クロスアンジュ 天使と黒い鳥の輪舞   作:砂岩改(やや復活)

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笑い声

 

「なぜゾーラを殺した?」

 

「それが最善だったからだ」

 

 フルフェイスのヘルメットを被っているJとジルは格納庫の奥で静かに対峙していた。くぐもったJの声はその声質だけで恐ろしい。

 

「ゾーラは使える駒だった。ここで失うのは惜しいのは分かっていたはずだ」

 

「なら有効活用出来ただろう。あの場での選択肢は三つ」

 

ゾーラが死ぬか

 

アンジュが死ぬか

 

どっちも死ぬか

 

 あの瞬間ではこの3つしかなかったのだ。なら最善はゾーラが死ねば良い、それが彼の導きだした答えだった。

 

「…分かった」

 

 これ以上話しても無駄だと判断した彼女はその場から去る。

 

「命じたのはお前だぞ。ジル」

 

 Jがゾーラを盾にさせたと知っているのはジルだけだ。あの時の狙撃、あの時使用したのはブラックバレットと言う特殊な弾だ。黒塗りで一切光を反射させない弾は夜においては夜目が相当効かない限り視認できない。

 

「無駄なヘイトは被らないに限るよね」

 

ーーーー

 

「最後まで生き残ったのはアンジュでした」

 

「ヴィヴィアン、黙って」

 

「まるで通夜だな。流石にゾーラが死んだのは予想外だったが」

 

「J」

 

 ツナギを着込んでいるJは失意にいるメンバーたちと鉢合わせると話しかける。

 

「おかげで大損だよ。せっかくロザリーに賭けたのに」

 

「なんで私が死ぬとこに賭けるんだよ!」

 

「お前が一番下手だからだろ。お前予想通りと悪運強いのな」

 

「たく、人が落ち込んでるのにズケズケと」

 

 何故か一気に精神を削られたロザリーが半分涙めでため息をつく。

 

「J、アンタ。出撃してたんだってね」

 

「え?」

 

 ヒルダの言葉にサリアが反応する。彼女の言うことが正しければ彼はあの状況下で静観していたことになる。

 

「俺が3人を見捨てたと言いたいのかヒルダ?」

 

「いや、整備の連中から聞いて気になっただけだよ」

 

「その場に居たなら流石に助けるさ、それが一人でもな」

 

「そうだね。悪かったよ、アンタもゾーラとは仲良くしてたもんな」

 

 ヒルダはJの肩を軽く叩くと横を通りすぎる。

 

「そうだ、こっちの人数が減っちまったからさ。元隊復帰しないかJ」

 

「そ、そうだよ」

 

 ロザリーは名案とばかりに手を叩くとクリスもそれに同意する。

 

「それだとお前らの取り分が0になるぞ」

 

「う…」

 

「まぁ、そう言うことだ」

 

「J、話があるんだけど…」

 

「…分かった」

 

 立ち去ろうとしたJを呼び止めたのはサリア。彼女はこちらをまっすぐと見つめてくる。なにか言いたげの彼女に頷くJは着いてくるように視線で言うのだった。

 

「ヴィヴィアン、先に戻ってて」

 

「了かーい!」

 

ーーーー

 

「どこに行くの?」

 

「墓地だよ…」

 

 Jはサリアにカッパを着せると自分も着る。

 

「ねぇ、J。本当に私たちの隊に復帰しない?」

 

「サリア、お前まで言うのか?」

 

 やはりと言うべきかサリアの話はJの復帰についてだった。だがこの様子だと純粋に隊のためと言うわけではなさそうだが。

 

「不安なのか?」

 

「当たり前でしょ。いきなり隊長なんて」

 

「下らん、役職なぞ所詮は責任の擦り付けあいだ。いくら背伸びをしても出来ることは変わらん」

 

「私は貴方にならヴィルキスを任せても良いと思ってる」

 

 流石のJもサリアの言葉に驚く。幸いにもカッパを着ているおかげで気づかれなかったがそれだけの言葉だったのだ。

 ヴィルキスはサリアにとってジルの信頼の証だ。それを任せても良いと聞けるとは正直、思わなかった。

 

「気弱になりすぎじゃないか?」

 

「常々、思っていた事よ」

 

「嬉しいね。お前にそう想って貰えるとはな…お、来た来た」

 

「あれは…アンジュにジル?」

 

 墓地で待っていた二人の視界に入ってきたのはアンジュ、ジル、ジャスミンの3人だった。その光景から今回死んだ三人の墓を建に来たのだとは想像できた。

 

「……」

 

 わざわざジルが出向きアンジュを叱咤する。そんな光景にサリアは複雑な気持ちで見つめる。誰がどう見ても特別扱いだ、そんな光景を見てサリアは不満を持たないわけがなかった。

 

「はい、サリアです。了解しました」

 

「どうした?」

 

「ドラゴンが見つかったわ」

 

「2体か?」

 

「なにいってるの?一体はもう倒してるわ」

 

「そうか…」

 

 ジルに報告に向かうサリア、その背中を見ながらJは口元を隠す。

 

「面白くなってきたな」

 

 そう言ったJはレイヴンの元にゆっくりと歩き出すのだった。

 

ーーーー

 

 生き延びたドラゴンを駆除するために出撃するサリア隊。次々と出撃するなかJもこっそり着いていく。

 

「ヴィルキスを出したのか。ジルめ…乗せる気がないくせに戯言を言うと後悔するぞ…」

 

《全機駆逐形態、凍結バレット装填。陣形、密集突撃攻撃開始!》

 

 瀕死のドラゴンに対してはこの戦い方は間違ってはいない。だが予想外からの攻撃を受け混乱するサリアはたち。そんな時、サリアがドラゴンに捕まってしまう。

 

《もうすぐ、もうすぐよ。もうすぐさよならできる》

 

「死ぬ気か。こりゃ機体回収班かな、俺は…」

 

 明らかに特攻を仕掛けているヴィルキス。なんどもなんども死のうと試みるが生き延びてしまう。ついに捕まったヴィルキス、これで終わりかと思われた瞬間。ヴィルキスが光に包まれる。

 

《死にたくない、死にたくない!》

 

 明らかに機動が変わったヴィルキスはドラゴンの攻撃を避け続け、攻撃を仕掛ける。

 

《お前がしねぇ!》

 

 脳天に剣を突き立て氷結バレットを胴体に撃ち込む。ドラゴンは堪らず墜落し海に墜落していった。

 

《殺してでも生きたいだなんて…そんな汚くて浅ましい感情…》

 

 アンジュは全く体感してこなかった感情を涙を流しながら体感しているのを全員が唖然と見ているとそんな皆の後ろの海面が膨れ上がりもう一体のドラゴンが現れる。

 

「なんだって!?」

 

「なんでもう一体が…」

 

(2体か?)

 

 予想外の敵にヒルダは墓地でのJの言葉を思い出す。アノとき先に殺したはずの大型のドラゴン。まだ殺しきれていなかったのか。

 

「総員、戦闘か…」

 

 ヒルダの命令と共に動き出す中隊。だがそれと同時になにかが上空から飛来しドラゴンを真っ二つに切り裂く。

 

「え?」

 

「なに!?」

 

 悲鳴を上げながら絶命するドラゴン。そこには剣を持ったレイヴンがゆっくりとこちらを見る。

 

「J…」

 

「ンフッフッフッフ…」

 

 Jの不気味な笑い声だけが戦場で木霊する。その光景は実に不気味であった。

 

 

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