アルゼナルのお祭り《フェスタ》一年に一度だけ休みが許された日。この日だけは多くの人が羽を伸ばす。それはJも例外ではない。
「でもこの服装は?」
「伝統よ、制服と戦闘服じゃ息が詰まるからって」
「恥ずかしくないの?」
「いやっほぅ!水着パラダイスぅ!」
アンジュにフェスタの説明をしていたサリア。すると目の前に大興奮しているJが躍り狂いながら駆けていた。
「出た…」
「Jは毎年あんな感じよ。女好きの彼からしたら今日なんてただのご褒美だからね」
「でしょうね…」
大興奮しているJを背景にフェスタが始まりを告げるのだった。
「やっほぉおぉぉぉ!溶ける水着うぇぇぇい!!!ゲホッ!ゲホッ!」
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「って事で帰ってきたぞ」
「よくも毎年あれだけやっておいて顔を出せるな」
「まぁ、いいじゃないか。Jがいないと始まらないしねぇ」
100万キャッシュ争奪大運動会の最初の種目である溶ける水着対決を見届けたJはジルたちのいるテントに顔を出していた。
顔を付き合わせているのはジル、J、マギーの三人。この三人はいつもフェスタの時間にギャンブルに明け暮れる。しかも動いている金が大きいのでそれを見る見物人と誰が勝つかで賭けをする奴等で大にぎわいになるイベントと化していた。
「最初は?」
「無難にポーカーでいいだろう?」
「ジルの得意なやつだな」
そうして裏イベント《アルゼナル3強カード》が始まるのだった。
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「ダウト」
「くそっ!」
「分かりやすいなぁ、ジル?」
ポーカーから始まりブラックジャック、ジン・ラミー、セブンブリッジにダウトと様々なゲームで駆け金が揺れ動く。
ついでにジルはポーカーがマギーはセブンブリッジ、Jはダウトか得意ゲームだ。
現在
ジル -370万
マギー +100万
J +270万
とジルがかなり負け越していた。
「去年は私の一人勝ちだったのに!」
「去年の儲けた分の倍ぶんどってやるからなぁ!」
スコッチを飲みながら笑うJを見ながらジルもビールを一気に飲み干しカードを手にする。
「さぁ、これからぁ!」
「よっしゃこいやぁ!」
「た、大変よぉ!」
ゲームも佳境に入ろうとした時。監察官のエマが悲鳴を上げながらやって来た。その会話の内容は迎賓館にいるはずのミスティが何者かに拉致されたとの事だった。
「まさか…」
「ここから出るなら輸送機だな」
「行くぞ!」
慌てて輸送機に向かうジルたち。それをJはなにも知らんと言わんばかりに一緒に着いていくのだった。
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「ミスティ様がでしょうねノーマにぃ…」
「J、追いかけられるか?」
「無理だな。酒を飲みすぎた」
あまりのショックに気絶するエマを横目に飛び立った輸送機を眺めるしかないジルたち。予想外の出来事に彼女は苛立ちを覚えるもすぐに行動する。
「ジャスミン、あの坊やに連絡を」
「はいよ」
「J、ヒルダも使える駒だ。お前に任せていいか?」
「…分かったよ。流石にアンジュたちを殺させるわけにはいかないからな」
心底仕方がなさそうにするJはジャスミンに視線を移すと両手でヘリの真似をする。
「ジャスミン、ストーク使うからな」
「分かったよ。用意しておく」
こうして脱走犯、回収部隊が組織されたのだった。
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「Jの情報だとここに…あった!」
「まさか…ガソリン稼働のバイク!」
マナが主流の世界では絶滅したはずのガソリン燃料の乗り物。それが綺麗な新品にレストアされた状態で倉庫に納められていた。
「これもJが用意したの?」
「あぁ、元々は私だけの予定だったけど。こりゃサイドカー付きかよ。アイツ、お前が脱走するのも想定済みだったりしてな」
「笑えないのが怖いわね」
だがもうこれで彼とは会わないだろう。そう考えると本の少しだけ気持ちが楽になる。
「じゃあ、行くか」
「えぇ、乗せてもらうわ」
こうしてアンジュ、モモカ、ヒルダの三人は無事にアルゼナル脱走に成功したのだった。
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「あぁ…久しぶりに外に出たなぁ!」
アルゼナルから遥か遠く。ヒルダの捜索に向かったJは森のなかにストークを着地させ一息ついていた。別に慌てることはない、すでにヒルダには発信器が着いている回収することはいつでも可能だ。
「ご帰還、お待ちしておりました。隊長」
「ご苦労だったな」
Jの目の前には三人の女性がならび彼に向けて敬礼を行っていた。彼女たちはJが組織した部隊。《死神部隊》の隊員たちであった。
「アルゼナルではジルの監視の目が厳しいが外に出れば楽なものだ」
死神部隊の存在はジルですら把握しておらず完全にJの独断によって設立。Jの為に諜報、調査、戦闘など多岐にわたる活動を行っている。その全員がJの狂気に当てられ心酔している者たちばかりまさにJの私兵である。
個別の紹介はまた別で行うとしよう。
「K、報告を」
「はい、アンジュはミスルギで戦闘を行うものの拘束。公開処刑が行われるようです」
「そりゃ大変だ」
「ですが既にミスルギにはタスクが潜入。心配には及びません」
「なるほど」
Kの報告を聞き終えるとめんどくさそうに腰を上げる。
「ならヒルダ拾ってアンジュをタスクって奴から回収するか」
「随分とアンジュにご執心ですね、隊長」
「そうだなぁ、アンジュは面白いからなぁ。お前もそう思わないかD?」
少し不服そうなDはその態度を隠さずに話を続ける。
「あんなのが候補者だと?」
「素養はありそうだ。だが私の剣の錆びにならなければいいが」
その話を楽しそうに聞くNもまた腰に吊るした剣を手入れしながら笑う。
「秩序を破壊する力《異分子》全てを焼き尽くす者がアンジュならばそれは楽しいことになりそうだ…ンフッフッフッフ」
Jの狂気に満足そうに笑う三人。この三人もまた狂っていることは間違いない。
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「どうだった、久しぶりの家は?」
「最悪だよ…糞みたいな気分だ」
「そいつは結構。高い金払ったかいがあったじゃないか」
家から追い出され警察に捕まったヒルダ。多くの警官からボコボコにされているといつの間にかその警官たちは血の海に沈んでいた。
だがそれも驚きはしない。ある意味、ヒルダの予想通りJが迎えに来たからだ。
「アンタのそう言う所が嫌いだよ」
「ボコボコなのに口がら減らないなぁ。それに秘密主義は俺の美徳だ」
「私も減らず口は美徳なんでね」
「なら仕方ないな!」
笑いながらアップルパイを頬張るJ。それがどこのアップルパイなのか聞く気も失せてくる。
「お前のママは典型的な人間だったがアップルパイだけは旨いな」
「そりゃそうさ。食べ物に罪なんてない」
「確かに…さてとアンジュを回収して帰るかねアルゼナルに」
「結局、私の居場所はアルゼナルにしかなかったって事か…」
「そうだな…」
焦心するヒルダをJは静かにストークに乗せて飛び立つのだった。
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「君がタスクか…」
「そ、そうだ」
無人島で合流を果たしたJとタスクはお互いに助けたヒルダとアンジュを連れて互いに顔を会わせる。だがJに関してはフルフェイスの戦闘服に身を包んでいるために分かるのは声だけだ。
「アンジュの事は助かった。本来の任務に戻ってくれここからは私が連れていく」
「頼みます」
「じゃあね、タスク」
「あぁ、またね」
お互いに別れを告げて離れる二人。それを見届けたJは黙ってストークのハッチを開ける。
「早く乗れ。ジルはカンカンだぞ」
「でしょうね」
「随分といい格好をしているな」
「この変態」
「ははっ!」
和気相合とするアンジュとJを気になるようなタスクであったが自分の乗ってきたバイクでその場を後にする。
「とっとと乗れよ。俺だって暇じゃないんだ」
「うん」
こうしてアンジュたちは無事にアルゼナルに帰投。見事に反省房にぶちこまれたのだった。