「三度の出撃でこの撃墜数。結構、結構…」
「今まで誰もまともに動かせなかった機体をこうも簡単にね」
ジルの私室に集まった特定のメンバーたち。その全員が密会のように一塊になり話をしていた。
「たぶん、ヴィルキスがアンジュを認めた」
「じゃあ、アンジュが…」
「始めようかリベルタスを…」
ジルの判断に不満を示すサリア。ずっとジルの一番と思って行動してきた彼女にとってアンジュの存在は疎ましいのだろう。
「不満かサリア?」
「すぐ死ぬわあの子」
「かわいい後輩と隊長を殺したド悪党。皆から恨まれてても仕方ないね」
仮にもヴィルキス覚醒後の戦闘ではロザリーたちに足を引っ張られる節がある。仲間が彼女に対してよい印象は持ってないだろう。
「私ならもっと上手くやれる。私ならヴィルキスをもっと上手く扱えるなのにどうして!」
「適材適所と言うヤツさ」
「ヴィルキスに何かあったら!」
「その時はメイが直す!命を懸けてそれが一族の使命だから」
「お前はお前の使命を果たすんだ。いいね、サリア」
「……」
「良い子だ」
なんとかサリアを説き伏せたジルだったがそれを邪魔するようにJが口を挟む。Jだけ離れたソファーに座っており煙草を吹かしていた。
「ハッキリ言ったらどうなんだジル。サリアにはヴィルキスは使えないって」
「J…」
「J、どういうこと?」
Jの言葉にサリアは泣きそうな顔をしながら聞き返す。
「別にお前が劣ってるって訳じゃない。俺だってヴィルキスは使えない。アンジュが特別なんだろ、待ってた逸材なんだろ?」
「お前…」
「この際、はっきりさせよう。お互いのためにもな」
苛立ちを見せるジルに対して彼は笑みを浮かべながらジルを見つめる。
「つまるところ。俺とサリアにはアンジュの代わりになれないってことだ」
「……」
サリアだって薄々分かっていたはずだ。こいつは賢い女だ、それはJが保証する。だからこそ変なものに縛り付けられる彼女が哀れでしかたがなかったのだ。
「それを知った上でお前がどうするかはお前が決めるんだよ」
「待て、J」
「俺の話は終わった」
ジルの制止を聞かずに部屋から去る。それに続くようにサリアも退出する。
「いいかサリア。考えることを止めるな、お前が本当にやりたいことを見つけるんだ。依存するな」
「うん…でもなんで教えてくれたの?」
「高望みで死にたいか?」
「いえ…ありがとう」
その後、二人はなにも言わずに歩を進めるのだった。
ーー
「おぉ!新しいの入ってる!おばちゃん、これいくら?」
「お姉さんだろ。全く…超硬クロム製ブーメランブレードか1800万キャッシュだね」
「よろこんで!」
「まいどあり」
「景気が良いなヴィヴィアン」
アルゼナル唯一の商業区画ジャスミンモールで高額な買い物を済ませたヴィヴィアンを見て笑っていたのはJ。
「アンタも大概だけどね。ヴィヴィアンが霞んで見えるよ」
「おぉ、Jも買い物?」
「そうだぞ、ジャスミン。どうだった?」
「どれも難儀な注文だった。向こうも悲鳴を上げながら作ってくれたよ」
Jが頼んでいたのは最下層に保管されている機体のためのパーツだ。流石に自作できないものもあったので外部発注したのだ。
「合計で5600万キャッシュだね」
「うわぁ!高ーい、なに買ったのJ?」
「趣味のものだよ」
あまりの金額にその場にいた者が騒然とする。
「ジャスミン、色目を効かせてないだろうな」
「全部完全オリジナルパーツなんだよこれでも割り引いた方さ」
「俺の預金から降ろしておいてくれ」
「まいどあり」
領収書を貰ったJはそれをツナギの懐にしまい込む。すると後ろからボロボロの制服を着込んだアンジュが現れた。
「わぁお、セクシー」
「ずいぶん、涼しそうだね」
「良い格好してるじゃん」
三人がその派手な格好に反応するが彼女は無視してキャッシュを投げる。
「制服ありますか?」
「ありますかだって?ここはブラジャーから列車砲までなんでも揃うジャスミンモールだよ」
「着替えるのかアンジュ。勿体ないな俺のドストライクだ、その格好は。贅沢言えばパンツがもう少し隠れてたら良かったな」
「相変わらずの変態ね」
「Jだ。覚えやすいだろう?」
制服を受け取ったアンジュはさっさと試着室に向かう。全く相手にされないJだが懲りた様子もなく後を着いていく。
「ねぇねぇ、J」
「なんだ?」
「私もアンジュみたいにセクシーになるかなぁ?」
「ヴィヴィアン、お前にセクシーさは必要ない。お前は今のままが一番可愛いんだよ」
「じゃあ、このままでいいか!」
マスコット的な意味だがヴィヴィアンの存在はとても貴重だ。近所の猫を撫でるように頭を撫でるJ。それに対してヴィヴィアンも気持ち良さそうに笑う。
「どうすりゃ、こんな風になるのかね」
「それじゃあ」
「もう言っちゃうの、アンジュも武器とか買ったら?」
「いっぱい稼いでるんだろ?」
ヴィヴィアンとジャスミンの言葉に立ち止まり付き合う様子を見せたアンジュ。敵対しない限りそれほど嫌悪にされることはないようだ。
「ねぇねぇ、これなんてどう?アンジュの機体に似合うとおもうなぁ!」
「天空剣…」
いや、待てや。なんでこんなことになってるんだよ。バスターランチャーにビームライフルまで飾ってあるんだが。この品揃えを見て唖然とするのはJだけだった。
「これビーム出るの?」
「なに言ってんだい全部実弾だよ」
「デスヨネー」
俺の方がおかしいのだろうか…。
「パラメイルはノーマの棺桶。自分の死に場所だからこそ自分の好みにすることが許されてる。強力な武器、分厚い装甲、派手なデコレーションノーマに許された数少ない自由さ」
「くだらない」
「そんな状態じゃ仲間から狙われても仕方ないね。しかしだ、そんな問題も金が何とかしてくれる。安全、安心、命、買えるのは物だけじゃないってことさ」
「買収ですか?」
「流石皇女さま。理解が早い、手数料は一人辺り1000万でどうだい?」
「ほんと、ノーマらしくて浅ましい。私、一人で大丈夫ですので」
「ジャスミンでも取り付けなかったか…」
歩み寄ろうとするヴィヴィアンといつも通り、商売を繰り出したジャスミンも一蹴され立ち去るアンジュ。だがJは興味をもったら中々離れない。
「相変わらずツンツンしてるな。ちょっとやさぐれ過ぎな気もするが」
「知ったような口をきかないで変態」
「惜しいな、俺の名前はJだ」
ツカツカと歩くアンジュにJは合わせて着いてくる。アンジュからしてみればかなりウザイ。
「酷いな、命の恩人に向かってぇ」
「命の恩人?」
「お、やっと反応したな!」
全く、心当たりがなければ彼女はぜったいに止まらなかっただろう。だが彼女には心当たりがある。あの時、2体目のドラゴンが現れたときにたった一刀で切り伏せた黒のグレイブがいたはず。
「まさか、あのライダーがアナタ?」
「その通りだ。良い機体だろう?」
漆黒の機体。あの時のヤツはどこか引き寄せられるような魅力があった。あの笑い声が頭の中に響き渡る。
「アナタ、相当強いのよね」
「あぁ、俺がここで一番強い」
「ふーん」
圧倒的な実力を持った化け物。それに対して彼女は興味を持った。
「やりあうかお嬢ちゃん?」
「ちょうど憂さ晴らしをしたかったところなのよ」
Jとしてもヴィルキスの性能を試せる良い機会だ。二人は闘志を滾らせながらシミュレーションルームに向かうのだった。
ーーーー
「どうする賭けるか?」
「いいわよ。私が勝ったらもう近づかないでね」
「分かった。なら俺が勝ったら俺と一緒に風呂な」
「な!」
予想外の要求に思わず声が出るアンジュ。それをニヤニヤと見つめながらJは話す。
「戦ったあとは互いに裸で語り合う。これこそロマンよ、良い女ならなおさらだ!」
「この変態!」
「安心しろ水着で許してやるよ」
「後悔させてやるわ」
勝負内容は単純。どちらかが参ったと言えば決着、単純にして明解。互いに自機の設定を入れるとシミュレーターを起動させる。
「さぁ、スタートだ…」