クロスアンジュ 天使と黒い鳥の輪舞   作:砂岩改(やや復活)

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天使と黒い鳥

 

「ヴィルキスが落ちたそうだね。やっと乗りこなせる奴が出てきたと思ったんだがね」

 

「機体の調子は完璧だったのにどうして!」

 

「考えるのは後よ、今は機体の回収が最優先」

 

「うん、すぐに回収班を編成する」

 

 ヴィルキスが落ちた。そのことはリベルタスを知るメンバーに取っては一大事であった。

 

「アンジュもだ、アンジュも回収しろ。最悪、死体でも構わん。J、どこにいく?」

 

 ジルは部屋を出ようとするJを呼び止める。

 

「方針は決まったんだろ。俺は地下に潜る、そろそろ相棒を起こさないとな」

 

「J、あんな化石に一体何の価値があるんだ?」

 

 地下に眠る漆黒の機体。ジルはその機体に入れ込むJが不思議でならなかった。

 

「ジル、アイツはただの機体じゃない。お前にも分かる日が来るさ」

 

 笑みを浮かべながら部屋から去るJ。彼は気分良く廊下を歩くのだった。

 

ーーーー

 

「どうするんだい?」

 

「なにがだ?」

 

「Jの事さ。この前なんか見たこともないパーツをどっさりと注文してきた。完成間近だよ」

 

 ジャスミンの言葉にジルは考え込む。

 

「最初見たときは驚いたね。まさか輸送機に収まらないほどの巨体だもんねぇ」

 

 マギーも奴が運び込まれた日をおもわず思い出す。あれは見ただけで背筋が凍るような見た目だった。

 

 当初、Jが見つけてきたあの機体は輸送機四機で吊り下げて持ってきたほどの代物だった。その大部分が損傷し大破していたその機体をJは見つけ出しこのアルゼナルの地下深くに隠した。

 

「もしあの機体もヴィルキスと同じ可能性を秘めているとしても可能な限りヴィルキスを運用する。それが確実だからな」

 

「Jの奴…言ってたんだよ。あの機体は世界を滅ぼせる機体だってね」

 

「そんな機体に魅了されてるの…」

 

 サリア自身もあの機体をまともには見ていないいつも布で隠されているからだ。

 

「サリア、捜索はメイたちに任せてお前はJの監視をしろ」

 

「Jの?」

 

「あの機体の正体を探ってこい」

 

「…分かったわ」

 

 ジルの言葉にサリアはしぶしぶ従い。その場を後にする、彼女にとってジルとJ。どちらも大切な存在だその二人の板挟みになっている彼女は心苦しかった。

 

ーーーー

 

 第一中隊のエルシャとヴィヴィアンが捜索隊に加わり、本格的な捜索が始まった頃。Jは地下の機体の出力調整をしていた。

 

「点火させりゃ、なんとかなるからな」

 

 機体のボディの修復は済ませてある。機体状態的にはこれが正常の筈だ。あとはこいつを起動してテストを済ませるだけ。

 

「相変わらず巨大ねこの機体は…」

 

「サリアか…」

 

 パラメイルの倍はある巨体。これで従来のパラメイルを凌駕する戦闘が出来るかは疑問だ。

 

「この機体の名前って聞いてなかったわよね」

 

「言ってなかったか?」

 

「えぇ…」

 

 サリアの疑問にJは笑みを浮かべながら答える。

 

「N-WGIX/v。それがこいつの名前…」

 

「N-WGIX/v?随分と難しい名前ね」

 

「俺がつけた訳じゃないからな。2、3日したらこいつの飛行テストをする」

 

「もうそんな段階なの?」

 

「あぁ…」

 

 JがN-WGIX/vを整備してもう3年が経つ。元々こいつはJがたまたま見つけたのだ。とある島の一角が土砂崩れを起こし埋められていたこいつが顔を出した。それからというもの彼は整備班に移り、こいつを直していたのだ。

 

「さて、俺もそろそろ戦場に戻る日が来るかな」

 

 楽しそうにするJ。それをサリアは黙って見つめるのだった。

 

ーーーー

 

 そして一晩明けた次の日。Jは完全にねぶそくだったがなんとか地上に戻ってきた。あとはあの機体をデッキに運んでテストするだけだ。テストの許可は降りたが3日後だ。

 

「よお、ヒルダ」

 

「Jか、随分と眠そうだね。誰かとお楽しみだったかい?」

 

「それなら嬉しいんだけどね。見ての通り、仕事疲れさ」

 

 Jの格好は汚ならしいツナギ。彼が一晩を共にするときはもう少し身なりには気にするから嘘ではないだろう。

 

「アンタもあの痛姫をさがしに行ったのかと思ったよ」

 

「生きてるなら帰ってくるさ」

 

 ヒルダとあって一服を始めるJ。普通ならこの臭いは嫌がるはずだがヒルダは気にせず近づいてくる。

 

「そう、誰も待っちゃいないだろあんな奴…」

 

「普通ならそうだろうな。だがここの連中はお人好しが多いらしい。お前の件にも目を瞑ってくれてるしな」

 

「気づいてたんだ…」

 

「お前の態度でな」

 

「へぇ…」

 

「サリア共々、何年一緒にいると思ってるんだ?」

 

 ヒルダは不敵に笑いながら敵わないなと肩を上げる。

 

「それより、例のヤツは…」

 

「輸送機ロックシステム解除のマスターキーだろ?」

 

 Jが取り出したのは一つの鍵。これ一つあれば格納庫でのロック解除は事足りる万能キーだ。

 

「100万」

 

「後で振り込んでおくよ」

 

「どうせなら俺と一晩を明かさないか?」

 

「アンタは疲れるから嫌だね」

 

「あら、フラれたか…」

 

 用は済んだとばかりにキーを受け取り去っていくヒルダ。そんな彼女を横目にJは肩をすくめるのだった。

 

「アンジュはなにしてるのかね?」

 

ーーーー

 

 一方、その頃。アンジュはヴィルキスと共に島に流れ着きそこに住んでいた少年。タスクと出会っていた。当初は警戒心むき出しのアンジュであったが何日か過ごしているうちに次第に心を開いていったのだ。

 

「やっぱり出力系の回路が駄目になってるのか。でもこれさえ直せば無線が回復する。そうすれば仲間と連絡が取れるよ」

 

「…直しても無駄よ。助けを読んでも誰も来ないし、帰ったって誰も待ってないもの」

 

「そうか…」

 

 アンジュが悲しそうに独白するのを聞いたタスクは決意をして話を切り出そうとする。

 

「でも…」

 

 その時、アンジュの脳裏に一人の人物が思い浮かんだ。

 

(死ぬんじゃねぇぞ、生きて帰ってこい!)

 

「J…」

 

「え?」

 

「いや、貴方みたいな変態を一人思い出しただけよ…」

 

「いや、俺は…」

 

 弁明しようとするタスクだったがすぐにアンジュに睨み付けられ黙り混む。そんな彼はすぐにヴィルキスの修理に尽力するのだった。

 

ーーーー

 

 N-WGIX/vのテスト当日。こいつのテストは夜遅くに行われた。パイロットスーツを着込んだJが地下から運びだし、甲板で最終点検を行っていた。

 

「コイツかい…化け物だね」

 

「これが…Jの……」

 

「ブースターはまだ未完成だがこれでも十分だな…出るぞ」

 

 スラスターを浸かって飛び出すN-WGIX/v、それは一瞬でその巨体とは見合わない俊敏性でアルゼナルを飛び出す。

 

「素晴らしい、やはりこの機体は正解だった…」

 

 緑色のフィールドを展開しながら空を悠々と飛ぶ黒い鳥。ついに黒い鳥は翼を手にしたのだ。

 

「少し、回ってくる…」

 

「えぇ…」

 

 Jはサリアに断りを入れると遠く彼方に飛んでいってしまった。

 

ーーーー

 

「こっちよ。この死に損ない!」

 

 その後、アンジュたちは。死に損ないの小型ドラゴンと対峙。アンジュがナイフで応戦しタスクはヴィルキスの修理を急いでいた。

 

「これを!」

 

「急いで!」

 

 完全にドラゴン側の有利な状況。アンジュはタスクから受け取ったライフルで必死に応戦するも攻撃を受け、吹き飛ばされてしまった。

 

「くぅ!」

 

 吹き飛ばされドラゴンに噛み砕かれそうになった瞬間。そのドラゴンは土手っ腹に弾丸を撃ち込まれる。

 

 全く、意図しない方向からの援護に驚く二人だがアンジュはその隙をついてドラゴンをナイフで滅多刺しにする。

 

「このぉ!」

 

「アンジュ、上!」

 

 倒れたドラゴンを刺そうとするアンジュだったがタスクの鋭い声で咄嗟にその場から逃げる。その瞬間、巨大な足がドラゴンを踏み潰した。

 

「なによ!?」

 

「こ、こいつは!?」

 

 漆黒の機体。体のあちこちからコードの様なものをくっつけた機体は顔を静かにこちらに向ける。真っ赤なカメラアイがこちらを睨み付けると二人は恐怖で動けなくなる。

 

 この機体自体が放つ、異様な雰囲気に当てられたのだ。そんな中、ヴィルキスが一人でに動きだしライフルをその機体に向ける。

 

「なんだ、ヴィルキスの機体出力が上がっている?」

 

 今まで見たこともない反応にタスクは戸惑う。

 

「光ってる…」

 

 対する黒い機体も威嚇するように体の箇所を赤く発光させる。

 

「ヴィルキスに反応しているのか…」

 

 N-WGIX/vに乗り込んでいたJは機体がヴィルキスを視認してからの変化に気づき面白そうにする。それと同時に彼は頭の中で何かが冴えた。

 

「なるほど、無事で良かったよアンジュ。これも運命というものかねぇ」

 

 Jは砂浜に救難信号を発する装置を撃ち込むとその場を後にする。

 

「お楽しみの途中に悪いねぇ…」

 

 Jはそう言うとブースターを全力で吹かしてアルゼナルに帰投するのだった。

 

 

 

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