クロスアンジュ 天使と黒い鳥の輪舞   作:砂岩改(やや復活)

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権力掌握

 

 戦闘後、海底に身を潜めていたアウローラだったが突如現れたヴィルキスの反応を頼りに再びアルゼナルへ向かい何とかアンジュたちを回収することに成功するのだった。

 

「平行宇宙ともう一つの地球。ドラゴン、いや、遺伝子改造された人間の世界か」

 

「彼女たちは話し合いができる相手よ。人間と違ってね、手を組むべきじゃないかしら」

 

 アンジュの説明によりこの世界のシステムが明かされる。アウラをエネルギー源にしたマナの世界、そしてドラゴンたちの目的。確かに孤立無援のアウローラには魅力的な提案だった。

 

「敵の敵は味方かなるほど」

 

 それを聞いたジャスミンは肯定的な態度を見せるが他の者たちは納得できないと言った風だった。

 ジルも否定的であるが現状はいかんともしがたい。

 

「しかし、ジル。私たちの戦力が心許ないのは確かだ」

 

「サリア達が裏切っちまったからね」

 

「アンジュ、ドラゴン達とコンタクトは取れるのかい?」

 

「ヴィルキスならシンギュラー無しでもあっちに飛べるわ。たぶん」

 

「そりゃありがたい。ジル、ドラゴンとの共闘、考えてみる価値はあるんじゃないかい?」

 

「J、どうだ?」

 

 ジャスミンの肯定的な進め方に不満を感じたジルは沈黙を貫いていたJに話を振る。それにより全員の視線が椅子に深々と座るJに注がれる。

 

「ジャスミンに賛成。戦力は多ければそれでいい。向こうはアウラって言う奴でこっちはエンブリヲ。目的がハッキリしてるんならそれでいい」

 

 正直、サリア以外のヴィルキスタイプならN-WGⅨ/V、1機でも問題ないがサリアとたっぷり殺りあいたいのが本音だ。せっかくの楽しみを邪魔されたくないJにとって雑魚係が欲しかったところだ。

 

「考えておく!」

 

 ジルは不機嫌な足取りで会議室を去るのだった。

 

ーー

 

 アウローラ食堂、アンジュたちは一旦休憩のためにそこで腰を降ろしていた。

 

「Jは?」

 

「艦長席だよ。リベルタスってやつはジルが仕切ってるけど実権はJが握ってる。クリスたちにも容赦ねぇし、ちょっと怖いよ」

 

「元々怖かったじゃん」

 

 ヒルダの言葉にロザリーは突っ込むがアンジュはあまりにも状況が変わりすぎて理解が追いついていなかった。

 

「なんで裏切ったの?」

 

「分からねぇよ。何も言わずにバカスカ撃ってきやがって」

 

「サリアはJに夢中だし滅茶苦茶だよ」

 

 何度か交戦したがJとサリアの戦闘は異常だった。

 基本的にサリアらしい統率の取れた戦闘を行っていたがJが出てこれば全てを捨てて一騎討ちに持ち込んでしまう。

 Jもそれが楽しいようでこっちのことを気にしていない様子だ。

 

「Jはサリアを殺すつもりなのかしら」

 

「らしいぜ。サリアもそれを望んでるってよ」

 

 アルゼナル攻防戦で感じたサリアの変わりように少しだけ納得するアンジュ。彼女は心の底からJを殺そうとしているのだ。

 

「Jを殺すために…」

 

 その頃、格納庫ではメイがヴィルキスの整備を終え去るのを見送ったタスクはバイクから取り出した装置を手に天井に備えられたダクトを見つめる。

 

「念には念をか…」

 

「…」

 

 それを格納庫の端で静かにJが見つめていたのだった。

 

ーー

 

 そして一晩が経ち、会議室。

 当初ジルはアンジュたちの意見をうけいれ、ドラゴン達との共闘を選んだかのように作戦を進めるがそれはドラゴンたちを囮とした作戦であった。

 アンジュたちは当然それを拒否、口論に発展しついにはジルが実力行使に出る事態に発展してしまう。

 

「変わったな。アレクトラ」

 

 タスクは念のためにと用意していたガス発生装置を起動させる。密閉空間である潜水艦内では逃れられる者はなく、アンジュ、タスク、ヴィヴィアン以外の者たちは倒れてしまう。

 

「アンジュはモモカさんを俺はブリッジに」

 

「分かった!」

 

 タスクはブリッジに辿り着くと警戒しながら入る。幸い、全員が意識を失っているようで誰も動かない。

 

「ごめんね。じきに目が覚めるから…」

 

タスクはオペレーターをゆっくりと席から降ろすとアウローラを浮上させるためにコンソールを操作する。

 

「っ!?」

 

 だがその瞬間、タスクは蹴り飛ばされ壁に強く体を打ち付ける。

 

「頭は回る、実力もそれなり、だが詰めが甘い」

 

「J!」

 

 何とか立ち上がるタスクは自身と同じく酸素マスクを着けたJを見て驚く。

 

「お前とは戦ってみたかったんだ。楽しませてくれよ!」

 

「くっ!」

 

 ブリッジは精密機械の集まりだ、お互いに銃は使えない。それに近接戦において銃よりナイフが役に立つ。

 タスクはナイフを取り出すがJは素手のまま戦う。

 

「ふ!」

 

 みぞおちに一発くらい、身を丸くする動きにあわせられ顎を殴り上げられる。揺らされた脳に止めを刺されるように右頬に蹴りを入れられ倒れてしまう。

 

「おいおい、これで終わりか?」

 

「く…」

 

「アンジュの騎士が聞いて呆れるな」

 

 タスクはJを過小評価していたことを実感した。パラメイルの扱いに関しては他の追随を許さないことは承知していたが生身での戦いで自分が遅れを取るとは思わなかった。

 

「君もエレクトラに賛成なのか?」

 

「いや、アイツはもうダメだ。まだ理性的なら使えたのにもうあぁなってはな…」

 

 残念そうなジェスチャーをしながら酸素マスクを外すと煙草を吹かすJだがその様子に一切の隙はない。

 

「なんでガスが」

 

「ある程度耐性をつけておけば何てことはないさ。常識だろ?」

 

 そしてJはまだ動けないタスクの首根っこを掴み引きずるとそのまま格納庫へ向かう。

 

ーー

 

 格納庫ではアンジュとジルがぶつかり合い、アンジュが勝利を収めていた。

 

「なぜだ、なぜ分からん!」

 

「貴方のやり方じゃ、喫茶アンジュは作れないからよ」

 

 頭から血を流して倒れるジルとそれを見つめるアンジュ。その二人の耳に届いたのは簡素な拍手だった。

 

「いやぁ、流石だなアンジュ」

 

「J、あなた…タスク!」

 

 拍手の主であるJはいつも通りの様子だったがその足元には倒れているタスクの姿があった。

 

「安心しろ。彼は負けただけだ、すぐに動けるようになる」

 

「あんた…」

 

「アンジュ、話し合おう。今、アウローラが浮上すれば撃沈される。ここを去るのは構わないがタイミングを考えて欲しい。」

 

 結局はジルに加担してくるのかと思えばJの敵案は対話。タスクがやられている現状、選択肢はない。それにアウローラが浮上している様子がないと言うことはどうしようもない。

 

「分かったわ。貴方は共闘に賛成してたしね」

 

「どうもありがとう。礼と言ってはなんだがジルは拘束させて貰うよ」

 

ーー

 

「さて、換気をしたいところだが海上ではサリアたちが目を光らせてる。アウローラのフィルターに頼るしかない」

 

 ひとまずジルとタスクの治療を終えて会議室に集まったヒルダとロザリー含む主要メンバー。

 

「そんなことになってたなんてね。アンジュ、やっぱりあんたが来ると波乱ばかりだ」

 

「でもガスなんて酷くねぇか!?」

 

 ヒルダとロザリーに状況を説明するとなんとか納得する。

 

「ジルは拘束した。彼女には冷静な判断が出来ないと判断し、リベルタスの指揮は俺が取る」

 

「仕方ないね」

 

 ジルの暴走を見ており、止められなかったジャスミンたちもJに従う方針を見せ一応、状況は収束した。

 

「さて、ドラゴンたちとの共闘だが基本方針は変わらない。ドラゴンたちには基本的にドローン兵器の対応に当たらせる。ドローン兵器の数は厄介だからな」

 

「妥当ね」

 

「問題のヴィルキスタイプだが。ヒルダ、ロザリーはクリスをエルシャはヴィヴィアン、サリアは俺が基本的に対応する。他のヴィルキスタイプはドラゴンたちのパラメイルに対応して欲しいが」

 

「ジルにも言ったけどサリアたちは助けないの?」

 

 ジルとはここで決別したがどうするつもりなのか。アンジュは緊張する。

 

「だからこその配置だ。基本的には説得して貰うが無理なら諦めるしかない。残念ながら俺たちにはそれまで余裕がない。相手はヴィルキスタイプだ、アーキバスでは不利だしな」

 

「……」

 

「サリアは殺すの?」

 

「彼女が望むならな」

 

 サリアとJに関しては関係性が特殊すぎてアンジュには理解が及ばない。最悪の事態を考えた方が良いだろう。

 だが恐らく、これはアンジュの勘なのだが。彼はサリアを殺すだろう。

 

 

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