「残されたエネルギーの残滓は3つ…。移動しているのは2つか。」
アマゾネコはそれぞれの"臭い"を記憶して追うこととした。
彼女の嗅覚は犬のおよそ300倍、雨に流されて殆ど消えてしまった痕跡すら逃す事はない。
始めに彼女が向かったのはA市、即ちヒーロー協会の総本山である。
◆◆◆
フードを深く被った大柄な男は、繁華街を抜けてとある占いの館に来ていた。
「この手の占い師は、何処の星にも居るものなのだな…」
極力顔が見えないように俯き、館のドアを開ける。
そこには暗い紫色のネオンにランタンを模したライト、占いと聞けば誰もが想像する空間が広がっていた。
入口から3mほど先に、黒いローブを纏った壮年の女性が座っている。
「…いらっしゃい。こっちへおいで」
嗄れた声に誘われ、ボロスは彼女に対面する椅子に腰掛ける。
「俺はいま配下を集めている。
かつて共に
俺を楽しませる極上の配下を得るために、何処へ向かい何を成せば良い。」
占い師は少し間をあけて、小さく頷くと
「…お安い御用さ。どれ、お前の"気"を見させてもらうよ」
そう言うと占い師はボロスの胸の近くに手をやり、何やら唱え始める。
暫くすると占い師は目を見開き、ふつふつと額に汗を滲ませた。
彼女の顔から血の気が引いていく様子を見て、ボロスは深く被っていたフードからゆっくりと顔を出す。
「お…お前っ…人間じゃあないのか…!!」
ボロスは無意識に口角を緩めた。
この女は"気"とやらを見ただけで彼が人間でない事を見抜いた。つまり占い師としての能力は本物だと言える。
「いかにも、見ての通り人間では無い。であればどうする…?
ヒーローを呼ぶか、それとも自力で対処してみるか?」
占い師は震えながらも真っ直ぐボロスと向き合い、そして小さく顔を伏せ言葉を返す。
「…いや、お前からは殺意を感じない。
こんな老婆を殺しても旨味はないと、お前自身がわかっておるのだろう。」
「であれば、どうする」
占い師は再びボロスの胸に、震える手を近づけると
尋常でない量の汗を滴らせながらも彼の「運命」を見定める。
壁掛時計の秒針の音だけが響くなか、ついに占い師は口を開いた。
「この先……お前が求めずとも仲間は集まるだろう…。しかしそれは長くは続かん。
お前が再び悪の帝王として動き出した時、お前を脅かす男が現れるだろう」
嘘はない。老人の様子からボロスはそう判断した。
この状況で嘘をつく程、肝の据わった人物ではないと。
「俺を脅かす男…か。成程、それが聞けただけでも収穫だ」
ボロスはフードを深く被り直し、踵を返す。
自身が滅ぼした村で拾った金をテーブルに置き、不敵な笑みを浮かべたまま、館を後にした。
「……………行ったか」
占い師は深い息を吐き出すと、ぽつりとつぶやいた。
「全然足りないね…」
◆◆◆
けたたましい警報音が協会中に響き渡る。
職員たちが慌ただしく現況確認に走るなか、落ち着き払っている男が3人いた。
いずれもS級に数えられるスーパーヒーロー達だ。
「アトミック侍さんは重症で動けない。…ゾンビマンさん、2人で出ましょう。」
ボロスを見失い本部に戻っていたゾンビマンは、童帝に言われるまでもなく、すでに鉈と銃を握りしめていた。
「悪いな…俺が動ければ直ぐ片付けたんだが…」
「みくびらないで下さいよアトミック侍さん。
…警報音が鳴ってから1分以上経ったが、ようやく一階のセキュリティを突破した程度です。災害レベルは虎〜鬼くらいかな…」
そのまま2人が治療室から出た一瞬のこと
勢いよくドアが閉まると、内側からロックされてしまった
完全に油断していた2人は瞬時にドアを破壊しようと試みるも、堅牢を極めるメタルナイト製のセキュリティシステムは生半な攻撃では歯が立たない
「なんなんだよッ!!報告ではまだ一階にいるはずだろ!!」
「童帝落ち着け。騒いでも仕方がない。お前は今すぐ管制室に行ってセキュリティを解除してこい。
ドアが開き次第、俺が突入する。」
外の2人を尻目に、侵入者は悠々とベッドに近寄る。
アトミック侍は小さく舌打ちした。
いつもなら入浴時すら手放さない愛刀が手元に無いのだ。恐らくは童帝が他の荷物と一緒にしているのだろう。
万全の状態ならば丸腰でもレベル鬼と渡り合える超人だが、重症を負い満足に走れもしない身体では分が悪過ぎる。
焦りと痛みから呼吸を乱すアトミック侍に、侵入者は言葉をかける。
「…まさか戦うまでもなく死に体とは…。まぁいい、お前には聞きたいことがある。」
「あぁ?怪人と話すことなんざねぇよ」
落ち着き払った侵入者の態度に、ますます気が張り詰める。
昨日戦った甲冑の怪人ほどではないが、相当な実力者であることは間違いない。
「お前に話す気があるかは、関係ない。
一つだけだ。……村を滅ぼしたのはお前か」
侵入者ーーー女王アマゾネコは、怒気を露わに質問を投げかけた。