東方あやかし日記   作:ジュール

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1話目

 突然だけれど俺の事について紹介させてくれ。

 

 俺の名前は日向日葵。ここ幻想郷に住む木っ端妖怪の末席を汚す何の変哲もない小妖怪だ。

 

 さて、そんな俺だが、実は生まれる前の記憶を持って生まれてきた、いわゆる転生者と呼ばれる存在なのだ。前の俺は普通の人間で、この幻想郷の外―――つまり現代で生きていたオタクと呼ばれる人種だった。高校生で、ゲームや漫画が好きなだけのただの一般ピーポーだった。名前は覚えてない。

 

 そんな俺は確か黒塗りの車にはねられて死んだのだ。それで目を覚ましたら妖怪だったと。まあ、俺のこれまでのいきさつとしてはこれくらいの説明で事足りるのではないだろうか。っていうか、それ以上の説明など俺にはできない。

 

 問題は俺が元人間であるという事と、この身体が妖怪であるという事だけだ。

 

 ふと気が付いた時、俺はそこにいた。森の緑のカーテンから漏れ出た木洩れ日の中に、まるでいつの間にかそこにいたかのようにふっと誕生していたのだ。俺のこの身体の最初の記憶といえば、目を開けたら周囲を動物たちに囲まれていて全員でお昼寝に洒落こんでいた、というものである。

 

 まあその時の俺はびっくりしてすぐに逃げ出した。何せ熊や狐なんかがいたのだ。常識を持った人間ならだれでも逃げ出すはずだ。

 

 そして少し走って気が付いた。この身体が前の俺のモノとは根本から違ったものになっている、という事を。というか、色々と変わりすぎて息子が消えていたような気がしたりすることもあるがまあそれは今は置いておく。

 

 で、俺は普段からウェブ小説やアニメをよく嗜んでいて、そういう妄想だって何度もした事があるオタクである。なのですぐに思い至った。

 

 これって…転生、なのでは?という事に。

 

 そんな衝撃な事実に思い至った俺は逆に冷静になって、この身体が妖怪のモノであるという事に気が付くのにそう時間はかからなかった。何せ自分の身体の事だ。すぐに感覚で理解した。

 

 強いて言うならば、人間という生き物は常日頃から『自分はどこから、どんな意味で生まれ、そしてどんな役割があって生きているのか』を意識しながら生きている訳ではない。ただぼおっと飯食ってたら人生の半分まで生きていた、なんて人も少なくないと思う。

 

 しかしこの身体は違った。この身体は妖怪として生まれたのである、という事がしっかり分かるのだ。ちなみにどこからどうやって生まれたのか、という事に関しては何故か分からなかったりして、それが凄い違和感を覚えさせるのだが…まあ、考えても分からないという事はこの半年で分かったのでこれに関しては置いておく。

 

 まあ、そんな感じで人と妖怪とは根本から違いがある訳だ。だから俺もすぐに理解できたという話だ。

 

 何の妖怪なのか分からないのは割と致命的だと思うが、まあ普通にこれまで生きてこれているので多分問題はない。普通の食事でも腹膨れるし。

 

 という訳で妖怪として生まれなおしてしまった俺だが。最初こそは混乱したものの、このままでは飢え死ぬな、と気持ちを切り替えて行動。近くの人の良い妖怪(?)などに相談して色々と情報を集めた結果、ここが『幻想郷』という、忘れ去られたあらゆるものが集まる楽園であることを知ったり、釣りしたり、動物を狩って解体して食べる方法を教えてもらったりして、ついこの間やっと念願の我が家を手に入れた所なのだ。

 

 我が家と言っても人里という人間が住む場所から少し離れた、廃屋なのだが。しかし直せれば十分に住めるはずだ。ケーネとか言ったかの紹介してくれた人間のお姉さんに礼を言ってその家に住む許可をもらった。

 

 ここで説明しておくと、妖怪は自分の役割や生まれに関連した能力を使える事がある。

 

 俺の場合は『停滞』だ。あらゆるものの動きを停滞させることができる。後もう一つ、『生命を生み出す・付与する』という事もできる。妖怪なのに命を生み出すとはこれいかに。

 

 という訳で俺はNARUTOの木遁をまねて角材風の木を生み出し、廃屋の特にひどい部分を補強、廃屋の木に生命を付与し息を吹き返らせてその後停滞させ寿命を延ばしたり、さらに全力で掃除したり何したりしてやっと住めそうな場所を確保した、という事だ。

 

 これで野宿生活ともおさらばだ。虫が苦手な俺としては非常に嬉しい事この上ない事だった。何せ俺は一つ処に留まると何故か命を呼び込む性質の様で、自分の城が持てたらそれもどうにかできるはずだ。

 

 妖怪の力、つまり妖力には、妖術と呼ばれる術がある。それで結界を作るのだ。これもケーネさんが教えてくれた。人間なのに妖力の扱い方も知ってる頭のいい美人なお姉さんと非の打ちどころのないケーネさんには感謝しかない。

 

 これで俺の生活はやっと始まったといっても過言ではなかった。これから俺の幻想郷ライフが始まるのだ。日本の都会に住んでいた俺にしてみれば、この昔然としたスローライフは嫌いじゃない。

 

 俺はようやく登り始めたばかりだからよ…この果てしない幻想郷での生活をよ…。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 私、上白沢慧音にとって、その少女はあまりにもちぐはぐな存在だった。

 

 彼女と出会った日の事を今でもたまに思い出す。

 

 人里とは人が生きる為の生存領域。そして妖怪は人を食べる事を好む者が多い。半人半妖である私ならいざ知らず、ただの人間が妖怪に手を出されて自分の身を守るなど荷が勝ちすぎている。だからこそ私はこの人里で、日々子ども達に教鞭をとりながら、時にこうして妖怪たちから人間を守るために見回りをしているのだ。

 

 さて、とはいえ私の身は一つだけ。妖怪を討伐する巫女もいれど、それでも人がふとした拍子にいなくなる事など珍しくもない。

 

 その日。時間は夕方程だった。私の寺小屋の生徒の一人が姿をくらませたという報が私の元にもたらされた。なんでも外に遊びに行ったきり、その子だけ戻ってこないのだと。

 

 無論その話を聞いた瞬間、私は子どもを探す為に外に出ようとする大人たちを何とかなだめ、私一人で外に飛び出した。木乃伊取りが木乃伊になる、なんて馬鹿な話にはしたくなかった。

 

 話に聞いた方向へ走りだし、目を皿のようにして探す事数十分は経っただろうか。私は、彼女―――日向日葵と出会った。

 

 それは童女だった。見た目からして10程だろうか。長い黒髪に幼くも端正に整った顔立ち。そして妖怪特有の独特な造りの和服。まだ空はギリギリ明るいとはいえ、その少女の姿は森の中を包もうとする闇の中をよく映えた。否、少女の周りだけ、日の光が柔らかく包んでいた、というべきか。

 

 そしてその少女は動物たちに埋もれるように眠っていた。熊、狐、サル、兎。種族など関係なく、あらゆる動物たちが少女とともに眠りこけていた。そしてそのうちの一人に私が探していた少女の姿もあった。

 

「…」

 

 私はそっとその領域へと足を踏み入れる。すると、動物たちはすぐに目を開けて私の事を見つけると脱兎のごとく逃げ出してしまう。残されたのは少女が二人。黒髪の少女と、私の生徒だった。

 

「ん…」

 

 その少女は自分の背もたれになっていたクマが逃げ出したことで、目を覚ました。その少女の膝枕をしていた人の少女も、同じく目をこすって目を開けた。

 

「…お前は誰だ?」

 

 こう尋ねた私を、誰が責められよう。

 

 彼女から醸し出されるのは紛れもなく妖怪のソレであった。妖怪はその本質以外はおおざっぱなことが多く、特に見た目に関してはそう易々と信用していいものではなかった。

 

 童女の姿で人を食らう存在、というのも、見たことはあるのだから。

 

「俺…?…日葵。日向日葵。ただの妖怪…ふぁー…」

「ふぁー…あれぇ…けーね先生…?おはよー…」

「おはよう、ではない!琴音、すぐにこっちに来い!」

「うぇ?!は、はい!」

 

 少女をその日葵とやらから離れさせようとする。

 

「あー…?何してんの?だれ?」

「それは私のセリフだ。人里の子をさらって何をしようとしていた、妖怪」

「は?えっと…何の話?」

「しらばっくれるつもりか…」

 

 私はとりあえず痛めつけてやろうと手に霊力をためる。半人半妖である私は霊力と妖力の両方を扱う事が出来るが、妖怪には霊力の方がダメージが出やすいのだ。

 

 しかし、そんな私の動きを止めたのは、あろうことか人の少女だった。

 

「せ、先生…えっと、実は私が潜り込んじゃって…その、とても気持ちよさそうだったから…」

「…なんだと…?じゃあ、琴音、お前は自分から妖怪の元へと向かったという事か?」

「う、…うん…」

「…そうか」

 

 人里に戻ったら、説教する。私はそう心に誓った。

 

「日向日葵、といったか。ここで何をしていたんだ?」

「寝てたよ。眠かったし…って、ああ。畜生、こんなに集まって来やがって…鬱陶しいったらありゃしねえ」

「…何が集まってきているって?」

「へ?あー…生命?俺そういうの集める性質なんだよ」

「命を集めるだと?」

 

 そんな妖怪、聞いたことも見た事もない。しかし日葵とやらは心底鬱陶しそうに自分の身体を払っている。確かによく見ると虫やらツタやらが彼女の身体に絡みついているのが見えた。

 

「ああ、話がやっと見えてきたよ。多分、その子も集まってきちゃったんだろう。ごめんな、まさかこんなところに人の子が来るとは思わなくてさ」

「ほう…では故意にした事ではなかったと?」

「はは、実は自分でも制御できなくて…本当にごめんね?」

 

 謝る彼女は嘘をついているようには見えなかった。

 

 妖怪は多くが残酷だが、しかし一部にはいい者がいる事も私は知っている。私は目の前の妖怪が心底悪い奴には思えなかったのだ。

 

「分かった…こちらこそ疑ってすまなかった。子供が一人いなくなったと、人里では軽い騒ぎでな。少し気が立っていたんだ」

「人里から?へえ、お姉さん人間なのに強いんだね」

「何、私はこれでも…」

 

 と、言葉を続けようとしたが、少女が私の裾をくいくいと引っ張った。見てみると涙目になっていた。

 

「け、けーね先生…あの、お母さんとお父さん…お、怒ってた…?」

「当たり前だ。帰ったらすぐにでも叱ってもらえ。そしてその後は私も叱る。宿題も増やすからな。覚悟しておくように」

「う、うぇえ…」

 

 その一幕に日葵はくすりと笑った。

 

「もう夜になりそうだし、とっとと帰った方がいいね。次からは陽だまりを見つけても足を踏み入れないようにしてくれ。何か知らないけど、私の周囲は眠気を誘うようだから」

「ああ、言い聞かせておくよ。この子が見つけたのが君でよかった。他の妖怪だったらこうはいかなかっただろうからな」

「うう…」

 

 睨むと涙目になる少女。どうやら反省はしているようだ。

 

 その様子に日葵はまた笑って、手を振って森の中へと消えていった。

 

 

 

 

 それが日葵との出会いだった。その時の私は日葵の事を、妖怪らしくない妖怪だな、くらいにしか思っていなかった。妖怪なのに人の身を案じて見せたり、会話でころころと笑って見せたり。人間味の強い妖怪もいるのだな、程度のものだった。

 

 しかし、その認識は割とすぐに覆された。

 

 人里に、日葵がいたのだ。とある茶屋で、何故か近所のご老人たちと一緒に団子を食べていたのだ。

 

「あっ、ケーネ先生、だったっけ?おっすー」

「おっすー、ではない!ちょっとこっちに来い!」

 

 たまたま休日だった私はすぐに日葵を確保して、話を聞いた。どうやら人里には前から興味があって、私にこの間の謝罪を改めてする…という名目で遊びに来たのだという。

 

 幻想郷にスペルカードルールが普及したと同時に、人里に降りてくる妖怪も多くなった。妖精もたまに遊びに来たりする。

 

 とはいえ人にとって人外が脅威であることに変わりはなく、特に新顔は割と不信感を持たれがちだ。

 

 だというのに日葵は人に全く警戒されていない。特にご老人や小さな子ども達にモテにモテまくる。そういえば彼女自身命を呼び込む性質を持つといっていたが、それが原因なのだろうか、と推測してみたが、答えは本人にも分からないようだ。

 

「はあ…人に危害を加えるつもりはない、と。わかった。今はその言葉を信じよう」

「おう。ありがとう」

 

 団子を食べ終えた日葵は、そうそう、と口を開いた。

 

「そういえば、妖術とか教えてくれる人に心当たりない?その辺の情報収集も目的なんだよね」

「妖術だと?一体何に使うんだ」

「この前言ったけど、俺何故か命を集めちゃうからさ。それをどうにかしたい。…特に虫だけは本当どうにかしたいんだ…」

「そ、そうか…」

 

 何やら真に迫る様子だ。それだけ虫が嫌なのだろう。確かに私もムカデやゴのつく黒光りする蠢く混沌などは姿を思い出すだけで嫌な気分になるが。

 

「結界とか作れたらいいんだけどね」

「結界か…ふむ、よければ私が教えようか?」

「え?マジ?」

「結界を編む程度なら、私でも教えられよう。この間の礼だ」

 

 同時に、彼女の監視も目的だという事は黙っておこう。

 

「礼って…わざとじゃないのはともかく、俺に誘われたんだから、俺が原因なんじゃねえの?」

「あの子は最近よく外に遊びに出ていたからな。いい機会だったからしこたま叱っておいた。もう不用心に遅くまで外に出るという事はしまい」

「ふーん…それじゃあ言葉に甘えますかね…でも、妖力もないのにどうやって教えるんだよ」

「ん?そういえばこの間教えれなかったからな。とりあえず自己紹介でもしておくか。私は上白沢慧音。この人里で寺小屋の教師をしている、まあいわゆる―――」

「けーねせんせー!」

「わっ…康太、人と話している時はとびかかってくるなと教えたろう!」

「けーね先生が油断してるのがわりーんだよ!へへっ…って、何その子?」

「何、ちょっとした客人だ。早く行きなさい」

「あ、う、うん…」

 

 その後、時間が空いた時に日葵が私の元へ妖術を習いに来る、という日々が続いた。そうして妖術を教える代わりに話を聞いていくと、日葵の目的がだんだんと分かってきた。

 

 日葵の目的は二つ。一つは妖術の習得。もう一つは住居の入手だった。

 

 確かに住居があれば、そこに結界を張って虫や動物が入ってこれないようにすることは可能だろう。

 

 『一国一城は男の夢だからな』とは日葵の弁だ。『女ではないのか?』と返すと、本人は酷く微妙な顔をして『俺は男だ』と教えてくれた。驚愕したのは確かだが、しかしそれ以上に、女物の和服を着ながらそれを言う日葵の度胸に感嘆を覚えた事の方が大きかった。

 

「仕方ねえじゃん。念じればこれが出てくるんだからよ!」

 

 どうやらこの話は地雷のようだ、と察した私は、また別の機会が来るまで取っておくことにしたのだった。酒を飲ませればもっと詳しく教えてくれるだろうか。

 

 とまあ、一か月ほど経った頃だったろうか。私は既に日葵の事を悪い妖怪とは思わなくなっていた。

 

 逆に子どもと遊んでくれるし、意外と学を修めているらしく、簡単な計算問題に関して授業を助けてくれることもあった。人里の住人との仲も良好だ。特にお年寄りと子ども達の中では彼女は外の言葉でいう『アイドル』的な存在となっていた。

 

 そんな時だった。私はふと、人里から数分ほど歩くと着く場所に今は打ち捨てられた廃屋があることを思い出した。日葵ならまあいいだろう、と思い立った私は、日葵にこの事を伝えることにした。

 

 早速日葵と共にそこに見学をしに行くと、ボロボロになっている所もあるが、基礎的な部分は無事で少し改築すれば住めるようになるだろう、という感じだった。

 

 日葵も乗り気だったらしく、人里に相談をしに行ったところ反対意見も少なく許可が下り、その廃屋は名実ともに日葵のものとなったのだった。

 

 廃屋は日葵の力、『命を生み出す能力』と『停滞させる能力』によって見事生まれ変わり、あっという間に住める程に綺麗になった。

 

 こうして日葵は、人里の近くに住む妖怪として、ちょっとした有名人となったのだった。

 

 

 

 ここまで来て、私は日葵は人間味が強い妖怪、とは思えなくなってしまった。日葵は中身は完全な人間だ。価値観も発想も、そして何より判断基準さえも。それは半人半妖である私でさえ気付く程だった。

 

 何故妖怪が人間の心を持っているのか。それは分からない。だが、人の心を持つあやかし、という日葵に、私の半人半妖の部分とが共感できるというのは事実だった。

 

 結界を習得した日葵はこれから来る頻度は減るという事だが…まあ、次来たときは酒にでも誘ってみようか。そう思える程度には、私は既に日葵という妖怪を受け入れていた。

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