ヒルダとアンジュの回収を終えて数日。アルゼナルはフェスタ以降のドラゴン襲撃もなく平和な時間が流れていた。
「なんか拍子抜けね」
「まぁ、アンジュが来てから色々あったからなぁ。普通はこんなもんよ」
墓地はJとサリアが並んで立ち。墓参りを済ませていた。途中で幼少部の子供たちとであったのも心を癒してくれる。
「墓地なんてただの飾り。ここには死体なんて入ってないものね」
「そういうもんさ。墓があるだけましさ」
「でも死体がないとなんとなくどこかで生きてたりしてるかなって思うのよね」
「…そうだな」
Jはタバコを吹かしながらサリアの話を聞く。アンジュが来てからこういう時間も少なくなっていた気がする。
「だがアンジュを出さない訳にはいかんだろ。ヴィルキスとの適正値をあげなきゃならんからな」
「分かってるわ。ヴィルキスはアンジュにしか扱えない」
「随分と聞き分けが良いな」
サリアの言葉に思わず驚くJ。今までヴィルキスに乗ることにこだわっていた彼女がこのような発言をするとは。
「貴方が言ったんでしょ?」
「そうだな、それならいいんだが」
「ヴィルキスがいくら性能が上でもそれは私の技量で捩じ伏せる。貴方のようにね」
「はっ!やってみろよ!」
久しぶりに生意気な啖呵を切った。これは面白いと久しぶりにJは本気で笑ったのだった。
ーー
「久しぶりだからっていきなりシミュレーションかよ…」
「良いじゃないの。絶対貴方を倒すんだから!」
「無理だと思いますがね…」
久しぶりにサリアとのシミュレーションでの訓練に出るJ。シミュレーションとは言えしっかりと服に着替えなくてはならないのでJはそれがめんどくさかったりする。
「いいじゃない…貴方と戦っていると色んな煩わしさから解放されるのよ」
「へぇ…」
サリアの言葉に思わず感心するJ。そんな中、二人の戦いが幕を上げた。
「へぇ、腕を上げたなサリア」
「軽口を!」
「本気だよ、隊長職。存外バカに出来たものではないな」
サリアのアーキバスとJのレイヴンが激しくぶつかる。レイヴンの弱点である装甲の薄さを突いてつばぜり合いの時に蹴りや殴りを加えて追撃してくる。
(見た感じはいつもと変わらないが…頭と体を切り離せるようになったか…)
「良い傾向だ!」
「ふん!」
サリアは色々と考え込む癖のせいで分からなくなっているが。戦闘センスはJの目から見てアルゼナルで一番だ。
(なにより殺すことに躊躇いがない…)
それにずっとJと接しているうちにどんどん強くなっている。それを証明できないのが勿体ないが。
前回のシミュレーション。未熟なアンジュをヴィルキスの圧倒的な性能でカバーしているだけに過ぎない。対して圧倒的に性能の劣るレイヴンの性能をJの戦闘技術でカバーする。こうして端から見れば対等の戦いとなった。
「私はアンジュに負けない!」
「………」
それを見たサリアが感じたアンジュに対する劣等感そして敗北感。そこから生まれる焦燥は杞憂なのだ、アンジュが強いわけではない。まぁ選ばれし者という才能も立派な実力だ。サリアもJもそれに恵まれなかっただけのこと。
(そのせいでジルはアンジュに手を焼いている訳だがな)
「だがまだ甘い!」
「ぐっ!」
アーキバスを吹き飛ばしたレイヴンはそのままコックピットを串刺しにする。
「あぁ、負けた!」
「悪くなかったが邪念が入ったな…」
「………」
分かっていると言わんばかりの顔だがJは言葉を続ける。
「お前だって分かっている筈だ。お前にとって、戦いとはどういう存在なのか」
「存在…」
「立場もプライドも命も戦場ではゴミ屑以下のちんけな存在だ。お前は俺と戦って分かっている筈だ。戦場はお前が解放される瞬間だと」
プライドも怒りも嫉妬も戦場には必要ない。
「人間とのしがらみも苦悩も何一つない。殺すか殺されるかそれだけのこと。自分の磨きあげてきた力のみが支配する戦場。最高じゃないか」
「……」
「なぁ、サリア。他者を蹂躙するのは楽しいだろ?ドラゴンを殺したら嬉しいだろぉ?」
「確かに…」
だんだんとサリアの目が据わってきた。そんな顔を見てJは楽しそうする。
「ここの連中は俺を戦闘狂と呼ぶが何が違う?俺とあいつら、お前は?何も変わらない、戦いへの衝動を人間の欲で塗り固めて見えなくしているだけだ」
色欲、保護欲、支配欲。みんなが無意識で戦いの快楽を恐れ逃れようとしてこのようなアルゼナルが出来た。この欲にまみれたアルゼナルが。
「もっとシンプルに生きた方が楽だぞサリア…」
「それなら貴方も殺せるかしら?」
「分からん…それはお前次第だな」
そんな話をしている時。アルゼナル中にジルの声が響き渡った。
「司令官のジルだ、第一種戦闘体勢を発令する。シンギュラーが基地直上に出現、大量のドラゴンが接近中だ」
「大変なことになってんな」
「パラメイル第二、第三中隊全機出撃。総員白兵戦準備」
ジルの声と共にアルゼナル中が騒がしくなる。するとジルからJに個別通信が入る。
「J、お前も迎撃戦闘だ。今回は数が多い、お前の力が居る」
「分かった。レイヴンで出る」
「J…」
サリアの声に振り替えるJ。
「サリア。一度、お前は全てを捨てて戦ってみろ。そしたらお前は俺すら匹敵する化け物になるかもな」
「……」
そう言って立ち去るJをサリアは静かに見送るのだった。
ーーーー
「カタパルトを開けろ!」
「レイヴンを最優先で出す!」
黒いレイヴンがカタパルトに固定されるとJが飛び乗り起動チェックを瞬時に終わらせる。
「やっつけてくれ!」
「J、レイヴン出るぞ!」
Jの掛け声と共に射出されるレイヴン。それを整備班や他の人たちが見送る。こんな状況をひっくり返してくれるのは彼しか居ないとそう思っていたからだ。
「雑魚がわらわらと」
射出と同時に駆逐形態に移行したレイヴンは2射で4匹のドラゴンを叩き落とす。
「す、すげぇ…」
「これがJの戦いなのね…」
急いでカタパルトに来たロザリーやエルシャたちは空中でドラゴンを蹂躙するレイヴンを見て圧倒される。Jの射程距離に入った瞬間。ドラゴンたちは絶命しドラゴンの死体が雨のように降り注ぐ。
「Jの奴。一人で100以上は殺してるぞ」
ー星に飛ばんelragnaー
「大型や新型が居ない…ここを潰す気がないのか?」
数は多いが戦力不足。そんな違和感を覚えているとなにかが聞こえる。
ー万里を超えて彼方へー
「なんだ、歌?」
ー星に行かんelragnaー
Jを中心に展開していた第二、第三中隊もその歌に気づいたようで周囲を見る。
ー剎那 悠久をー
「まさか…この歌は…」
ー凪がれ凪がれ慈しむー
蘇るJの記憶。これは歌詞が違うがあの歌と同じ口調。それに姿を表した赤い機体はヴィルキスに酷似している。
ーまた生死の揺りかごで 柔く泡立つー
「全機散開しろ!陣形を崩しても構わない、急げ!」
そう言うとJはスラスターを全力で吹かして待避行動に入る。
ー嗚呼、千の時の輪廻の旅…繋ぎ合う手と手探し求め心交わし息吹く風よー
「J?」
「急げ、Jの命令だ!」
ー新たな世界を飛べー
歌が終わりを告げるとき。赤い機体から放たれた超火力砲が発射され逃げ遅れたパラメイルたちを消滅させアルゼナルを半壊させるのだった。
「まずい!」
その余波に煽られたJも機体バランスを崩して海に落下するのだった。
ーー
「第二中隊、半数が消失」
「第三中隊、隊長以下3機ロスト」
「Jとの通信が出来ません!」
「まさか…Jが」
Jとの通信不調…いや喪失に流石のジルも動揺を隠せずに居た。
「呼び掛けを続けろ。指揮系統を第一中隊のサリアに集約。残存するパラメイルはドラゴンの掃討に当たらせろ」
「聞いた通りだサリア」
「まさか…Jが死んだ?」
「おいおい、どうするんだよ!J抜きであんな化け物とやろうって言うのかよ!」
「落ち着いて!いないJに頼らないで!」
Jの喪失に大混乱する一同をサリアは宥めるが一向に収まらない。
「サリア、アンジュを元隊復帰させろ。ヴィルキスでなければあの機体は抑えられん。アンジュを乗せるんだ」
「分かったわ、でもアンジュの到着まではあの機体は私が牽制するわよ」
「分かった、無理をするなよ」
「ええ」
緊急発進する第一中隊はドラゴンを殲滅しつつ謎のパラメイルたちの元に向かう。
「エルシャ、援護をお願い。他はドラゴンの殲滅!」
「「「イエス・マム!」」」
エルシャのハウザーが3機のパラメイルに向けて砲撃を開始。それと同時にサリアのアーキバスがライフルで牽制しつつ突撃する。
「ここは我らが!」
赤い機体焔龍號を守るように前に出る蒼龍號と碧龍號。二機はライフルを構えで迎撃戦闘を開始する。
「くっ!」
エネルギー弾を発射する2機の攻撃にエルシャのハウザーが被弾し脱落。サリアもアーキバスで肉薄するが敵の高い機動性に圧倒される。
「これはヴィルキス並みの性能。ドラゴンにこんな技術が…くっ!」
「この程度の性能で…ん?」
蒼龍號に乗り込んだナーガは一瞬だけ自身の視界が陰った。それを察知した彼女が上を見ると太陽の中に黒い物が映る。
「待ってたぜ、この瞬間をよぉ!」
「J!」
高高度から飛来したレイヴンはムラクモを展開。蒼龍號のライフル《瑞雲》を真っ二つに引き裂く。
「機体は良くてもパイロットはいまいちのようだな!」
高らかに笑うJの声と共にレイヴンはムラクモを構え突撃するのだった。