「例の新人ですが。基礎体力、反射神経、格闘対応能力、さらに戦術論の理解度。全て平均値を上回っています」
「優秀じゃないか」
「ノーマにしてはですが」
「パラメイルの操縦適正特筆するものありか…」
監察官からの報告を受けたジルは渡された報告書を見ながらヴィルキスの元へと歩いていく。
「まるでお前を見ているようだよ。J」
「俺はあんなにじゃじゃ馬じゃないけどね」
人形状態の整備が行われているレイヴンの前に煙草を吹かしながら休憩するJの姿があった。顔中に絆創膏やら湿布やらを張り付けいるJは中々に滑稽だった。
「変態ではあるがな…」
「どっちの意味で言ってる?」
「どちらも特筆すべき変態だよお前は」
「お褒めいただき感謝します。司令官殿」
ジルも煙草を貰おうと手を差し出すがJはライターしか寄越さない。
「全く、ケチなヤツめ…」
「煙草は高いんだ、知ってるだろうが…」
仕方なく自分の煙草を出すジルは火を貰い一息つく。
「お前から見てどう思う?」
「お姫様が使えるまでにどれだけの血が必用か勘定をしてたところだよ」
「それがヒルダやサリアでもか?」
「戦場なんて命の投げ売りバーゲンセールだ。運がないヤツが奪われるそれがアイツらなら仕方がないだろう」
当然のごとく吐かれた言葉にジルでさえも背筋に寒気を感じる。
「たまに思うが本当にお前は人間か?」
「ノーマは人間じゃないんだろ?」
「お前ほどあのエンブレムが似合う奴はいないだろうな」
レイヴンの肩アーマーに記されたエンブレム。剣を持ったグリフォン。グリフォンは傲慢の象徴。いくつもの戦闘でボロボロになったそのエンブレムは不気味さを産み出していた。
「俺を戦場に出すことを後悔するなよ…」
「あぁ…。私は理解しているつもりだ」
煙草を握りつぶしたJは静かにその場から去るのだった。
ーーー
「全くよ、気にくわないぜ」
「ほんとだよ…」
「あれ、お姫様は?」
ロザリーとクリスが機嫌悪そうに食事をしていた時。出現したJはヒルダにアンジュの事について聞く。
「さっき出てったよ」
「なんか上手くすれ違うな」
「痛姫になんのようなの?」
「特にないな。交友を深めようと思ってな」
先程までアンジュが座ってた席に座るJはトレーに盛られた食事を口にする。
「聞いてくれよJ。アイツ、よくこんなものを食べれるわねって言ったんだぜ!」
「私たちの事を本当にみくだしてる!」
「育ちが違うからな。良いもん食ってきたんだろ」
「だから気に入らないじゃん」
ヒルダも不満を露にするのは少し珍しい。まぁ、こいつの場合。気に入ったらとことん気に入るが気に入らないのならとことん気に入らない人種だから、目をつけられるとめんどくさいことになる。
「じゃあ、殺す?」
「え…」
「い、いやぁ。そこまでは行かねぇよ。もう少し自分の立場が分かってくれれば良いだけさ」
まさかのJの言葉に狼狽えるクリスとロザリー。気に入らないとはいえそこまでは言っていない。たまにJは恐ろしいことを言う。
「そういえば、作業デッキにレイヴンがあったけどライダーに戻るのかい?」
「いや、まだだよ。だがちょっとな」
パラメイルと言っても多種多様だがJの機体は一目見れば分かる。黒と赤のツートーンに四枚羽根、あのエンブレムは彼しかいない。
「ふーん」
「まぁ、新人いびりもほどほどにしておけよ」
さっさと食事を済ませたJはアンジュが置いてあったであろう盆ももって席を外す。
「随分。急いでるじゃないか」
「サリアとデートの約束なんでね」
手をヒラヒラと泳がせながら立ち去るJの背中をヒルダは静かに見送るのだった。
ーー
「遅かったわね…」
「司令官殿に許可を取るのは俺なんだぜ」
シミュレーターに姿を表したのはサリアとJ。第一中隊は午後から自由行動だその午後を使いJとサリアは個人練習に費やすのだ。
「じゃあ、始めるか」
「えぇ…」
シミュレーターは起動しサリアは愛機であるアーキバス サリア・カスタムはいつも通りの見慣れた光景を確認すると周囲を確認する。
「どこにいるの、J」
「普段でもそうやって熱心に想って貰えるとこっちとしても嬉しいんだけどね」
「上か!」
サリアは声のした方向に顔を向ける。するとそこには太陽を背にしたJのレイヴンがアサルトモードで滞空していた。
二丁のライフルを持ち、こちらを静かに見ているレイヴン。通常のグレイブとは違い、四枚の羽根が生えている。その全てに爆発的な速力を産み出す強化改良型ブースターを備える超機動機なのである。
「行くぞ…」
「うおぉ!」
静かに迫るJ、咆哮するサリア。アーキバスとグレイブが互いに交差するのだった。
ーーーー
「……」
「生きてるか?」
自主練習を初めて数時間。サリアは完全に沈黙しJが横でミニ扇風機で風を送っている。
「よく50戦もしたよ…」
「全部完敗よ…」
50戦と言ってもその半分以上が数分か数秒で決着がついてしまうものだったが。
「俺は産まれて初めてシミュレーターで腕を持っていかれたけどな」
「あの時は最高だったわね」
最後の一戦。Jはサリアに左肘を切断され目立った尊称を受けてしまった。まぁ、実際はかすり当たりなのだがレイヴンの機体性質上それでも致命傷になりうるのだ。
外部装甲を限りなく薄くしているせいで実際にはフレームだけで飛んでいるようなものなのだ。
「とりあえず風呂だな。こんな状態でドラゴンが来たら洒落にならん」
「そうね…」
ーーーー
「風呂に入るとは言ったけどなんで私と一緒に入ってるのよ!」
「俺も同じ訓練してたんだ風呂にぐらい入りたくなる」
前回、ボコボコにされたためか水着をしっかりと着用している。タオルは頭に乗せ湯船で一息ついていた。サリア本人は何も着ていないのだが。
「最後の一戦。あんた、手加減してないでしょうね?」
「バカ言うな」
「だって凄くつまらなそうに戦ってたから…」
「そんなことはない」
サリアが感じていたことはあながち間違っていない。より強いヤツ、より凶悪なヤツ、命を奪われる感覚は彼にとって快感に近いものなのだ。
「戦いは好きじゃない…」
「嘘ね…」
嘘ではない。Jは強者との戦いを望んでいるだけだ。
「生き急ぐとすぐ死ぬぞ…」
「分かってるわよ」
その時、鋭い警報が鳴り響く。ドラゴンの出現を示す警報に二人は素早く動き格納庫に向かう。
「電源接続。アーキバス、グレイブ各機、エンジン始動。ハウザーは弾薬装填を急げ!」
「メイ!」
「J、どこにいるんだ?」
突如インカムからJが通信を寄越してくるとメイは困惑する。
「レイヴンも発進準備を済ませろ」
「出るの?」
「別任務だがな。第一中隊のあとに出撃する。武器は狙撃銃だ」
「分かった!」
通信を終えるとJは全身を覆うパイロットスーツで現れる。
《第一種遭遇警報発令シンギュラーは…》
(この格好でここを走るのも懐かしいな)
高ぶる気持ちを抑えながら走るJは笑みを漏らしながらレイヴンの元へと向かう。
第一中隊のゾーラ隊が出撃したのを見計らって格納庫からレイヴンが現れる。
《J機。リフトオフ、コンプリート》
「Jだ。レイヴン出るぞ!」
フライトモードのレイヴンを操りJが出撃する。それをジルは静かに見つめるのだった。
ーー
発進した直後から高高度を取ったJは遥か低高度にいるゾーラ隊を見つめる。この高度なら次元のゲートは下に出現するはずだ。
「さてお姫様。死んでくれるなよ…」
《もうすぐ戦闘空域よ、戻って》
《……》
《アンジュ!》
《私の名前はアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギです!私は私のいるべき世界、ミスルギ王国に帰ります!》
《言った筈よ。命令違反は重罪だって…》
《アンジュリーゼ様、私も連れていってください!》
「あぁーあ。陣形がめちゃくちゃだ」
アンジュの命令違反を皮切りに陣形が乱れるゾーラ隊。こうなってしまったらどうしようもない。
「おっと、開いた」
ドラゴンからの攻撃。それに直撃し絶命する新兵、たしかココとか言ったか。可哀想に、小型が無数に出現し大型のドラゴンが2体出現する。
「おぉ、大判振る舞いだな」
圧倒的なピンチにもJは動かない。それは任務ではないという言い訳をしつつ、実際は気乗りしないからと言うのが本音である。
(まぁ、ピンチの一つや二つ、乗り越えてくれないと主人公じゃないよね)
予想外の規模にゾーラは新兵を放置してドラゴンを迎撃する体制を整える。こういう点は慣れているやはりベテランは強い。
「はい、もう一人脱落」
新人のパイロットがまた一人犠牲になる。それでもJは助ける気は0だった。
順調にドラゴンを退治していったゾーラ隊は大型のドラゴンを一体海に叩き込むと残りのドラゴンに向かっていく。
《総員、氷結バレット装填》
《イエス・マム》
《とどめだ!》
《助けてぇ!》
ゾーラがとどめを刺そうと氷結バレットを構えた瞬間。アンジュが泣きながらゾーラにしがみつく。
《何しやがる。離れろ!》
《ゾーラ!》
「好きなように死ねたかゾーラ…」
ドラゴンの一撃がゾーラとアンジュに襲いかかる。その瞬間、Jは持ってきた狙撃銃で狙い撃つ。ゾーラ機体を上手くアンジュの盾になるように2機を狙撃した彼はアンジュの機体の損傷具合を見てすぐに撤収するのだった。