裏の仕事も終えて本当に一段落ついたJは煙草を吹かしながらテラスでゆっくりしていた。風呂も入らなきゃならないのがめんどくさい。整備士ゆえに身体中、オイルやらなんやらで汚れきっているのだが慣れてしまった今では風呂が心底めんどくさい。
「おや、お疲れのようだね。またアレを作ってたのかい?」
「ジャスミンさん」
ブラジャーから列車砲まで取り扱うジャスミンモールの主人。ジャスミンは疲れきっていたJを見かけると話しかける。
「突然、ライダーを止めたと思えば発掘された機体を何年も修理してるなんてね」
「ジャスミンさん。あれはね世界を滅ぼせる機体なんですよ」
「なんだって?」
「来るべき日の機体。あと少しだ…」
Jの言葉を理解しきれていないジャスミンを放っておいて彼は吸い殻を海に投げ捨てる。するとこちらに向けて輸送機がゆっくりと飛んでくるのが見える。
「皇女さまのお出ましか。期待はずれじゃなきゃいいがな」
Jはそう静かに呟くと風呂に向けてゆっくりと歩いていくのだった。
ーーーー
「ふぁ…」
「相変わらずね」
いつも通り、レーションのような不味い飯を胃の中に流し込んでいるとサリアが自分の盆を持って横に座る。それに続くようにヴィヴィアンとエルシャが同じ机に座る。
「おう、サリア、ヴィヴィアン、エルシャ」
「おう、J。ナゾナゾです、今回の新人で最後まで生き残るのはだーれだ?」
「ヴィヴィアン!」
「皇女さまだろうな」
「皇女さま?」
ヴィヴィアンのナゾナゾの答えに3人とも意味わがわからずに首をかしげる。
「実戦前にもう一人、入るさ。それよりエルシャ、早くお前のカレーが食べてぇよ」
「あら、待っててね。暇があれば厨房にお邪魔するから」
「それか俺に料理を教えてくれ。夜にじっくりとな…」
「考えておくわ」
いつも通りの会話に気にもせず食事を進めるヴィヴィアンと突っ込みのために顔面チョップをJに喰らわせるサリア。
「あいったー!」
「アンタ、相変わらずね!」
「うるせーこのやろう。俺が誰と寝ようが勝手だろうが!」
「隊の秩序を乱すなっていってんのよ!」
「ならゾーラにも言えよ、アイツが積極的に乱してるじゃねぇか。知識だけ立派になりやがって。エルシャみたいなボディになってから出直してこい」
「このぉ。人が気にしていることをズケズケと!せっかくお願いしに来たのに」
相変わらずサリアは10投げれば100返ってくるような奴だ。冷静な態度を装って色々と残念美女だから可哀想に思えてくる。なんだかんだJとサリアは仲がいいのだ。
「ププッ…魔法少女…げふ!」
「しねぇ!」
とんでもない爆弾を投下しようとしたJにドロップキックをかますサリア。服を買うことを見られた彼女にとってJの口を封じなければいけなかった。
「なにをしているんだ。お前たちは…」
「じ…ジル司令」
「いつものじゃれあいですよ」
「そうか…」
そんな時に現れたのはジル。彼女はJに用事があったようで彼の首根っこを掴むとそのまま連れていくのだった。
「なんですか司令官殿」
「お前も知っていると思うが。ミスルギ王国の第一皇女がノーマとして移送された。指輪を持ってな」
「ヴィルキスの件ですか?それならメイの方が…」
「アイツを死なせるわけにはいかん。お前が面倒を見てやれ、それとお前の機体も使えるようにしておけ」
「はぁ、俺がですか?俺は男ですよ、そういうのはサリアの役目でしょうが」
Jが使っていたパラメイルはいつでも使える状態にはあるが新人教育なんてやったことがないのだ。
「最高戦力であるお前が教えた方が楽だろう。彼女を短期間でものにしなければならん。それにサリアでは無駄な衝突が起きるかもしれない」
「なるほど、それでこのアルゼナルの人格者である俺に…」
「………」
無視、まさかの無視。Jの扱いは日に日に悪化しているような気がするがそこは気にしなくても良いのだろうか。
「アイツを死なないようにすれば良いんですね」
「そうだ、実戦は早めに出す。その時に護衛を頼む」
「俺の発作を知ってて言ってるんですか?」
Jの言葉にジルは黙って視線を合わせる。Jは根っからの戦闘狂だ。でなければ彼のような機体に誰が乗るものか。彼の漆黒のグレイブはもはや伝説と言っても過言ではない。
「場所はいつもの場所だ分かるな」
「はいはい…」
ようやくジルに解放されたJは肩を回しながらため息をつく。煙草でも一本吹かそうかと思っていると正面からゾーラがやって来た。
「よぉ、J」
「んだよゾーラか。またヒルダたちとネンゴロか?」
「まぁな。好きなようにやらせてもらってるさ」
「お前のやり方は意外とセオリー通りの戦い方だよな。そんなんじゃイレギュラーに対応できないぞ。特に新人が居るときはな」
ゾーラは相変わらずの笑いながらJの肩に手を置く。
「お前の戦場での信条は好きに生き、理不尽に死ぬだったか?」
「信条ではない、必定だ」
「私は好きに生き、好きなように死ぬだ…それが私たちにあるべきだろう」
ゾーラの言葉にJは不敵に笑いながら彼女の目を見つめる。その鋭い瞳にゾーラは気圧される。
「ならそれを果たすがいい。私は私のやりたいように生きるだけだ…」
「たく…整備班のツナギを着てかなったらもう少し怖かったのにね」
ーー
「J!」
「なんだ、サリア。まだドロップが足りないか?」
「違うわよ。お願いがあって来たのよ」
「あぁ、食堂で言ってたな」
ジルに頼まれたのは新人の戦闘教育。現段階で特にやることはない、仕方ないのでサリアの話を聞いてやることにした。
「またお願いしたいのよ。特訓を」
「またか?」
「えぇ、貴方に勝つまでやるわ」
「やめとけ、一生勝てん」
「ぐ…」
サリアはとにかく真面目だ。副隊長という立場に傲らずひたすら上を目指そうともがいている。それはジルに認めてもらいたいという願望が主な目的だろうが。
シミュレーターでダルマにしてやったら勝つまで絡んでくるようになった。
「それでも強くなりたいのよ」
「…まぁ、良いだろう。一人追加だな」
「ありがとう」
今後も忙しくなりそうな気配にJはため息をつきながら格納庫に向かうのだった。
ーーーー
「ついに出てきたね。格納庫に来たのは二年ぶりかな」
「そうだな。こいつもしばらく格納庫の奥で寝てたからな」
リフトから上がってきたJのグレイブにメイはその機体を眺める。グレイブ J・カスタム 通称《レイヴン》
「それで、お姫様は?」
「今ごろシミュレーターじゃないの?早速配属させるってジルが言ってたよ」
「急ぎすぎじゃないか?」
「そうだね。でもそれだけ期待してるってことでしょ?」
「ものは言いようだな」
メイの言葉に笑みこぼしながら整備作業に移る。今回、出撃がかかったのなら素の状態のグレイブが3機出撃することになる。今回は何機帰ってくるか。
「よし、チェックは終わりだよ。J、君は上がっていいよシミュレーター組が帰ってくるまでに風呂に入ってきなよ」
「気遣いに感謝するよメイ」
担当分の整備を早々に終わらせたJはキャッシュだけ貰って先に風呂に入りに行くのだった。
ーーーー
「いやぁ、大したもんだな皇女殿下は初めてのシミュレーターで漏らさないなんて。なぁロザリー」
「いやぁ、私の初めてはそのですね…」
「気に入ったみたいねあの子」
「あぁ、悪くない」
シミュレーター訓練を終えた第一中隊は全員でシャワーを浴びていた。各人がそれぞれ疲れを取っている中にも新入りのココとミランダがグロッキーなのに対してアンジュは平然としていた。
「ねぇねぇサリア。アンジュってなに?チョー面白いんだけど!」
「……」
「嫉妬か?何事にも才能というのがあるからなぁ。気にしたら敗けだ」
「そうね…って!なんでさらっといるのよ!」
サリアの横のシャワー。そこには無駄なく鍛え上げられた体に無数の傷を持ったJがいた。
「仕方ないだろ。シャワー室は一つしかないんだから」
「イチイチわめくなよサリア」
「うるさいわねヒルダ。もう少し恥じらいってものを持ちなさいよ」
「少なくとも私が入ってる間は入ってこないでって言わなかった!?」
「ごめんねぇ…」
聞く耳持たないJはシャンプーを済ませるとアンジュの所にトコトコと歩いていく。
「やぁ、どうも」
「え、は…え!?」
周りの話を全く聞いてなかったアンジュはJの突然の登場に例外なくパニックになる。
「ここで唯一の男のJだ。以後よろしく」
「な、なんなのですか貴方は」
「いやぁ、中々会えなかったお姫様がシャワー室で会えるなんて思ってなかった」
「J、止めなさい。こんな所で」
「俺はタオルを巻いてる」
それがどうしたと言わんばかりに首をかしげるJ。
「相手は全裸でしょうが!」
慌てて体を隠すアンジュを助けるために動くサリア。するとJは真顔で告げる。
「大丈夫、さほど興奮しないから」
「は?」
「俺は全裸よりちょっと何か着てたほうが興奮する!」
「しねぇ!」
「グリフォン!」
サリアの目潰しがJに直撃。痛がるJは思わず座り込むとサリアに足で踏みつけられる。
「痛い、痛い!そういうプレイは望んでない!」
「しねぇ!」
「くたばれ変態!」
「その声はヒルダか?さらっと加わってるんじゃねぇよ!」
Jの悲痛な叫びがシャワー室で木霊するのだった。