中を見廻した。

ドス黒く乾いた夥しい血痕。悲痛の表情のまま転がる童子の頭が、ここは地獄かと錯覚させる。

 

「人間の幼体…絶命した後にも攻撃しているな。よほど恨みを買ったか

、或いは生死の判別も付かん獣畜生か」

 

実際には何れも正解である。実害の大きさはどうであれ、きっかけを作ったのは彼らだ。

そして童子たちを虐殺した甲冑には"怒り"しかない、その他の感情も知性も全く働いていないだろう。

 

 

 

 

 

ボロスはこの惨状の元凶に興味を抱いた。

意思疎通が図れるのなら配下として従わせようと目論み、早速捜索に乗り出た、が。

洋館から外に出た瞬間、鈍い痛みが首筋に奔る。

 

 

 

「ッ…!やはり索敵能力の回復は急務か…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

推定災害レベル " 竜 "

 

       ーーーー「錆びた剣」

 

 

 

 

 

 

黒く傷んだ関節部を無理矢理動かしている影響で、一挙手一投足に不快な金属音を伴い、

彼には「口」が無いため声には出さないが、全身に明らかな"怒気"をまとっている。

 

 

 

(凄まじいエネルギーだな。昨日の小娘には及ばんが、"点"の破壊力では此奴に軍配が上がるか。…一瞬で修復するとはいえ、この程度の攻撃で外殻を斬られたのでは先が思いやられるな。)

 

 

 

"錆びた剣"が大きく踏み込むと、軸足が地面に減り込み、同時に全身の関節が軋む。

納刀したまま腰を捻転させた。この姿勢から繰り出される攻撃を、

日本では「居合」と呼ぶ。

 

超音速で振り抜かれた斬撃は、周囲の山を二つ程更地にしながらボロスを3km先まで吹き飛ばす。

追撃すべく駆け出すが、脚をかけられ大きく転倒。ボロスは1秒かからず元の場所へ戻っていた。

倒れた姿勢のまま再び「居合」を構えるが、今回は未然に塞がれる。

 

 

(エネルギー弾で攻撃すれば殺すことになるな…意思疎通が出来るとは思えんが、戦闘力はグロリバースにも匹敵する。是非、欲しい。)

 

 

 

"錆びた剣"は「居合」をブラフに空いた左手に渾身の力を込め、ボロスの顔面目掛けて打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこれは…!」

 

ゾンビマンは目の前に広がる光景に絶句した。

見渡す限りの荒野、ここには雄大な山々が連なっていた筈だが見る影もない。

ボロスを見失ってからまだ2時間程しか経っていないと言うのにこの有様だ。恐らく何者かと闘ったのだろう。

 

「クソッ!やはり俺では追いきれないか…。」

 

 

ボロスの監視を再開してから1週間経過しているが、既に5回は見失っている。奴が何かに興味を示すと音速に近い速度で移動を始めるため、ゾンビマンの身体能力ではとても追いつかないのだ。

 

「…タツマキとは連絡が付かない。他のS級に応援を要請するか…?」

 

 

世紀末のような光景の中、再び歩き出す。

ーーーその足元に、大量の遺体が埋まっているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなものか」

 

 

 

鉄屑のように転がる怪人を前に、ボロスは腰掛ける。

"錆びた剣"が放った渾身の一撃はいとも容易く相殺され、最後はボロスの平手打ちによって決着が付いた。

 

(殺さぬために仕方がない事と言え…、此れでは我が子を叱りつける母親のようだな)

 

 

 

 

「名も知れん怪人よ、これでお前は俺の配下だ。」

 

 

 

 

 

 




オリ怪人ばっかだとつまらんから、ヒーロー出したい
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